第3章 艤装工事要領
(1)プラットホームに空中線部を積み込むときは空中線部の各部に傷をつけぬように注意する。特に、小形空中線は重量を軽減する目的で強化プラスチックを多用しているので注意すること。表面のゲルコート層(防水とツヤ出しのために使用している処理)を傷つけると水の浸透があることが分っている。大形空中線ではアイボルト等が用意されているから、これを使用してつり上げるが、玉掛けのときロープ等が空中線ふく射器を傷つけぬように接触部には緩衝材を当てがう。ウィンド面も当然傷つけてはならないし、また、打撃を与えてはならない。思わぬところから水の浸入があり、レーダー感度の低下を来すことになる。
(2)空中線ペデスタルは軽合金製のものが多く、また、レーダーマストのプラットホームの構造材及び取付ボルトはほとんど鉄材である。
したがって、ペデスタルのプラットホームへの取付けは、2・2・2項で述べたように異種金属の接触となるので、十分な防食対策が必要である。
一般的に、この防食処理はレーダーメーカーによって、十分処置され、また、その取付方法についても指示されているので、取付けに際してはこれに従わなければならないが、基本的には以下の事項に留意して作業を進めればよい。
(a)ペデスタルの塗料がはげて金属部分が露出しているようなときはジンクロペースト等で防食処理をしておく必要がある。したがって、もし接地のために塗装をはがしたようなときは、十分な後処理を行う必要がある。
(b)取付ボルトとナットはステンレス製のものを用いる。
(c)ボルトの貫通部分は、ビニルチューブ等でペデスタル本体と絶縁する。
(d)レーダーマストとプラットホームとの間にはゴムシートを入れる。
(3)空中線ペデスタルには船首輝線生成用のマイクロスイッチが装置されている。ペデスタルの平らな一面を船首に向けると、船首輝線用のマイクロスイッチは、電波ふく射器が船首方向を向いたときに簡単に調整ができるようになっている。レーダーの機種によっては、ペデスタルの向きが初めから決まっているものもある。装備要領に従うのがよい。取付方向が決まっていないペデスタルでも、駆動モーターの軸が水平なときは、これがキールラインと平行になるように装備する方が寿命の面からも好ましい。なお、一部の空中線ではマイクロスイッチが、空中線に設けられていない無接点形もあるが、この場合でも平らな一面を船首方向に向けるがよい。〔 2・3・1(h)参照〕 ペデスタルはプラットホームへボルト・ナットで固定するが、船の振動で緩むことがしばしばあるので十分締め付け、ダブルナットにしておくとよい。
(4)ペデスタルのケーブルの布設は特に他の機器と同様であるが、必ず水防栓口を使用している点が多少異なる。2ユニットタイプの空中線は、特に無線雑音が多いので、ケーブルの布設には慎重を期すこと。まず、がい装付きケーブルであれば直接、又はケーブルクランプを経由して船体金属部に接地する。がい装付きケーブルであれば他のケーブルと一緒に布設しても余り問題はないが、そのときは、がい装とシールドの接地には十分注意し、完全な工事を行うこと。
がい装のないケーブルの場合(主に小形レーダー)はできる限り他のケーブルと離して布設することが望ましい。この場合でも内部に編組シールド線を持っているので接続端子板の接地端子へ接続する。
水防栓口はケーブル導入口の水防を保つと同時に、ケーブルのがい装を接地する役目もするが、接地に関しては 3・9を参照して接地工事を行った方がよい。栓口に入れるところでは栓口近くでクランプし、不必要にケーブルを余らさないこと。余分なケーブルがあると長期にわたる船の振動で、ケーブルが疲労し、硬化して切断したり、切断しなくても絶縁層に亀裂を生じ、漏電の原因になったりする。栓口の締付けグランドは、専用の工具を用いて十分締め付ける。終了後油性パテを十分塗り込んでおくこと。詳細は 3・9(9)〜 (11)参照のこと。
(5)導波管はケーブルと異なり、外部に電波雑音を発生しないので接地は必要ない。ペデスタルの導入口直前で、機械的な無理が掛からないようにクランプをしておく。クランプをしなかったため船の振動で亀裂が生じた例がある。レーダーマストが大きく揺れる場合には、同様に、甲板付近で導波管に亀裂を生じる。このような場合は、フレキシブル導波管を使うこともできる。フレキシブル導波管はマイクロ波伝送損は1m当たり約0.1dBであり、方形導波管とはほぼ同等であるので、必要により交換をする。挿入場所はマストの根元で甲板に移る辺りが適当である。
(6)サービスマンその他による空中線部の点検、保守のときの安全のために、ペデスタルに回転停止スイッチを設けてある場合がある。この場合はプラットホームの入口近くにこのスイッチがくるようにペデスタルを配置できれば一番よい。また、ペデスタル上でなく安全スイッチが別箱になっているレーダーでは、このスイッチ箱は、誤操作や人の安全のためにマスト甲板付近でなく、プラットホーム近辺に設置するのがよい。
レーダーの中には空中線部のふく射器とペデスタルが、レーダーメーカーから別こん包で送られてくる場合がある。組立てのときに多少の注意が必要だが、船上で組み上げることができるので装備時の積込みが容易であると同時に、放射器の不測の破壊を防げるなどで便利である。組立てのときはふく射器が長いからぶつけたりして傷をつけないことと、ペデスタル回転台の中心部から出ているプローブに触れて曲げないようにすること、及び防水用のガスケットを所定の場所に必要数入れること等に注意する必要がある。中心プローブを曲げると特性がずれて電波を効率よく伝達しないばかりか、至近距離に有害な反射を引き起こす。また、組立てのとき防水用ガスケットに傷のないことを確認し、ガスケット溝に確実に納め、ボルトで締め付けていく。締付けは一箇所のみを締め過ぎず、均一に少しずつ締め付けていく。エンド給電式のふく射器の場合はフィーダ導波管を継続するが、フィーダフランジにも規定のガスケット(Oリング)を挿入する。ガスケットは傷のないことなどを確認してから使うこと。
(図3・1参照)
本項はレーダーに装備要領書が付いてくるからこれを熟読し、不明な点はメーカーに問い合わせる等して十分納得してから作業に着手する。
空中線ペデスタルには、専用の接地用端子か、あるいは接地板が用意されているので、これらを用いて船体の金属部(通常は固定用ボルトに共締め)へ落とす。専用の接地線が付いていないときは、固定用のボルトを利用する。
接地の意味は前述のように漏れ電流による感電防止と、電波雑音の防止のためである。
図3・1 ペデスタル
空中線の浸水の原因の一つは呼吸作用による水の吸い込み現象である。空中線は屋外装備機器なので温度の差の影響を一番大きく受ける。つまり、雨などに当たって外面が濡れ、そこに風が吹くと気化熱が奪われて急激に冷やされるので、空中線内の空気の体積が縮まって負圧になる。レーダーによっては空気穴を設けたものもあるが、呼吸による内部への結露を避ける意味で完全密閉に近い構造もある。密閉構造のものの内部が負圧になると、どこかに透き間があれば当然吸い込みを起こし、雨か海水が内部に浸入してくる。一度入った水はほとんど出ていくことはなく、故障するまでたまっていく。したがって、ペデスタルカバーの締め忘れなどはいうに及ばず、その他工事上の細かい注意が必要となる。
(1)水防栓口は3・9(9)〜(10)にしたがって処理すること。要点は、ケーブルの処理を確実に行い、ケーブルに合った栓口部品を使い、専用工具を用い確実に締め付けることである。締付け後(油性)パテを詰め込むこと。
(図3・2参照)
図3・2 水防栓口組立後の防水処理
(2)導波管は装備要領書に従い、接続フランジ部には規定のガスケットを溝に入れ、挟み込みのないことを確認してから、ねじ止めをする。指示のある場合は、一〜二箇所のフランジ部にテフロンシートを封入する。
装備後、できればシリコンゴム系コンパウンドをフランジ接合部とねじ部の周囲にまんべんなく塗っておく。コンパウンドを塗付する場合は、塗布面(部)はできる限りよく脱脂しておくこと。
(3)ペデスタルカバーの周囲は通常ガスケットが入っていて、そのまま締め付ければ簡単に水密がとれるようになっているが、締付けねじは一箇所だけ締め付けずに対角線上に徐々に締め付けるようにすると、ガスケット面が均一に無理なくカバーとペデスタルに当たるようになるので注意深く作業を進めること。(図3・3参照)
図3・3 カバー締付け順序
ガスケットの寸法は普通少し大き目なので、ガスケット溝に全体がうまく入っていることを確認の上締め付け始めること。また、ガスケットに傷や接着透き間などのないことを確認後使用する。万一傷があるときは、メーカーに交換を依頼する。カバーには、落下防止のために、内部にフックがあり、ひもやチェーンが付いているが、このひもやチェーンをガスケットに引っ掛けたまま締め付け、そのため水が浸入した例がある。したがって、全体をよく見回して、このようなトラブルを起こさないよう十分注意すること。ペデスタルカバーには、ガラス繊維を基材にしたポリエステルで塗り固めた強化プラスチックにゲルコート層を塗って外観を整え、かつ、防水をとったものがある。このゲルコート層は比較的傷つきやすく、一度傷つくと、ここから雨水が浸入することがある。傷がついている場合は、ごく小さければゴム系コンパウンドで補修するが、大きいときはレーダーメーカーへ交換を依頼する。
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