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4.2.3 開会 寺島紘士(SOF海洋政策研究所所長)
 海洋政策研究所の所長をしております、寺島でございます。本日は、年度末に向けて大変お忙しいところ、また東京では珍しく、朝起きてみたら雪が積もっていたというような天候で、お寒い中、沢山の皆様方にお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。
 私ども、シップ・アンド・オーシャン財団は、3年前になりますか、「人類と海洋との共生」ということを目指しまして、海洋政策研究所を設立致しました。海洋と沿岸域の総合管理と持続可能な開発、というようなことを目的としまして、政策研究をいたしております。その成果に基づきまして、社会に色々な提言をしたり、或いは、海洋白書やニューズレター、そういうものを発行し、更に社会にとって非常に重要だと思われるような、海洋関係の情報を提供するということをやっております。
 本日は、海洋ごみの問題を取り上げまして、地域社会がこの問題に、どうやって自発的かつ継続的に取り組んで行くのかということについて考えるために、このような会議を開催致しました。ごみ問題というのは、大変大きな問題であります。
 どうも、元を辿ると今日の経済、生活様式というのが、大量生産、大量消費、そしてその後に大量廃棄ということが付いてくる訳でございまして、そういう生活様式をいつまで続けているのか、というような問題を含んだ大きな問題であり、かつ、ひとりひとりに非常に密接に関係してくる問題でございます。
 御承知のように、日本は非常に細長い国でございまして、四面海に囲まれておりまして、海岸線が3万5千キロにも及ぶという国でございます。その美しい海岸が今、ごみの放置、或いは不法投棄、或いは河川からの流入、そして海からやって来る漂着ごみ、そういった事に悩まされております。こういうごみは、人間社会が排出する、そういうごみだけではなくて、山の手入れが悪いために、放置された木材が大雨のときに流されて海に出てくる。或いは海底から大量の海草が打ち上げられる。いろんな問題がございます。こういった海洋ごみの問題というのは、なんとかしなければいけない問題でございますけれども、なかなかその解決のためには大変な費用がかかる。或いは、労力と時間がかかります。
 夏の海水浴場なんか行きますと、非常にきれいなんですが、シーズンが終わって同じ所に行ってみると、大量のごみが散乱している、というようなこともよく見かけます。地元では、これを何とかしたいという風に思っておりますけれども、簡単に手が出せないというのが現状ではないかと思います。
 そこで、私たちの海洋政策研究所では、競艇交付金によります日本財団の御支援を受けまして、海洋ごみに悩まされている地域の皆さんが自分たちの問題として、このごみ問題にどう継続的に取り組んで行ったら良いかというような視点で、この3年間研究をしてまいりました。その結果、こう言っていいかどうかあれですが、シップ・アンド・オーシャン・モデル、或いはSOFモデルというような活動モデルを開発してみました。それに基づいて、現在全国十数ヶ所で実際に取り組みが行われております。
 その取り組みにつきましては、今日お集まりの、全国各地からお集まりいただいた方々に、これから夕方までいろいろな発表をしていただくことになりますけれども、このSOFモデルと云いますのは、地域が一体となって、ごみ清掃活動を支援する手段ということで、環境チケットというような機能をそこに活用して、地域の善意といいますか、そういったものを環境チケットというような仕組みを通じて表すものです。
 もうひとつは、小中学校での環境教育と結びつける。そして、その手段として海洋工作教室、というようなものをやってみる、というようなのがエッセンスではないかと思うんです。言ってしまうと非常に簡単なんですけれども、なかなかノウハウ、結構なノウハウが要ります。
 そういうことで、地域の皆さんに非常に魅力的なものとして受け入れて頂いたのではないかというように思いますが、まだまだこれを、地域の実情に合わせてどういう風にやっていくのかという問題は、これからの問題でございます。ただ、私ども、この活動をやってみて感じましたことは、非常に地域の、この問題に対する関心が深い、強いということでございます。それだけ皆さん、言葉はあれですが、困っている、なんとかしなきゃいけないと思っている、ということではないかと思います。
 そう言う意味で、非常にごみ問題と言うのは重要な問題だなということを痛感している次第でございます。
 本日は、先程も司会のほうからお話しましたが、全国でやっている方々の中から、9地域の方々に実際に、この会場にお集まり頂いております。こういう形で一同に会するのは初めての機会でございますけれども、どんな結論、姿勢感がそこから出るか、大変楽しみにして居るわけでございます。
 尚、本日は、最近皆さんも御存知だと思いますけれども、日本の海を守るために、海上保安庁と日本財団が音頭を取って、組織化致しました、そして今、全国で活動を始めております「海守」の活動についても、この海洋ごみの問題と非常に関係が深いということで、合わせてその情報を共有し、また今後の活動に参考にしていただくというようなことで、企画をしておりますので、どうぞ宜しくお願い申しあげます。
 以上、ちょっと長くなりましたが、開会にあたりまして、私の御挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。
 
4.2.4 挨拶 曽野綾子(日本財団会長)
 日本財団の曽野綾子でございます。今日はありがとうございます。主催者、後援者、それから、個人としてもお集まりくださいまして、沢山の方々に、こう言う問題でご参加頂くことに対する感謝と尊敬の念を新たにいたしております。最初から自分のことを喋って、申し訳ないんですけど、私は戦前、一人娘で育ったので、みんなにさぞかし甘やかされて育ったんだろうと言われたんですけど、私は母に、徹底して「汚い物を掃除しろ」ということから仕込まれたんです。ですから、洗濯は自分の事は勿論。昔は洗濯機はございませんから、洗濯板というので、こうやって、お風呂の中で洗ったりしたんですけれども。その他に、台所のごみというのは、その頃はビニール袋ございませんから、捨てると下に受けるバケツがあるんですね。そのバケツが、夏なんかですと、2日、3日経つとイヤーな匂いがしてくるのを、母は全部それを所定の、門の外のまたごみ箱って、タールを塗った木箱があったんですけど、そこに捨てさせて、そこを全部洗って、なんか知らないんですけど、子供だから・・・。殺虫剤みたいな、父の吸ってた煙草を水に溶かした物だった気がするんですね。そういう物をかけて綺麗にしろということです。
 お手洗いの掃除と言うのは、小学校2、3年からキッチリ言われました。私は、母にその時に、汚いものを綺麗に出来れば、怖いものは無いと教わったんです。ちょっとオーバーかも知れませんけど、なんとなく、その母の、母的田舎のおばさん的信条というのはよく分かるような気が致します。
 それから、こちらに伺いましてから、私はある意味でのわがままというか、ある意味での教育と言う意味で、この若い人々とか、それから中央官庁の若手の方、マスコミの方と一緒に「世界の最貧困を見る」という旅行を何年もいたして参りました。そして、アフリカが主な目的地なんでございますけれども、そこで「貧困とは何か」。簡単なんです、定義は。貧困とは、今日食べるものが無いことを言うんでございます。ですから、日本人にはひとりも、何と申しますか。貧困な人がいない訳でございます。
 それでアフリカに参りまして、まあ私は学者でもございませんし、小説書きで、極めて視覚的、視野の狭い、浅い人間なんでございますけれども、貧困はどういう形で見えるかと申しますと、私の子供の頃の、考えられておりました貧困と言うのは、物が無いことでございました。着る物が無い、食べる物が無い、住まいが無い。一部本当なんでございますね。ですから、アフリカでは、食べる物の無い人というのがいっぱいおりまして、私はそこで、こうやることが乞食のサインだということを習ったんで、今、練習しておりますけど、私がやると憐れっぽさに欠けまして、もう少し、みみっちくやらないといけないんでございます。
 しかし、アフリカの多くの都市で驚きますのは、アフリカの光景のひとつ。それは、ビニールの袋が雪のように舞ってるんです。それが黒いビニールだったり、薄いものなんですけど、誰も掃除をせず、道端のあらゆる所に堆積しているんでございます。一方で、ビニールは、マダガスタルの田舎では買おうと思っても、ございません。紐は1メーター幾らで古ひもが売っておりまして、ミルクを配りますとお父さんたちは破れた帽子を、麦わら帽の破れたところを握って、そこに受けるべきミルクを入れて貰って帰ります。ビニールがないんですが、よくわからないんですね。
 それから、アフリカでも南アメリカでもそうなんですが、着る物が無いという人は余り無くて、膨大な量のシャツを持っています。ただし、それらは破れて、洗っていなくて、畳まない。意図的にしないのです。ある時、着まして、ある日嫌になると脱ぐらしいんです。それをぽんと捨てると牛のうんこのように脱ぎ捨てたTシャツがあっちにもこっちにも。数で言ったら、わたしなんか、足元にも及ばないくらいの数を持っています。それらを合理的に活かして使うと言う教育の貧困なんです。いろんな貧困があります。そういうものを見せていただいて、こういう仕事というのが、非常に日本の、当たり前のことかもしれませんけど、日本人が長いこと教育を受けてきて、国土を真面目に律儀にやろうとしている。世界に誇るべき1つの姿だと思うのです。この頃は、若い者が怠けているようでして、冬の海岸などを掃除なさるのがどんなに寒いかと思うのですが、若者のしつけもしていただいて。
 その上にごみと言うのは物流、ある流れを意味しておりまして、ゴミそのものは沈黙しておりますが、その結果は能弁なものであると思います。物流を示すと同時に、もっと国際感のある危機的なものですとか、そういうことにさえ、ゴミの分析がお役に立つのではないか、と、そこまで図々しい期待をさせていただいております。どうぞ、この企画を長続きさせていただき、同時に日本人の誇るべき教育機会としてもお使い頂きますように、皆様にお願いいたします。今日は有難うございます。


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