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 今度は横にしていただいて、右側を見ていただけますか。これはすべて文部省の情動の研究会で発表されたデータです。これは日本で一番最先端の研究成果です。右から2番目の所に最近起きた広汎性発達障害、自閉症の犯罪例として神戸の事件、豊川の事件、岡山の事件、長崎の事件うんぬんとあります。そして、右側は愛知小児保健医療総合センターの所長さんが発表した資料ですが、あくまで愛知のセンターのデータです。
 虐待関連の57パーセントに発達障害が生じている。不登校の50パーセントに発達障害がある。それから右の下のほうにいきますと、虐待を受けた子の25パーセントに広汎性発達障害、自閉症。愛着障害、49パーセント。複数回答ですから100パーセント以上になりますが、非行に走っている、これが行為障害といいますが、29パーセント。こういうふうに大きな関係があるということをここで見ておいていただきたいです。
 次に、その次の4ページの左のほうを見ていただくと、これは内閣府の若年層の意識調査です。2年前、2003年です。これを見ますと、子供がいる女性の6割以上は育児不安を感じている。「育児の自信がなくなる」というのが六十何パーセント。2番は、「自分のやりたいことができなくて焦る」、63.8パーセント。両方大体3分の2です。「何となくイライラする」が4分の3いるわけです。
 つまり、女性の意識に大きな変化が起きている。例えば昭和56年、「イライラする」と答えたのは10パーセントしかいなかったのです。10年後、30パーセントを超えました。ところが今は4分の3。「子供といるとイライラする」というのが4分の3いるわけです。なぜそんなにイライラするかといえば、子供が大きく変わってきたからです。
 それはどのように変わったのかというと、一つは睡眠です。これはあまり今まで皆さん、注目していなかったかもしれませんが、子供たちの睡眠に異変が生じているのです。今のデータの下を見てください。これは日本睡眠学会で発表されたものですけれども、日本では2歳半時点で43.9パーセントが夜10時以降起きているのです。更に就床の国際比較があるのですが、乳幼児の調査です。床に就く時間は10時以降、日本は46.8パーセントですが、スウェーデンは27パーセント、イギリスは25パーセント、ドイツ・フランスは16パーセントというデータがあります。
 そのほかのデータをちょっと紹介します。皆さんの資料にないので、口頭で補足をします。夜11時以降に寝る3歳児は、50パーセントいる。こんな国は世界にない。夜10時以降寝る子は、3歳児の場合ですが、1980年の時点では22パーセントでした。それが10年後、90年になると、36パーセントに増えました。それから2000年には52パーセントに増えたのです。私は子供が変わってきたというのは、まず、生活の夜型化が始まったのです。10年でこんなに大きく変わってきているわけです。そして、夜12時以降に寝ている日本の高校生は今、70パーセントだそうです。文部科学省の発表した資料によると、中学3年生は64.4パーセントが夜12時以降に寝ているのです。
 ところが、アメリカと中国はどうか。比較調査があるのですが、米・中の高校生は、夜12時以降に寝ているのは10パーセント強しかいないのです。つまり、日本は70パーセント。米・中は10パーセント強、完全な違いでしょう。夜9時以降に子供を商業施設に連れ出す親は26パーセントもいます。どこに連れていっているかという統計があって、1番はコンビニエンスストア、2番目はスーパーマーケット、3番目はレンタルビデオショップ。つまり、大人の夜型への生活の変化が子供を巻き込んで、乳幼児までも睡眠障害になっているのです。
 例えば夜間保育です。僕は数日前に栃木県の保育協会で講演したのですが、終わったあと、ある方が手を挙げてこういう質問をしたのです。「私の子供は2歳ですけれども、夜2時になっても眠れない。どうしたらいいでしょうか」と聞いたのです。こんなことは10年前、20年前考えられなかった。皆さん、夜2時に寝ているかどうか知りませんが、僕は男シンデレラと言われておりまして、12時には家に帰りたい。(笑い)昔、夜のお付き合いが大変で、できれば僕は12時に就寝したいんです。朝、必ず5時に起きて、山を歩くというのが僕の日課になっています。これ、極めて健全な基本的生活習慣です。人間が健康になるためには三つ条件があって、歩行と呼吸とそしゃくなんです。歩くこと、新鮮な空気を吸うこと、それからそしゃく、硬いものを噛むという、これが脳を活性化する大事な条件です。
 ところが、今子供たちは、例えば夜間保育というのが増えてきました。明日、私は埼玉県で少子化対策、子育て支援策を巡って大激論をするのですけれども、私の考えは、今の子育て支援策は働いている親の都合を優先していて、親がお客様になってしまっている。親がお客様になると、親の責任意識が失われます。「保育サービスの充実」ということを盛んに言うのですが、保育サービスを充実すればするほど、子育て放棄を促進するというジレンマがあるわけです。そして子育てに合理化とか効率化というものが浸透してくると、親心に効率化という心が浸透してくると、親心も崩壊するし子供とのきずなも崩壊するのです。
 それは具体例を申し上げましょう。文部科学省の検討会でこういう事例が発表されました。まず、「給食費を払っているのに、どうして食前に『いただきます』、食後に『ごちそうさま』を強制するのか」と文句を言ってきた親がいます。あるいは、これは私は実際に聞いた話ですが、東京辺りでは、皆さん、この地域はどうかな、「弁当の日」というのが月に1回あった。今はどうか知りません。これは熊本です。僕が日本保育協会の熊本支部で講演したのですが、その時に保育園長がみんな言いました、「以前は弁当の日が月に1回あった。ところが今、全部行政指導でこれがなくなった」。「なぜなくなったのですか」と聞いたら、「給食費を払っているのに、弁当の日を作れということはお金を返せ」と。つまり経済論で保護者が文句を言ってくるというわけです。そこで行政が、「もう、そういうことをやってはいけません」と言ってなくなったというのです。
 これが典型的な事例です。つまり、なぜ弁当の日を作ったのかといえば、それはお母さんが作ってくれた弁当を楽しみに開けて、そのときに胸がわくわくする。親と子の心の触れ合いというものが、実は幸福の物差しです。幸福というものはそういう心のぬくもりの中にあるわけです。つまり幸福論というものが犠牲になって、経済効率論で子育てあるいは支援というものが行われているわけです。
 その結果、東京では、「手弁当を作ってあげてください」と保護者にお願いをしたのに、「ウイダーinゼリー」というのを持たせる親が多いというのです。ちょっと考えられませんね。ご存じない方はいらっしゃいますか。「ウイダーinゼリー」というのは、どうぞコンビニエンスストアに行ってください。何種類もの栄養飲料があります。それを手っ取り早く与えようという話です。つまり栄養飲料を効率良く与えればいいんだという発想が親に入ってきたのです。
 文部科学省ではこういう話がありました。お茶の水女子大の副学長、女性ですけれども、1980年代の後半になって自閉症が増えてきた。広汎性発達障害が増えてきた。それはもちろん、あまり短絡的に結び付けると問題なのだけれども、1988年にコンビニの全国チェーンが、弁当の全国チェーンが広がったというのです。もちろんコンビニ弁当の全国チェーンが始まったから自閉症が広がったというのは短絡化し過ぎるのですが、しかし、僕はやはり関係はあると思います。つまり、食育の中に、子育ての中に、効率化というものが入ってきた。できるだけ楽に済ませよう。
 それが実は児童虐待とも関係があるのです。これが文部科学省の検討会でこういう事例で発表されました。わが子を愛せないという親たちがたくさん増えてきた、若いお母さんが増えてきて、どうしても子供を抱き締められない、そこで相談に来たのでこういう指導をしたカウンセラーがいるのです。「じゃあ、あなたはどういう食事を作っているか、献立を書いてみてください」。そうしたら、インスタント食品が非常に多かった。そこで「手料理に変えてください」。働いているからなかなか大変なので、共働きですから。
 できるだけ手間ひま掛けて作る。手間ひま掛けて心を込めるという、その手料理の中でそれを作る中で、この料理を子供に食べさせたいという愛着心がわいてくるわけです。つまり、手間ひま掛けるというプロセスの中で、母性愛とか子供に対する愛着心というものが生まれてくる。実際にそういう指導をして、見事に子供を抱き締められるようになったと、こういう事例発表が文部科学省の検討会でありました。
 そういうふうに考えますと、子育てのプロセスがどんどんマクドナルド化する。マクドナルド化するというのは、マクドナルドの店が増えるというのではなくて、これはリッツアと言う人が、早稲田大学出版部から「マクドナルド化する社会」と言う本を書いています。ぜひ見てください。それは要するに、効率性とか予測可能性、計算可能性そういうものが重視される社会、それを「マクドナルド化する社会」と言っているのですが、今、子育てがマクドナルド化する社会に合わせようとしてきているのです。つまり最小コストで最大のサービスを。こういう論理で保育サービスの充実、夜間保育、一時保育、年末・年始保育、これをどんどん広げて、保育サービスの競争が始まったのです。
 しかし、これは経済効率の論理です。そのことによってどんどん親心が崩壊し、子供とのきずなが崩壊している。それを明日、私は大激論してくるのですけれども、夜間保育というものがどんどん広がって、眠りの質が悪くなっているのです。今、東京のある保育園では、子供たちが保育園に入ってくると、いきなりもう寝かせるのです。夜型でみんな疲れているので、すぐに寝かせる。これを昼寝というか朝寝というか。(笑い)難しいのですが。普通、保育園で長時間の昼寝をします。長時間の昼寝をすると、生態リズムが狂ってきて夜に目が覚めてしまう。なぜ2時に寝られないかというと、それは生態リズムが狂っているからです。
 それをグラフにしたものが、4ページの図です。下の所です。これは1、2年生で床に就く時間がずれています。遅れています。そうするとこれが戻るのに5、6年生になるまでかかる。ちょっと言いましょう、左側の文章を読ませてください。福島大学の福田一彦と言う方がそのことを睡眠学会で発表しました。「年齢にふさわしくない長い昼寝は、夜の睡眠を乱し、夜型化の一因となっていることが分かっている。保育園児の日課として行われている午後の長い昼寝は、夜更かしの生活習慣を生み、しかもこの夜型化した生活習慣は、昼寝の日課がなくなった小学校中学年までも持続する」。なかなか生態リズムというのは時間がかかるのです、それがまともになるには。
 左を見ますと就寝時刻・起床時刻の各国の比較があります。なぜか日本は埼玉の草加市が出ているのですが、就寝時刻も起床時刻も日本が一番違います。ちなみに今、子供の問題だけを取り上げたのですが、大人たちの疲労感をちょっと考えますと、この国では「日常的に疲れを感じる」と答えた大人は6割を超えているのです。「半年以上ずっと疲れを感じる」というのは3割以上いるのです。
 私も4年前はそうでした。帯状疱疹という病気になりました。4時間睡眠で1年間ずっとやってきたので過労になりました。帯状疱疹で大変なことになったのですが、これはまさにこういう状態です。それから「精神作用に支障を来すような疲労感を感じる」、これが18パーセントいるのです。そして「慢性疲労で休んでいる」人が1パーセントから1.8パーセント、これは大人の話です。
 なぜこんな話をしているかというと、今、「多忙感」というのが時代のキーワードです。先生も「多忙だ」と言うわけです。忙しい、忙しい。親も忙しい。子供も疲れている。親も疲れて、教師も疲れて、子供も疲れている。これをどうするの。これは根本問題なのです。
 そのためには、例えばもっと早く寝る。1時間早く寝るという分かりやすいことをどこかでやらないといけない。私は埼玉でやろうと思っていますけれども、これはなかなか地域と親が協力しないと難しいです。親たちは自分の生活をエンジョイする。先程の子供がいる女性の意識にあったように、自分のやりたいことができなくて焦る、子供を育てるということは、自分の自由時間を奪われるんだという意識が非常に強まってきた。
 これは厚生労働省の調査でも、「子育てが負担だ」と答えた親の第1位は、「子育ては自分の自由時間を奪われる」。つまり、夜遅くまで起きて自分の生活をエンジョイしたい。そのために夜型化が進んでいるわけです。そこに子供が巻き込まれている。そして乳幼児の睡眠障害まで起きているのです。
 発表された最近のデータでは、皆さんの資料には1ページ目の上のほうに「夜間保育から早期幼児自閉症」というメモをしておりますが、乳児期の発達障害の重症の子の25パーセントがADHDを発症している。4分の1がADHDになったということは注目すべき事実ですけれども、私たち、一つは睡眠という問題に注目する必要がある。
 それからもう一つは、食生活の問題です。食生活の変化です。それが1枚目の、今度は縦にしていただいて、1ページのここです。親学ということを考える場合に、何が子供の変化をもたらしているかという原因にまでさかのぼらなければ、きれいごとの親学講座になってしまうのです。何が子供に起きているかということを正確に認識することが大事です。
 生活の効率化というものが食生活に大きな影響を与えて、三つの問題がある。それは「栄養の偏り」という問題と、「間食が増えている」という問題と、「軟らかい食品が増えている」という三つの問題があるということです。それから遅い就寝時間、そこにいろいろな、どういう構造になっているかを書いています。そのことを今、一番研究している方は熊本大学の三池輝久と言う先生です。ここにインターネットから持ってきた紹介をしております。
 今度はこれを横に戻してください。「小児型慢性疲労症候群」という、これもあまり耳にしたことがない言葉だと思うのですが、常に疲れている子供たち、慢性疲労、これが非常に広まってきたわけです。今まで不登校については、医学的な解明は進まなかった。なぜかというと、その傍線部分を読ませていただきます。「最近まで不登校について、不登校は身体的な疾患によらず、何らかの心理的な規制によって登校できない状態であって、病気などではなく、本人の生き方の選択であるという考え方が定着していたために、医学的な解明を阻んでいた」と。その通りです。ところが、この三池先生は不登校の子供とずっと接触してきたら、みんな子供が「学校に行きたい」と言う。行きたくても行けないという状態が起きているんだと。
 そこで下から5行目、6行目です。「不登校は彼らが積極的に学校へ行かないで生きる生き方を選んだのではなく、脳機能の疲労による情報処理能力低下のため、勉強ができなくなった学校過労死状態であると結論できる」と、こういうふうに言っているわけです。今度「MOKU」と言う雑誌、今私が連載をしておりますが、このことを書いたのが出ます。とても面白いですから、ぜひ、見ていただきたいのですが、不登校の状態を八つに、8段階に分けまして、どういうふうにかかわったらいいかということを具体的に述べています。
 私は神奈川県の教育委員会で不登校対策の責任者をしてきました。「長い目で守れ、信じて待て、登校刺激を与えるな」というこれまでの定説では駄目だ。もちろん長い目で守るとか、信じて待つとか、登校刺激を与えないということは、カウンセリングの出発点ではあるのです。しかし、それだけでは不登校の子供が学校へ行けるようにはならない。不登校の子供が学校に行けるようになるためには、具体的な行動を通して、成就感、達成感、成功体験というものを味わわせながら、心の中からエネルギーを引き出してくる。そういうプロセスのかかわり方が大事です。非指示的カウンセリングだけでは駄目なんです。
 このカール・ロジャースが非指示的カウンセリングというのを日本で、カール・ロジャースの全集がある国はそんなにないはずです。デューイの弟子のキロパトリックに学んだ、これが誤った児童中心主義の私の典型的なカウンセリングの理論だと思っておりますが、受容するとか傾聴するとか、これは大事なのです。間違っているのではないのです。
 しかしそれは出発点であって、もっとその次の段階を考えなければならない。これは皆さんに脳科学だけではなくて、ぜひ生命科学も研究していただきたい。日本では村上和雄と言う筑波大学の名誉教授が遺伝子研究の権威です。この方がこう言っています。人間の遺伝子ヒトゲノム、これを十数年かかって解読されました。
 そして、3千冊分の百科事典に入っているすべての情報量が1粒のお米の60億分の1の小ささに書き込まれているのがヒトゲノム、人間の遺伝子だということが分かった。これは塩基という基になるものが四つあって、それは30億ペアで組み合わさってオンリーワンの命が生まれているわけです。私は6人兄弟。母親が12人姉妹です。11人が姉妹ですけれども、全然性格が違います。見たところは同じように見えますけれども、全然違います。同じ親から生まれても、その30億ペアの組み合わせがあるわけですから、個性は全然違うわけです。
 ところが村上先生が言うには、「人間の遺伝子は、97パーセントはスイッチオフの状態になっている。働いていない」。3パーセントしかスイッチオンになって働いていないというのです。だから、いかにしてスイッチオフをスイッチオンにするかということが大事なのです。逆に言えば、97パーセントがスイッチオフなんだから可能性がすごいわけです。彼は「スイッチオフをオンにするものは三つある。それは感動体験、喜び体験、感謝の体験。それを分かち合うことが、スイッチをオンにするのだ」と言っています。これはとても大事な生命科学からの示唆であります。
 ついでに、脳科学者はどう言っているかということをちょっと言いましょう。脳科学者は、PQを育てるポイントが八つあると言っているのですが、PQというのは、何かといいますと、先程前頭連合野の機能だと言いました。このピンクの所が前頭連合野です。皆さんの資料にあります。この前頭連合野が人間らしさの機能です。統合する機能です。今、この統合する機能が低下しているために、少年の凶悪事件やむかつき・キレる子や情緒不安定の子供がどんどん増えているわけです。
 それはフィネアス・ゲージと言う人が事故で鉄の棒が突き刺さって、前頭連合野を損傷したのです。その結果初めて分かったのです。それは、前頭連合野を損傷した結果、将来に向けた夢・展望を失ったのです。5歳児の女の子に会ったら、「私、5年も生きていて疲れちゃった」と言いました。もうPQが育っていない。5歳で疲れている。「5歳児が慢性疲労」と言うと言い過ぎですが。それから理性を失った。感情を制御できなくなったのです。それから主体性を失った。独創性を失った、好奇心を失った、探究心を失った、やる気を失った、意志力を失った、集中力を失った。そして幸福感を失ったのです。幸せだという感じることができない。セロトニンという脳内物質が出なくなったのです。
 つまり、前頭連合野を損傷するとこういう結果になるのですが、どうすれば前頭連合野の人間らしさというものを伸ばすことができるか、人格的な知能、PQを育てることができるかということについて、脳科学者は八つのポイントを示唆しています。これは結論ではありません。まだ仮説だと思ってください。ただ大変興味深い仮説ですので、引用したいと思います。
 まず第1番目は、夢や目標を持たせる。2番目は、多様な人間関係・社会関係を体験させる。3番目は、直接体験、原体験です。本物に触れるという体験です。疑似体験では駄目です。4番目は、自分が選んだ体験。これは私、いつも兵庫県のトライアルウィーク・・・。
(A面終了)
高橋 ・・・第一希望を優先したのです。不登校児は自分がやりたいアイデアを、5日間見事にやり遂げたことによって、78パーセントの不登校児が学校に戻ってきたのです。僕は不登校の専門家でもありますが、こういう事例はほかにありません。
 ところが、中学で2週間授業を受けているうちに、登校率が34パーセントに落ちてしまったのです。つまり、受け身で授業を受けているうちにだんだん元気がなくなって、スイッチオフになってしまったわけです。スイッチオフをスイッチオンにするものは、自分がやりたいことをやり遂げるという成功体験、成就感、達成感。それがスイッチオンにするのです。そのスイッチオンをどう持続するかが教育の課題です。地域が持っている力は、自然体験というものは、そこに大きな力を持っています。
 五つ目は読書、特に音読です。福岡には腰骨を立てるという立腰教育をやっている保育園があります、あるいは漢詩を小さい子に読ませているのがあります。「子日はく」ではありませんが、非常に難しい漢詩を幼児が読んでいるのを見るとびっくりしますが、別に頭で分かってなくていいのです。その言葉です。音読をすることによって脳が活性化します。川島竜太と言う東北大学の先生がたくさん本を書いています。黙読と音読は全然脳の活性度が違うのです。声を出すとまた耳に入ってきますから、活性化していくのです。美しい日本語をできるだけ小さいころから与えることが大事です。英語よりももっと、美しい日本語を与えることが大事です。
 そして、脳科学が私たちに問題提起しているのは、脳には臨界期がある。これは大事なポイントです。キーワードです。その資料は産経新聞の一面トップに、「脳科学の英知教育現場に」、「臨界期」というのがあります。9ページの左側です。詳しくはあとで読んでいただきたいのですが、そこに臨界期と書いてあります。臨界期はその時期を逃せば取り返しがつかない時期のことです。
 次の10ページにもそのことをちょっと書いています。臨界期と感受期、感受期は感受性期とも言われ、もうちょっと緩やかな時期です。例えば幼児の視力検査のメモを書いていますが、1.0と0.1以下の右目・左目の幼児がいまして、なぜ1.0以上と0.1以下になったかというと、眼帯をしたことが原因だったのです。だから、眼科では乳幼児期に何らかの異常があっても眼帯をさせないで治療をするようになって、その結果片目が弱視になるケースが非常に少なくなったのです。これは親学会の会長がこのあいだ発表したことです。親学会と言うのが日本に3年前にできました。私はそこの副会長をしているのですが、会長は遺伝子研究の権威です。
 そこに書いてありますように、例えば聴覚の臨界期、視覚の臨界期、言葉というものの臨界期。臨界期にはいろいろ差があるのです。議論もいろいろあります。「そんなのはないんだ」という方もいますし、大激論が行われているのです。ただ大事なことは、脳の神経回路の発達を見ますと3歳で6割できているのです。8歳で9割以上できているのです。
 これは「世界子供白書2001年版」に詳しく出ておりますが、人間の脳の発達段階は3歳で6割できて、8歳で9割以上できているということは、神経回路が急速に発達するわけです。特に1歳までに急速に伸びていきます。その時期に親がどうかかわるかはとても大きな影響を与えるということです。あるいは胎児期です。おなかの中にいる時も含めて胎児期・乳幼児期がとても大事だということです。
 もともと臨界期というのは、例えばある小鳥は生後1時間以内にお父さんが歌を教えないと一生歌えない。声変わりも臨界期です。だから、脳には臨界期があるということを学ぶと、小さいころにもっと親が子供とかかわることがいかに大事か分かります。ただ一つだけ大事なことは、これを言うと落ち込む方がいます。それはもっと早く聞けばよかった。もう今からでは間に合わない。3歳までが大事だとか、感受期は8歳ぐらいが大事だと言うと、もう私の子供は、私の孫はもうとっくの昔にその時期は通り越してしまったと。
 そのことは言わなければならないのですが、それは人を見て言う必要があるところがあって、もう一方で生涯発達という視点も忘れてはならないです。97パーセントがスイッチオフだということは、心は将来かかって、脳は一生かかって発達していくものです。だから、生涯学習。自分の脳や自分の心を育むことは生涯学習だという視点を一方で忘れてはならない。心には可塑性があってどんどん成長できるということを一方で言っていかないと救いがなくなるので、そのバランスは大事なポイントです。PQの5番目のポイントが終わりました。
 6番目は、暗算です。百枡計算もPQの育成があるのです、痴呆症老人の脳にもいいですけども。皆さん、「ぼけたなあ」と思ったらぜひ暗算をしましょう。これはベルと言うアメリカの教育長官が、私がまだアメリカに留学しているころ「日本のサムライマスに学べ」と全米を行脚したことがあって、サムライマスとは公文のことです。掛け算の九九を暗記させる、この教育がアメリカは失っていたと。徹底的に基礎・基本をたたき込むという、これが大事なのだと。だから、暗算、掛け算の九九を暗記させる。これは脳を活性化するのです。この基礎・基本をおろそかにするから今学力低下が起きているのです。


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