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4. 実践報告
「第3回オープンフォーラム・IN埼玉」実践報告録
実践報告者:染谷 清
 「現場からの教育改革」ということでの実践報告ですが、本校の教育活動の特色の一つでもあります国際理解教育を通しての実践報告に代えさせていただきたいと思います。
 本校の紹介をごく簡単に申し上げますと、本校は来年度に創立60周年を迎える伝統ある学校です。交通の要衝、大宮駅から歩いて10分の所、ソニックシティビルの西側に位置し、住宅街に囲まれた静かな環境の中にある学校です。
 初めに、本校の学校教育目標ですが、「溢れる英知、輝く笑顔」でございます。これを簡単に説明申し上げますと、豊かな知識・知恵を身に着けると同時に、人間関係や健康、心の有り様など、すべてのものが生徒自身にとって充実しているときに、それらが生徒の笑顔になって現れる。つまり、一人一人の生徒が3年間を通して望ましい自己実現をしてほしいという、教師と父母の願いのもとに設定されたものです。
 本校の学校規模ですが、普通クラス10クラス、特殊クラス4クラス、生徒数366名、教職員26名です。さいたま市内では、どちらかというと小規模の部類に属するかと思います。
 字や写真が少々小さくて見にくいかもしれませんが、本校の平成17年度のグランドデザインです。本年度、桜木中学校は、このような教育を行うというところです。
 本校の育てたい生徒像です。進んで学習する生徒。きちんとあいさつができる生徒。学校の決まりを守り、いじめや差別をしない生徒。好ましい人間関係作りができる生徒。掃除や奉仕活動に積極的に取り組める生徒。心身を鍛え、健康な生活をする生徒です。これらの育てたい生徒像を具現化するための施策の一つが国際理解教育です。
 国際理解教育の中では、他人の考え・意見を正しく理解し、自分の考えをはっきり表現できる生徒の育成を狙いの一つとしております。これは、いわばコミュニケーション能力と言い換えてもよろしいかと考えております。これから世界に羽ばたく可能性の高い中学生に関しては、日本人同士のコミュニケーション能力の育成も、もちろん大切ですけれども、海外の人々とのコミュニケーション能力は欠くことができません。
 先日の新聞報道によりますと、平成20年度からは小学校でも英語が授業に位置付けられるということですが、さいたま市では、平成17年度に教育特区となりまして、英会話と人間関係プログラムの導入をしております。
 英会話につきましては、中学校では現在、本校を含めまして市内の2校が行っております。来年度からは、順次これを増やしていく予定です。指導につきましては、年間17時間で、ネーティブのネットと日本人のジャットの2人がペアになって授業を進めております。
 人間関係プログラムは、中学生は1年生が対象になっております。学期の初めに6時間ずつで年間18時間。指導者は主に担任を予定しております。ただし、本年度は2学期からの開始でしたので、12時間の指導です。
 更に、国際理解教育の狙いと致しましては、日本の伝統・文化に親しみ、日本人としての誇りを持つ生徒の育成というのがあります。本年度、本校では、着物体験、礼法体験、華道体験、茶道体験、和食体験、饂飩(うどん)作り体験、大工体験、和菓子体験等を行いました。着物体験、礼法体験では、社団法人全日本着物コンサルタント協会や装道礼法学院から講師の先生をお招きして、浴衣を自分で着られるようにしていただいたり、お辞儀、歩き方等の指導をしていただきました。饂飩や和食、和菓子体験などでは、地元でお店を出している方に学校に来ていただきまして、直接指導をお願いしたところです。
 これは着物体験を実際に指導していただいているところの写真です。これは、礼法体験でお辞儀の仕方等を指導していただいているところです。
 着物、礼法体験を体験した生徒の感想です。「私は、親に手伝ってもらって浴衣を着たことはあるけれども、最初から最後まで自分で着たのは初めてでした。最初はうまく着ることができませんでしたが、練習して上手に着ることができるようになりました。今年のお祭りには自分で着て出掛けたいと思います」。「私は、着物なんて面倒臭そうと思っていました。着てみて、確かに着るのは面倒ですが、心がしゃんとするのを感じました。着物を着て、お辞儀のやり方や歩き方などを勉強しました。先生のお辞儀の仕方など、きれいなので、自分もそうしようと思いました。練習したあと、歩いている自分の姿を鏡で見たら、自分ではないような気がしました。着物を着ると、背筋がぴっとなるような気がしました」。
 華道体験で、袱紗(ふくさ)の取り扱いを教わっているところです。華道体験で指導していただいているところです。「生け花は難しいイメージがあったけれども、今日の講座で生け花が好きになりました。初め、自分で生けた生け花は、けっこうきれいにできたと思いましたが、先生がちょっと花を動かしただけで10倍も20倍もきれいになったので感動しました。明日からは家でやりたいと思います」。
 大工さんに、かんなの取り扱いを教わっているところです。
 饂飩体験をしているところです。
 そのほかに、国際理解教育の中では外国人との交流がございました。フルブライトメモリアル教育視察団と、ブラジル、タンザニア、スリランカから留学生を招いて、お話をお伺いすることができました。
 フルブライトメモリアル教育視察団についてですが、6月23日に20名のアメリカの小・中・高等学校の先生方が本校を訪ねてくれました。その中では、実際に授業に参加したり、給食に参加したり、生徒との交流会を持ったり、放課後には私どもの教職員とフルブライトの先生方との意見交換会も持つことができました。
 給食に参加している様子です。
 本校で剣道を習いに行っている生徒たちが、剣道の模範試合と型を見せてくれました。
 これは、お琴の演奏をしているところです。
 本校の柔道部が演技をしているところです。
 交流会で、本校の生徒が作った記念品を渡しているところです。
 生徒の感想ですが、「アメリカの学校のほとんどが日本の学校と違っていてびっくりした。いろいろなことを教えていただき、とても勉強になりました。みんなの前で英語で質問するのは緊張しましたが、フルブライトの先生方が親切に接してくださったので、落ち着いて質問をすることができました。とてもいい経験になりました」。「給食の時、フルブライトの先生を迎えに行きました。教室まで一緒に向かう途中、『ハロー』と言われました。僕は声が出ませんでした。どのように応答すればいいのか分かっているのに、恥ずかしくて声が出ませんでした。ホリデー先生には、少しかわいそうなことをしてしまいました。もっと勉強して、今度はちゃんと話せるようになりたいと思います」。
 アメリカの先生からも感想をいただきました。「素晴らしい歓迎と心休まる雰囲気をありがとうございました。最初の校長先生のお話と教育目標の説明が良かった。生徒の育成に焦点を当てた目標は、私の学校の教育に生かしたいと思います。最後の集会は、ぞくぞくしました。何て素晴らしい集会が用意されていたのでしょう。生徒がよく指導されている成果が見られました。桜木中はレベルが高く、世界の中でも先進的であると思わせました。桜木中学校を見ることができ、私は幸運でした。素晴らしい学校です。先生も生徒も、とても前向きだと思いました。先生たちは質が高く、プライドと自負を感じました。私の学区では、残念ながらそのような熱心さや職に対する責任感があまりありません。ここの生徒は心底明るく、桜木中学校の生徒であることを誇りに思っているようです。廊下を通ると、『ハロー』、『グッドモーニング』と声をかけてくれるのがとても気持ち良かった。私は日本語は分からないけれども、彼らの声は耳に音楽のように響きました。私たちは桜木中学校でたくさんのことを学ぶことができました」。アメリカ人特有のリップサービスがあるとはいえ、大変うれしい感想をいただいた次第です。
 終わりにですが、現在の現場の教育改革では、日常の学校生活の中での小さなことの積み重ねが一番大切で、その場限りの目を見張るような変化では、今、現場に要求されている本来の改革を達成するのは困難ではないかと思っております。何より、毎日の一歩一歩の実践が改革につながり、教育を支えるものであろうと思います。その証に、ただいま発表しました国際理解教育を中心とした実践を通して、小さいながら、学校の中には変化が着実に表れていると思います。
 まず教員です。「教育は人なり」。言い古された言葉ですが、教育は教員によって大きく左右されてしまいます。教員が変化することが改革への近道であると思います。それは、教員一人一人が自主的に学校の教育目標の実現へ向かう動きをすることであろうと思います。
 大村はま先生は、子供のころ、浴衣をうまく畳めないで苦労をしていると、通り掛かった母親が「すそを持ちなさい」と声をかけたそうです。すそを持ってから肩のほうへ持っていくと、ぴんと長方形になります。母の一言で、大村はま先生は、たちまち浴衣をきれいにきちんと畳めるようになりました。教師になった大村はま先生は、「きちんと畳みなさい」と言うのではなく、「すそを持ちなさい」と言える教師になりたいと思っていたそうです。
 私たちが考えている教員の指導力も、その通りです。すなわち指導力とは、具体的で必ず成功できることを適切に指示できることと考えております。
 例えば、先程発表させていただきましたフルブライトの先生を迎える時に、本校の北側の正門側にある道路からもすぐ見えるように、きれいに飾った「ウエルカム・ツー・サクラギジュニアハイ」という大きな看板を作った教員がいます。この教員は、生徒の有志に呼びかけると共に、自分でも子供たちと一緒になって作って、それを掲示致しました。この教員は、校務分掌とは全く関係なく、自発的にそれを作りました。フルブライトの先生方は、バスで乗り付けてきたわけですが、この看板を見て大変大きな歓声を上げておりました。フルブライトの先生方には好評だったと思っております。
 更には、朝礼での校長の話をメモしながら聞き取り、教室に戻ってから、それを授業の中で生徒と共にもう一度周知徹底を図る教員など、自校の教育目標を強く意識して、そのために自主的に考え、工夫し、活動する教員が改革を推進していく者だと考えております。
 生徒ですが、生徒の変化が教育の成果であると思っています。どんなに働き掛けても、生徒の変化がなければ、それは教育とは言えないと思います。生徒の変化こそが重要であると思っています。本校では、「おはようございます」、「こんにちは」等のあいさつが、前はもちろんのこと、後ろからも聞こえて参ります。中学生の時期は、素直に自己表現をしにくい時期ですが、このようなことは大変素晴らしいことであると思っております。森信三先生の「朝のあいさつ、人より先に」を受けまして、本校の教職員全員が生徒に対して先にあいさつをしていることが、一つの変化として表れた結果だろうと思っております。
 保護者ですが、教育的関心の非常に高い地域で、学校への協力をいとわない保護者が大部分です。大変うれしいことであり、校長をはじめ教員としては、これにこたえるため、毎日、緊張感を持った実践をしているところです。
 地域ですが、青少年を守る会などが主催して、地域の方々、桜木中学校区、すなわち桜木小学校、上小小学校、桜木中学校の保護者の方々が相撲大会や餅つき大会、クリーン活動、標語の募集をするなど、地域が一体となって、子供を組織的に育てようと努めております。
 個人的にも学校への協力を惜しまない人々がたくさんいます。例えば、私どもが出勤する前に朝早く学校へ来まして、学校に打ち水をするなど、きれいにしておいてくれる方。ほとんど一日じゅう学校に参りまして、樹木の手入れをしてくれたり、掃除をしてくれたりしている方。また、生徒が登校する前に、学校の周辺の道路をきれいに掃いてくれる方。週1回ぐらい自分で花を持ってきて、玄関や廊下に生け花を飾ってくださる方々。さまざまな人々に支えられた学校であり、埼玉県教育委員会並びにさいたま市教育委員会が標榜している「学校を核として、学校、地域、家庭が一体となって子育てをする」というところが推進されている学校です。
 本校としては、このほかにもさまざまな取り組みをしているところですが、今回は、国際理解教育を通しての教員や生徒の変化の一端をご紹介させていただきました。繰り返しになりますが、学校での教育改革では、それぞれの学校での小さな実践の着実な積み重ねこそが大切にされなければならないと思っております。以上をもちまして、本校の教育実践を終了させていただきます。ありがとうございました。


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