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5 講演「少年の健全育成活動」
警視庁世田谷少年センター 明珍孔二所長
<はじめに>
 ただいま、ご紹介をいただきました明珍です。私は世田谷少年センターで渋谷地区を中心として少年の補導活動をはじめとする少年の健全育成活動に努めております。
 本日は、皆さんに「少年の健全育成活動」ということでレジュメを配布してありますが、これに沿って話を進めていきたいと思います。
 まず、少年の健全育成ということでございますが、次の時代を担っていく子どもたちを健やかに育てていくということは、その子どもさんたちの親御さんばかりではなくて、皆さんはじめ私たち警察官、またその子どもたちを取り巻く地域の方々にとっても共通の願いであると思います。しかし、残念なことに、例の酒鬼薔薇聖斗事件以後も、栃木県で発生した、中学生による女性教師刺殺事件、その後17歳をキーワードとした数々の事件、また、昨年は東京で中学生女子による男子児童突き落とし事件、長崎県下においても女子児童の殺害事件と相次いで事件が発生しております。
 その中で、今年も実は大きな事件がありました。皆さんもご存じのとおり、東京で両親を殺して火をつけようとした事件、それから、弟が兄にいじめられて逆ギレして殺してしまった事件など、いろいろ事件が起きて大きな社会問題になっております。
 少年非行の状況を見ますと、戦後、いくつかの大きな波があります。第1の非行の波は昭和25年頃が頂点です。これは、戦後の荒廃期で生活のために万引きをするということで、「生活型の非行」と言われておりました。第2の波は、昭和38年が頂点で、豊かになってきた時代を背景とした「遊び型の非行」と言われました。
 第3の波は、皆さんもご存じだと思いますが、昭和58年を頂点とした、学校が大いに荒れた時期です。学校の校舎のガラスが割られてしまう。また、バイクが廊下を走り回ってしまうという時代でした。最近では、平成10年頃を頂点として性犯罪、特に女子少年の性非行や覚せい剤といった薬物事案が問題となりましたが、皆さんのいろいろなご協力を得まして、そんなに大きな数には上がっていないということで現在推移しております。
 
<少年センターの活動内容>
 先ほど、世田谷少年センターということで紹介いただきましたので、この少年センターについてご紹介をさせていただきます。皆さんの県にもサポートセンターとか青少年センターといったものがあると思います。県によって、その構成の違いだとか、運営の仕方があると思いますが、私ども警視庁の場合には少年育成課、これは警視庁で非行防止を担当する課ですが、これに付置する機関ということで町の身近な機関としていろいろ活動しています。
 このセンターが設置されたのは、先ほどお話ししましたように、昭和20年以降少年非行により、検挙・補導される少年が増加し、昭和38年頃には非行少年が約4万人も補導される状況となり、少年の非行を防止するためには、民間有志の方々の力を借りて何とか少年の健全育成を図っていこうということで、この年に初めて全国に先駆けまして警視庁に少年補導員制度ができました。その補導員の先生方の活動拠点にするためにできたのが、この少年センターです。浅草の観音様の近くに浅草少年センター(現台東少年センター)を開設しました。その後、順次新宿、大森、立川、世田谷、巣鴨、江戸川、そして平成11年3月に八王子に新たに八王子少年センターが設置され、現在警視庁には8カ所に設置されております。そういうことで、皆さんの県のサポートセンターとはちょっと違うかもしれませんが、東京には八ヶ所の少年センターがあります。
 どういうことをやっているのかといいますと、業務としては、皆さんへの配付資料に書いてありますが、「少年補導の実施」ということで、非行少年、不良行為少年の街頭補導、家出少年の発見保護活動等をやっております。
 それから2番目に、「少年相談の実施」と書いてあります。これは各警察署でもいろいろ少年相談を実施しますけれども、警視庁の少年センターには、大学で教育学だとか心理学を勉強してこられた者を警察官や事務吏員ではなくて、心理技術職として特別に採用した職員(先生)が各センターに配置されております。ですから、子どもたちに対するカウンセリング、また親御さんに対するいろいろなアドバイスといったものは、専門の職員がその少年にあった方法により対応しております。
 例えば、心理テスト等の資質鑑別を実施しまして、この子にはどういうふうに対応したらいいのかというようなことを、親御さんにアドバイスしたりするということを実施しています。あとは、資料に書いてあるように有害環境の浄化、地元警察署や学校、また、皆さんのようなボランティアの方たちといろいろな連携をして、少年の有害環境の排除をしていくという活動です。
 それから、被害少年のサポート活動ということで、いろいろな犯罪の被害に遭って、例えば外に出られなくなってしまう、買い物にも出られないといった子どもも中にはいます。そういった人たちのためにボランティアとしてサポーターを委嘱しておりまして、その方に少年の遊び相手になってもらう。学校に行くときに一緒に行ってもらう、買い物に行くときに一緒について行ってもらうといった活動等を行っています。それから最後に広報啓発活動ということで、私が今日おじゃましているのは、その広報活動の一環としておじゃまさせていただいております。そういうことをやっているということで、少年センターの業務を理解していただければと思います。
 
<犯罪抑止対策における非行少年対策>
 次に、犯罪抑止対策における非行少年対策と書いてありますが、これは皆さんの県でも当然やられていると思いますが、警視庁では平成14年に刑法犯の認知件数が30万件を超え、増加する犯罪を抑止するため当時の警視総監が、向こう3年間で10年前の治安水準に戻すということを、都民・国民に約束しました。ということで、平成15年、16年、17年と今年最後の年になりますが、種々の対策を取っております。数字だけ下がってよかった、よかったということではなくて、実際本当に町の人たちが、あっ、最近は泥棒が入ったと聞かないね、ひったくりに遭ったと聞かないねと肌で治安がよくなったと感じる、体感治安を高めるために種々の対策をやるということで、警視庁は六つの罪種を重点罪種としました。ひったくり、浸入窃盗、浸入強盗、屋外強盗、屋内と屋外の性犯罪で合わせて六つです。これを指定重点罪種としまして、これを10年前の水準に戻そうということでやっております。
 昨年は、10年前の平成4年と比べるとプラス5.9%です。ですから今年は、昨年プラスあと5.9%頑張ると、都民に約束した平成4年の水準までもっていけるという状況です。その警視庁の犯罪抑止対策、これは警視庁の最重要課題ですが、そこの重点の第1に掲げているのが「非行少年対策」です。対策の中身は、レジュメに書いてあるとおり、暴走族等非行集団の解明と検挙・解体補導。昨年は、暴走族の少年を使って暴力団が振り込め詐欺で100億円以上を振り込ませる、そのような事案がありました。こういった非行集団の解体ということです。それから積極的な検挙による事件解明、起きた事件はきっちりと処理する、捕まえましょうということです。
 3点目が、街頭補導活動の強化と、立ち直り対策の推進ということで、学校教職員や少年警察ボランティアの皆さんと連携して、盛り場等における街頭補導を強化して不良グループやその予備軍の犯罪を抑止していく。非行に走る手前で何とか善導して立ち直りを図ろうという対策をやっております。要するに、非行少年対策が犯罪抑止対策の鍵を握っていると言われております。これについては、東京都の石原知事が昨年の都議会でも、子どもの非行問題というのは我々大人の問題だ、また犯罪をどんどん突き詰めていくと、必ずその先には少年問題が出てくるということを表明しております。ということで、警視庁の最大課題であります犯罪抑止対策の第1番目にあげているのが、非行少年対策であります。
 東京都でも平成15年8月には、緊急治安対策本部が設置されました。皆さんもご存じだと思いますが、警視庁の生活安全部長や広島県警の本部長を歴任された竹花さんが東京都の副知事になった。初めてのことですが、石原知事に迎えられて副知事となり、昨年の8月には、さらに青少年育成総合対策推進本部を設置して非行少年対策に取り組みました。本年の8月からは、青少年・治安対策本部に組織改正されましたが、東京都も警察とタイアップして非行防止対策を重要課題として推進しております。
 
<用語の意味>
 次に用語の説明ということで、皆さんのところに資料をお渡ししてあります。皆さんはそれぞれいろいろなボランティアの方だと聞いておりますので、知っている方もおられると思いますが、犯罪少年、触法少年、虞犯少年、非行少年、不良行為少年といろいろな呼び方があります。
 「犯罪少年」は、罪を犯した14歳以上20歳未満の少年をいいます。「触法少年」は刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の少年です。いわゆる14歳未満は罪として処罰することができない。あくまでも法に触れる行為をした少年で、我々がそれを調べるときには、捜査ではなく調査ということになります。
 次に「虞犯少年」ですが、虞犯というのは「虞」があるということです。少年法には、将来何らの罪を犯す虞がある。そういう少年も、罪を犯した少年と同じく送致または通告することができますよという規定があります。ただしこれは一定の条件があります。皆さんが例えば、あの子どもは何か悪いことをやりそうだ。虞犯というのがあるんだから、それで鑑別所なり少年院に入れてよといっても、これは無理です。例えば、家出をしている、正当な理由なく親元にいない、不道徳の人と付き合う、そしてなおかつ性格や環境に照らし合わせて、将来何らかの罪ではなくて「窃盗」の罪を行う、「強盗」の罪を行うおそれある。そういう具体的な罪名がないといけませんが、そういう理由があれば、それを家庭裁判所や児童相談所に送致・通告ができるという規定です。
 「非行少年」というのは、犯罪少年と触法少年、虞犯少年をまとめて呼んでいます。
 「不良行為少年」は、犯罪少年、非行少年には該当しません。しかし、たばこを吸う、お酒を飲む、その他自己または他人の徳性を害する行為をする子どもに対しては、不良行為少年として補導の対象にしています。たばこを吸えば違反ではないかとか、お酒を飲めば違反ではないのか。確かに未成年者喫煙禁止法や、未成年者飲酒禁止法により「吸ってはならない」「飲んではならない」となっていますが、飲んだ子どもたちには罰則はありません。皆さん、膝に抱っこして子どもにお酒を飲ませたことはありませんか。ちょっと飲んでみろとビールをやると、皆さんは被疑者です。犯人ですよ。(笑)飲ませた皆さんが捕まるということです。たばこも、いいよ、やってみろよといって吸せたら、吸った本人ではなくて吸わせたお父さん、お母さんが、あの法律では罰則の対象になります。子どもたちには罰則はないけれども法律で禁止されている、そして体にも悪いということで、注意をしていくということで補導しております。


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