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「心の教育」自主研究発表会―脳科学の知見を生かして―の報告
校長 桑原清四郎
 教育は限りなく迷走している。特にここ10数年、文科省の担当者が変わるたびにキャッチフレーズがかわった。くるくる変わった。方針の混乱が教育の混乱を生み、学校の混乱が子どもの不幸を増幅させた。経済・文化格差が教育格差をうみ、教育格差が社会全体の二極分化を促進させた。良い教育を受けた子どもと雑な教育を受けた子どもの間には超えられない溝が生まれつつある。親や家庭からほったらかされた子どもは一体どこに行けばいいのでしょうか。学校と先生に見放された子は一体どこで教育を受けるのでしょうか。子どもの不幸は限りありません。子どもの不幸の殆どは親と学校、教師や校長にあります。
 今、社会が一番求めている資質・能力は何でしょうか。バイタリテーや対話能力、責任感・協調性などではありませんか。個性や適性ではありません。ましてや語学力やパソコンなどではありません。元気の溢れる子です。何事にも恐れず挑戦する子です。目を輝かして理科実験する子です。朝読書に夢中になる子です。どんどん遊びまくる子です。土日にはサッカーや剣道に打ち込む子です。こたつに入ってパソコンやテレビにかじりつくことではありません。その基盤は「早寝・早起き・朝ご飯」です。極めて単純な事です。実行するかしないかだけです。努力するかしないかだけです。
 本校に赴任して4年、地域に打って出て4年たちました。「子どもとともに地域とともに」を旗印に身を粉にして働いてきました。30数年間の歩みを振り返ってみるに、子どもの不幸・教育の危機が、学問の精神の欠如、実験検証すなわち実証の欠落にあることがわかりました。徹底した実証、自然科学の手法を日々の教育活動に生かすことでありました。「数えること・測ること・比べること」です。「あれ・それ」を使わないことです。まずメモをとること、何事においても記録をとること。ストップウオッチや万歩計を使うことでした。特に驚異的に発展している脳科学の知見を教育に生かすことでした。曖昧模糊とした一般論を語らないこと、教育界の言葉を語らないこと、自然科学の言葉だけを語ること。地味な地味な作業を黙々と積み重ねることでした。
 本校は地域・保護者PTAとともに、「子どもの幸せ」だけをめざして歩み続けてきました。「志と気概に溢れる子」「根じょうぶな子」、「気力・体力・学力」の溢れる子を育てるために全力を尽くしてきました。その一端が今回の研究発表会です。登り棒やタイヤ跳び、相撲や縄跳び、朝読書に読み聞かせ、運動会・持久走記録会、音楽会・クリスマスミニコンサート、委員会やクラブの活動等々・・・。全ての活動が一体になって本校のほど良い緊張感と愛情の溢れた雰囲気を生み出しています。子どもたちは見守られている安心の中で学んでいます。落ち着いています。表情を見ればすぐわかるはずです。
 今回の研究会は本校一年間の総決算です。心の教育を探る177冊の基本文献、549枚の写真と模造紙54枚の活動の記録です。更に今年職員に配布した脳科学関連資料プリント20種類(お土産用)も用意しました。理化学研究所や科学未来館の資料も展示してあります。今週中いっぱいは展示しておきます。ぜひご覧下さい。簡単な説明をいたします。
 5校時は全校全クラス・7教科の研究授業でした。終わるとすぐに全体会、ブラバンのオープニングから始まりました。記念講演は日大の森昭雄教授の「脳科学と教育」でした。128チャンネルという最新鋭の測定機器を使った研究発表でした。衝撃的な内容でした。一枚一枚のスライドに映し出された内容は衝撃的なものでした。寒くて暗い体育館、身を乗り出して聞き入る姿は凄いものでした。参会者(記名者のみ)は幼稚園24名、小学校39名、中学校5名、高校4名、大学・研究所9名、マスコミ・出版8名、市議2名、評議員・民生委員7名、職員の両親4名 計102名であった。教頭と齋藤教諭のお礼の言葉と花束贈呈は真にこころのこもったものでした。閉会のことばの後、私は「脳科学と教育」の研究会を立ち上げることを提案しました。ここから教育の再構築がはじまることになるでしょう。私たちは「脳科学と教育」の架橋・融合をめざして第一歩を踏み出しました。どのような旅になることでしょうか。ご参会の皆様とともに陰に陽にご協力頂いた皆々様に心から感謝申し上げます。有難うございました。
 さて、6年生の皆さん、卒業まで34日です。在校生の皆さん、進級まで36日です。思い残すことはありませんか。悔いは残りませんか。いっぱい友だちを作ってくれましたか。先生にいっぱいほめてもらいましたか。勉強に運動に精一杯頑張りましたか。保護者の皆さん、思い残すことはありませんか。かわいいわが子を愛し尽くしましたか。かわいがり尽くしましたか。苦楽をともにしてくれましたか。早寝早起き、宿題忘れ物、3度3度の食事、大丈夫だったでしょうか。悔いは残りませんか。もう一度振り返ってください。
 今年度も4月以降、その時その時に、特に大事と思うことを学校だよりで伝えてきました。校長としての願い・課題・方針を示してきました。もう一度読み直し、学校の意をくみ取ってください。子どもにとっても保護者にとっても、本校にとっても見逃すことの出来ない大事なことは網羅されているはずです。2月と3月、1年間の仕上げですから・・・
 
一体誰があてになるのか?
川口市立東本郷小学校長 桑原 清四郎
 学校の授業以外に、一日にまったく、またはほとんど勉強しない高校3年生が4割いた。6割以上が1日にまったく、またはほとんど本を読まない。新聞を読む人は半分以下、学力特に数学や理科の成績が芳しくない。―11/28 毎日新聞余録―
 世界中が目の色を変えて教育に取り組んでいる中、この国の役所や学校や私たち教師は本当に「ためになる・役に立つ・あてになる」教育をしてきたのだろうか。勤労と責任を重んじる人間・真理と正義を愛する人間・心身とも健康な人間―教育基本法―を育ててきたであろうか。志と気概に溢れ根じょうぶな子、自他を敬愛する子を育ててきたであろうか。胸に手を当てやってきたといえるなら、こんな状況にはならなかったであろう。どこからみてもほれぼれするような青年が生まれているはずである。
 先日ある弁護士と教育について話し合った。実際のはなし、わが子のこととなる心配がつきない。激務の中にいる自分には、とても子どものことにかまけていられない。女房任せにせざるを得ない。自分にできることはいい学校、いい学校を探すことぐらいである。結局学校が頼り、先生が頼り。だから自分にできることは情報を集めて、当てにできる学校を探すぐらいしかない。それがその場の結論であった。公立小学校の校長である私は、自分の職責の重さを感じざるを得なかった。本当にこれでいいのか・・・。これでいいのか・・・。学校は当てにされるのか。
 回りを見渡して、一体誰が子どもを守ってくれるのか。一体誰が学力を付けてくれるのか。一体誰がしっかりした子どもを育ててくれるのか。本当に当てになるのは誰か。子どもを守りたい子どもを育てたい。でも一体誰があてになるのか。私の悲痛な叫びである。
 学校はあてになるのか。先生は当てになるのか。中学受験・高校受験・大学受験と子どもにとって・親にとって・教師学校にとって真剣勝負の時がやってきた。学校で学力を付けなかったら一体どこで学力を付けるのか。「学校はあてにならない。あてになるのは塾である。」と言われていいのであろうか。
 文科省の学力テスト調査報告が出された。学力が落ちていることは現場の教師なら誰でも知っていることであった。でも文科省は認めなかった。今回の結果でも曖昧に濁しているだけである。「関心・意欲」を育てるといって10年間も号令をかけてきた。今回の調査でも学力どころか「関心・意欲」も低下し、ほとんど・全く家で勉強しない生徒が41%もでてしまった。小学校より中学校、中学校より高校へ、高校より大学へと上に進むに従って勉強するはずだったのではなかったか。受験ごときにへこたれるような子どもではこの人生の荒波に立ち向かってはいけないのだ。風雪に耐え、艱難に耐えてはじめて人間は人間になっていくのである。そもそも教育はどのような状況にも耐えうる人間を育てることにあったのではないか。
 一連の教育改革のねらいもそこにあったのではないか。ここまでダメならもう一度振り出しに戻って、考え直してみるのが教育行政責任者の責務ではないのだろうか。日本には江戸時代の寺子屋・藩校の伝統、公教育140年の蓄積があったのではないか。そこからもう一度この国の教育を考え直してみたらいいのではないか。自然科学の学問は驚異的に発展している。DNAや脳科学研究の成果や知見とすり合わせ、もう一度この国の教育を甦生させ、本当の教育を生み出したい。学力もつけられない、当てにできる人物も育てられない。ならば公立の学校なんてもういらない。と言うことにならないであろうか。
 私たちの東本郷小学校は当てになる学校を作っていきます。当てになる教職員を育ててまいります。死にものぐるいで子ども育て・学校づくりに邁進いたします。本当に本当にご支援ください。批判や非難、批評や評論はいりません。足らざるを補って下さい。
 最後にお願い。お父さん・お母さん、当てになるお父さん・当てになるお母さんになってください。お互いにいざというときにあてになる存在になってください。また地域・町会の皆さん、あてになる地域、あてになる町会になってください。子どもの回りは危険だらけになっています。子どもを守ってください。皆さんの力添いがなかったら子ども達を守りきることはできません。どうぞどうぞ宜しくお願いいたします。
 6年生の皆さん、卒業まで34日です。在校生の皆さん、進級まで36日です。思い残すことはありませんか。悔いは残りませんか。いっぱい友だちを作ってくれましたか。先生にいっぱいほめてもらいましたか。勉強に運動に精一杯頑張りましたか。保護者の皆さん、思い残すことはありませんか。かわいいわが子を愛し尽くしましたか。かわいがり尽くしましたか。苦楽をともにしてくれましたか。早寝早起き・宿題忘れ物、3度3度の食事、大丈夫だったでしょうか。悔いは残りませんか。もう一度、振り返ってください。
 
 今年度も4月以降、その時その時に、特に大事と思うことを学校だよりで伝えてきました。校長としての願い・課題・方針を示してきました。もう一度読み直し、学校の意をくみ取ってください。子どもにとっても保護者にとっても、本校にとっても見逃すことの出来ない大事なことは網羅されているはずです。2月と3月、1年間の仕上げですから・・・
 
4月 平成15年度の出発にあたって
(あいさつ・やさしさ・元気いっぱいの東本小を)
5月 友だち大好き・先生大好き・学校大好きな子どもたち
(子どもは宝・宝を生かす道)
6月 教師も親も子育てはやっぱり愛
(親の仕事は何?子どもを一人立ちさせること)
7月 しっかりまとめて夏休みをむかえよう
(親の責任・子の責任・そして、教師の責任)
9月 みんなの宝・地域の宝を育てよう
(地道な活動―愛・熱・力―の積み上げから)
10月 ノー・テレビデーの提唱
(テレビ漬けからの脱却は親の責任で)―教頭―
11月 どこまでも 「子どもとともに 地域とともに」
(開校記念日に思う)
12月 時間の使い方が将来を決める
(真剣な取り組みに期待する)
1月 さらに、さらに気迫溢れる東本郷小学校を
(本校は心のふるさと・夢の学校・教育共同体)
 
 もう一度、読み直して下さい。よろしくよろしくお願いいたします。
16・2・1(学校だより原稿)


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