日本財団 図書館


第3部
海洋電子ハイウェイ(MEH)
海洋電子ハイウエー・デモンストレーションプロジェクトの進捗状況
SOF海洋政策研究所 今井 義久
 
はじめに
 国際海事機関(IMO)とマラッカ・シンガポール海峡沿岸3カ国が、同海峡の航行安全向上に向け構想する「海洋電子ハイウエー・デモンストレーションプロジェクト(Marine Electronic Highwayデモンストレーションプロジェクト)」が、2005年3月初旬頃に見込まれる世界銀行の承認を経て、6月或いは7月にはいよいよデモンストレーションプロジェクトが始動する予定である。即ち、2006年までに同海峡海域の水路の再測量や陸上施設の整備などを行い、2007年から2008年の間に検証した上で、2008年以降に本格稼動をする予定となっている。
 シップ・アンド・オーシャン財団では、2003年から同計画についての調査を進めている。以下は、同プロジェクトの手続き上の準備期間であった2004年の整理と共に、改めて同構想について纏めてみたものである。
 
MEHデモンストレーションプロジェクト構想
 海事サーヴィス向上とより良い航法安全のスタンダード、統合海洋環境保護と沿岸と海洋資源の継続的開発のための環境管理、保護システム、そして、海上安全技術を統合する革新的海洋情報とインフラシステムの構築を目指す。
 当該統合システムでは、気象・海象、航行警報、海図補正等の航海支援情報、港湾や物流状況等の運航支援情報、さらには自動船舶識別装置(AIS : Automatic Ship Identification Systems)などの船舶通航情報を電子海図情報表示装置に統合・重畳表示することによって、操船者にリアルタイムに情報を提供し、海上交通の効率化及び航行安全性の向上を図るものである。
 
PDF Block B Grand初期活動
・世界銀行とIMOの間での、PDF Block B履行のための合意書締結(2001-3-12)
・同プロジェクト運営委員会(Steering Committee)の設立
・第1回運営委員会(マレーシア/プトラジャヤ、2001-3-19〜20日開催)
・プロジェクトマネージャーと3人に技術専門家の採用
・マレーシアでのMEH国内ワークショップ(2001-7-18〜20日開催)
・インドネシアでのMEH国内ワークショップ(2001-8-13〜15日開催)
・シンガポールでの協議会合(2001-8-16〜17日開催)
 
PDF Block B Grant委員会活動
・シンガポールでの地域会合(2001-9-6〜7日開催)
・シンガポールでの地域協議会合(2001-11-12〜13日開催)
・シンガポールでの地域ワークショップ(2002-1-21〜24日開催)
・第2回運営委員会(インドネシア/ジャカルタ、2002-3-1〜3日開催)
・第3回運営委員会(インドネシア/ジャカルタ、2003-10-13〜15日開催)
・技術WG会合(インドネシア/ジャカルタ、2003-10-16〜17日開催)
・第4回運営委員会(シンガポール、2003-12-15〜16日開催)
 
デモンストレーションプロジェクト実行に向けての手続き活動
・地域MEH活動計画
・MEHデモンストレーションプロジェクトのためのGEFプロジェクト目標設定
・MEHデモンストレーションプロジェクト提案
 2005年1月までに、世界銀行へ提出、判定を委任するため、次が準備の過程にある。
(1)プロジェクト関係者による覚書締結{IMOと沿岸3カ国の間の覚書(MOU)、7の関係国・機関による協定書(GEF/世界銀行、IMO、インドネシア、マレーシア、シンガポール、INTERTANKO、IHOの間でのMOA)}
(2)調達計画(購入装備品明細、水路調査指導のためのコンサルタント雇用等)
(3)プロジェクト実行計画の策定
デモンストレーションプロジェクトの確認と承認のために必要なものとして、以下が準備の過程にある。
・見積もり書類
・実行計画
・調達計画
・予算
・履行スケジュール
・入札用書類(予定価格等)
・覚書
 
PDF Block B Grantの達成
・運営委員会の設立
・MEHプロジェクトについての沿岸3カ国のコミットメント
・MEHデモンストレーションプロジェクトの履行についてのコンセンサスの確立
・ECDISとAISを搭載した200隻以上の参画を持つデモンストレーションプロジェクトに対するINTERTANKOとICSとのパートナーシップ
・水路調査とENC展開に関するIHOとのパートナーシップ
・日本の海上保安庁と韓国の海事漁業省との協調
・GEF/世界銀行―資金提供へのコミットメント
・計画された会合とワークショップの成功に向けての指導
 
* PDF Block B Grant:MEH実証事業計画案件のフィージビリティースタディーのための資金拠出枠組みで、資金は世界銀行より供出。
* INTERTANKO(国際独立タンカー船主協会)
* ICS(国際海運集会所)
* IHO(国際水路機関)
* GEF(地球環境ファシリティー)
 発展途上国の地球環境問題への取組みを支援するため、世界銀行(WB : World Bank)、国連開発計画(UNDP : United Nations Development Program)、国連環境計画(UNEP : United Nations Environment Program)の3機関が世界銀行に信託基金を設立し、共同運営している活動である。
 
安全な航法のための装置
次は、MEHデモンストレーションプロジェクトで想定される各航法援助システム装置を示す。
・Differential Global Positioning System Broadcast Service(DGPS:衛星航法装置)
 DGPS機能は、GPS装置の位置精度を上げるために付加的に内蔵されているものであり、陸上からのディファレンシャル信号を受信できる場所でのみ活用される。
・Vessel Traffic Service(VTS:船舶通航業務、SOLAS V章第12規則)
 VTSは、隣接する海岸地域、工業地域及び沖合い施設を海上交通により起こり得る各種の障害要因から守り、海上における人命の安全、航行の安全及び効率、並びに海洋環境保護に寄与する。締約国政府は、交通量または危険度から考えて、VTS業務を必要とする判断される海域にVTSを設置する、或いは、沿岸国の領海内の海域に限り、VTSの使用を強制することが出来る。
・Electronic Chart Display and Information System(ECDIS:電子海図表示システム)
 ECDISは、ENCsと自船の位置を同じくCRT画面(ディスプレイ)に表示するばかりでなく、他の情報(レーダ、予定航路、スピード等)を重ねて表示する機能を持っているほか、危険な浅瀬等に近づいたりした時に警報を発する機能も備えている。ECDISを海図の代替として船舶に搭載する場合は、義務設備となり、バックアップ装備を備えることとしている。
・Automatic RADAR Plotting Aid(ARPA:自動衝突予防援助装置)
 レーダは、電子プロッテイング機能により、物標の検出と衝突予防にも使用されている。衝突予防は、他船などの物標の位置をプロッティングすることにより、対水速力及び対水距離を示す装置から得た情報を元に、その将来位置を予測し、危険がどうか判定している。これらの作業をコンピュータで自動処理する。
・Universal Automatic Identification System(AIS:自動船舶識別装置)
 AISは、適切に装備された海岸局、他の船舶及び航空機に船舶の識別、船種、船位、針路、速力、航海状態及びその他安全に関連する情報を自動的に供給し、同様に設備された他の船舶からこのような情報を受信する。また、船舶を監視、追尾し、沿岸施設とデータの交換をするものである。
・Electronic Navigation Chart(ENC:航海用電子海図)
 IMOの条約上では搭載義務はなく、船上での上海図の補助的なものとして自主的に搭載されているのが現状であり、ENCsのみでは、紙海図の代替とは認められていない。しかし、ENCsの海図情報を組み込んだECDISは海図の代替として認められている。そのため、ECDISの機能の一部である海図情報として使われている。
 
MEH機能ダイアグラム(Guoy, 2003)
 
MEH情報フローの図式(Guoy, 2003)
 
情報・通信技術(ICT)(Guoy, 2003)


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION