7. 進水作業の実態調査及び解析
7.1 実態調査の概要
救命艇システム全体の操作整備マニュアルの作成及び救命艇システムの改善を検討するにあたり、実船における救命艇進水・回収作業を調査することが必要とされ、(株)アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドの協力を得て、下記内容で実施した。
日時:平成16年6月3日(木)13:00〜17:00
場所:(株)アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド横浜工場(横浜市磯子区新杉田)
調査内容:貨物船に搭載された全閉囲型救命艇の進水及び回収作業を見学し、操作状況を調査解析する。
調査結果:進水操作の各手順及び検討内容を表4に示す。
進水作業の実態調査結果をもとに、ダビット製造者と操作の改善が可能かどうかの検討を行った。
7.2.1 ダビット進水操作の改善
ダビット進水操作について、操作の容易性、安全性向上の観点から改善の余地があるかどうか検討した。
(1)オーバーラッシングワイヤロープの取り外し作業について
スリップフックが錆や塩等の付着により外れにくい状況が考えられることに対して、現在では、トグルピンをステンレス製のものにする、また、スリップフックの解除リンクにバーを取り付けて外しやすくする等の工夫がなされているとのことである。
(2)降下用ブレーキ操作について
現在の構造は、ダビットアームの振り出し時と救命艇降下時で同じ速度でワイヤーが繰り出されるため、アーム振り出し時にはブレーキを効かせながらの微妙な操作が要求される。もし、アーム振り出し時はゆっくりとした動き、救命艇降下時は早い動きが自動的に確保される構造が実現できれば、ブレーキの操作が容易になると考えられる。そのような構造については、現在製造者側でも開発を目指している状況である。
(3)ダビットアームの緩衝について
前述のブレーキ操作の容易化に関連し、ダビットアームがデッキにあたる時の衝撃を緩衝する構造について検討した。既に厚さ10mm程度のゴム板を挟む例があること、また、進水装置全体を考えた時の主要な質量は吊り索で吊られた救命艇本体であり、デッキに当たるアームの動きだけをコントロールしても必ずしも衝撃を減らすことはできない可能性がある。
(4)巻き上げ速度切り替えレバーの位置について
速度切り替えが必要となるのは救助艇兼用型救命艇の場合であり、救助艇として使用される場合の迅速な回収作業を実現するため、ダビットヘッドまでの巻き上げ速度を早く、その後のダビットアームの格納速度を遅くするために設置されたものである。
切り替えレバーの位置はギャーボックスの位置に依存し、より手の届き易い位置への変更は、かえって複雑な機構の導入等を招くため、必ずしも有効とはいえない。
7.2.2 オートトリガーワイヤロープの省略について
現在のダビット進水式救命艇は、ダビットアームの振り出し時に自動的に外れるオートトリガーワイヤロープ及び、進水準備作業時に取り外すオーバーラッシングワイヤロープの2段階で固縛されている。オートトリガーワイヤロープは、全員が乗艇後に外れる構造のため、進水時に救命艇の艇体等に引っかかった場合修正ができず、危険な状況を招く恐れがあるとされている。
現在のダビット構造のままで、オートトリガーワイヤロープを省略して進水可能かどうかについて検討した。図2に示すように、船体の水平時及び横傾斜±20度を想定すると、横傾斜20度OUT時に乗り込み用ステージと救命艇出入り口の間隔は広がり、乗り込みができない状況が発生する。
この状況を解決するためには、乗り込み用ステージを横傾斜20度OUT時に届く程度に予め延長しておくか、または、ボーシングワイヤロープの復活等、オートトリガーワイヤロープに代わる別の手段を開発する等の検討が必要となり、オートトリガーワイヤロープの省略は、現在の状況では困難であると判断される。
図2 横傾斜時の救命艇進水状況
表4 救命艇進水状況調査結果
調査場所:IHIMU横浜工場、調査月日:平成16年6月3日
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No. |
操作内容 |
現在の操作手順、内容 |
操作に関する検討内容 |
1 |
進水準備
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(1)ボートウインチハンドブレーキ装置の安全装置トグルピンを抜く
(2)オーバーラッシングワイヤロープを外す
(3)ダビットアームストッパーの取り外し
(4)もやい索の取付
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オーバーラッシングワイヤロープのスリップフック構造が適当かどうか。
(錆、塩等の付着により開放困難)
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2 |
救命艇への乗り込み
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(5)救命艇への乗り込み
(6)着座してシートベルトを締める
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3 |
降下、離脱
(船上操作)
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(7)舷側操作装置のロックを開放する。
(8)操作者は舷側操作装置のレバーをゆっくりと操作し、艇が揺れないようにコントロールしながら一定速度で振り出す。その後、レバーをいっぱいに引き艇を降下着水させる。
(9)着水の確認 離脱用リモートコントロールワイヤーの取り外し 機関の始動
(10)離脱操作(無負荷離脱)又は離脱操作(負荷離脱)
(11)もやい索の離脱
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ブレーキレバーの操作を容易にできないか。
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4 |
操船
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(12)救命艇の操船
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5 |
揚収位置への移動
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(1)救命艇のサスペンションリンク下への移動
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6 |
揚収準備
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(2)船首/船尾フック及び操作ハンドルのリセット
(3)ボートウインチの駆動源及び操作装置の準備
(4)ボートウインチのハンドブレーキのロック
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船首/船尾フック及び操作ハンドルのリセットに手間取った。
(3名の協調動作が困難)
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7 |
揚収リンクの接続
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(5)スリングリンクの離脱フックへの取付
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波があると作業困難と思える。
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8 |
吊り上げ
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(6)操作用押しボタンによりウインチを操作し、艇を水面上まで吊り上げる。正常に吊り上げられていることを確認する。
(7)押しボタンを操作し、艇をダビットアーム下まで吊り上げる。ボートフォールの長さの確認。
(8)押しボタンを操作し、艇とダビットアームをリミットスイッチにより停止位置まで巻き上げる。
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ボートフォールの長さ調整が必要。→片側のダビットアームストッパーが掛けられない状態。
手動巻き上げの限度を明確にする。
速度切り替えレバーの位置が適当かどうか。
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9 |
救命艇から降りる
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(9)乗挺していた乗組員が艇からおりる。
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10 |
格納
格納状態の確認
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(10)手動ハンドルにより最終格納位置まで巻き上げる。
(11)ダビットアームストッパーを取り付ける。
(12)スリングブロックのダビットアーム先端のホーンに載せる
(13)ハンドブレーキのロック装置のセットと確認
(14)オートトリガーワイヤロープの取付
(15)オーバーラッシングの取付
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オートトリガーワイヤロープの省略を検討したらどうか。
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