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3-2 東アジア環境管理パートナーシップ(PEMSEA)
(1)PEMSEAの概要と本年度の取り組み
 東アジア環境管理パートナーシップ(Partnerships in Environmental Management for the Sea of East Asia, PEMSEA)は1994年に地球環境ファシリティ(GEF)の資金を用いた途上国支援のプロジェクトとして出発したが、その後10年を経て、東アジア海域の持続可能な開発を目的とした地域協力メカニズムへと発展する過程にある。2003年12月にマレーシアにて開催された東アジア海洋会議2003では、東アジア12カ国の閣僚級政府代表が同海域における持続可能な開発の実現に向けて必要な具体的行動を盛り込んだ「東アジア海域の持続可能な開発戦略(SDS-SEA)」を採択するとともに、同戦略の実施を約する政治宣言「東アジア海域の持続可能な開発のための地域協力に関するプトラジャヤ宣言」に署名した。
 両文書の採択を受けて、PEMSEAでは2004年以降、SDS-SEAの長期的な実施メカニズムの構築に向けた実務レベルの協議が行われている。PEMSEAは一つのプロジェクトとして発足したため、今のところ5〜6年程度のプロジェクト・サイクルで活動せざるを得ない状況にある。しかし、SDS-SEAに盛り込まれた施策を多国間の協力のもとで進めていくには、長期的な実施枠組みが必要である。実際、PEMSEAはこの10年間の活動を通して(1)パートナーシップ構築からパートナーシップ・メカニズムへ、(2)単一プロジェクト実施からマルチ・プロジェクト実施へ、(3)プロジェクト実行から地域的プログラム実施へと徐々に歩を進めてきた一方、永続的な枠組みを持たないことから、継続的な資金調達や参加各国のより強力な関与をいかにして確保するかという課題に直面してきた。
 SDS-SEA実施メカニズム構築に向けた協議は、2004年3月に中国・成都で開催された「SDS-SEAの実施に関する作業部会準備会合」、同年8月にフィリピン・マニラで開催された「SDS-SEAの実施に関する作業部会」、ならびに10月に中国・廈門で開催された「第10回プログラム運営委員会(PSC)会合」を通して行われ、各会合には政府代表団に加え、国際組織、非政府組織などが参加した。
 これら一連の会議によって、SDS-SEA実施メカニズムの基本的性格付け、組織構成、専門家作業部会の設置と委託事項、タイムテーブル、具体的な活動計画等に関する勧告がとりまとめられ、第10回PSC会合に引き続き開催された三者協議会合(加盟国政府代表、UNDP、IMOによる会合)において正式な政府間合意を得た。
 本年度は、上記の作業部会および第10回PSCに参画し、活動計画の策定等に深く関与するとともに、関係国の政府機関やNGOなどとの意見交換を積極的に行った。
 
(2)SDS-SEA実施メカニズムと活動計画について
 以下では、SDS-SEA実施メカニズムおよび活動計画に関する現時点の合意事項について述べる。
1)SDS-SEA実施メカニズム
(1)基本的性格付け
 SDS-SEAの実施メカニズムは、その立脚点として地域協定などの法的文書の締結を目指すのではなく、これまでPEMSEAにおいて構築・促進されてきたパートナーシップを基礎として、各国が自らの国益認識と政策優先順位のもとでコミットメントしていくような分野横断的な地域的メカニズムとすることが合意された。正式な条約や協定を採択するには細微な文言の調整に時間と労力が割かれるためSDS-SEAの早期の実施促進にとっては適切ではないとの認識のもと、オープンでより柔軟な、いわば「デファクト・パートナーシップ」の強化を目指すこととされた。
(2)組織構成
 SDS-SEA実施メカニズム構築の組織上の基本方針を次の4点とし、詳細な検討は専門家による作業部会に委託することが合意された。
a. 2003年12月に第一回が開催された東アジア海洋会議を3年ごとに定期的に開催し、閣僚レベルの意思決定機関とする。
b. 毎年開催されているプログラム運営委員会(PSC)を「東アジア海域パートナーシップ・カウンシル」として事務レベル協議の場とする。
c. 従来のプロジェクト毎の資金調達を、継続的な地域パートナーシップ基金に移行する。
d. 現在、PEMSEA事務局として機能している地域プログラム事務局を、SDS-SEA実施のための運営および技術上の業務を提供する「PEMSEAリソース・ファシリティ(PRF)」として再編し機能を強化していく。
(3)専門家作業部会の設置、委託事項およびタイムテーブル
 上記の基本方針に沿って、2006年までにSDS-SEA実施メカニズムを各国間で合意し、始動させることを目指し、「SDS-SEAの地域的メカニズムに関する作業部会(Working Group on a Regional Implementing Mechanism for the SDS-SEA)」を設置し、表−3のタイムテーブルに従って作業を進めることが合意された。従来の作業部会での検討内容と経験を踏襲しつつ、改めて各国政府による部会メンバーの指名を経て、新たな委託事項のもとで検討を行うこととされた。
 
表−3 SDS-SEA実施メカニズム検討のタイムテーブル
活動 日程
1 第10回PSCにて作業部会を設置 2004年10月
2 各国政府による作業部会メンバーの指名 2004年11月〜12月
3 SDS-SEA実施に関する文書草案の準備 2005年2月
4 文書草案に関する各国との協議とレビュー 2005年3月〜5月
5 各国との協議結果を組み込んだ最終案の準備 2005年6月
6 第11回PSCが最終案をレビューし、必要な追加的対応を勧告する 2005年7月
7 第11回PSCの意見に従って最終案を改訂したうえで各国に回章し、各国によるレビューと承認を得る 2005年8月
8 参加国政府による最終文書の承認 2005年9月〜12月
9 東アジア海洋会議にて、採択された文書への署名 2006年
 
 なお、新たな作業部会への委託事項は次の通りである。
a. 制度上の仕組み、活動計画、投資・資金調達計画など、SDS-SEA実施メカニズムに関するPSCの勧告の内容をレビューする。
b. 各国政府、ユーザー国、民間部門、関係する地域・国際機関、プログラムおよびプロジェクト、他のすべてのステークホルダーの関与について十分考慮しつつ、提案された実施メカニズムにともなう課題と制約を特定し、評価する。
c. 上記b.で特定された課題と制約に対処し、プトラジャヤ宣言とSDS-SEAにおける基本的考え方を実践に移すために、提案された実施メカニズムのビジョン、任務、目標、運営形態を策定する。
d. 制度上の仕組みに関し、以下の点を明らかにする。
・目標
・活動の範囲
・構成要素、役割および責任
・運営手続き及び形態
・財源ならびに財政メカニズム
・モニタリング、評価及び報告メカニズムとプロセス
e. 上記の分析と成果を「PEMSEAパートナーシップ運営制度(PEMSEA Partnership Operating Arrangement)」としてとりまとめる。
f. 長期的かつ効果的なSDS-SEA実施メカニズムを採択するための、合意された制度上の仕組みに関する明確な表現を盛り込んだ、加盟国及びパートナー間の「PEMSEAパートナーシップ合意2006(PEMSEA Partnership Agreement 2006)」の草案を準備する。
g. PEMSEA加盟国およびPEMSEAパートナーシップ合意2006への潜在的パートナーの間のコンセンサスを達成するための選択肢と勧告を特定する。
h. 上記2つの文書を第11回PSC会合に提出する。
 
2)SDS-SEA実施のための活動計画
 SDS-SEA実施メカニズム構築に向けた協議においては、上記1.の基本的考え方に対応する具体的な活動計画について、以下の諸要素が特定され、検討されてきている。
(1)制度上の仕組み
・SDS-SEAの持続的な実施のための地域的パートナーシップの仕組み
a. 東アジア海域パートナーシップ・カウンシルの設立
b. 地域的パートナーシップ・プログラムの10年単位の枠組みの構築・採択を促進
c. 国際環境条約・協定の統合的な実施における地域協力の促進
d. 地域的パートナーシップ基金の設立
e. 自立的で持続可能なPEMSEAリソース・ファシリティ(PRF)の組織化
f. 環境モニタリング、評価および情報交換のための体系的アプローチの実施
g. 地域会議の発足
(2)対応プログラム
・2015年までに参加国の少なくとも70%における持続可能な沿岸・海洋開発の国家政策と行動計画を採択する
a. 国および地域レベルのアセスメントの実施
b. 国家政策と戦略の形成、検討及び採択の促進
c. 国のイニシアチブを支援する国家プログラムの10年単位の枠組み構築を促進
d. 省庁横断的な多部門調整メカニズムの構築と強化
e. 沿岸・海洋ガバナンスの地域専門化ネットワークの活性化
・2015年までに沿岸域の20%を統合的沿岸域管理プログラムでカバーする
f. 国および準国家レベルでのICM政策を立案し開始するための技術的支援を提供する
g. 統合的な意志決定を行うための地方政府の能力を強化する
h. 地方レベルで女性、若者、地元住民等による教育や意識啓発の情報へのアクセスを促進する
i. 統合的沿岸域管理(ICM)のための地域的タスク・フォースを組織する
j. ICMプログラムの進捗状況、インプットおよびアウトプットをモニタリングし、評価・報告するための体系的プロセスを構築する
k. 地方政府のダイナミックで持続可能な沿岸ネットワークを構築する
l. 生態系に立脚したアプローチを用いた統合的管理プログラムを構築し実施する
m. 提携とネットワークの仕組みをつくる
・研究機関、大学、民間部門、政府、地域社会、NGO、専門家等の協力の仕組みをつくる
n. 地域の沿岸をつなぐC2Cネットワーク(coast to coast network)の設立
o. 専門家等を特定しネットワーク化する
p. 科学的不確実性の鍵となる分野を特定する
(3)投資・財政プログラム
・国および地域レベルの汚染低減投資プログラムを実施する
a. 財政・調達関連の政策、規制、プロセスをレビューする
b. 中小企業、民間投資家および官民のパートナーシップ向けの投資機会を特定し促進する
c. 地域レベルの民間部門アドバイザー・グループを設立する
d. 陸上起因汚染削減投資基金のための戦略的パートナーシップを構築する
 
 SDS-SEA実施メカニズムのあり方は、以上のような基本的考え方と活動計画に従って詳細に検討され、その内容は「PEMSEAパートナーシップ運営制度」および「PEMSEAパートナーシップ合意2006」として2006年12月に開催される東アジア海洋会議にて採択される予定である。
 今年度においては、SDS-SEA実施メカニズム構築に向けた協議を通して、SDS-SEAが2002年にヨハネスブルグで開催された持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)でとりまとめられたWSSD実施計画のアジア地域での実施戦略として位置づけられ、SDS-SEAの実施を長期的に担保するためのメカニズムについて、組織構造やタイムテーブルなど踏み込んだ内容に関する政府間での合意がなされた。これには、今後PEMSEAが東アジア海域における海洋環境協力にとどまらず、汚染対策や資源管理を含む統合的沿岸域管理が、生活条件の改善や経済成長との間の相乗効果を生み出すような持続可能な開発を実現するための地域協力メカニズムとしての役割を担っていくことへの各国の期待が反映されている。
 PEMSEAは、1994年から1999年までの初期段階、1999年以降の継続プロジェクト段階を経て、多様なパートナーとの連携を深め、沿岸域の統合的管理の実践を通じて、各国の経済開発の政策課題に環境管理の概念を組み込むとともに、統合沿岸域管理の有用性を実例をもって示し、管理と協力のための政策ツールを構築し、地方・国・地域の各主体の能力強化を図ってきた。そして現在、従来の活動を引き継ぎながら、東アジア海洋会議2003で採択された東アジア海域の持続可能な開発戦略(SDS-SEA)を実施するために数十年を見越したメカニズムを構築しようとしている。それには、各国政府のみならず、多様な主体との連携が重要である。
 PEMSEAの活動は、参加国政府及び関係する国際機関のみならず、地方政府、民間部門、大学、研究機関、資金提供機関、NGO、メディアなど広範なパートナーとの協力のもとで行われてきている。各会合での協議においても、東アジア海洋会議2003の開催、ICMパラレル・サイトの運営、情報交換、環境投資など、シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所を含む各機関との様々な連携に関して報告・討議が行われ、今後も多様な主体との協力関係を強化・拡大していくことの重要性が再確認されている。SOF海洋政策研究所は、今年度においても引き続き各会合に出席し、東アジア海域における海洋の持続可能な開発に関する意見交換および討議に参加するとともに、東アジア各国の海洋政策に携わる政府関係者、国際機関担当者ならびに有識者等との人的ネットワークの構築を図り、日本政府代表団からの照会に応じた背景説明やPEMSEA事務局との調整支援等を行った。
 また、今後SDS-SEAの実施メカニズムが構築されるにつれて、新たな調査研究に対するニーズが高まるものと考えられる。特に、地理的条件や社会経済的条件が大きく異なる東アジア海域の国々における「海洋の持続可能な開発」の現状を適切に評価し比較検討できるようなクライテリアを設定し、より効果的な地域協力の実施につなげていくために、関係各国の自然科学および社会科学分野の専門家の参加を得た調査研究が必要である。


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