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4. 国際会議の概要と東京宣言「海を護る」
 国際会議「地球未来への企画“海を護る”」は、4つのセッションで構成されている。セッション1の「概念の確認」では、シップ・アンド・オーシャン財団が提唱する「海を護る」という新しい海洋安全保障の概念の意味と意義の確認を図り、セッション2およびセッション3の「構想を実現するための具体的なアプローチ(その1)」および「(その2)」では、新しい海洋安全保障の概念「海を護る」を実現するための問題点や具体的な提案についての発表や議論が行われた。セッション4の「今後に向けて」では、東京宣言「海を護る」の案に関してその意義や具体的な提言について活発な議論が行われ、参加者の総意として宣言が採択された。その後、今後の取り組みに対する見解が述べられ、会議を終了した。
 
 会議の開催に当たり、主催者を代表して、SOF海洋政策研究所の寺島紘士所長より、「人間の住む陸域より2倍以上広い海洋は、本来国際的性格を強く持っており、個々の国の管轄海域の垣根を越えた国際協調と国際協力がなければ海洋の総合的管理の実行は困難である。国連海洋法条約・アジェンダ21体制と沿岸国の主権等の行使との間の調和と協働関係の構築は喫緊の課題であり、新たな安全保障概念“海を護る”は、それを推進していくツールとして大きな意義を有するものと考える。本会議の最後に、新たな海洋安全保障概念“海を護る”と、それを実現するための具体的措置に関する提言を作成し、それらを東京宣言として発表したいと考えている」との挨拶があった。
 
 会議の概要は以下の通りである。
 なお、会議の詳細については、別途発行する国際会議「地球未来への企画“海を護る”」(International Conference "Geo-Agenda for the Future: Securing the Oceans")会議録(2005年3月 SOF海洋政策研究発行)を参考していただきたい。
 
4.1 セッション1「概念の確認」
 セッション1では、SOF海洋政策研究所秋元一峰主任研究員が「東京宣言(案)―新たな海洋安全保障の概念“海を護る”を提唱する」について報告した。これは、新しい海洋安全保障の概念“海を護る”の定義と意義について確認を図るとともに、二日間の議論を経て取りまとめられる具体的な提言を盛り込んで、会議の最後に採択される予定の「東京宣言」の素案を示したものである。
 
4.2 セッション2「構想実現のためのアプローチ(その1)」
 セッション2-1では、東京大学大学院公共政策研究部奥脇直也教授が、「アジア海域の海洋ガバナンスと情報協力体制の構築」と題して、アジア海域の海洋ガバナンスを向上させるためには,沿岸各国がこれら海域を一体のものとして捉えるzonal approachにもとづいて政策協調を行う必要があり,そのためには信頼醸成措置を促進するだけでなく,アジア海域が半閉鎖海であることについての共通の認識を高める必要があることなどを報告した。
 セッション2-2では、東アジア海域海洋環境管理パートナーシップ(PEMSEA)のChua Thia-Eng地域プログラムディレクターが「東アジア海域の安全保障:地域対話の枠組強化」と題して、東アジア海域が抱えている問題点、および総合的な戦略として結実した「東アジア海域における持続可能な戦略」の概要とその行動を阻む制約について報告するとともに、東アジア海域保全に向けた提案をした。
 セッション2-3では、インド海洋保全・海洋研究センターのJohn C DeSilva理事長(インド海軍退役中将)が「総合的な海洋の安全保障―政治的意志、政策および制度的な枠組み」と題して、持続的な開発の針路を取るためには、それぞれの国が自国のレベルで活動を調整し、なおかつ地域・地球レベルで他の国々と協力するための手段とメカニズムを見つけ、海洋安全保障の様々な側面を総体的に調整しなければならないと報告した。
 
 以上の報告の後、フィリピン大学法学部Merlin M. Magallona教授、マレーシア首相府国家安全局Abd. Rahim Hussin海事安全政策部長および中国国家海洋局海洋発展戦略研究所Zhiguo Gao上級研究員から各発表に対するコメントや提案があった。その後、情報協力のあり方や分野横断的取組みの問題などが議論された。PEMSEAのWEBサイトには毎月20万件のアクセスがあるが、そのほとんどが米英などの英語圏からで、途上国からはほとんどアクセスがない。これは他のサイトでも共通の問題である。各国の言語に翻訳し、相互にリンクするなど、双方向のコミュニケーションを考えるべきとの意見があった。また、Securityという言葉は、Defense(国防・防衛)と同じ意味に使われがちであるが、最近は人間の安全保障、環境の安全保障というように使われており、従来と考え方が変わってきている。Securityという言葉を避けるために“Securig the Oceans”という言葉を使ったとの考えが示された。
 
4.3 セッション3「構想実現のためのアプローチ(その2)」
 セッション3-1では、オーストラリア・ウーロンゴン大学海洋政策センターSam Bateman教授が「「海を護る」の実現に向けた能力の構築」と題して、海洋安全保障を維持し、海洋環境や海洋資源を包括的な方法で保護する能力(制度的な取り決め、法的な枠組み、各種リソースに関する能力を含む)の構築について報告した。
 セッション3-2では、シンガポール国立大学Robert Beckman教授が「マラッカ・シンガポール海峡における協力体制の確立と実施」という題で、マラッカ−シンガポール海峡における海上安全・保安の向上および海洋環境の保護・保全のために、どのようにして新しい協力体制を確立し実施していくかについて報告した。
 セッション3-3では、米国国際応用科学協会Stanley B. Weeks上級研究員が「海上安全保障確保を目的とした能力構築について:アルバニアの事例研究」という題で、アルバニア海軍再編成の構想中に浮上した問題やアルバニア海軍の上級顧問として学んだ教訓について報告するとともに、その多くがアジア太平洋諸国の海軍が直面している問題でもあると指摘した。
 
 以上の報告の後、Wilfrido V. Villacorta ASEAN事務局次長、インドネシア・パジャジャラン大学Etty R. Agoes教授および早稲田大学河野真理子教授から各発表に対するコメントや提案があった。その後、国際協力のあり方、特に国連海洋法条約43条の国際海峡の国際協力や123条の半閉鎖海の国際協力について議論された。またファーゴ司令官の地域海洋安全保障構想(RMSI)発言について、インドネシアやマレーシアでは反発の声があるが、これは主権の侵害を意図するものでなく、公海およびEEZにおける第三国船舶の旗国の主権の問題であり、国連海洋法条約の条項に矛盾するものではないとの発言があった。そのほか、LPG船を使ったテロに対応するために海軍間の共同パトロールの必要性や、実行力を持たせるためには拘束力のある地域間の協定や取り決めが必要であること、などについて議論された。
 
4.4 セッション4「今後に向けて」
 セッション4-1では、セッション1で報告された「東京宣言(案)―新たな海洋安全保障の概念“海を護る”を提唱する」やセッション2およびセッション3での発表や議論、さらには参加者から提出された提言書に基づいて東京宣言「海を護る」(案)が作成され、その案について活発な議論が交わされた後、参加者の総意として東京宣言「海を護る」が採択された。
 採択された東京宣言「海を護る」をこの章の最後に示す。
 セッション4-2では、シップ・アンド・オーシャン財団秋山昌廣会長がこの会議のフォローアップのための活動を実施したい、特にこの会議で採択された東京宣言の「政治的意志の形成」や「『海を護る』の実行」について政策決定者などに幅広く働きかけていきたい、との考えを示した。
 
 2002年に始まった3回の会議を締めくくるに当って、栗林忠男議長(東洋英和女学院大学教授・慶応義塾大学名誉教授)が、次のような閉会挨拶を行った。
 3回の会議を通じて、「海を護る」という新しい海の安全保障の概念をめぐって討議してきた。それをgovernanceと呼ぼうが、managementと呼ぼうが、会議では、この概念を海洋の総合的な管理システムの一部として位置づけ、「海を護る」ためのさまざまな方策を追究してきた。そして、さまざまな貴重な意見が示唆された結果として、会議の最終日に、討議の成果が宣言文とともにいくつかの具体的な提言として結実することができた。東京という地球の片隅からの声ではあるが、この声が人類と地球環境との共存をめざして、日々行われている世界の各地域の、そして各国のさまざまな努力と結びついてほしいと願ってやまない。
 しかし、「海を護る」ための構想は決して容易に実行できるとは限らない。なぜなら、平和の維持、犯罪の抑制、資源の開発利用、諸国民間のコミュニケーション、環境の保護等、海洋に当面している諸問題はすべて今日の国際社会が直面している問題でもあるからである。「海を護る」ための諸方策の実現は、それらの諸問題の解決と広く連動していると言わなければならない。
 今日の世界を、200近くの主権国家からなる「国際社会」と、次第に経済的、社会的交流を深めている個人、企業等の非国家的主体からなる「人類社会」の二重構造として捉えるとすれば、私たちはいまその二つの社会構造の狭間にあり、海を護っていかなければならない。しかもここで強調したいことは、人類の生存にとって重要な戦争の防止や平和の維持等の世界の平和と安全の問題が、主権国家間の政治的、軍事的関係のみで解決するものではなく、根本的には人権の擁護、個人生活の向上、犯罪の抑制等、世界の経済的、社会的次元に横たわる、実に多くの諸問題の解決と深くかかわっているということである。このように、二つの社会構造がますます密接不可分な関係に進みつつある今日、その両面の次元において、「海を護る」ための協力、連帯を進めていく必要がある。


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