1・2・7 磁気コンパスに対する安全距離
(1)磁気コンパスに対する影響と装備条件
磁気コンパス(磁気羅針儀ともいう)はSOLAS条約の改正によって、原則としてすべての船舶に装備を義務づけるよう強化されている。そして磁気コンパスのカードのところには地磁気のみが存在するようにするために、船橋に装備される電気的又は磁気的設備の各ユニットには、磁気コンパスに対する安全距離を表示しこれを守って装備するように、IMOの決議A 382(10)磁気コンパスの積付及び性能基準で定めている。
これを受けて、我が国では船舶設備規程第146条の18によって特定の船舶以外は磁気コンパスの装備を義務づけるとともに、船舶設備規程第257条に「磁気コンパスに近接する電路、電気機械及び電気器具は、これに有害な磁気作用を及ぼさないように配置しなければならない。」と規定している。
さらに、航海用レーダーの性能基準を規定している平成14年国土交通省告示第512号第8条第1項第41号に、「磁気コンパスに対する最小安全距離を表示したものであること。」と定め、磁気コンパスに対する影響を排除するよう配慮してある、
(2)磁気コンパスに対する安全距離の測定法
磁気コンパスに対する安全距離は、ISOの規則694によって測定されるが、従来AとBの2つの方法があって、そのいずれかによることとなっていたが、最近の見直し作業によって、より簡単な一つの方法にまとめられこれが合意されることになっている。その方法を以下に述べる。
通常の地球磁界において供試機器ユニットを下記の条件で試験し、測定用コンパス又はマグネットメータの中心と供試機器ユニットの最も近いところの距離で測定する。
基準磁気コンパスに対しては、(5.4/H)°以下の自差を生ずる距離
操舵用磁気コンパスに対しては、(18/H)°以下の自差を生ずる距離
ただし、Hは試験場所における地磁気の磁束密度の水平分力(μT)とする。また、試験条件は、
a)供試装置をその場の磁気条件に置き
b)供試装置に1.0×1000/(4π)A/mの直流磁界と18×1000/(4π)A/m50Hzの交流安定磁界を重量して与えた後
観察又は設計図から最も影響が大きいと思われる磁界が発生する方向に励磁する。そして、すべての測定の中で最も大きい距離がそのユニットの安全距離である。
得られた安全距離は最も近い5cmまたは10cmに丸めた値とする。
限定された業務に従事する船舶に対する安全距離は、上述の値の60%に減ずることができる。
(3)レーダーのコンパス安全距離の検査
検査項目には「磁気コンパスに対し、その航海用レーダーに示されている安全距離が保たれていること。たゞし、当該安全距離が保たれていない場合であっても、航海用レーダーを設置したことによって磁気コンパスが与える誤差が、当該レーダーの電源を入れた状態と電源を切った状態にかゝわらず軽微(自動衝突予防援助装置及び自動操舵装置に電源を入れた状態と電源を切った状態とのいずれの状態においても、これらの装置及び航海用レーダーによる誤差が、あわせて0.5度以内を標準とする。)なものであれば、安全距離を保っていることとして差し支えない。」とあって、磁気コンパスに対する安全距離を検査することになっている。
このため、磁気コンパスの自差修正は、レーダーの装備が完了してから実施する必要がある。
1・2・8 船舶等型式承認規則による型式承認と検定
船舶安全法には次のような条文がある。
「第2条第1項各号に掲ぐる事項に係る物件にして、命令をもって定むるものは、備え付くべき船舶の特定前といえども命令の定むるところにより、検査を受くることを得」(第6条第3項)
「前3項の規定による検査に合格したる事項については命令の定むるところにより、前条の検査(特別検査を除く)及び第1項の製造検査(前項の規定による検査に合格したる事項に限る)を省略す」(第6条第4項)
「船舶又は第2条〔船舶の所要施設〕第1項各号に掲ぐる事項に係る物件にして、命令をもって定むるものに付き、主務大臣の型式承認を受けたる製造者が、当該型式承認に係る船舶又は物件を製造し、かつ、管海官庁、主務大臣の指定したる者(以下指定検定機関と称す)又は次章の規定による小型船舶検査機構の検定を受け、これに合格したるときは、当該船舶又は物件につき、命令の定むるところにより、第5条〔定期検査等〕の検査(特別検査を除く)及び第6条〔製造検査等〕の検査を省略す。(第6条の4第1項)〔この指定検査機関としては運輸省告示第56号(昭和49年2月5日)により、(財)日本舶用品検定協会が小型船舶及び小型船舶に係る物件以外の船舶及び物件に、検定範囲を限定して指定されている〕
「管海官庁、指定検定機関又は小型船舶検査機構は第6条の4第1項の規定による検定に合格したる船舶又は物件に対しては合格証明書を交付し、又は証印を付すべし」(第9条第4項)とある。
これらを受けて船舶等型式承認規則が定められている。
この型式承認規則では、例えば、まず製造者が航海用レーダーの型式承認を申請すると、「型式承認を申請した者は、当該船舶又は物件の性能等について国土交通大臣の行う型式承認試験を受けなければならない。ただし、電波法第37条の規定により総務大臣の行う検定に合格したる航海用レーダーの型式については、この限りでない。」(型式承認試験規則第6条)となっている。このレーダーについてのただし書きは二重の試験を省略するためであるが、電波法と船舶安全法の性能規定に差異のあるところは一応の試験が行われることになる。
型式承認の内容は、航海用レーダー、電子プロッティング装置、自動物標追跡装置及び自動衝突予防援助装置の、それぞれの型式承認試験基準によって細かく定められているが、詳細については当協会発行の「船舶設備関係法令及び規則(弱電用)」を参照されたい。
この型式承認規則によって型式承認を受けた物件は、それを製造したときには製造者の工場で一品ごとに検定を受ける。この検定は、管海官庁、指定検定機関(日本舶用品検定協会)又は小型船舶検査機構のいずれで行ってもよいが、実質的にはほとんどすべてのものが日本舶用品検定協会によって行われている。この検定に合格した物件には、次の証印のどちらかが押されている。
船舶安全法第6条の4第1項の証印
日本舶用品検定協会の証印
船舶安全法では、航海用レーダーは原則的には型式承認と検定を受けたものが船舶に装備されることになっているが、特別の場合は前記の船舶安全法第6条第3項による製造検査を受けることも認められている。
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