日本財団 図書館


5.1.2 海洋ゴミ集積技術の今後の課題
 多足マニピュレーター等を利用した岩礁地帯のゴミ回収システムに必要な技術、装置は既に研究・実用されているものが利用できるが、どの装置も海洋ゴミの回収を主目的としたものではなく、小型化、耐海水対策等の改造が必要である。
 今後の課題を下記にまとめる。
【ゴミ回収装置のロボット開発】
不整地走行ロボットの開発及び試験
適応した採取部(マニピュレーター等)の開発及び試験
遠隔制御・監視部の開発及び試験
海水対策
【集積・輸送装置のシステム確立】
真空吸引の評価
不整地搬送車の開発及び試験
回収梱包の評価
遠隔制御・監視部の開発及び試験
海水対策
【システム全体検討】
操作方法(目視/自動、無線/有線等)
機材(機械)の運搬、搬入、撤収方法
機材(機械)の保管、管理
 
5.2 海洋ゴミ処理技術について
 国内外の海洋ゴミ処理技術の開発状況、ゴミ処理関連技術に関し、平成15年度に調査(平成15年度報告書参照)を行なった結果、海洋ゴミのほとんどは、埋め立てや焼却を行っている。
 本調査研究では、プラスチック、ビニル、発砲スチロール等の人工系海洋ゴミと、漂着海草・藻等の自然系海洋ゴミに分け、それぞれの処理技術について調査を行った。
 人工系の海洋ゴミは、焼却か埋め立てが最も簡便な処理方法であるが、海岸から大量に集められる海洋ゴミは、普通はトラック等の機械力で焼却場、埋め立て場に運搬しているが、最近は、埋め立て場所の規制や、海洋ゴミに塩分や水分が含まれていることや、プラスチック等の人工系海洋ゴミや海草等の自然系ゴミが混在していることから、ゴミ焼却場での受け入れが難しくなっているのが現状である。そこで、プラスチック、ビニル等の人工系海洋ゴミは、海岸清掃を実施した海辺で小型焼却炉により焼却処理を行うシステムについて検討を行った。
 また、海草・藻等の自然系海洋ゴミは、新鮮うちの海草・藻は、そのままでも肥料などにリサイクル利用が可能であるが、海岸に長期に亘り放置された海草・藻は、腐敗し、また、プラスチックや木材等が混在しているため、海岸管理者はその処理に苦慮している。
 本調査研究では、海岸に漂着し腐敗した海草のリサイクル化について平成15年度から取り組み、実験室規模の基礎実験を実施した結果、その生成液は液体肥料としての可能性が高いことが分かり、今年度は数100kgの海草を用いた海草のリサイクル実験を実施した。
 以下に、小型焼却炉の概念検討及び海草のリサイクル実験結果を示す。
 
5.2.1 人工系海洋ゴミの処理技術について
1)海洋ゴミ焼却用小型焼却炉
 海岸清掃において、一カ所の海岸からは、多くてもゴミ袋20〜30個程度の海洋ゴミが集積されていると想定し、その焼却用のゴミ焼却炉の概念図を作成した。プラスチックやビニル等の自然系海洋ゴミを焼却すると、環境に有害な排気ガスが発生するため、できるだけ高温(800℃⇒約1400℃)で燃焼させることとし、排気ガスの処理も併せて行う小型焼却炉の概念図を作成した。その開発要素と焼却炉の概念図を図5.2.1に示す。
*開発要素
高温燃焼技術(800⇒1400度)
排ガス処理技術(安価な触媒開発)
排気ガスの無害化:環境規制値のクリヤー
 
図5.2.1 小型焼却炉の概念図
 
 
5.2.2 自然系海洋ゴミの処理技術について
1)海草の微生物分解処理技術
 海洋のゴミの内、海岸に漂着する海草・藻等の自然ゴミの占める割合が圧倒的に多く、海岸に放置しておくと、腐敗し悪臭や虫等が発生するため環境破壊の主因ともなる。そこで、海岸に大量に漂着する海草・藻を回収し、有用な物質への変換技術について検討を行った。
 海草・藻を肥料として利用する技術は、以前から世界各地の沿岸で行われてきた。日本では江戸時代、テングサ等を畑の肥料として使われた記録がある。欧州では、海藻を焼いた灰をカリウム肥料として使われた例がある。
 海草・藻には、カリウムやミネラルが豊富に含まれ、粉末や液体にして畑の土壌や植物の葉に散布して使われている。
 海草・藻が海岸に漂着した後、新鮮な内に回収することは難しく、かつ、プラスチック、ビニル、ビン、缶等の人工ゴミが混ざり、粉末や液体にすることが難しいことから、ある程度の分別は必要であるが、少々の人工ゴミが混入しても処理が可能な、腐敗菌や腐敗した後の微生物分解処理を行い、最終的には植物の肥料となる窒素やミネラル分が残留する微生物分解処理方法について検討を行った。
 植物(海草・藻)が成長するには、太陽光、二酸化炭素、水が必要であるが、成長するに伴い養分が必要となる。海中では、窒素(硝酸塩)、リン(リン酸塩)、珪素(珪酸塩)等が必要で、特に必要な養分としては硝酸塩や珪酸塩がある。植物の光合成には硝酸塩と鉄分が深く関わり、葉緑素の生成に大きな役割をはたしている。
 大自然の中では、森の落ち葉、草、木等の腐葉土の中では微生物の働きで、ある酸性の物質が作られ、土壌の中にある鉄分と結合し、雨が降ると腐葉土からその物質がしみ出して川の水に溶け大量に海に運ばれて植物プランクトンや海草・藻の栄養となっている。
 本微生物分解処理技術の検討では、海草・藻が腐敗した後の生成物を取り出し、微生物で分解して植物プランクトンや海草・藻の栄養分になる硝酸塩や珪酸塩等のミネラルを含む液体を抽出し、海洋及び陸上植物の肥料としての利用の可能性について検討及び実験を行った。
 
2)海草の微生物分解処理実験
(1)目的
 海岸にうち寄せる海草・海藻類の有効利用策として、塩分が含まれる腐食生成液を、好気性微生物(バチルス菌等)で分解処理を行い有機物やミネラルを含む液体の生成に関する基礎データを得る。本実験で使用する微生物分解処理フローと実験装置の概念図を図5.2.2に示す。
 
図5.2.2 海草の微生物分解処理フロー及び実験装置
 
 
(2)実験方法
 海岸に漂着している「アマモ」を採取し、腐敗漕に投入した後、アマモやマングローブ落葉の海生腐敗菌である「ラビリンチュラ属菌」及び水を混入し、アマモを腐敗(海草腐敗処理)させる計画であったが、他所からの微生物搬入は、土着生物の環境破壊を招く危険性があることから、採取地点の腐敗菌により海草を腐敗させることとした。
 腐敗タンク内で腐敗した液体生成物を、微生物分解処理装置内に設置してある微生物(バチルス菌A、B〔Nitronbacter、Nitrosomonas等〕、MD菌等:特許実施許諾)が定着したろ剤を通過させることにより有害成分を植物の生育に有効な成分に分解処理する。
(4)実験期間
 平成16年9月10日〜平成17年2月28日
(5)共同実験者
 北海道稚内市経済部水産課、教育部、(株)東宏
(6)供試海草
 稚内市宗谷海岸に漂着したスガモ(写真1から2参照)


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION