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<街頭活動に当たっての基礎知識>
 次に「非行少年の発見活動と対応」ということでお話しさせていただきたいと思います。
 まず、街頭における補導。名前で言うと補導となりますが、いわゆる「声かけ」です。これがいかに重要であるのかということです。それはどういうことかというと、皆さんの声かけにより、少年の非行を防止して、子どもたちの健全な育成を図っていくことになるからです。
 不幸にして非行に走ってしまった少年がいれば、できるだけ早いうちにその芽を摘み取って正しい方向に進むよう向けてやる。お前さんの向かうところはそっちじゃないよ、こっちだよということで向け直してあげる。少年を非行から守るにはまず何が大事かといったら、皆さんに声をかけてもらう。大人からのメッセージを正しく子どもに発していただくということが、一番大事なのではないかと思います。
 そのためには、レジュメの下に書いてありますように、警察との連携、情報交換ということです。皆さんは防犯協会の方だとか、少年警察ボランティアの方などいろいろな方がおられると聞いておりますので、それぞれの地元警察署と連携は取られると思いますが、防犯ばかりではなくて、少年係のほうにも顔を出していただきまして、電話ではなく直接、いろいろな情報交換をしてほしいと思います。例えば空き巣、ひったくりが自分の周りのどういうところで起きているのか。発生場所は、時間帯はどうなのか。
 そのほかに、自分の住んでいる町ではどういう犯罪が起きているのか。少年の犯罪の実態はどうなっているのか。犯罪を犯す少年は地元の子なのかよそからくる子なのか。渋谷などはほとんどがそうですが。地元の子で悪いことをする子はほとんどいません。よそから来て補導される。そういう地元の子なのか、外から入ってくる子なのか等といったことの提供をうける。
 それから、警察で把握している少年のたまり場はどこなのか。非行少年のたまり場を発見した場合には、どのような方法で警察に連絡をすればいいのか。皆さんが、町会のパトロールをやっているのであれば、どのような時間帯でやっているのか知らせておく、そして何かあった場合の連絡の方法を事前に決めておく。東京の場合には合同パトロール、町の人たちと警察が一緒にパトロールをやることがあります。そういった合同パトロールを計画して一緒にやると効果的だと思います。当然、警察官と皆さんとの人間関係が非常によくなりますし、また、皆さんと警察が連携することによって、1+1が2ではなくて、3にも4にも大きな力になっていく。結果として、先ほどの東京の紹介になりますが、ああいう凶悪犯、特に強盗が半減していく。そのような大きな力になっていくと思っております。
 それから非行少年の発見活動のことで、「検挙と補導」ということをレジュメに書いてありますが、検挙というのは要するに捕まえてしまうことです。お前は悪いことをした、場合によっては逮捕します。または在宅のまま事件を検察庁に送るということです。それから補導ですが、これは非行に走りそうな少年を正しい方向に進むように導くことで、「声をかける」ことです。声をかけて、だめだよと注意したことが補導なわけです。
 そしてもう一つ、先ほど触法少年という話をしましたが、触法少年の場合は検挙と言えないわけです。こういった子どもが、例えば人を殺してしまったとか物を盗んでしまった、それについて児童相談所に通告するときも、補導という言葉を使います。補導という言葉はこういう二つの意味で使われていますが、ここでの補導は声をかけて注意をするということです。
 警視庁では、かつて「人の子もわが子と思い一声を」という非行防止標語を使っていました。現在は「人の子も正しく叱る思いやり」というものです。要するに、大人からのメッセージを正しく発してくださいということす。
 それから先ほど三つの対策という話をしましたが、一つ目は少年非行防止対策、二つ目が不良外国人対策、三つ目が暴力団対策で、これで三対策になるわけですが、そのほかに起きた犯罪を検挙しましょう、犯罪の発生を何とか止めましょうということで、「検挙と防犯」ということをやっています。ですからこれを少年に置き換えると、非行防止(補導)と事件検挙になると思います。しかし事件が起きた、それを捜査して犯人を捕まえるのは警察も大変な労力がいります。でも、その事件が起きなかったらば町の人たちも安心だし、我々もその力をよそに向けることができるということで、事件が起きてから検挙するのがいいのか、事件を起こさせないようにいろいろな対策を事前にやるのがいいのかということです。よく刑事警察の人は、「検挙に勝る防犯なし」と言います。我々はそれ以上に、起きなかったら何もないんだからいいじゃないか、犯罪は起こさせないのが一番いいと思います。また、防犯協会の皆さんにとっても、犯罪は起こさせない、そこに皆さんの活動の狙いがあるのではないかと思っております。
 それから、「割れ窓の理論と補導活動」と書いてあります。これは、皆さんも知っていると思いますが、割れ窓の理論で、ニューヨークの治安対策が成功したといって大きく注目されるようになりました。これは、小さな犯罪を見逃すと大きな犯罪につながっていく、小さなうちに取り締まりをしっかりやると、大きな犯罪につながらないということで、この割れ窓の理論を少年非行に当てはめて考えてみます。
 まず地域、皆さんの町で、建物の1枚の窓が一定期間割れたまま放置されているとします。そうすると、この地域でだれも注意しない、監視の目が行き届いていないということで、地域の少年が次々とほかの窓を割っていってしまう。次にこの地域で犯罪を起こしても、だれも注意をしたりしない、警察に通報する者もいないというふうに判断してしまう。少年たちはさらに、窓を割るだけではなくてより悪質なひったくりや路上強盗などを行うようになってくる。
 このように、小さな最初の違反行為を見逃すことによって、より悪質な少年犯罪を招くということを意味しているわけです。例えば、比較的軽微な秩序の違反行為といったものを例にしますと、皆さんもわかると思います。コンビニの前で夜遅くまで蝟集している子どもたちがいる。だれも注意しない。公園で制服を着て堂々とたばこを吸ってたむろしている高校生がいる。だれも注意しない。そういったものがこれに当たると思います。こういった少年の不良行為を見逃すとだんだんエスカレートしていって、ひったくりなどの大きな犯罪に入っていってしまう。したがって、犯罪抑止対策の一環としては、非行の入口である不良行為、小さな秩序違反のときに皆さんに声をかけていただく。皆さんの一声で、多くの少年たちの健全育成が図られていくということを、ご理解いただきたいと思っております。
 次に「補導の法的根拠」と書いてあります。残念ながら、私たち警察官も一般的な少年補導については、警察法に規定された讐察の責務の中で、事実行為として活動しております。例えば、たばこを吸ったり、深夜、フラフラ歩いている少年に対して強制力を用いることはできません。あくまで相手の承諾を得て行う「任意の活動」として活動しております。ですから皆さんの場合も同じです。
 けれども皆さんも現行犯人を逮捕することはできます。目の前でひったくりをしていった、目の前で万引きをして逃げていった、それは皆さんが逮捕することができます。これは、現行犯で人違いがないということで、皆さんにもその権限が与えられています。
 しかし、たばこを吸ったり、深夜徘徊しているだけでは罰則がありませんから、あくまでも皆さんとしては、我々と同じく任意の活動としてやっていただく、人生の先輩として、地域のおじさん、おばさんといった立場で活動していただければと思います。
 
<街頭における補導のポイント>
 次に、「街頭における補導のポイント」ということでお話しさせていただきますが、そこに二つ、少年期の特性の理解、12歳から18歳前後と書いてあります。「自我の発達」ということで、自分という存在を意識して自己主張が強まり、周囲の大人や社会に対して批判、拒否、反抗の姿勢を取りたがる。「社交性と孤立感」ということで、友達を求めていく気持ちと集団から離れていたいと思う気持ちが絡み合っている。こういった特性があるんだそうです。このへんを理解していただいて、活動していただく。
 皆さんも経験があると思います。若いときに、父親にこんなことを言わなくてもいいのにちょっと楯突いて変なことを言ってしまって気まずい思いをしたとか、1年間父親と口をきかなかったなんていう人が中にはおられませんか。そういう自分の若いときの感覚を思い出していただければ、おわかりと思います。そういう少年の特性を理解していただいた上で活動していただきたいと思います。
 「対象者を見分けるポイント」と書いてありますが、警察官だと、いろいろな専門的なポイント、例えば特製のバッグを持っているだとか、スカートの中にジャージを着ているだとか、透明のビニールバッグの中に生活用品を入れている、要は家出をしている娘ですが、そういった服装で歩いているなど、いろいろポイントがあります。しかし、皆さんの活動の中で子どもを見分けるポイントとして、一番いいのは、学校へ行っている時間に学校へ行っていないとか、制服でたばこを吸っている、午後11時以降に深夜徘徊している等、子どもたちのはっきりした現象面に着目することです。そういうものを見逃さないで、注意をしていただく、声をかけていただく、どうしたのと注意をしていただきたいと思います。
 また、まず自分たちで注意できる相手かどうか。例えば、こちらは2人しかいないのに公園で30人ぐらい高校生がたばこを吸っていた。これは、正義感だけでツカツカ行くのはやめたほうがいいと思います。そのときは110番するなり、知り合いになった少年係に電話をして応援に来てもらう。そうしたら警察官も行って、皆さんと一緒に補導をやります。そういった見極めをしていただきたいと思っています。
 それから「声かけのポイント」ということになりますが、やはりまずあいさつです。「おはよう」「こんにちは」と入っていく。我々ですと、「警察官だけれどもおはよう」、「どうしたの」ということで警察手帳を出して、少年育成課の警察官だよと身分を明らかにします。そうして話を聞いていくわけですが、やはり皆さんも、こういった活動をするときには必ず「おはよう」「こんにちは」のあいさつをして、そのあとに、例えば「町会の者だけれども」「町会のパトロール隊だけれども」というかたちで、皆さんが町会のパトロールの人なんだということを相手に知らしめていただきたいと思います。
 皆さんの町へ行くと、おそらくボランティアの方たちがそろいのジャンパーや帽子、あるいは防犯腕章などしていると思いますが、こういったものを着用いただいて、「防犯協会の者だけれども」とか、「○○町会のパトロール隊だけれども」と、はっきり子どもたちに言っていただきたい。そうしないで、いきなり「おい」と言うと、渋谷あたりでも慣れない警察官がやるとナンパや因縁をつけられたと思って逃げてしまう子がいます。ぜひ、皆さんも身分を明かしていただきたいと思います。できれば、一見して、この人たちはこういう人なんだとわかるような服装でやっていただければより効果的だと思います。
 それから「声かけ」ということになりますが、皆さんが集団で町会のパトロールをやり、そこに制服の子どもたちがいた。明らかに学校をさぼって喫煙している。それを5人、10人で取り囲んでワイワイガヤガヤとやってしまうとなかなかうまくいかない。そういう場合には、だれか代表が1人、どうしたのと話を聞いてやればいい、ほかのだれかもう1人は、相手が反撃してくることもあるので、そういったものの監視をする。ところが5人、10人で取り囲んで、ワイワイガヤガヤとやりがちなんです。そうならないように注意していただければと思っています。
 次に、「必要事項の聞き出し方」とありますが、皆さんだったら、たばこを吸っているけど年はいくつなのと聞きます。そういうとき、だいたいは二十歳と言います。年はいくつ?二十歳。これはだいたい嘘です。何年生まれ?そのあとに、じゃあ西暦は? 干支は? とやっていくとなかなか嘘がつけなくてばれてしまう。私たちも、補導するときは補導メモというものを毎日持って歩きますが、一覧表をここの表紙に入れてあります。
 例えば、いくつ? 二十歳。これは昭和60年生まれ。西暦は1985年、丑年。嘘をつかれてもわかるようにしています。相手が言ったのを聞いてこれを見て、ああ、合っているなとか、合っていないと、それは違うじゃないか、もう1回西暦で言ってごらんとかやると、だいたい嘘はつけなくなります。
 それから、たばこ等は廃棄させておりますが、丸々封を切っていないたばこ1箱、高級なライター、それまで廃棄させてしまう人がいますが、そうすると親御さんからクレームがついたりしますのでご注意をしていただきたいと思います。封をきったものなら捨ててもいいけれども、もし封を切っていないたばこであれば、それはしょうがないから「親に渡しなさい、ライターも渡しなさい」と指導することになります。100円ライターぐらいだったら文句は言われないかもしれないけれども、いいライターを捨てさせてしまうと、あとで困ったことが起きる可能性があります。私達も未開封のたばこだとか高価なライターは親に渡すようにそこで指導することにしています。
 それから、先ほどお話ししたとおり補導はあくまで任意の行為ということで行います。強制的な権限はないので、嘘を言っているなと思っても相手の挑発には乗らない。嘘を言ったときも、子どもの良心に委ねてやる。皆さんから注意されたということが、子どもにとってはものすごく大事なことです。大人からこういうメッセージを発せられた、注意された、ということが大事なことですから、嘘を言っているなと思っても腹を立てないで我慢していただきたいと思います。
 それから喫煙は、中には18歳になったら吸ってもいいと思っている子がいます。都内ですと、最近は外国から帰ってくる帰国子女が多いのですが、国によっては18歳になったらたばこを吸える国があります。だから言い訳とか嘘ではなくて、実際に18歳になったらたばこを吸っていいと思っている子もいます。そういう子には日本ではだめなんだということで注意していただく。それから、夜の繁華街であれば、自分が何か悪いことをするのではなくて、逆に被害に遭うよということで注意をしていただく、そして頭ごなしにボンと言うのではなくて、先ほどお話しした地域のおじさん、おばさんなんだけれども、さらに一歩深めて親、兄弟という立場になって、いろいろな注意をしていただければと思います。
 それから、「締めくくりの励ましの言葉」ということになりますが、どうしても訓示みたいに、何か最後に一言言いたいわけです。それはあまり効果がありません。サラッと流していただく、たばこを吸っているのであれば「体によくないよ」と、女の子であれば、「きれいな歯がヤニで真っ黒になってしまうよ」というように言ってあげればいいと思います。
 あとは会話の中で、子どもたちが頑張っていること、受験やスポーツとか、会話の中であったら、それは励ましてほしいわけです。どんどん励ましてやる。あと、いいところがあればすごく誉めてやってほしい。悪いところだけ見るのではなくて、何かいいところはないか、誉めてやるところはないかと見る。補導される子は普段あまり誉められたことがないんですね。何でもいいから、誉められるとやはり人間はうれしい。私もこの年になって上司からほめられるとうれしいですね。(笑)皆さんもそうでしょう。会社の社長さんなどは別でしょうが、サラリーマンの人はそうですよね。60近くになっても、やはり上司からほめられるとうれしい。こういった子どもたちも、大人からほめられると非常にうれしいということです。


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