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3−4.端艇水路付近の状況
  観測基盤の前面海域で海底の状況を観察した。写真14に示すように端艇水路側の海底は平坦な地形に岩礁が突出している。平坦な海底には砂やサンゴの瓦礫はほとんど堆積していない。局所的には1cm程度の砂が堆積している場所があり、わずかに堆積した底質をナマコが餌料として利用していた。
 海底から突出した岩盤にはミドリイシ属、キクメイシ属、ハマサンゴ属、ハナヤサイサンゴ属等のサンゴが分布していた。
 
写真14
観測基盤前の端艇水路側の海底
ほとんど砂礫の堆積はない。ニセクロナマコが分布
 
3−5.北小島周辺の状況
 北小島の観測所基盤に向いた面にサンゴ瓦礫および粗砂が堆積していた(写真15)。粒径は前述したようにD50=9.97mmの瓦礫である(図10)。平成12年に撮影された空中写真でも同様の場所に砂礫の堆積が見られることから、この部分には砂礫が堆積しやすいようである。北小島の護岸によって北〜北西の入射波の陰になる部分であるが、砂礫の堆積は発達するようではなく、ほぼ安定しているようである。
 なお、横井氏が北小島の北方の浅所の部分に人頭大以下のサンゴ瓦礫が一面に堆積しているのを発見した(写真15、16)。今回の調査では広範囲にサンゴ瓦礫が確認されたのはここだけである。
 満ち潮時であったが、流れは北上していた。南からの大きな波浪の入射でサンゴが折れ、波浪や大きな潮流でここまで運搬されたと考えられるが確証はない。
 
写真15
北小島周辺で確認したサンゴ瓦礫の堆積
 
写真16
北小島の北方の浅所の瓦礫場と横井氏
 
3−6.ブルーホールの地形
 島の東側の南岸の礁嶺には水深が10m以上のブルーホール状の地形がいくつか分布している。ブルーホールの上部は潮間帯付近で礁池や外海に接している。これらのうち、L-5側線の南端のブルーホールを観察した。
 
 全体的に底面は平滑であり、部分的にサンゴ瓦礫が分布していた。底面が平滑なのは波の打ち込みで瓦礫が動き、底面を摩耗して平滑化したと考えられる。一方、サンゴ瓦礫が分布するのは、ブルーホール側面のサンゴが暴浪時に壊れて、海底の平坦な海底に堆積しているものと推察される。
 側面の岩礁表面は起伏に富んでおり、摩耗はしてないことから、礁嶺より南側に離礁が形成され、離礁の一部と礁嶺の岩礁が結合して、取り残された空間がブルーホールになった可能性がある。
 
写真17
礁嶺の南岸に形成されているブルーホール
底は平滑で部分的に瓦礫が堆積している。側面は凹凸が大きく、コブハマサンゴ等が分布している。
 
4.まとめ
 サンゴの分布は建設省が実施した過去の調査と基本的には同じような状況であった。サンゴの被度は多いところで30〜50%の場所もあるが、全体的には被度は高くない。礁池内のサンゴの分布は水深が4〜5mの深い部分に多い。平滑な海底面も多く、そのような海底ではサンゴ瓦礫の堆積や砂も少なく、波浪や潮流によって、サンゴ瓦礫が輸送され、海底面を摩耗しているような印象を受けた。そのような海底でも、固い岩礁が突出している部分にはサンゴの被度が高い。特に、成長の速いミドリイシの仲間は突出した岩礁上に多く分布していた。
 大型のサンゴはハマサンゴが確認できた。ミドリイシ科のサンゴは長径が50cm 程度の比較的小型であり、大型のテーブル状サンゴは死んだ群体を確認した。
 小型の群体が多いことは、サンゴの白化現象による衰退から回復しつつ過程であるのか、波浪等の強い流動環境で成長が制限されているのか判断はできなかった。 なお、今回の調査では、報道陣を含め十数人が潜水したが、サンゴを捕食するオニヒトデは確認していなく、食害によって部分的に白化している群体は確認しなかったので、オニヒトデの害はないようである。
 底質の中央粒径の分布を見ると、北側ほど粒径が大きく、波浪等の影響が強いと考えられる。州島形成で最も効果が期待される有孔虫は、残念ながら、大型のホシズナやタイヨウノスナが見られなかった。大型のものは現地でゼニイシを確認したが、採取した底質や藻類には確認できなかった。今回は局所的なサンプル採取であり、さらに島全体を網羅した調査をすることで、より大型の有孔虫の分布を確認できるかもしれない。
 今回は静穏な波浪条件での観察であったが、それでも潮流の流速は大きく、スキンダイビング時には水中スクーターを利用した。より波浪が大きな条件では、礁池内への波の打ち込みで礁嶺部で水位上昇し、かなりの流速が発生することが容易に想像できる。サンゴの分布、底質、有孔虫の分布から、沖ノ鳥島は波浪と潮流に起因した流れが強いことが想像される。おそらく激浪時にサンゴ礫が海底を摩耗し、幼サンゴの加入を制限しているものと推察される。また、サンゴの一斉産卵後にプラヌラ幼生の大半は沖合に流失し、再生産に寄与できてない可能性がある。このような流動環境による減耗要因をよく把握し、対策として、計画的な安定基盤の設置や流れの滞留する場の造成によって、サンゴの新規加入や増殖促進が可能になると考えられる。現状では、サンゴや有孔虫は多く分布するとは言えないが、多少の工夫で増やすことは十分可能である感触を得た。
 今後の調査では、より広範囲にわたる生物調査、底質調査に加え、波や流れ、水温等の面的な分布を長期に渡ってモニタリングすることが重要であり、その結果から、数値シミュレーションや水理模型実験等の海岸工学的な手法を用いて、リーフ内の流れのパターンを把握し、州島を造るための対策案をまとめる必要がある。
 
謝辞
 今回の調査の参加に当たって、便宜を頂いた大森信博士(東京海洋大学名誉教授)、調査に対する考え方をご教示していただいた茅根創博士(東京大学助教授)、視察調査の機会を与えて下さった日本財団の関係者に心から感謝する。また、資料や画像の分析にあたっては阿嘉島臨海研究所の岩尾研二研究員、琉球大学の藤田和彦博士、(株)海藻研究所の新井章吾氏に多大な協力を賜った。さらに、調査に当たって、水中スクーターを(株)アポロスポーツより借り受けた。株式会社日本サルベージには快適な調査航海に導いてくださった。これらの関係者に厚く御礼を申し上げる。
 
1)沖ノ鳥島災害復旧工事誌編集委員会[編](1994);沖ノ鳥島災害復旧工事誌,建設省関東地方建設局京浜工事事務所







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