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1. 背景
 1994年に発効した国連海洋法条約のもと、各国は海洋の利用や海洋環境の保護などに取り組んでいるが、その実施にあたっては、各国がそれぞれ責任を持って海洋を総合的に管理することが重要である。広大な海洋管轄権を持つ海洋国では、近年、海洋に係る法整備を積極的に進めているのに対し、我が国では、海洋に関する行政が多くの省庁に分散されており、海洋に係わる総合的な海洋政策が策定されていないのが現状である。
 一方、2002年8月にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発のための世界サミット(WSSD)」では、海洋や沿岸域の問題が議論され、国連海洋法条約の施行や持続可能な開発のための行動計画“アジェンダ21”の実施の促進などをはじめとして多くのことが実施計画に盛り込まれた。また、世界から集まった官民の海洋関係者の有志が海洋グループを形成し、海洋の懸案事項を討議する会議を定期的に開催するとともに、協力して実施計画の実施やタイプ2イニシアチブに取り組んでいくこととなった。
 
2. 目的
 本調査は、海洋に関する国連非公式協議プロセス(UNICPO)、東アジア海洋環境管理協力計画(PEMSEA)など主要な海洋グループ、プロジェクト、国際会議などに参画し、国際機関や諸外国の先進的な海洋政策について調査・分析することを主な目的とする。また、あわせて収集した情報を関係機関に積極的に発信する。
 
3. 本年度の成果
 本年度は、表−1に示す国際会議に参画した。
 
表−1 平成16年度に参加した会合一覧
     
2004年6月 UNICPOLOS(海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス) NY
2004年8月 PEMSEA会合 マニラ
2004年10月 APEC第3回総合海洋管理フォーラム(イースター島)  
2004年10月 PEMSEA Steering Committee会合 Xiamen
2004年11月 IUCN第3回世界自然保護会議 バンコク
2005年1月 小島嶼開発途上国(SIDS)に関する国際会議 モーリシャス
 
 以下、各会議の概要と要点を整理する。
 
3-1 海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス(UNICPO)第5回会合
(1)UNICPOの概要
 UNICPOとは、海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス(United Nations Open-ended Informal Consultative Process on Oceans and the Law of the Sea: UNICPO、UNICPOLOSあるいはICPと略称される)は、1999年11月24日の国連総会決議(A/RES/54/33)に基づき設置された国際会議の名称である。「非公式」の名の意味するところは、出席し発言する権利が原則として国家のみに認められており、それ以外の国際機関、非政府組織、学術組織はオブザーバーとしての地位でのみ参加が許されるということである。
 会議の目的は、国連総会で毎年行われる海洋問題の進展に関する検討を促進することであり、会議の結果は、国連が取り上げるべき議題の勧告という形でその年の秋に開かれる国連総会に送付される。2000年5月にニューヨークの国連本部で第1回会合(UNICPO-1)が開催されて以来、毎春1週間にわたって開催されてきている。
 
(2)これまでの取り組み
 UNICPOでは、毎回2つのテーマが扱われる。これまで取り上げられたテーマは表−2の通りである。
 
表−2 UNICPOで扱われたテーマ
会期 開催期間 扱われたテーマ
UNICPO-1 2000.05-30-06.02 漁業、海洋汚染及び悪化の影響
UNICPO-2 2001.05.07-11 海洋科学技術、海賊及び海上武装強盗に対抗する取組の調整と協力
UNICPO-3 2002.04.08-15 海洋環境の保護及び保全、能力醸成、地域協力と調整、統合海洋管理
UNICPO-4 2003.02.03-07 航行安全、脆弱な海洋生態系の保護
 
(3)第5回会合の概要
 2004年6月7日(月)から11日(金)の1週間にわたって、第5回の非公式協議プロセス(UNICPO-5)が開催された。その議題は、2003年12月23日付の国連総会決議「海洋と海洋法」(GARES/58/240, para.68)に基づき、「国家管轄権外の区域における海底の生物多様性の保存及び管理を含む海洋の新しい持続可能な利用」(およびこれまでに扱われた諸テーマ)とすることが定められていた。なお、UNICPO-5と並行して、GMA国際ワークショップ(社会経済的側面を含む海洋環境の状態を世界中で報告し評価するためのプロセス。WSSD実施計画para.36(b)に基づく)も同時に開催され(火、木、金に開催)、その結果もUNICPOと同じく第59回国連総会に送られることになっているが、ここでは取り上げない。
 会議には世界中の政府機関、国際組織、非政府組織および学術機関の代表者約350名が一堂に会したが、その会議を主宰したのは第4回から引き続き共同議長を任命されたウルグアイのパオリーリョ(Felipe Paolillo)とオーストラリアのバルガス(Philip Burgess)であった。なお日本政府からは外務省経済局海洋室と水産庁国際課を中心とする外務・水産合同チームが出席し、会議において積極的に発言し、勧告案の形成に重要な役割を果たしていた。
 
(4)会議の内容
 (1)会議の前半(1日目〜3日目)は、「海洋の新しい持続可能な利用討議パネル(Discussion Panel on New Sustainable Uses of the Oceans)」が設けられ、深海底の生物多様性、公海における底引き網漁業、深海底の科学的調査、メタンガスハイドレート、海洋遺伝資源の問題が取り上げられた。それぞれのテーマに携わる科学者、政府関係者などを招いて講演してもらうことで、情報の共有が試みられた。たとえば、初日には、カナダ人科学者のジュニパー(Kim Juniper、ケベック大学)は、「海底の火山」と題する熱水噴出孔周辺の生物多様性を保全する必要について、神秘的なパンフレットと美しいプレゼンで深海底の生物多様性の保護の必要性を訴えた。2日目には日本から北川和宏氏(JAMSTEC)が「深海底における科学的観察及び次世代に向けた関連技術」と題する講演を行い、先進的知見を巧みな英語で解説し、会場を沸かせた。
 (2)1日目、3日目、5日目に開催された全体会合では、海洋問題に関する協力と調整、関心領域と必要な行動、国連総会に提案すべき勧告について、各国政府が所見を述べ、勧告案が作成されていった。ここでは、国家管轄権外の区域における海底の生物多様性に関係する議論を幾つか紹介する。公海あるいは深海底において規制を新設することは、公海自由原則、人類の共同財産制度(CHM)との関係が問題となるが、大多数の国は深海底の生物多様性がCHMによって規律されるものとするが、現状では鉱物資源のみを対象とする制度しかないという批判がだされた。FAOやコロンビアなどは、深海底における関連活動を規制するための新たな法律が必要だと指摘した。また、そもそもそうした外洋や海底では調査自体が始まったばかりであり、データも乏しく現状が不明確であるという点も指摘された。勧告の素案に含まれていた「海底の生態系は極めて固有種が多く、深海底の非生物資源と密接な関係を保っている」という文章は、不明確性を理由に削除された(米国、ノルウェー、アイスランドおよび日本が削除を提案)。
 海山(sea mount)における底引き網漁の影響に関して、それが深海の生物多様性に破壊的影響を与えるのでモラトリアムを設けるべきと考える国や、情報が不足するなかで、どこまで具体的な措置を検討するべきなのかを問題とする国もあった。
 現在、多くの環境保護団体が提唱し、オーストラリア、カナダなど一部の諸国が賛同している公海(深海底)に海洋保護区(Marine Protected Area: MPA)を設けるべきであるという主張に対して、日本政府は公海にMPAを設ける前に国家管轄権内にMPAを設けるべきであり、それも科学的証拠に基づくものであるべきであるという主張を行った。
 このようにして全体討議では問題点を少しずつ洗い出しながら進み、また問題の性質に予断を与えないように勧告案が形成されていった。こうしたなかで、日本政府の代表は、急進的な保護措置を主張する提案に対して歯止めをかける役割を担っていたように思われる。
 (3)ほぼ連日、早朝から夜遅くまで会議が行われ、最終日に会議が閉幕したのは夜の10時をまわっていた。その後事務局が最終版をとりまとめ、第59回国連総会(2004年9月14日招集)に送付された。勧告の全文は国連文書A/59/122として公表されているのでそちらを参照されたい。
 
参考文献:
UNICPO-5で出された会議資料(SOF海洋政策研究所所蔵)
Earth Negotiations Bulletin Vol. 25, No.12, available online at www.iisd.ca/oceans/icp5


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