3−3.有孔虫の分布
表2に広域被度観察時に採取した底質と30mのライントランセクトを実施した際に採取した底質の中から採取した有孔虫の組成を示す。表には、採取した地点の緯度・経度も示した。また、底質の採取時に生きていた個体と遺骸個体に分けて表示した。
表2 有孔虫の分析結果
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この結果について、藤田和彦博士から以下の7つのコメントが示されたので、紹介する。
(1)ホシズナ(Baculogypsina) やタイヨウノスナ(Calcarina) は産出していない。
(2)堆積物100gあたりの有孔虫(遺骸個体の)含有量は沖縄のそれの100分の1で非常に少ない。
(3)底質中の有孔虫は主にSphaerogypsina, Sorites, Eponidesの3種が優占しているが、これらの3種は石垣島では礁斜面の堆積物に比較的多く含まれる。(つまり、外洋の影響が強いことを示唆していると考えられる)
(4)Sphaerogypsinaは球状で固着性の有孔虫。サンゴ礫や岩盤の表面に穿孔して棲息する。
(5)Soritesは円盤状の有孔虫。これも海藻や岩盤の表面に固着して生活。今回の試料中に発見された生体個体は、底質中の礫の表面に付着していた可能性がある。
(6)Eponidesは生態が不明。石垣島では堆積物中から生体個体が見つかることから、砂の表面や中に棲息している可能性がある。
(7)Soritesはサンゴと同様、共生藻をもつ有孔虫。ホシズナ(Baculogypsina) やタイヨウノスナ(Calcarina) も共生藻をもつ。Soritesが棲息していることは、沖ノ鳥島の物理環境(光・水温等)はホシズナ(Baculogypsina) やタイヨウノスナ(Calcarina) が棲めない環境ではないことを示唆していると考えられる。
これらの情報をもとに表2において、地形との関連で見てみると、L4ラインの調査ではL4-1〜3になるにしたがって有孔虫が少なくなる。これは、北側のサンゴがあまり分布しない礁原近くに有孔虫のソースがあることを期待させる。しかしながら、L4ライン調査時のL4-N〜Sの傾向を見ると、北側よりサンゴが多く分布しているエリアで有孔虫が多い傾向がある。今回は、おおざっぱに傾向を見る程度のサンプル数であり、地形的な影響はこれだけではよく分からない。さらに、系統だったデータの入手が必要である。
次に、藻類に付着していた有孔虫の分析結果を表3に示す。藻類は5x5x3cmの容器に入れ、ホルマリンで固定後に実験室内に持ち帰り、水で洗浄して有孔虫を取り出したものである。サンプルは北小島の東側の水深の浅い岩盤上の藍藻類、ライントランセクトの際にL4-Sの地点で採取したイチイズタおよび28日のL6ラインの調査時に発見した紅藻のターフアルジーである。
表3 ターフアルジーに着生していた有孔虫
採取地点 |
北小島周辺 |
北小島周辺 |
L4-S |
L6-3 |
L6-3' |
緯度(+20゜) |
25'28.6'' |
25'18.7'' |
25'12.2'' |
経度(+136゜) |
04'13.5'' |
05'26.0'' |
04'54.5'' |
採取した藻類 |
藍藻綱 |
藍藻綱 |
緑藻 |
紅藻 |
紅藻 |
ヒゲモ科 |
ユレモ科、
ヒゲモ科 |
イチイズダ |
ケヒメモサズキ |
トゲイギス |
Cymbaloporella tabellaeformis
(Brady) |
1 |
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Cymbaloporetta plana (Cushman) |
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1 |
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4 |
Cymbaloporetta squammosa
(d'Orbigny) |
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1 |
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Cymbaloporetta sp. |
1 |
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Peneroplis pertusus (Forskl) |
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1 |
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Sigmoihauerina bradyi (Cushman) |
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2 |
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Sorites orbiculus (Forskl) |
5 |
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47 |
47 |
Textularia candeiana d'Orbigny |
1 |
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Valvulina davidiana Chapman |
10 |
1 |
2 |
42 |
18 |
Valvurineria minuta (Schubert) |
2 |
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1 |
合計 |
20 |
1 |
3 |
93 |
70 |
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有孔虫は、一度海藻をふるい上で水洗し、落ちた残渣を回収し、その中に含まれる生体(採取時に生きていた、原形質が残っている)有孔虫を拾い出したが、水洗いによって海藻に付着した粒子が全てきれいに落ちるわけではないので、今回の個体数は実際よりも低く見積もられている可能性がある。
有孔虫は藍藻(ヒゲモ科、ユレモ科)やイチイズタ(サンプルにはサボテングサsp.やアミジグサsp.もわずかに含まれていた)にはあまり付着していないが、紅藻類のケヒメモサズキ(トゲイギス、ユレモ科が混入)やトゲイギスには比較的多い。藻類の生態的所見では、藍藻を含めて短命な藻類が優占している。おそらく、通常の海況では多年生海藻が生育できない環境にある。ただし、荒天が続く海域であると、裸面など形成され、短命で繁殖力の高い藻類が群落を形成する。現存量は小さいが、生産力は高いことが推察される。わずかなサンプルで傾向を見いだしにくいが、藍藻よりも比較的藻体が固いイトグサ等で有孔虫が多いので、これらの紅藻類が増殖できる環境を確保することが重要である。
有孔虫については、藤田博士のコメントを以下に示す。
(1)結果としては、主にSorites(円盤状有孔虫)とValvulinaという有孔虫が見つかった。Valvulinaという有孔虫は私も生体を見たのが初めてなので、とりあえず海藻に棲んでいる有孔虫としか、コメントできない。
(2)Soritesについては生活史が良く分かってないが、サイズ的に寿命は数ヶ月かと思われる。したがって、短命な海藻が増えたときにそれにあわせて増殖できるものと推察される。
(3)SoritesはL6-3のターフアルジーで多いが、L6-2の堆積物中の遺骸個体にもやや多いので、この付近の海藻がSoritesの主な供給源となっている可能性が考えられる。
写真13 採取したサンプルで優占した 有孔虫の顕微鏡写真
Valvulina davidiana
Sphaerogypsina globulus
Sorites orbiculus
Eponides repandus
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