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<これからの安全管理>
 「これからの安全管理」ということについて、今、学校に申し上げた課題と裏腹の部分で、こういうことについて何とかがんばってほしいというお願いをしております。
 その中で特に、登下校時や校内外のパトロールなどをお願いしたいということが1点目で、それから、緊急時の安全確保対策について、例えば不審者情報がある場合の連絡等の体制整備などをお願いできないかとか、あるいは不審者の立ち入りなど緊急時の体制などを含めて、学校の中で避難訓練などもしっかりやっていただけないかというようなことも言っております。開かれた学校づくりの推進と防犯のための安全管理というのは決して矛盾するものではなくて、むしろ善良な地域の方々が腕章や名札等で存在を明らかにし、学校にたくさん出入りすることによって、その善良な方々の目で子どもたちの安全を守っていくというのは非常に重要なことだと思っていますし、学校の中だけでなくて地域も含めてそうなのですが、そういう意味で警察とかPTA、自治会、地区の防犯協会、青少年教育団体等との緊密な連携、協力などこの際できないだろうか。そこもちょっと工夫してみてくれないかということを言っております。
 それから、皆様と直接関係がある点としては、保護者や地域の関係機関、防犯協会等の団体、あるいはボランティア等との連携による安全確保というものが非常に重要なので、ここのところを何とか推進してほしいとお願いしております。すべての学校に文科省で警備員を置くということは、少なくとも今は難しいし、警備員をすべての学校に置いたからすべて安全だとは限りません。というのは、警備員さんといっても人ですから、トイレに行く場合もあるでしょうし、警備員さんのいる反対から塀を乗り越えてくる場合もあるでしょうし、いろいろな場合が想定されます。確かに警備員さんを置くことも一つの方法でしょう。それからハード面でさまざまな、防犯カメラとかセンサーとかいろいろなものを置くことも、非常に重要な方法です。子どもたちに防犯ブザーを持たせるのも方法だし、たくさんの方法があるのですが、そういうハード面、ソフト面にわたって幾重にもその対策を積み重ねていく必要があります。一つの対策だけで完璧なものは絶対にないと私はいつも言っておりまして、施設設備は可能な範囲で整備活用し、施設設備が不十分だったら、人の力で、人の目で、人の手で、あるいは、施設ぐるみで心理的な犯罪への抵抗性を高めて子どもたちを守る方法を考えていくというふうなことをぜひ考えていただきたいと思います。
 武田信玄さんはお城を造らなかったということで有名です。「人は石垣、人は城」とおっしゃっていたそうですけれども、防犯はまったくそうだろうと思っています。石垣もお城もあっていい、造っていいのですが、それだけではだめで、むしろそれよりも重要なのはソフトである。人の目とか、人の手とか、人の心、人の連携するそういうネットワークこそが子どもたちや学校の安全・安心を守る。そのことが実は、地域に住む私たち自身の安全も守ることになるという波及効果がある。それは当然です。子どもたちにとっての不審者と若い女性にとっての不審者は違うかというと、ほとんど違いません。大人にとってもそうです。そういうようなことも含めて、やはり保護者や地域の関係機関、団体、ボランティア等との連携による安全確保というのは、私はむしろ施設の設備、整備などにもまして、一番に重要なものなのではないかという認識を持っておりまして、そういうことをいつもお話ししています。
 文科省は金がないからそんなことばかり言っているんだろうと言われるかもしれませんが、施設だけで人は守れません、子どもは守れません。警備員だけ配置したから、はい、それで終わりですというのも困りまして、逆に、うちは警備員を配置したから、うちは施設設備が防犯カメラもあるし安全だからということで、先生方や保護者や培域の方々が、子どもたちや学校の安全とか地域の安全に目を配らない、心を砕かないような地域であれば、人々の危機意識の低下を招き、結果として非常に危険な状態が生まれてくるということが言えるのではないかと思っています。
 そのほか、先生方に特にお願いすることはいっぱいあるのですが、昨(平成16)年度の調査結果によりますと、例えば防犯のマニュアルを活用している学校が96.3%だとか、それが学校独自では全体で7割5分、75%ぐらいであるとか、そういう実態などが出ています。
 次に、教職員の安全対応能力の向上を図るための取り組み、研修や訓練ということですが、それは全体で7割程度が実施をしているということです。小学校、中学校、高校とだんだん低くなっているという現状がありまして、ここのところを私は問題視しています。小学校より中学校、中学校より高等学校が少なくなっている。一般的な言い方をすれば、小学生よりは中学生のほうが自分を守れるだろう。大きくなっているんだし判断もできるだろう。中学生よりは高校生だろうと思っているかもしれませんが、実は警察庁の資料などを見ましても、また犯罪被害の数などを学校内外問わずお聞きしてみますと、中学生は小学生の数の確か2〜3倍ぐらいあります。それこそ殺人から始まって、暴行傷害から強盗から、恐喝からなんていうものがあるのは中学校です。その2〜3倍がまた高等学校と、もう雪だるま式どころではなくて増えています。ものすごく危険の確率が高いのは、小学校よりは中学校、中学校よりは高校の子どもたちが実は犯罪被害に遭っているわけです。そのことを実は、あまり先生方も保護者の方々も認識されていない。だから、犯罪に対応するための訓練などが小、中、高と段々低くなっているのは絶対に問題だと私はいつも言っています。
 しかも警察庁の資料などによりますと、道路または道路の周辺(つまり、通学路の近辺といえる)で起こっているのがすごく多い。このへんのところを勘案してみると、やはり地域の方々の協力なくしてはだめだし、子どもたち自身も、どういう道路をどんなふうな通り方をすればいいのかということも含めて、ちゃんと判断できて危険を避けるような行動がとれなければなりません。その合わせ技で子どもたちの安全を守っていくというふうにならないとだめなのではないかと思っています。
 さて、最後の話題になります。実は17年1月に寝屋川中央小学校で職員が卒業生によって殺されるという事件がありました。私もすぐに行けというので調査に行ってまいりましたが、防犯カメラも2台ありました。それから鍵も、閉めていないけれどもありました。ただ残念なことにもう一つ別な入口があって、そこは完全な死角になっていまして、職員室からもどこからも見えない。だれが入ったかどうかもわからない。しかも常に開放という状況でございました。
 それから、防犯カメラはだれがモニターを見ているんですかと聞いたら、教頭先生だと言うんですけれども、教頭先生は例えばここに座っているとします。そうすると、もう一つここに大きい机があって校長先生が座っていて、その後ろにモニターがあります。教頭先生はいつもここでこうやって前を向いて仕事をしています。教頭先生は監視できません。だから、そこのところからまず意識がちょっと違うなというところがあります。最近は、同じ防犯カメラでも、何か変な動きをする人があると「ポーン」と知らせてくれるという機器もできているそうですが、開けっ放しというのはどうしても問題がある。防犯カメラもあるし、もしかすると先生方も皆含めて、うちは大丈夫だと思っていた節がかなりあります。ましてや先生が殺されるなんていうのは思わなかったんでしょう。
 そのへんのところに落とし穴がありまして、しかも当時校長先生も教頭先生も学校にはいらっしゃらなかったというような状況があったりして、ますます体制が不備で、そんな中で門が開いていて、防犯カメラはだれも監視していない。あるけれど監視していないという状態でした。少しは面倒臭いと思いますが、安全には、お金、時間、手間を含めたコストがかかるということを改めて認識し、門を閉めて施錠して、お客さんが来たらカメラ付インターホンで確認して、あとオートロックなどで開ければそんなに面倒臭くないんです。今までフリーパスにしていたわけですから、来校者も面倒臭いし、先生方が対応するのも面倒臭いかもしれないけれども、そんなことは簡単に改善できると思います。
 昨日は、目黒区の五本木小学校に小宮先生と一緒におじゃましてきましたが、そこもちゃんとオートロックになっていまして、インターホンで事務室や職員室から、どなた様ですか、何の用ですかと聞く。今はカメラで全部映りますから、それでどうもおかしいという方はだめですということで入れないし、問題がない場合には開ける。すぐ前に主事室があって、そこで受付をして名札をもらって首からかけていくという体制を取られていましたが、そこまでやっても、確かに塀を乗り越えて来られたらどうするんだろうとか、そういう心配はあります。ですから、それをやっていてもまだ安心はできないけれども、そういう部分で相当の部分をガードしてもらって、校内は、教職員を中心に対策を講じることが必要です。
 多くの学校では、先生方も子どもたちも、よく来校者に声をかけます。「おはようございます」「こんにちは」「どちらにご用ですか」と、校舎の中にいるとよく声がかかります。それは大変素晴らしいことで、学校に入った人を皆不審者と思えというのではなくて、お客様は何かご用があるのでしょうから、ご用がある方には向こうが受付ですとか、校長室は向こうですとちゃんと教えてあげなさいということを指導するのが教育です。だから、挨拶というのはきわめて教育的で、防犯上も非常に重要なことだと思います。
 寝屋川中央小学校の事件を受けて改めて感じたのは、とにかく不審者を学校には入れるなというのが一番です。二つ目は、もし万が一入ったとしても、校地に入ったら必ず校舎の入口まで通路がありますが、ここで何とか発見して対応できるようにしたい。三つ目は、最後の砦である校舎の入口です。少なくともここの3カ所でチェックできて発見して対応できるようにする。学校の校舎の中に入られてはなかなか手が打ちにくい。教室に入られたり廊下に入られて走られたらかなり厳しい。本当にどこに移動されてしまうかわからない。学校に全部監視カメラがあるわけではないしモニターがあるわけではありません。そういうことから考えると、学校では「まず門から入れない、入っても校舎に入れない。」という体制を作ってほしい。
 それはハード面もソフト面も合わせてです。本当は校門のそばあたりにプレハブの小屋でも置いて、学校に入れないでそこで案内する。学校に本当に必要だと思ったら、そこで関係者を呼んで連れて行ってもらうとか、面倒でも安全にはコストがかかるということです。お金だけではなくて手間という意味も含めてのコストですが、そういうことを理解してもらう必要がある。それが大切な子どもたちを守ることになるんだということを、地道に理解してもらいたいと考えています。
 時間になりましたので、これで私の講義を終わります。 (拍手)


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