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2・3・3 送受信部
(1)取付場所の選定
(a)送受信部やそのケーブルからの漏えい電波が無線機器等の受信機に妨害を与えることがあるので、原則として無線室内に装備してはならない。やむを得ない場合には、対策を施した送受信部であるかどうかを、事前にメーカーに相談の上設置のこと。
(b)表示器と同じように、高温、高湿の場所に設置してはならない。
(c)放熱効果をよくするため、外気と遮断されているような部屋に設置してはいけない。
(d)保守点検が容易な場所に設置すること。(階段の上などは避けること。)
(e)導波管長を短くするためには、レーダーマストの真下か、なるべくその近くに設置するのが望ましい。
(f)窓からの風が直接当たらない場所に設置した方がよい。
 
図2・11
送受信部の中には重要な高圧回路があり塩分で不良になるおそれがある。また、磁気コンパスにも近過ぎる。
 
1, 2, 3, 4のいずれかの場所が望ましい。
 
側壁設置の場合には、遮へい板を付けると塩害に効果がある。
 
(g)送信管(マグネトロン)に強力なマグネットが取り付けられているので、コンパス安全距離は指定通り守らなければならない。
(h)送受信部の出口に方向性結合器を取り付ける場合は、天井からその長さの分だけ下げなければならないが、将来ユニットの性能点検のためにも脱着可能の長さ以上に余裕をもって装備しておいた方がよい。
(i)しばしば表示器と関連して調整することがあるので、前記各項を勘案しながら、できるだけ表示器に近いところに装備した方がよい。
(2)船体への取付場所(3ユニットタイプのみ)
 送受信部は、空中線部との接続に、導波管やケーブルなどを使用するが、特に導波管は電波の伝送損失を小さくするため、最短距離で配管するとともに、ベンド類は極力少なくし、かつ、ツイスト導波管を使わなくても済むようにする必要がある。したがって、送受信部はマスト近くの船内で、ツイストを使わなくても済むような壁面に設置するのがよい。2・3・5にも詳述してあるが、ツイスト導波管は損失が一番大きいので、これを使わないで、かつ、ベンドの使用数が少ないのは良好な装備法といえる。
 また、送受信部は少なからず発熱しているし、マグネトロンを用いているので、寿命の点から熱がこもる狭い場所に設置するのは避けたい。同様に、他の発熱体の近くに置かないようにする。
(3)導波管との関連
 送信機の送信電力や周波数その他の特性を測定するために方向性結合器を必要とする場合がある。このときは、送受信機のケースから出たところに方向性結合器を装備すればよい。ただ、この場合は、天井とケースとの間に適当な空間が必要となるので、その寸法等については、レーダーメーカーと相談して決めた方がよい。なお、方向性結合器が付いていない場合でも、点検保守のために、天井とケースの間は中形ドライバーが入るぐらいは、空けておく必要がある。
(4)サービススペース
 各レーダーの工事用図面に指示されているサービススペースは、保守のために必要なものであるから、極力これに協力すること。前項でも述べたが、ケースが天井に寄り過ぎているのは、導波管を点検するときのことや、通風のことを考えると好ましくない。できれば300mm程度は空けたい。
(5)磁気コンパスへの影響
 送受信部は、強磁界であるマグネトロンを持っているので、磁気コンパスへの影響も大きく、したがって、安全距離もまた大きい。設置完了後に、磁気コンパスの自差修正をする。
(6)無線機器などへの影響
 レーダーの構成ユニットの中で、送受信部が最も無線雑音を出す。したがって、各レーダーメーカーとも十分対策を行っている。しかし、万一のことを考えて、表示部、送受信部及び空中線部間等の接続ケーブルは、無線機器相互接続ケーブルと、極力別系統にする。また、無線機器の近くを通過させないようにする必要がある。
 
2・3・4 電源部
(1)取付場所の選定
(a)電源部は発熱するものなので、熱のこもらない場所か、むしろ空気の流通のあるところに設置した方がよい。したがって、発熱の大きな装置の近くや、熱のこもる場所、納戸の中などは避けるべきである。このためには、電源部の発熱量がどの程度あるのかを、あらかじめ知っていると場所も考えやすい。
(b)回転形あるいは静止形のインバータは、いずれも大きさに違いはあるが、可聴音を発するので、操舵室や居住区近くには置かない方がよい。
(c)回転形では回転軸がキールラインに平行になるように装備するのがよい。
(d)サービススペース、放熱への注意
 電源部は、船内電源が不安定な場合でも、これをレーダー用の安定な電源に換えるために常時電力を消費し、熱を出している(直列安定化電源の場合)ので相当に熱いのが普通である。したがって、放熱スペースや空気の流通についての配慮が必要である。また、メーカーの工事用図書に記載されているサービススペースも十分に取った方がよい。これは、回転形の場合は回転子などの点検のためにも是非必要である。
(e)磁気コンパスへの影響
 電源部は回転形、静止形を問わずトランスなど鉄心を多量に使用しているので、磁気コンパスの安全距離は通常は大きい。これはケースなどに明示されている。
 メーカーへ問い合わせること。
(f)無線機器などへの影響
 電源部の中でも、特に静止形はその出力波形によって種々の無線雑音を発生する。各メーカーは十分対策を行っているが、念のため接続ケーブルは無線機器の近くに布設しない方がよい。
 
2・3・5 導波管の布設
 航海用レーダーの信号伝送路として一般的に使用されているもの及びその伝送損失の一例を<表2・2>に示す。
 
表2・2 導波管等の種類及び伝送損失
種類 (単位) 9GHz帯 3GHz帯
矩形導波管 直線部 [dB/m] 0.072 0.02
Eベンド [dB/個] 0.15 -
Hベンド [dB/個] 0.15 -
ツイスト導波管 [dB/個] 0.3 -
フレキシブル導波管 [dB/m] 0.1 0.11
楕円導波管 [dB/m] 0.098 0.03
同軸管 [dB/m] - 0.09, 0.11
 
 矩形導波管は、9GHz帯、5GHz帯、3GHz帯のすべてのレーダーに最近まで使用されてきた。その布設工事には高度な技術と豊富な経験が要求され、また材料が嵩張り(かさばり)、特に3GHz帯のものは大きくて重いため布設作業は困難が伴っていた。
 最近では、矩形導波管に代わる低損失のフレキシブル導波管や楕円導波管、同軸管が開発され、これらが使用されることが多くなり、布設工事は容易になった。
 しかしながら、送受信部や空中線部との接合部には矩形導波管が使用される場合も多いので、これに関する知識は必要である。
(2)矩形導波管のエネルギーロス
 導波管内の減衰は、管内の誘電体による損失と、管壁を流れる電流によるもの(オーム損)が考えられるが、管内は一般には中空で、誘電体が空気の場合には損失は極めて小さく無視できる。
 ただし、雨水が管内に浸入した場合には、減衰は急激に増大する。
 導波管壁が完全導体であれば、導電率は無限大で、すなわちオーム損はないが、実際には、どのような導体でも導電率は有限で、必ず幾らかの抵抗をもつものである。したがって、導波管の管壁に電流が流れれば熱を発生する。これは伝搬する電磁波エネルギーの一部が熱エネルギーに変わったもので、管軸に沿って電磁波は減衰する。
 
図2・12 導波管装備要領例
 
 導波管ロスはレーダーの性能にどのように影響するかを考えてみよう。いま、仮に直線導波管の全長が7.5mで、ベンドを5個使用して50kWの送受信部を装備したとすると、
0.1(dB)×7.5(m)=0.75(dB)
0.15(dB)×5(個)=0.75(dB)
0.75(dB)+0.75(dB)=1.5(dB)
となる。この1.5dBの損失は送信時に減衰したものであるが、レーダーの場合は受信時にも同じ導波管内を伝搬してくるから、往復で損失は倍になり、実に3dBの減衰となって、50kWの出力が半分の25kWの送信出力を持つ2ユニット型と同等の能力となってしまう。
 このような理由から、第1レーダーに50kWの3ユニット型、第2レーダーに25kWの2ユニット型を装備しても、導波管の布設のやり方次第では、第2レーダーの方がよく映る結果になるのは明らかである。
 上記の導波管ロスは、内部にさびやごみのない、全く新しい導波管の場合であって、漏水等によるさびの発生や、管壁の汚れ等によって減衰量は更に増加する。
(3)矩形導波管のレイアウト上の注意事項
(a)ベンド1個は直線導波管1m以上の損失に相当するので、できるだけ使用しないようにする。
(b)水平部分の導波管の布設長さが短くできるように送受信機の位置を設定する。
(c)直線部分はできるだけ規格品を使用し、接続箇所は極力少なくすること。
(d)ツイスト導波管は損失が大きいので、極力使用しないように布設方法と送信部の取付方向を検討する。
(e)天井裏に布設する場所には、布設部の天井板が容易に取り外せるような構造にしておく必要がある。
(f)導波管の直線区間には、必ず1箇所現場合わせを設けなければならない。(強引に結合させるとひずみを生じ、漏水の原因になる。)現場合わせは作業性のよい場所を選択すること。
(g)導波管の損傷防止のため、レーダーマストの下部の甲板への布設部の全面に保護カバーを設けなければならない。なお、これは導波管を点検できるように取り外しが可能な構造にしておく必要がある。
(h)隔壁・甲板の貫通
 防水隔壁・甲板を貫通する箇所には、レーダーメーカー支給品であるバルクヘッドフランジ(導波管貫通金物)を使用する。(図2・13参照)
 船体へのバルクヘッドフランジの取付けに当たっては、メーカーの工事用図書にある取付寸法等を示し、造船所にコーミングの取付けを依頼する。
 
図2・13







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