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c. 微生物分解処理液の分析結果
 海水の微生物分解処理が終了した(亜硝酸濃度が約0mg/L)時点での処理液の残留成分分析を行った。成分分析結果を下図に示す。
 
成分 窒素 炭素 リン カリウム マグネシュウム ナトリウム 硫黄 石灰
N C P K Mg Na S Fe
1L当り重量
3.5g
16.5g
16.0g
8.7g
1.8g
0.9g
0.58g
16mg
13.3mg
*塩分濃度:0.3%(1/10希釈)、その他の成分:銅、亜鉛、硼素、モリブデン等:1mg以下
 
(9)考察
 海草(アマモ)の腐敗と微生物分解処理による肥料化の可能性について調査した結果、アマモの腐敗速度が常温で約4ケ月とかなり長時間を要することから、もっと短時間に腐敗させる腐敗促進剤と腐敗温度管理が必要と思われる。
 腐敗後の微生物によるアンモニア分解能力は、その濃度にもよるが、3mg/Lでは、ほぼ1日で分解し、亜硝酸から硝酸塩に分解される速度も約1日と、ほぼ2日で処理可能であり、アマモの腐敗速度を短時間にすることで、アマモの微生物分解処理が可能である。
 また、動・植物性の原料から製造される肥料は、肥料取締法により表示票の添付が義務付けられているが、その表示項目は、肥料の名称、肥料の種類、届け出を受理した都道府県、表示者の氏名又は名称及び住所、正味重量、生産した年月日、原料名、主要な成分の含有量の8項目の表示が義務付けられている。本実験で微生物分解処理し最終処理液の成分分析を行った結果、肥料としての成分が含有していることが解った。
 
5.3 海岸清掃に関する社会的運用システムについて
 「海洋ゴミの集積・処理に関する社会的運用システム」のフローを図5.3.1に示す。
 ここでは、環境チケットを利用した運用システムについて記述した。
 本事業で提案・実践した「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト」(健康な海づくりプロジェクト)を基本に、海岸から集めた海洋ゴミの内、リサイクル可能な海草・藻等の腐食又は発酵処理を行い、処理後の生成物を肥料等に有効利用する方法を提案する。
 その際の、受け渡し手段としては環境チケットを適用する。
 また、塩分や水分を含んだ人工系海洋ゴミは、海浜に設置した小型焼却炉で焼却処分し、自治体や産業廃棄物処理場には極力持ち込まない方法を提案する。
 小型焼却炉の設置・使用は、排気ガスの環境基準をクリヤーすることが第一である。
 このため、安価な触媒技術の開発等が必要であるが、5.2項で示した高温燃焼技術と貴金属ナノ粒子触媒技術を適用することで解決可能と考える。
 
図5.3.1 
「海洋ゴミの集積・処理に関する社会的運用システム」のフロー
 
 
6. まとめ
 大量生産・大量消費・大量廃棄社会では、生産・消費のあとの捨てられるゴミの処理を考えてこなかった結果、生産物が大量のゴミとして残され、今や陸に限らず海洋もゴミで景観・環境・生態系の破壊など深刻な問題になっている。
 海洋のゴミ問題は、一国・一地域の問題ではなく国、企業、個人のあらゆるレベルで取り組まなければならない社会問題にもなっている。
 本調査研究事業では、海洋ゴミ問題について隣国の韓国との連携も視野に入れ、韓国政府関連部署や韓国の環境NPOとの情報交換等を積極的に行ってきた。
 平成14年度から平成16年度までの3カ年にわたり、この様な状況の下できれいな昔の海を取り戻すことを願い、地域の人々が海洋環境に係わり易い活動の場として、「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト(SOFモデル)」を地域の海岸清掃組織、NPO、自治体等と協働で進めてきた。平成17年2月には全国の地域活動担当者が東京に集まり交流会議を開催し、活動事例の発表や情報交換等を行い、更に継続的な循環型活動の進め方等について討論を行った。
 また、人工系や自然系の海洋ゴミの集積・処理問題についても調査・検討を行った。
 本調査研究事業における主な成果は次のとおりである。
 
【海岸清掃等に係わる社会活動システムについて】
(1)平成14年度〜平成16年度の3ケ年の間、本事業にて立案した実践的循環型社会活動システムである「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト」を、それぞれ特徴のある全国13カ所の市町村で実践し、四季を通じた継続的な活動の実施体制の基礎固めを行った。
(2)その結果、稚内市、気仙沼市、常滑市、加世田市、沖縄宮古島平良市においては、自立した継続的活動組織が生まれ、SOFの支援がなくても独自に活動が進められている。
(3)平成16年度における活動地域は、酒田市、日間賀島、幡豆町、新島、鹿屋市、宇土市、伊万里市、枕崎市で、3ケ年間に全国13カ所の活動拠点に地域活動の指導者と活動組織が構築できた。活動プロジェクトに約3,600人が参加したことにより、地域の海洋環境貢献活動プロジェクトが実証され、ほぼ活動プロジェクトのシステム構成ができたことにより、循環型の継続的な実施体制の基礎固めができた。また、10回の活動プロジェクト説明会を開催し、活動候補地が構築できた。
(4)海浜清掃と環境チケット、海の工作教室・海洋環境教室等を組み合わせたことで、海に関心が低かった地域の人々に海の海洋環境に目を向ける機会を与えることができた。
(5)活動プロジェクトに地域通貨の一種である環境チケットを導入した事により、地域の海洋環境保全に対する市民、ボランティア、地域産業(商工会、観光協会等)、自治体等の積極的な参加を促すことができ、特に地域商店等での商品の割引や地域銀行での定期預金金利の上乗せ等が行われ、更に地域商工業者の協力の輪が拡大していることから、地域経済の活性化を図る効果もあることが分かった。
(6)本プロジェクトに携わってきた全国の地域の方々が集まり、交流会議を開催したことにより、関係者間のネットワーク化が促進され、海洋ゴミ問題ひいては海洋環境問題について、お互いの共通認識が得られると共に、地域と地域が切磋琢磨して地域の特徴を生かした活動形態の構築の可能性が見いだされた。
【海洋ゴミの集積・処理に関する社会的運用システム】
(7)内外の海岸清掃機械は、平坦な海浜を対象にした機械の開発が主である。海洋ゴミが最も多く堆積し清掃作業がし難い岩礁・岩場等の危険地帯の清掃機械の開発例は見あたらなかった。
(8)国内外の海洋ゴミ処理技術について、問題提示の例はあるが塩分を含んだ海洋ゴミ処理装置の開発例は見あたらなかった。
(9)岩礁・岩場等の清掃技術について概念設計を行った結果、既存のロボット技術を組み合わせる事で対応可能であることが分かった。
(10)海洋ゴミの70〜80%を占める自然系海草ゴミが海岸に大量に漂着・堆積し、その処理に苦慮している現状で、海岸に漂着した塩分と水分を含む海草のリサイクル技術を開発し、生成物の有効利用を図るための基礎実験を実施した結果、低コストで海生・陸生植物の生育に利用可能な海草ゴミの肥料(液体)化が可能なことが解った。
(11)海草ゴミのリサイクル技術は、本調査研究で進めてきた「地域の海洋環境貢献活動」と併せて人工系海洋ゴミと自然系海洋ゴミを収集し、その処理を自治体やNPO、地域住民が簡便に行える小規模海洋ゴミ処理施設を海岸近傍に設置して行い、その生成物を肥料等に有効利用する、海洋ゴミに関する地域の社会的運用システムの構築について検討を行った。
 
 今後、ますます増えるであろう沿岸海域のゴミ問題に対し、地域住民による環境美化活動が大きな力となっている。
 本調査研究事業は、地域の人々の環境美化活動に少しでも助力され、清掃費用が軽減される循環型の継続的社会活動システムが実現可能にならないかとの思いから始めたものである。
 平成14年度から平成16年度までの3年の間、海浜清掃活動に環境チケットを取り入れ、環境教育プログラム等を組み合わせたSOFモデルの構築、そのモデルを全国13カ所の海浜を持つ自治体を初め、地域のNPO、商工会議所、観光協会、地元企業等の協力の下に、地域の人々と協働で「地域の海洋環境貢献活動プロジェクト(SOFモデル)」を実施してきた。
 その結果、この活動に直接携わってきた地域の方々が集まり交流会議が開催された。
 この会議では、今後、この活動が全国的に広がるためには、地域の人々が相互に情報交換等を行うサポート組織やネットワークの構築が必要との総意が得られる等、この活動の全国展開の芽が生まれた様に思われる。これらのことから、海洋ゴミ問題に関して循環型の継続的活動に対する財団の役目が一段落したと考える。
 今後は、財団としても地域の人々の活動の拠点として、この活動に助力をすること、又、SOFモデルのより良い姿に向けての改善努力を行う等、活動推進のフォローアップが必要と考える。
 そして継続的に海岸の環境美化活動が全国的規模に展開することとなれば、日本の海洋環境の向上に大いに寄与することとなるであろう。
 又、これら活動と付随して人工系と自然系の海洋ゴミの集積・処理問題の解決も重要な課題であると考え、現在、技術的方策を検討中である。
 
 本調査研究事業を進めるに当たり、事業の趣旨に賛同され活動を企画・実施して頂いた地域主催者・担当者の方々、季節を問わず活動へ参加・協力をして頂いた地域の方々、また、工作教室等の活動準備・実施等に協力して頂いた多くの方々に厚くお礼を申し上げます。


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