日本財団 図書館


<少年非行の傾向>
 次に少年非行の傾向ということに進みたいと思います。都内の場合には10年前の平成7年と比べると、平成7年を指数100とした場合には昨年は89ということで、総数的には減っております。全国的には、平成7年を100とすると16年は104というように増えています。地方のほうが非行が増加している傾向にあるようです。ただし、少年人口をみてみますと、東京の場合は10年前と比べると約30万人減っています。指数で言うと、100だったものが84と16ポイントほど少年の数も減っています。ですからいちがいに数だけではわからないのですが、人口比でみますと全国では平成7年に12.2だったものが、平成16年には16.8です。10年前は1,000人当たり12名ほどの子どもが非行により警察に補導されたものが、昨年は17名で5人ぐらい増えてしまったという話です。都内でも、10年前は約17.9ですから約18人だったものが、今は20.9ということで3人くらい増えていることになります。総数は減っているんだけれども、人口比で見るとやはり10年前より増えている。最近少年非行が増えた、増えたと言われるゆえんが、このへんにあると思います。
 次に、警視庁における主な特徴をお話しさせていただきたいと思います。まず少年非行の減少と書いてありますが、前の年と比較すると若干、4%ほど減少しています。しかしながら、本年度の上半期を東京で見てみると、残念ながらプラスになっているということで、前の年の上半期に比べると3.1%増えていますので、去年の上半期だけ見るとプラスマイナスゼロになってしまったのかなという状況にあります。
 それから「凶悪犯の減少」と書いてありますが、東京の方おられますよね。これは、防犯協会の方は本当に自慢してください。素晴らしいことです。なぜかと言いますと、凶悪犯については平成15年に314名が検挙、補導されました。これは昭和57年以来21年ぶりに300人を超えた。中でも強盗が266人検挙されまして、30年間で最も多かったというのが平成15年です。凶悪犯全体の8割です。ところが平成16年は凶悪犯が160人で、マイナス154人ですからほぼ半減です。強盗が127人と半分に減少しました。過去50年間見ても、これは平成2年に次いで2番目に少ない数字でした。
 なぜ、こんなに減少したのか考えてみると、これは、先ほど、警視庁では犯罪の抑止対策を最重要課題として推進しているとお話ししましたが、皆さんの地元でも犯罪抑止のためのいろいろな活動をやられていると思います。そういう活動が効を奏しています。東京ですと、各地の防犯協会が、町会が、パトロール隊を出して、本当に隅々までパトロールしてくれる。また時間も変えてランダムに、町の人たちが、ボランティアのジャンパーを着て効果的な抑止活動をしてくれています。だから強盗がこんなにも減っています。
 今年も、先ほど一般的な犯罪はちょっと増えていると言いましたが、強盗については3割ほど上半期で減っています。非常にいい傾向です。そういったパトロールが行われることによって抑止されていると、これは私の解釈ですが、見ています。私も前に現場の生活安全課の課長をやっておりますので、本当に皆さんの活動には頭が下がるという思いで見ております。
 それから3番目に、少年が約4割を占める街頭犯罪と書いてありますが、残念ですが街頭で行われる犯罪の約4割が少年によって行われている。直接、都民の体感治安を悪化させている街頭犯罪については、残念ながら少年が4割。中でも路上強盗は、全体の4割です。ひったくりについても約6割、自動販売機荒しになると7割、オートバイ盗になりますと9割が少年によって行われている。これは資料に書いてありますので、あとでご覧になっていただければと思います。
 ひったくりも一歩間違うと大変な犯罪となります。例えば、「何するのよとハンドバッグを抱えて転んでけがをする」と、強盗致傷ですから極めて重い凶悪な犯罪になります、こうして一歩間違えば強盗になるようなことが、やはり少年によって6割も行われているということです。
 その下には「増加傾向にある女子非行」と書いてあります。これはどういうことかというと、例えば非行少年に占める女子の割合は、過去10年間を見ても最高の22%、要するに10人のうち2人強までが女性だということになるのですが、このように女子の比率が増えているということです。
 それから、先ほどのたばこを吸ったり、深夜俳個の不良行為として補導された少女、女の子は、昭和41年には約17%だったものが昨年は約26%というように、女子の比率が増えており、これは、過去30年間で最高の数字を示しております。そのほか殺人だと50%です。それから、身分証明書等を偽造するといった偽造になりますと55%、万引きだと42%が女子による非行となっています。
 それから、「予断を許さない薬物事犯」ということで、平成7年、8年、9年、10年と、当時は子どもたちの薬物乱用ということで大きな社会問題なりました。覚せい剤の乱用者は毎年毎年減少していますが、逆にMDMA等といった錠剤型の薬物の麻薬事犯や大麻事犯が増加しています。そして女子はいずれも前の年と比べると5倍ということになっております。3人だったものが15人、大麻事犯は1人だったものが5人検挙されております。
 新聞などの報道を見ますと、昨年、覚せい剤は約400キロ押収されています。それから大麻は、検挙人員は過去最高で、押収量は大麻樹脂が過去最高、乾燥大麻は過去2番目という状況です。そしてMDMAという錠剤型の麻薬は、押収量、検挙人員とも過去最高ということで、前年と比べると6倍ぐらい増えている状況になっています。全国を見てみましても、確かに覚せい剤は減っています。平成15年と比べると、少年は524名だった者が388名で、その中に中学生が7名、高校生が38名含まれています。大麻は逆に増えていまして、185名だった者が222名で、中学生が6名、高校生が37名含まれています。MDMAの錠剤型の麻薬は、中学生が1名、高校生が12名含まれている状況になっています。
 覚せい剤は中学生が7名か、少ないじゃないかと皆さん思われるかもしれませんが、実は数年前、警察庁の外郭団体である社会安全研究財団が、当時の文部省の統計数理研究所に覚せい剤乱用者は検挙された裏にどれくらいの乱用者がいるんだろうかという調査を依頼したことがあります。この研究の結果は、あくまで推計ですが、100倍ということです。ということは、全国で昨年は中学生が7人覚せい剤で検挙されたということは、全国で700人の乱用者がいるということです。警視庁では、昨年は確か1名いたと思いますが、1名か、よかったなではなくて、その裏には100名の中学生の乱用者がいると推計されます。ですから、覚せい剤は7人で少ないじゃないかではなくて、その裏にそれだけいるということで、少年の薬物事犯は依然として予断を許さない状況にあるということです。
 薬物については、私も今の職になる前には、警察署で生活安全課長をやっておりました。近くに渋谷という大きな繁華街がありますが、覚せい剤等の薬物を、イラン人などの不良外国人が密売をやっております。ビニールに入っている一つがだいたいどのくらいで売買されると思いますか。どうでしょう。1万ですか。ピンポンです。では、どのくらい入っていると思いますか。
 あの不良外国人が、そこで売買しているのは約0.4グラムです。その0.4グラムが1万円です。
 そうすると、覚せい剤の1回の使用量は0.02グラムから0.03グラムと言われています。子どもたちだから0.02グラムにすると、0.4グラムは20回分の使用量なわけです。そうすると、1万円を20回で割ると、1回の使用量が500円ということで、高校生でも中学生でも簡単に汚染されてしまいます。
 それからMDMAという錠剤型のものは、1錠1,000円ぐらいで売買されています。大麻樹脂は1グラム1万円で、チョコレートのように固まったものです。それから乾燥大麻はまさに葉っぱです。これは5,000円くらいです。中学生はそんなに高いものは手にできないだろうということではなくて、仲間で話し合いをすれば簡単に買えるということです。
 ですから薬物事犯というのは、一部学校の先生からは「あれはもう終わった話なんですよね」ということを聞きますが、まだまだ現在進行形の危ないものだということを認識していただきたいと言うことです。
 次に、「不良行為少年の増加」と最後にありますが、警視庁では一昨年、平成14年以来14年ぶりに7万人を超え、昨年も7万3800人ということで7万人を超えております。どういうことで補導されるかというと、一番多いのが深夜徘徊ということです。夜11時以降、何の目的もなく深夜徘徊している、それを補導する。それから喫煙。これで合わせて全体の約90%になります。私たちは、「何でお前さんたちはこんな時間にこうやって遊んでいるの、家にどうして帰らないの」と話を聞くわけですが、家はつまらないらしい。お父さん、お母さんがガミガミ言うか、まったく無関心。渋谷センター街へ行くと同じ境遇の子どもたちが、いっぱいいます。だれも自分のことを注意しないし、ただ楽しい事だけをお互いに求めていく。昔のような家庭の求心力がそれだけなくなってきているのかなと思います。
 家出少年を補導しますが、「プチ家出」だとか言葉がよくない。きれいな言葉に変えてしまうわけです。「プチ家出」だろうが「家出」だろうが、「家出」です。親も心配しない。「携帯電話で連絡がとれますから」と。中学生の女の子が1ヵ月も帰っていないのに、どうやって生活しているのかと思わない。携帯電話で、生きていることがわかるから、必要なときは連絡が取れるから結構です。そのまま家に帰るように言ってくださいとあまり心配しない。普通なら飛んで来ますよ、携帯電話で生きているのがわかるのでそれはもう結構ですと言われても、我々は本当に帰していいものかどうか、こちらが悩んでしまいます。虞犯少年として送致できるのなら、虞犯少年として送致するわけですが、虞犯事由、虞犯性がないと送れない。そうなると、やはり仕方ないから単独で帰宅させます。心配しながら、着いた? 着いた? と電話を何回も何回もしながら帰しますが、親は何とも思っていない。(笑)そういう親が増えてきていると思います。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION