日本財団 図書館


第54次君津支部教育研究集会
講師講評
分科会名 環境問題と教育
共同研究者名 福島朋彦
 
1. はじめに
 昨年に続き、本研究集会にお招き頂いたことを光栄に思います。同時に興味深い発表を聞かせて頂いたことに深く感謝する次第です。本講評では、昨年の講評にも記しましたが、長く環境問題に関わってきた立場から、主観的な意見を述べさせて頂くことと致します。予め御了承ください。
 昨今、“トランスバウンダリー”だとか“ボーダレス”などという横文字を耳にすることがありますが、いずれも“枠組みにとらわれない”とか“境界のない”といった意味を持ちます。環境教育の現場にもトランスバウンダリー化やボーダレス化が見られます。例えば、いろいろなNPOが体験学習と称して子どもたちへの教育を試みる一方で、学校教育の場でも野外学習として子どもたちを校外へ連れ出す活動が取り入れられています。これらはボーダレス(境界がない)を通り越して、トランスバウンダリー(境界を越えて)の関係にあると言えます。学校と地域の関係についても、時には協力して、時には個別に、トランスバウンダリーな活動を通じて連携することが大切だと思います。
 
2. 環境問題について
 昨年は、本研究集会において環境分野の現状について述べました。その際に強調したのは、1)環境の概念は時代とともに変化すること、2)教育の重要性、3)モチベーションを高めるための周知活動の重要性、4)連携の必要性、および5)継続性の大切さ、です。これらを踏まえたうえで、今年は環境問題の本質について述べてみたいと思います。
 私たちは“環境を守る”とか“環境を維持する”などと呟くことがありますが、一体、“どんな行為から何を守ること”を指しているのでしょうか?そして、どんな状態になればその目的は達成したことになるのでしょうか?
 我々自身も、一方では環境を形成している一つの要素でありますが、他方では環境に負荷を与える存在でもあります。こう考えると、“人間とは環境問題のなかでは宙ぶらりんの生き物である”と言えるでしょう。ですから、環境保護に厳格になりすぎても自己矛盾に陥りますし、環境破壊に鈍感になりすぎても自分の首を絞めることになってしまいます。多分、こんなことは誰でも分かっていることでしょう。そうです。抽象論なら誰でも理解できるのです。
 しかしながら、ひとたび具体性を帯びた話になると、一挙に賛否両論入り乱れることになります。例えば、“盤洲干潟に生息するアマモの保護のために潮干狩りを規制せよ”とか“木更津の海岸を整備し、美しい海を取り戻すために、観光客を制限しよう”などの提案があったならば、利害関係者の議論が過熱するのは間違いないでしょう。
 環境問題とは事ほど左様に厄介なテーマです。何せ、総論賛成・各論反対が明確になるテーマだからです。ですから、生物多様性、COD、全菌数など、何か拠り所になる指標を求めようするのですが、これらの指標もオールマイティではありません。例えば、生物多様性が高い状態を良い環境、と言うのなら、外国産のカブトムシでもクワガタでも、雑木林に放てば良いと思います。しかし、日本古来の環境が損なわれると言って、大部分の人は異を唱えるでしょう。この場合は生物多様性よりも、日本の原風景が優先された訳です。こんな例を挙げるまでもなく、一見もっともらしい指標を作ったところで、すべての場面にあてはまるとは言えないのが環境問題です。
 私は、環境問題を知識やデータで対処しようとする限り、真の意味の解決は望めないと考えます。ですから、環境問題に取り組む人たちが自分たちの手に負えないような抽象概念や科学データに振り回されていることが陳腐に見えて仕方ありません。良い環境とは、自分自身が心地よいと思える環境のことであって、大切なのは“こんな環境に暮らしたいな”といった理想の環境像を思い描くことです。そのためにはいろいろな自然の営みを見せて、考えさせて、聞かせて、体験させて、そして豊かな自然観や正しい価値観を養うことだと考えます。すなわち、教育こそが環境問題を解決するのだと信じています。
 
3. 各提案に関する感想
(1)生きる力をはぐくむ環境学習の展開(金田小学校)
 金田小学校では、継続的に干潟環境活動に取り組んでおり、この活動は広く周知されています。長い間の活動の中では、担当教諭が交代するなど、当初の勢いが後退する時期もあったかもしれませんが、それでも続けていることを高く評価したいと思います。また、本年度から新たな領域、つまり“干潟と地域の人々の関わりについて調べる”にもチャレンジしています。発表にもありましたが“自然相手なので後回しができない”ような、スケジュール上の困難もあるなか、新しい分野を試みようとしたことに、担当教諭の意欲を感じることができました。さらに、東邦大学の学生との交流や干潟を守る会から講師を派遣してもらったことなど、他の組織との連携もあるようで、今後の活動が楽しみです。これからの方向性を考えるためにも、過去7年間の活動と成果を総括することを提案します。そのうえで、目標をより具体的に設定すると、活動方針が、より明確になると思いました。
 
(2)地域の環境を見直し、学習に取り入れていこう(金田中学校)
 金田中学校のテーマは、小学校の活動を発展させるように設定されています。小中学校が連携し、一貫性のあるテーマを設定している点は、とても興味深いものです。しかし一方で、実際の取り組み内容は、花壇の整備、サツマイモ栽培、大豆の栽培、そして調理実習などで、テーマの意図するところと若干の差異があるように思えました。
 生徒たちは、サツマイモを自分でつくり、収穫し、それを使って羊羹をつくるというサツマイモの一生に関わることができました。このプログラムは楽しみながら自然に親しめるように担当教諭が工夫されたものと推察します。紹介された写真にある生徒の笑顔がその成果を示しています。逆にこの試みから、“植物栽培を通して自然の持つ崇高さや偉大さを理解し、食糧問題にも関心をもつように・・・”といった大上段に構えた成果は期待しなくても良いかと思いました。また、次に行うときには、羊羹つくりの際に発生したゴミの行く末まで追跡してはいかがでしょうか?この試みが環境教育にまで発展できると思います。
 研修集会の席でも申し上げましたが、生徒の実態分析の妥当性が気になりました。“体を動かすことは積極的であるが自分の意見発表は苦手”、“何にでも関心を持つが、深く追求しない”など、やや一律的な評価ではないかと思えてなりません。
 
(3)地域に働きかける環境学習の展開(長浦小学校)
 長浦小学校の取り組みは、身の回りの清掃活動に関わるものですが、昨年から今年にかけていろいろな面で発展したと言えます。まず昨年のテーマの“自分たちの学校をきれいにする心を育てる”から今年は、“長浦地区をきれいな町にする”こととなり、面的に広がりをみせています。また、昨年が特別活動の一環として展開し、短期的な意識付けにとどまったのに対し、今年は継続的な活動とし、時間的にも広がっています。また今年からPTA美化活動にも参加するなど、地域とのつながりも強くなっています。さらに、1年生から6年生までの共通テーマとなっていることから、一貫性が損なわれない教育活動が可能となっています。6年間が1サイクルになっているので、効果を確認するのに時間がかかりますが、いろいろな試みを始めたのですから、是非継続して欲しいと思います。発表にもありましたが、子どものほうから提案があったことなど、成果が出はじめていると思います。意欲的な試みであるからこそ、成果については、安易に結論付けずに、じっくりと分析して頂きたいと思います。
 
4. 最後に
 今年は、東京にある中央区と新宿区の小学校の依頼により、マイクロバスを使って磯に連れて行ったり、干潟に連れて行ったり、学校で講義をしたり、いろいろな経験をさせてもらいました。それらの学校に比べて、君津地区の小中学校が自然環境という点では恵まれているのは言うまでもありません。
 今回の研究集会に参加させて頂き、私が気付いたことは、地域との連携しながらの活動が顕著だったことです。地域の連携という点でも大いに恵まれた地区ではないでしょうか。これらの活動を最前線で実践されている先生方に敬意を表すとともに、君津地区の小中学校が、地域とともに発展していくことを心より願ってやみません。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION