日本財団 図書館


2・3・4 インマルサット通信で起こりうる不具合
 インマルサット通信での不具合は大きく分類すると、船舶地球局の不具合、接続されている端末機(電話機/FAX/PC等)の不具合、通信経路上で生じる不具合になる。
 船舶地球局の不具合については、インマルサットAの時代はハンダコテで不良となった電子部品を交換するという修理もありましたが、現在では電子部品の小型化・集積化が顕著となり部品単位での船上修理が可能な状況はほぼ無くなっている。明らかに通信装置の故障と思われる場合は、自己診断機能等を使用して不具合発生の状況を確認するのが有効である。
 船舶地球局に接続されている端末機の不具合については、近年のデータ通信普及に伴って不適切な端末機の設定が通信装置の不具合/端末機の不具合と判断されることが急激に増加している。PC接続の場合は電話機/FAXの場合と異なり、接続の際に船舶地球局の要求するパラメーターと合わせたPC設定が必要であることや通信で使用するPCに導入される通信以外のソフトウェアとの競合、更に使用しているソフトウェアの設定やバージョンアップなどが問題を複雑化している。
 通信経路上の不具合は、陸上地球局、端末装置は問題なく動作しているにも係わらず通信に不具合がある場合に疑われるものであるが、陸上回線の整備が遅れている地域との通信で発生する場合などがある。
 以下に通信を行う際に発生しうる通信不具合の中から、特に装置の不良に依るものではなく、衛星通信で有ることに起因する不具合ならびに近年運用上の問題として取り上げられることの多いものについて説明する。
(1)使用する衛星が捉えられない場合
 インマルサット通信は軌道上に設置された4基の静止衛星により通信を中継することにより陸上地球局を通して国際通信回線に接続している。従って、船舶が通信を行う際に衛星のカバーエリアを逸脱している場合の他、アンテナが衛星の方向を正確に捉えていない、衛星方向を捉えてはいるが何らかの遮蔽物があり、衛星からの電波を受けられない状態(ブロッキング)になっている等の状況が考えられる。また、極めて稀ではあるが、衛星の切り換え時にも一時的に通信が出来なくなる場合がある。
(2)船舶上で既に通信が行われている場合
 一台の船舶地球局装置に複数の端末機(電話機・FAX等)が接続され、複数の通信用ID(呼出番号)が付与されている場合でも、ほとんどの装置では衛星回線は一度に一回線しか接続出来ない構造となっている。そのため、既に何れかの端末機が通信を開始している場合、その他の端末機からの接続は出来ない状況となる。特に近年ではデータ通信の普及によりPCより接続を行った場合に、終了時の回線切断忘れにより、電話機/FAXでの通信が出来ないという事例が見受けられる。
(3)旋回時に回線が切断する場合
 先に挙げた遮蔽物による問題も発生する確率が高いが、それ以外にアンテナ機構部と接続される通信ケーブルの絡まりによる切断防止のため自動的に回線を切断し、ケーブルの絡みを取るためアンテナをリワインドさせる制御の組み込まれているものがある。これについては装置のメーカー、機種により機構、設計が異なるので必ず回線が切断するとは限らないが誤解を生みやすので注意が必要である。
(4)データ通信のPC設定の場合
 データ通信の普及に伴い、船舶上においてPCを使用した電子メール等が急激に広がっている。また、PC上の基本ソフトであるOSも年を追って新しいものが発表、更新されている。この様な変化に伴い、PCと通信装置の接続が出来ない状況を通信装置の不具合と捉えてしまうことが急速に増えている。装置の要求する通信条件とPC上の設定が一致していなければ通信は開始できず、また、通信自体は出来ていても電子メール等のソフトウェアにおいて接続先サービスプロバイダーやメールサーバーの要求する設定が出来ていなければ期待する通信が出来ない状況が発生する場合がある。
(5)特定の相手方に対する通信が上手く接続できない場合
 インマルサット通信の主力がアナログ通信のインマルサットAからデジタル通信のインマルサットB等の移行に際して発生した問題の中に、それまで問題の無かった「特定の相手先」への通信が正常に出来ない、音声が著しく悪い、FAXが送受信出来ないというものがある。
 この原因としては、アナログ通信からデジタル通信への変更が引き金になっている。アナログ通信の場合は、陸上から船舶へと通信を行う場合を例に取ると、電話機で音声を音声信号化したものを陸上地球局でそのまま電波に乗せて船舶側に送っており、陸上地球局は信号に直接手を加えることなく中継しています。一方、デジタル通信の場合は、電話機から陸上地球局までは同じであるが、陸上地球局と船舶地球局間の通信がデジタル化されたことにより、陸上地球局まで届いた音声信号はサンプリング・圧縮されデジタル信号化され、その信号が衛星を経由して船舶地球局に送られる。船舶地球局上ではこのデジタル化された音声データを解凍・復元し、音声として再生する。このように、デジタル通信では陸上地球局の介在があり、そこでのデジタルデータ化処理の違いにより、陸上地球局の切り換えで通信の状況が変化するという状況がある。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION