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 これは非常に有名な事件で、1848年9月13日、夕方4時ごろと言われていますけれども、当時25歳の好青年ミスター・ゲージさんが、鉄道工事の主任をやっていたのですけれども、その時、爆破事故に遭遇しまして、鉄の棒がミスター・ゲージさんの左上顎から前頭部に、これが10メートルくらい吹き飛んで穴が開いてしまった。書いたものを見ますと、即死はしなくて、本人は抱えられて病院に行ったと記録されています。そこの前頭連合野がすぽんと穴が開いて空洞化したんですけども不幸中の幸い助かったのです。そして、このミスター・ゲージさんはその後どうなったかというと、当時25歳の好青年でまじめで勤勉な人だったらしいんですけれども、事故後、彼は会社に行かない、全く計画性はない、突然汚い言葉を吐き出す、突然キレる。そういうふうに人間が変わってしまったんです。表情は子どもっぽい、しまりのない顔と言ったほうがいいかもしれません。
 1848年代の医学界において、前頭部の脳が何をやっているか分からなかったのですけれども、この事件後ここは人間にとって非常に大切な場所だということが分かったのです。人格形成にも非常に大切であることです。そういったことでミスター・ゲージさんは10年間生存し、35歳で他界する時、全身痙攣して亡くなったと言われています。それをずっと記録していたドクターがいまして、埋葬した時に彼のお母さんに頼んで、墓を掘り起こして損傷部位を調べたのです。現在このミスター・ゲージさんの頭蓋骨と鉄の棒はアメリカのハーバード大学の医学部の博物館に永久保存されています。それは医学史上、非常に貴重な事件だったということで、これが保存されているわけです。
 それまで知られていなかった人間らしさと関係する場所であるということが、この事件で初めて分かった。これはジョン・エックルスの本から引用したものですけれども(図5)、これは視覚情報は視覚野、17野という場所に入ってくるのですけれども、そこからこの角回、見えた物が何であるかということをここで認識してそれを言語化するためにウェルニッケ野そしてブローカ野、ここで言葉を作り出すと言われています。見えたものが鉛筆であればここで鉛筆という言葉をここで作り出して、そして運動野これは口の筋肉を時系列的に動かす場所です。実際こういうネットワークがあるというのは、あとで皆さんに映像でお見せします。
 
図5 視覚−言語ネットワーク系
 
 それともう一つ必ず前頭前野の方に情報が入ってきます。そういったものが、このスライドはあくまでも想像図ですけれども、実際これを映像でとらえることができました。それをあとでお見せしますけれども、そこで128チャンネルの電極を頭部に付けて調べます。128チャンネルの電極を付けて、瞬時に電極の位置を検出する装置です。これは世界で1号機が私の研究室に入っています。これはアメリカで開発された装置ですけれども、このMRI画像上に赤い点で128チャンネルの電極が3Dでとらえることができるわけです。実際、パソコンを使っている状態(図6)。それから3歳の子どもがクワガタを見ている、蛍を見ている、絵本を読んでいる、そういう時の脳の活動を調べたりしているわけです。
 
図6 パソコン使用時の実験風景
 
 これは大学1年生のゲーム脳の人と、それから記録した時は大学3年生の女性です(図7)。これはゲームの依存性がないタイプでビジュアル脳と呼んでいます。これが正面左の右脳になります。これは安静にしている時にベータ波の活動をとらえているんですけれども、右左共によく働いています。ゲームをさせますと、ゲーム中は右脳の活動が低下します。ですから、ゲーム中は右脳の活動低下が起こり、終了すると元の状態に回復します。それをビジュアル脳タイプというふうに名前を付けたのです。そして読書をさせると前頭前野の左右も働きます。
 
図7  ビジュアル脳とゲーム脳の安静時、ゲーム中、読書中におけるβ波の活動
白い部分が活性化している
 
 この下のBはゲーム脳の例です。小学校1年から大学1年まで3、4時間ゲームをやってきた人です。前頭前野の左右とも安静では働きが悪い。当然働きが悪いということはどういうことかというと、ものごとに対して集中できないということですね。ボーっとしている。学校でも授業をボーっと聞いていると、そのようにとらえていただければよいと思います。これはゲーム中ですが、ゲーム中でもあまり働きません。要するにゲーム中は前頭前野をほとんど使っていないということですね。そして読書をさせると少し働きます。
 これは左脳から見たものですけれども、ビジュアル脳タイプは左脳が働きます。ゲームをさせますと視覚領域が強く働きます。左脳はよく働き、ブローカ野もよく働きます。なぜブローカが働くかというと心の中で「失敗した」とかささやいているんだと思うんですね。それで読書をさせますと、視覚野、角回、それからウェルニッケ、ブローカ、前頭前野、こういった部位が働いています。それに対してゲーム脳の人はゲーム中では働きは、側頭連合野、形とか色を認識する場所です。それから頭頂連合野、あと運動野、こういった所は働いていますけれども、全体的に活動が低下している。読書をさせますと少しは働きますけども、このようには働かない。要するに言語系のネットワークはほとんど働かないということですね。ですからゲーム好きの人というのはあまりしゃべらない。そういうネットワーク系が働いていないということがまず推察できます。
 これは読書中の脳の活動を時系列的にとらえたものです(図8)。これは2ミリ秒間隔でデータを示していますけれども、このように細胞の興奮が移動しているわけです。視覚野に入って角回、一部ウェルニッケ、そしてブローカ、前頭前野、このように動いているわけです。これは同じ人ですけれども、漫画の本を読ませますとほとんど働かなくなります。要するに脳がお休みになっているわけです。視覚野は働いている。あと手の一部、運動野は働きますけれども、ほとんど働かないのです。
 
図8  読書中の脳活動
白い部分が活性化している
左から右へと2ms感覚で興奮が進行している







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