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3-4 国際自然保護連合(IUCN)第3回世界自然保護会議
(1)国際自然保護連合(IUCN)の概要
 1948年に設立された世界最大の環境NGO。IUCNは、“International Union for Conservation of Nature and Natural Resources”の略で、和名は「国際自然保護連合」。スイスのグラン市に本部を置き、日本を含む82の国、111の政府機関、836の非政府機関が加盟する世界最大の自然保護団体(2004年12月現在)である。国連機関やWWFなどの援助・協力を受けて、自然や天然資源の保全に関する情報交換、調査研究、啓発活動を行っている。世界の絶滅危惧種をまとめたレッドリストの編集、世界自然遺産の審査、環境保護に関する主要な条約(「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(ラムサール条約)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)、「生物の多様性に関する条約」など)の起草および支援といった様々な活動を行っている。
 
(2)第3回IUCN世界自然保護会議の概要
 IUCN世界自然保護会議は、世界から約4000名の専門家や実務家を迎えて開催される、4年に1度の大規模な国際会議である。タイ・バンコクで2004年11月15〜25日に開催された第3回会合では、「人間と自然−ただ一つの世界」をキャッチフレーズに、今日の自然保護と持続可能な開発の最重要事項を取り扱う。主要なテーマとしては、生態系管理、健康・貧困・保全、生物多様性の喪失と種の絶滅、市場・ビジネスと環境などが挙げられ、2004年度版のレッドリストや世界の自然保護に関する最新の事例の発表、決議や勧告・IUCNの活動プログラムの採択などが行われた。これらのうち、海洋政策に関しては、海洋生物資源の管理、海洋保護区、太平洋小島嶼国問題などをはじめとする重要な諸問題が討議された。全体では6000人近くにのぼり、日本からは、外務省(3名)、環境省(5名)、経団連(6名)、環境NGOなどが参加した。
 会議は以下のとおり、大きく3つの部分に分かれて開催された。
「IUCN委員会事前会合」1 (11月15〜17日)
* Commission on Environmental Law(環境法委員会)に出席。
「世界自然保護フォーラム」 (11月18〜20日)
「IUCN総会」 (11月21〜25日)
*会員総会のため、今回は不参加)
 
1 IUCNには6つの委員会があり、ここでは6つの委員会に分かれて本会議に先立つ事前会合が開かれる。各委員会の名称は、環境法委員会(CEL)、環境経済社会政策委員会(CEESP)、教育コミュニケーション委員会(CEC)、生態系管理委員会(CEM)、世界保護地域委員会(WCPA)、種の保存委員会(SSC)である。
 
(3)会議の内容
1)IUCN環境法委員会
 「世界自然保護フォーラム」に先立って15日から行われたIUCNの6つの専門委員会の会合のうち、CEL(環境法委員会)に出席した。同委員会では、ニコラス・ロビンソン委員長の議事進行の下、委員会の活動報告と、今後の方針および戦略について話し合いが行われた。さらに、オーストラリアのステイン判事による「予防原則」の報告と議論が行われた。グループ・セッションでは、「倫理専門家グループ」と「海洋専門家グループ」に分かれ、それぞれディスカッションが行われた。出張者の参加した「海洋専門家グループ」では、ダルハウジー大学のヴァンダーツワーグ教授をリーダーに、CELの中で海洋専門家グループのコミュニュケーションを今後いかにはかってゆくか等、今後の方針について簡単な話し合いを行った。
 その他の委員会出席者の報告によれば、教育コミュニュケーション委員会(CEC)では持続可能な開発のための教育の10年の実施について、WCPAでは昨年9月の世界公園会議および今年2月の生物多様性条約会議で採択された保護地域の目標達成などについて、活発な意見交換が行われた。17日にプレスセンターにおいて発表された2004年レッドリスト〜グローバル・スピーシーズ・アセスメントによれば、脊椎動物57,739種、無脊椎動物1,190,200種、植物等297,655種、合計1.545,594種が、絶滅のおそれのある状態となっており、特に動物では両生類の32%、植物では裸子植物の31%が絶滅危惧の状態となっていることがわかった。
 
2)世界自然保護フォーラム
 17日夕方、シリキット女王記念国際会議場で行われた「世界自然保護フォーラム」のオープニング・セレモニーでは、IUCNのヨランダ・カカバッツェ会長が、ワシントン条約会議に引き続いて開催国となったタイ王国政府に対して謝意を述べた。また、熱帯林の伐採に代わる地域住民の生計の方法を広めた功績で、バードライフ・インタナショナル名誉総裁の高円宮妃(日本)からタイのシリキット女王に対してゴールドメダルが贈呈された。
 「世界自然保護フォーラム」では、連日午前8時から午後10時まで、同時並行でも20を超えるセッションが行われ(全体では約500)、参加者は目的のセッションへ到達することすら困難であった。ただし、海洋関連のセッションについては、IUCN Global Marine Programme のスタッフによってNavigation Chart -Your guide to Marine Events at the World Conservation Forumというパンフレットが作成され、前述のCEL海洋専門家グループのミーティングで配布されたため、非常に便利だった。海洋関連のセッションは全体で38であったが、このうち、米国のNOAAは、目玉のセッションを幾つも主催しており、これらの活動が一際目立っていたように思われる。
 クロージング・セレモニーでは、カカバッツェIUCN会長から、会期中にも新しいワークショップやグループミーティングがどんどん企画され、500近くのイベントが開催されたことが報告されたのち、国連事務総長コフィー・アナン氏からのメッセージが読み上げられた。その後、自然保護フォーラムの全イベントの総責任者のビル・ジャクソン氏や生態系管理委員会(CEM)のヒラリー女史、コスタリカ環境大臣、アジア開発銀行(ADB)のチーノ会長など様々な人がパネルディスカッションやスピーチのために壇上に上った。今年度のノーベル平和賞受賞者、ワンガリ女史からのビデオメッセージも流された。パネリストからは、国連ミレニアム開発目標と自然保護の関係、自然保護関係者と経済界との対話、病気・貧困と自然保護の関係、海洋保護区、市民参加、保護地域システムの統合、世界遺産条約やラムサール条約などの国際協力、人権と自然保護、人口増加といった多くのテーマでスピーチが行われた。最後に、カカバッツェ会長は「この会議に政策決定者や若き研究者(ヤング・プロフェッション)、法律家、女性、NGO、政府、年配の方、先住民が世界中から参加したことに対して、IUCNを代表して心から感謝」し、「IUCNが自然保護や持続可能な発展に必要なデータベースや技術、理念、経験をその利用者や政策決定者と共有する場を提供できたことを誇りに思う」と述べた。
 
3)IUCN総会
 最後に行われたIUCN総会には、会員でないため参加しなかったが、新たなIUCN会長に南アフリカ共和国のValli MOOSA氏が選出された。また、環境法委員会(CEL)の委員長には、パラグアイからSheila Abed de Zavala氏が選出され、新体制が発足した。


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