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 大阪の松虫中学と言う学校に行きました。これは恐れられていた学校です。場所は西成区にあります。通天閣の下辺りです。来られてびっくりします。下りた瞬間におしっこ臭いです。先程お昼ご飯で隣のホテルに食事に行きましたけれども、もう分かります。ここで昨日だれがおしっこしたなと、僕らは分かるんです。ああ、あそこでおしっこしている。3日前にうんこしたな、なんて分かります。校区は本当に何でか分からないけれど、おしっこ臭い。何でかというと、ホームレスの方だらけです。****の向こうにはブルーシート50張りで、今日もホームレスが100人います。そんな状況です。
 それで、校区内に飛田新地があります。飛田新地と言っても若い方分からないですね。これは売春街です。この時間、やっています。だれがやっているんだといったら、生徒のお母ちゃんです。売春婦をやっています。ずっと行って、阿倍野のサエジョウマエってお墓があって、阪神高速を見たら、何でか分からないけれども、がたーんと20メートルぐらい下へ落ちています。そこが飛田新地と言う売春の街です。
 それで、阿倍野区の人は、この場所を上から見て、あそこは怖い所だから行ったら駄目、という教育をします。まあ、はっきり言って、そんなふうに言ってしまうのは分からないでもないです。だから、あそこは怖い所だから、怖い所に住んでいる人は怖いということで、松虫中学は恐れられていたんです。
 そういう学校へ、今からいよいよ10年前にスタートしていきました。すごい所だなと思って行ったんです。それで、ずっと見た結果、何がないかといったら、夢がない、自信がない、プライドがない、人がいない、お金がない。これだけないんです。夢、自信、プライド、人、お金がないのは分かるでしょう。それは怖い所だとか何やかんやと言われるから、生徒もこんなのはないです。それで、行った時に「原田です」と言って、「前の学校のしんどいのも何とかしましたから、先生方、力貸してください」と言ったら、しーんとなって全然受けない。「よろしくお願いします。でも先生、ここは無理、ここは駄目だめやで」と言いました。「えっ、ほんまかな」と思いました。
 ものごとを始めるときにないものねだりをしてもいけないので、あるもの探せ。大まかな戦略を練らなくてはならないです。何かあるだろうと思って、絶対あるはずだと探しました。で、情とエネルギーがありました。ただ、このエネルギーと情は方向性、やるべきことがないので、犯罪に走ります。覚醒剤と同じです。生徒指導主事ですから、大阪地裁の裁判傍聴をして20件ほど見ると、10件ぐらいは覚醒剤の判決です。そのほとんどがどこで捕まっているかといったら、僕の校区で捕まっています。(笑い)どこどこのパチンコ屋の便所とか、どこどこで。ああ、あそこで。そういうような現状でした。生徒が実際に覚醒剤を小分けて、自転車で夜、配りに行く現状がやはりありました。そういうような状況にも出くわしたんです。
 それから、先程も言ったように、小学校2年生か3年生ぐらいのときに、女の子は自分のお母ちゃんの仕事に気付きます。売春って、体を売ってということで、多分小さいながら恐くなります。それで、どうなるかといったら、地下鉄の「動物園前」と言う駅がありますけれども、そこは降りません。友達と一緒に帰って来るときに、1個手前かもう一つ向こうで降りるんです。それで友達と「バイバイ」と言ってからもう一遍乗るんです。そこの駅で降りないんです。それほど自らが嫌うんです。
 それで中学ぐらいになったときに、お父ちゃんだと思っていたお父ちゃんが実は違うんです。こればかりです。これは多いです。子供が、女の子が、お父ちゃんはお母ちゃんを売春させてお金を集めている人だと分かったんです。そうしたら皆さん、多分どうなると思いますか。こっちへ行ってもう一遍こうなります。そういうときの人間の気持ちというのは私は分からないです。涙を流すことはできても理解できないです。だから、大変厳しい状況にある子もいました。
 それで、最初に言ったように、僕はそういう子らが、何か分からないけれども、おやじとかおふくろのしつけの中で、スイッチが入るようになっているんです。それで、教師をやって1日目に行きました。それで、廊下の向こうから120キロぐらいある女のやつです。名札、2年生。「となりのトトロ」みたいなやつが来ました、どっどっどっどっと。(笑い)僕はそういうやつを見ると、そいつの体が砲丸投げの鉄の玉に見えてくるんです。(笑い)こいつに砲丸投げさせてやんねん、と思います。普通僕らみたいな教師が学校にいたら、生徒は怖いから避けますね。そいつとぶつかりました。ぶつかり方に2種類。これとこれ。その時はこれです。生まれて初めて、女の子。
 痛くて、「痛ーい」と言って、とっと行ってしまうんです。「おまえ、痛いやんけ、ちょっと待って、謝れよ、ぼけ」と言いました。そしたらそいつがぱっとこちらを向いて、「おまえのほうが謝れよ」と僕に向かって言いました、中学2年生の女の子が。僕はそんなこと言われたことないです。こうなって、ぱっと見たら眉毛がないんです。スカートがこんなんで、キャバクラのお姉ちゃんみたい。こんなんで。
 それで、ばっとこの辺で顔が笑ったんです。歯が2本ありません。女の子ですよ。思春期の中2の女の子が歯がなくて、眉毛がなかった顔を皆さん想像してください。(笑い)志村けんの馬鹿殿みたいな顔を見てしまったら、笑ってしまったんです。笑ったら人間は怒れません。笑ったら負け。
 笑っているもので、「おまえ、おもろい」。「放っといてくれ」と言いました。「おまえ、何んや、その歯は」と言ったら、「何がやねん」と。「大変やな」と言ったら、「相手のやつはもっと大変や」と言いました。「どういうことや」と言うと、相手のやつは全部ないそうです。すごいなと。(笑い)「おまえ、歯はいつ入るんだ」とぽろっと言いました。そうしたら、ぱっと顔色が変わって、来るっとおしりを向けてどっどっどっどっ。「おーい」と言っても・・・。「何やねん、こいつ」と思って、気になりますでしょう。
 職員室に行きまして、「あの子の担任はだれだ」と言ったら、「私です」と言って、「あの歯のない子はどないなってる?」と言ったら、その先生もぱっと顔色変わって、「先生、家、行きますか」「行こう。困ったときは、心技体生活やから、家庭訪問しよう」と言って行きました。「お父ちゃんは?」と行きしなに聞きましたら、お父ちゃん・お母ちゃん死んでいません。これは病死です。投獄されているのではありません。お父ちゃん・お母ちゃんが両方刑務所という子もいました。その子の場合は両方死んでいません。
 子供4人、高1、そいつは2番目で4人。4畳半一間です。親がだれもいませんから養育していません。4畳半といっても壁ではなくてふすまです。隣にアル中のおじさんが寝ていました。子供だから、1人千円で4千円といって、お金は1日4千円であと勝手にやれ。保険証もないんです。だから歯が入れられないんです。その場の状況を見た時に、部屋も臭いです。こんなんで、涙が出ました。その先生も。泣き合いです。
 それで、家に帰りました。娘がおりますので、わが娘とダブるんです。嫁さんは養護学校の教師です。なかなか頑張っているやつで、夜中、晩飯の時にそれを言いましたら、感性高いからチビも嫁さんも泣きました。娘はこう言いました。「お姉ちゃんをお父さん、また家へ連れてきて」。またとはよく連れて来るから。「会いたい」と言って。「いや、ちょっと来るかどうか分からへん」と言ったら、「お父さん、絶対頼むから、歯は入れたって」。(笑い)「小遣いは要らないから歯を入れたってな、お父さん、頼むで」と言ったら、嫁さんも「歯を入れたってな」。「よっしゃ、ごっつい貧乏なやつだから、今日から歯を入れたる代わりに、家計に入れへんぞ」と言ったんです(笑い)。OK出ました。それから7年間、私、家計に一文も入れてないです。(笑い)まねしたら駄目ですよ。この歳になって貯金ないんです。ちょっとした自慢なんですけれども。
 「よっしゃ、、歯を入れたるで」と思って、校医さんの所に行って、「こんなこんなので、連れてくるから」「OK」と言って探し出して、「おーい、来い」「何ですか」「先生」「何や」「昨日、家に来たやろ」。喜ぶと思ったら、「勝手に来るな」「いや、怒ってくれ。何でもええ。そんなのはどうでもええ。おまえ、今日、放課後来い」「何でや」と言ったら、「歯を入れに行く」。そうしたら目が。「おっ、やっぱり喜んどるわ、良かった」と思って、「おい、付いてこいよ」と言ったら、「行きません」と言う。「恥ずかしがらんでええやないか。心配するな」「要りません」「行こう」「要りません」。「何でやねん」と言ったら、「情けは無用じゃ」と言いました。えっ、と思って、その瞬間に目線がきゅーっと落ちました、トトロの所まで(笑い)。
 1校目、2校目で13年教師をやったんです。これは乗り越えて来たんです。その時は、「靴がないから買うたる。試合代なかったら出したるで。飯食われへんのやろ、連れていったるで。どうや、偉いやろ。おまえらその代わりに頑張れよ」「先生」ですわ。ほかの教師に、「どうや、おまえらそれをできるんか。偉いやろ」です。そう思っていました。
 その中学の2年生のこの娘に、それは間違いだということを教わりました。目線がばーっと落ちて、何でか分からないけれども、涙が出てしまって。そうなると僕も大阪人ですから、その歯を入れたくて仕方がない。(笑い)何をやっても歯に見えます。チョコレートを食べても歯に見えるし、(笑い)枕も歯に見えるし、家に帰ったら「歯まだか、歯まだか」と娘が。それで、そいつに頼みました。「すまん。お願いがある」「何やねん」「歯、入れさせてくれ」と。(笑い)「先生、おもろいな。でも、要らない」と言うんです。「頼むから、入れさせてくれや」と言って、「先生、おもろいな」。
 「おまえ、陸上部入れ」と言ったら、言いました、「先生はなめてんのんか」。「何でやねん」「こんな私が走れるわけない」「えっ。ほんなら、おまえ、陸上部で走らないと約束してくれたら入ってくれるか。1日も走らないでいいと言ったら入るか」と言ったら、「入ったろ」と言って、それで書きました。「1日も走らないでいいから入ってくれ」と。それで「入ったる」と。それで、砲丸投げをさせました。1日も走らせません。走りたいけれども走らせない。「走ったらあかん。走ったらあかん」。(笑い)
 入ったら、「おい、おまえ、試合で勝ったら、褒美に歯を入れさせてくれ。どうや」「おもろい、先生」「よし、それでいこう」と言って、砲丸投げ・円盤投げさせました。中学生はそんなにやっていないんです。それで陸上会で、力がありますから組み分けする時に、弱いチームを作りました。(笑い)強いチームと分けで、そいつを入れてやらせて勝たせたんです。優勝した。「おまえ、すごいな」「でも、先生、何かほかの組と全然記録が違う」(笑い)「そんなん、どうでもいい。すごいやん」。歯が1本びゅー。2試合ぴゅんぴゅん。良かった、俺も眠れる。家に帰ったら、「お父さん、すごい」と言われて。「よっしゃ」と言ったら、そこからそいつは娘です。毎度、ずーっと娘、ずっと一緒。
 それで、陸上競技でも、私の陸上競技はプロです。プロとアマの違いは何かといったら、お金を稼げぐか稼がないか。子供に稼がせます。飛田新地の在の住人ですから。(笑い)陸上で、大阪で1番になって、日本で1番から8番まで入れたら、大阪の私立の高校は推薦入学でただで採ってくれるんです。「来てください」と言って。それで、お金250万です。どこかの遠い所の寮に入れたら、3年間で600万です。10人ただで入れた年があります。大阪人は計算します。付加価値2,700万。おもろい。よっしゃ、こいつを陸上で人生指導して、生き方指導して、ばりばりの選手に育てて、高校をただで入れたんねん、と思って、ぶぁーとやりました。強くなりました。
 それで、高校の時の話です。間が悪くインフルエンザをひいてしまって、いつも海外競技地まで一緒に行ってぼろぼろだから、一遍菌が入るとめちゃくちゃになって、顔がこうずれて、カッターが留められないんです。そんなのは平気です。それで、ヘノガクさんと言う校医の変な名前の先生だけれども、「点滴、打ってくれ」と。皆さんの知っています。「歯なしのやつの進学進路の大事な日だから、先生、強烈な点滴を打ってくれ」と言って。「分かりました。4倍速だ」とか言われて、心臓どきどきする点滴を打たれて、ええんかなと思いながら、「先生、子供らに気合いを入れるために、この棒ごと行ってもええか」「おもろい、先生、行け」と言われて、こんなにして学校に行きました。
 それで、生徒に「どうだ」と受け狙いで行ったら、生徒は「きゃーっ」と言って、ぶぁーと並んで、土下座して「先生、死にます。帰ってください」「すまん、すまん。これ、ギャクだ。ヘノガク先生と仕組んでん、笑ろうてくれ」。笑わない。もう遅い。「先生、帰ってください」「何でや」「顔、崩れてる」。(笑い)「カッターシャツ開いている、先生はいつもきちんとしているのに」。
 「もう、分かったから、ごめん」と言って、そいつを車に乗せたたら、そいつが横で、「先生、死ぬな。死なないでくれ、神様、仏様、何とか・・・」「おまえ、それやめろ」。(笑い)車でぱっと信号で止まったら見ます。「いや、変なおじちゃんが女の子を誘拐していると思われるから、おまえ、それ、やめろ」と言うけれども、「先生、死なないでくれ」と。
 それで、高校にぱっと着いたら、あいさつする前に、そいつがどう言ったか。「すみません、初めてですけれども、先生がこんな顔で高熱だから、早く帰らせなければあかんから、面談もそこそこにしてくれませんか」とそいつが言ったんです。(笑い)そしたら、「分かった、もういい。合格だ」とか言われて帰って、帰りもこう・・・。
 それで帰ったら女の先生がばーっといて、「何や」と言ったら、「先生」とみんながばーっと泣いているから、「どないした?」と言ったら、「先生が行っている間に、女の子が全員、聖天さんでお百度参りしていた」と言って。韓国人の双子の女のやつが水ごりをしたと言いました。もうこれです。もう、死んでもいいと思いました。よく分からないけれども「殺してくれ」と言いました。みんなで、こうなって、これです。それで、そういうのを前にしたとき、人間はどうなるかといったら、「よっしゃ、人生懸けてやろ」と思うんです。
 それで、夢、自信、プライドがないでしょう。これは何でか分かるでしょう。これは大人のせい。大人が夢、自信、プライドを描かない限り、子供はこんなのは持ちません。社長が社員、お父ちゃん・お母ちゃんが子供です。だから、生徒に「夢、自信、プライドを持て」と言って、「先生の夢は何だ」と言われて、あちゃちゃっ、となった瞬間、もう終わりです(笑い)。「おまえ、長所を発揮しろ」と言って、「先生の長所は何だ」と言われて、あーっ、となったらもう終わりです。
 ということは、夢、自信、プライドを描かれないのは教師のせい。主体変容、「だれか夢、自信、プライドを描いてくれ。こいつらを日本一に育てよう」ということです。それで、だれがやるのだといったら、僕しかいません。「俺がやる、日本一にする」と言いました。
 まだ行った時は、はっきり言ってこんなのがおりました。35センチのランボウの、特殊工作員の人殺す刀を持っているやつもおりました。そんなのが確かにおりました。ばっと切れたら、防球ネットを100メートル切ったやつがおりました。どこまで切るかなと思って見ていました、もうええわ、と思って。ぶぁーといきました。それで命懸けで取ったら、10分後に校長がそれを返しました。「おまえ、返すなよ」。(笑い)「防御せいよ、おまえ。返すな」「怖いもん」「怖いもんと言うなよ」。そんなのがありました。荒れている学校だから、変なやつがようけおったんです。
 それで、みんなの前で言いました。「日本一にするぞ」。そうしたら生徒が「おまえら教師は口だけだ」と言います。「口だけちゃう」「日本一って何やねん」「学校を日本一にする。陸上を日本一にする」と言いました。「学校は1年、これはすぐにやるぞ、俺はプロだから。陸上は3年欲しい。おまえは1年だから、中2、中3の山形の将棋の駒の天童の全国大会で日本一にする。これ日本一だ」「おまえ、できなかったらどうするんだ」「できなかったら、教師を辞める。切腹してやる」と言いました。「ほんまか。書け」と言うんです。「紙、貸せ」と言って、生徒手帳をびりっと破ってばーっと書きました。「どうや」と言ったら、「はんこを押せ」と生徒は言いました。(笑い)腹立つから「貸せ」と言って、大人気ない、こうなったらはんこを押して、「どうや」と言ったら、「ちょっと待っとけ」とそいつはローソンへ行って、その紙を拡大コーピーをしてまいたんです。「原田、辞めさせた」って言って。
 それで、翌日行ったら、職員室の裏にその1枚が張ってあった。超拡大A3コピーで。だれがやったか分かるでしょう。同僚教師、足引っ張るやつ。出る杭は打たれる。「原田、おもろいやんけ、何が生活指導の神様だ。これで辞めよるわ」と。それを聞いていたみんながにやにやするんです。教師でも嫌ですね。それで、僕は変態ですから、(笑い)出る杭は打たれるの三段活用ご存じですか。出る杭は打たれる、沈んだ杭は腐る、三行目があります。皆さん、出過ぎた杭は磨かれるんです。出過ぎるんです。
 それで、「先生方、すみません。校長先生、あれはだれが張ったか分からないけれども、3年間絶対はがさないでください。絶対に日本一にする。絶対しますよ。あの紙で気が付きました。あれで分かりました。恩に来ます。あんなことをする人は絶対忘れていませんから」と。みんな気持ち悪いです。しーんとなって。原田恐るべし、ですよね。(笑い)生徒にそれを言ったんです。「こんなんで、こんなんで」と。そうしたら生徒が、「あっ、うちの教師はそんなことをしよるわ。大体、だれとだれと、セキグチと何とかと・・・」、本当に言ってしまった。(笑い)その通りでしょう、おもろいなと思って。それで、ここからがスタートです。
 さあ、どうしたかといいますと、一番最初に言ったように、教師はノウハウ・マニュアルをたくさん知っていて、走り幅跳びの跳ばし方、山本貴司のバタフライの泳がし方を知っているんです。でも、言ったように、それを入れようと思って言っても入らないですね。何で入らないかといったら、目の前の生き物が心のコップをふさがらせているんです。これがふさがっているんです。この心のコップを上に向けない限りは、これは入りません。でも、最初はそれが分からなかったんです。
 それで、何とかしてこれをこうしなければいけないと。すなわち、心が上を向いている、まじめ、素直、一生懸命、積極的。心がふさがっている、すさんでいると入らないです。それで、最初に松虫中学で紹介を受けた時に、「何とかの原田先生です」と言って、ばっと行って、ぱっと見たら、後ろで子供が50人寝ていました。前から2番目の教師はあんぱんを食うとった。(笑い)一番後ろのやつ、たばこの煙が。「あいつ、たばこを吸ってるな」、オガワって言う先生、また名前言うとん。(笑い)もう、腹立つな。どうせだれか怒るだろうと思ったら、だれも怒りません。
 それで、生活指導の何とか言われているのに、そんなのを紹介されて、生徒にこんなんされて黙っていられない。とんとんと降りていって、「おい、おまえら、何でそんなに寝てんねん。体が悪いんか」と言ったんです。そしたら生徒が、「何や、態度が悪いんじゃ」と言いました。やはりこれです。(笑い)なるほど。よっしゃ、見ておけよ。
 それで、「日本一にする」と言いました。そうしたら、ほとんどのやつは馬鹿にしました。言ったように、教師にも馬鹿にされて、へっへっへっという目で見られました。それでも、中に「えっ」と言って、その話に目と目を合わせて背筋を伸ばしたやつがいたんです。教師に2人、生徒に何人か。僕はそれを見逃しません。人というのは何だといったら、経験上ですが、ようけかかわると、実りを、結果を出してくれると思います。それでも機械にみたいにはいきません。ほとんどかかわらないでも、すごい結果を出すやつ。これは仏教用語で「上根」と言います。普通にかかわったらこのラインに従って延びるやつは「中根」と言います。それで、「下根」と言って、いくらかかわってもなかなか結果出せないやつに分かれます。これは10パーセント、70パーセント、20パーセントぐらいでしょうか。日本はこれが増えています。花見、成人式の暴れ方、若者はこれが増えています。だから、分かれますね。
 最初はやはりこれから行きたいのだけれども、あまりにもこうなっているときは、やはりこれを見抜かなければいけないと僕は思っていたんです。それは作戦として知っていたんです。何でかといったら、「新撰組」を読んでいました。皆さんも「新撰組」を読んでください。日本人の日本人がやる100人か50人ぐらいの人間を育てるときの一番のノウハウは、「新撰組」に載っています。コリン・パウエルの「湾岸戦争」の本を読んだら駄目です。あの人らは自分でやりません。ボタンを押すだけだから、あんなのは指揮者と言いません。本当に自分が人間に対して育てて、最強の組織を作った「新撰組」の中にそんなのが書いてあります。これを最初に、だれか見つけようと思って、こういう人はだれかといったら、真剣に話をしたら目と目を合わせたんです。そいつらを集めたんです。来てくれ。先生も2人、お年寄りのおじいさんとおばあさんです、もう退職前で、来ました。
 「さっきの話はどうや」と言ったら、「先生、ほんまにそれできるんだったら、俺らちょっと手伝ってもいいし、先生、ほんまに真剣にやれるんか」と言いました。「やれるで」と言ったんです。「死ぬ気でやるで。どうや」と言ったら、「ええ。それなら先生、手伝う」「よっしゃ、それなら付いてこいよ、約束やぞ」と。「分かりました」。それで、そいつらに質問したんです。「おい、おまえら、日本一と言っているけども、どんなのか分かるか」と聞いたんです。「先生、日本一って分かりますか」と言いました。生徒に「日本一っておまえら分かるか」と言いました。生徒はどう言ったかというと、「分からん」と言ったんです。イメージがない。ということは、人はイメージのないものには絶対になれません。それが分からなくて、ノウハウ・マニュアル論ばかりで教えようとします。こんなのは無理です。絶対無理です。
 「よし、それなら、日本一の学校を見に行くか」と言いました。「先生、あんのか」「俺が2校目におった学校、9年間心血注いだ学校で、今大阪一と言われてん。見に行くか」「見に行きたいです」「集まれ」。20人ぐらいです。「いいか、だらだらしたらあかん。2時間だけだ。授業1回と清掃とクラブ活動、これだけ。それで、行ったらおまえらリポートを書け。どんな学校かメモをして、まとめて新聞を出して、明日生徒に出すぞ。いいか」「先生、やってください」「あかん。俺がやったらやらせになる。おまえらが自分で見つけて、自分で報告しろ。それだけで変化が起こるから、信頼せい」「分かりました」。で、行きました。
 田辺と言う駅に着いたら、もう僕の2校目の生徒がいました。多分先生方の根回しで「原田先生が来るから、あなたたち頑張りなさい」と絶対言ってくれていたんです。2校目の同僚、同士、戦士ですから。それで、駅に行ったら、わーっといて、陸上のやつがばーっと来て泣きました。集団で立って、「先生」と言って。「元気か」「先生、ご苦労なさっているそうですね」(笑い)「何で知ってんねん」「だって、新聞に出たじゃないですか」。新聞に出ました。生徒に正座させたら、「正座体罰教師」と言って勲章が付きました。まあ、それはいいとして(笑い)。
 その2校目のやつが、僕の松虫の子をどうしたかと言ったら、かばんを持って「どうぞ」と言って案内して、椅子引いて、座らせて、ジュース飲まして、「どうぞ、どうぞ」と。「原田先生をお願いします、どうぞ」。松虫のやつはびっくりして、「何や、これ」。で、授業を見に連れていきました。そうしたら授業中、女の先生が質問したら、生徒はばーっと手を挙げて、「はい」と言って、先生がばっと手を挙げたら答えて、椅子入れて、みんな拍手して。生徒はそれは見て、びっくりして。「どうや、いいやろう、授業」「いや、先生、あんなぼろぼろの先生でも授業できるんですね」「そんなのは見たらあかん。生徒の態度を見ろ」。(笑い)「うちでは、あんな先生は通用せいへん」「そんなのちゃう、生徒の態度を見ろ。掃除を見ておけよ。すごいぞ」。3時55分から4時まで5分で全校生徒ですから、便所のうんこもなしにぴかぴかです。「すごい、先生」。陸上はもっとすごいぞ。時間制だから、4時から始めて5時半にびしっと終わります。1秒も欠けません。そういう練習をしました。びっくりしていました。最後は駅までばーっと送ってくれて、マンツーマンで、「これから陸上は私らが全部教えるから。私らはあなたと、もうこれでフレンドシップ、親友やで」と言って、メモを何とかで渡して「試合があったら、全部教えるで」と言って、それで帰りました。
 それで、帰りしに集めて、喫茶店でジュースを飲まして、「おい、作戦会議。おまえらは今日の学校と松虫中学校の違いは何か言ってみろ」と。「先生、『はい』の返事がすごかった」「あいさつが強烈」「椅子を入れていた」「靴をそろえていた」「清掃がめちゃめちゃきれい」「かばんが立ってた」。かばんを出して、中から荷物を入れて、チャックで閉めるからかばんが立ってた。「生徒は目を見て先生の話を聞いていた」。
 「ほかはどうだ、結果はどうだった」と言ったんですけれども、「ない」と言いました。「そうやろ、これがささいなことと言うんだ。分かってきたか」「分かってきました」「おまえらはひょっとしたら同じ中学生だけれども、人間が違うと思っていなかったか」と言ったんです。生徒は、「そう思っていた」と言いました。「いや、絶対日本一の中学の子なんか、私らと人間が違うと思っていた」と言ったんです。「分かったか。人間なんか、どうだ」「先生、私らのほうが気合いが入って根性があるか分からんし、体もごっついし、やれそう」「そうやろ。でも、ささいなことが違うやろ。分かるやろ、俺が言っているのが」「先生、何となく分かってきました」「そや」。
 「ニューヨークのジュリアーノと言う市長のおじさんも、ブロークウィンドウ理論と言って、ニューヨークの町からこれどけた。落書き撤廃、放置車両撤廃、軽犯罪の徹底取り締まりをやったらどうなったかといったら、ニューヨークの町がきれいになったらどうなったかといったら、犯罪発生率が57パーセントになくなったんや。ニューヨークのブロークンウィンドウ理論と言うんだ、覚えとけよ」「先生、すごいですね」「ということは、人というのは、身近なささいなものに乱れがあって、振れていたら心のコップはこないなる。このささいなことをのけたら、こうなる。分かってきたか」「分かりました」「心のコップが上を向いたら、いろいろなことが学べる。朝礼で横になっているやつも、こうなったらいいんや。分かるやろ」「分かりました」「よっしゃ、そうしたらこのことをまとめて発表せい」と言って作らせて、翌日みんなの前で出しました。
 それでどのようになったかというと、前日はほとんどのやつが馬鹿にしたのに、そのプリントがあったら読むんです。だれが読むかといったら、B型。真ん中の「中根」、7割のやつです。どっちでも何とでもなるやつが読んだんです。C型のこうしているやつは、意地があるから読みません。でも、真ん中のどうにでもなるやつは読んだ。
 先程先生はおっしゃいました。だから、どんなところに教育効果を求めて、何をやったらいいといったら、どっちでもなるやつがしんどいほうに流れているんです。悪い学校とか悪い組織というのは、僕もリーダーがいないと思っていたんです。違うんです。そうではなしに、7割ぐらいのどっちでもなるやつが、しんどいほうに流れて、全体の9割がよどんでいるんです。それで、いい学校とかいい会社というのはしんどい人がいないと思うでしょう。そんなことはないんです。7割ぐらいがこちら側のほうに流れて、全体の80パーセントが生き生きしているんです。これがコツだと思ったんです。そういうものに対しては、思いを文字にして込めて、プリントにして出して話をしたら読むんです。読んだらそいつらは、こういうふうには反応するんです、「ふーん」と。ということなんです。
 それで、空気がだんだん変わってきました。それでどうしたかといったら、生徒に「どれか選べ」と言って、生徒はどうするかといったら、「先生、あいさつとか返事は私ら恥ずかしいからようやれへんけども、靴そろえるのは簡単だから、靴そろいからやったらやれる」と言って、やったんです。「いいか、ただしものごとはコミットせいよ。いつまでに、しかも全校生徒の靴をそろえるか言え」と言ったんです。460ですから大したことはないです。「1年」と言いました。「あほか、おまえ、1学期、長すぎや。1カ月、長い。もうそんなのは嫌だ。」「1週間」「よっしゃ、今週じゅうに靴を全部そろえる。いいな、やるぞ。ただし、それをみんなの前でもう一遍言えよ」と言って、コミットさせてやりました。
 それで、「よっしゃ、これでいくで。靴そろえスタート」です。どうなったかというと、皆さん、わずか1日で、その日のうちに靴はそろったんです。これは何ででしょう。僕がやったんです。靴を見たら、飛んでいってそろえました。ばーっとそろえました。生徒も連れていったやつはやると思いました。最初、やりません。「おまえ、やれよ。何でやらへんねん」と言ったら、「いや、何とかかんとかで・・・」。自分のはするのですけれども。それで、昼休みが終わったぐらいに20人ぐらいが来て、やっとそろえたんです。「何でおまえら、そないして約束したのにやらへんねん」と言ったら、生徒が「それは、先生の本気を見とったんや」と言いました。(笑い)これを子供が言いました。「ああ、なるほどな。それで本気というのは伝わったか」と言いました。「伝わった」と言いました。
 ノウハウ・マニュアルだけでどうすることもできない。仕事力だけでどうすることもできない。どうしたら、こいつらを育てることができるか。どうしたら、意欲のある人間、心のコップを上に向けることができるのか。答えは何なんだ。本気でやることだ。本気とは何かといったら、主体変容。自らがまず変わることです。それともう一つは何かといったら、これは率先垂範です。
 皆さんのレジュメの(2)の(3)を見てください。教師のオーラとは主体変容、率先垂範です。だから遅刻するな・・・
(A面終了)


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