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6. 救命艇システム操作整備マニュアル等
6.1 救命艇システム操作整備マニュアル作成の目的・背景
 平成15年度における調査開始時において、事故調査の状況から離脱装置関連の事故が多いため、離脱装置に関する標準操作整備マニュアルを早急に作り上げることが事故防止の観点から重要と考えた。また、IMO DE小委員会においてもDE45より“救命艇の事故防止手段”の議題の元で様々な審議が行われており、救命艇システムの操作整備マニュアルのためのガイドラインが必要とされている。そのため、NKにより作成された標準離脱装置に関する操作整備マニュアルを元に、各メーカーの意見を採り入れて離脱装置に関する操作整備マニュアルを作成した。さらにこの標準操作整備マニュアルを一例として、マニュアル作成のためのガイドラインを検討し、IMO DE47に提案した。
 引き続き、平成16度においては、IMO DE47の審議結果を受け、離脱装置だけではなく、ダビットも含んだ救命艇システム全体としての操作整備マニュアルを作成した。
 同マニュアルを資料1に示す。また、後述するように作成した「救命艇システム操作整備マニュアル」を基に、救命艇システム全体の操作及び整備マニュアルの作成ためのガイドラインに関するIMO提案文書が作成され、DE48に提案された。
 
6.2 救命艇システム操作整備マニュアルの概要
 従来のマニュアルでは、離脱装置の操作要領は救命艇の取扱説明書に、ダビットの操作要領はダビットの取扱説明書に、それぞれ個別に記述され、また、通常それらの製造者が異なることから、同じ部品を異なる用語で記載する等、それらを読む船員にとって分かり難い状況である。そこで、操作マニュアルについては、救命艇の進水、揚収操作にあたっての救命艇、一斉離脱装置及びダビットの一連の操作を全体として総合的にとりまとめると共に、用語の統一、説明図の使用、注意、警告マークの記載等視覚的にも理解しやすいものとした。
 また、整備マニュアルについては、後述の「救命艇・進水装置保守点検要領書」を基に、船員が船上において行う週毎、月毎及び日常点検として実施する保守点検整備内容についてとりまとめた。
 
6.3 IMO DE小委員会への対応
6.3.1 概要
 救命艇システムのマニュアルの充実は、救命艇に係る事故の防止に有効であると考え、本委員会では、救命艇システムの操作整備マニュアルを作成した。一方、救命艇に係る事故の防止は世界的な課題であり、国際海事機関(IMO)設計・設備(DE)小委員会でも審議しており、このマニュアルに関する検討結果は、IMO DE小委員会の審議に資するものであると考えられた。そのため、太田委員、板垣委員、清水委員が原案を作成し、本委員会で検討したうえで、他の関係委員会(日本造船研究協会RR-S3(平成15年度)及びRR-MP2(平成16年度))に諮り、提案文書案が海事局安全基準課に送付され、IMO DE小委員会の第47回会合(DE 47)及び第48回会合(DE 48)に提案された。
 平成15年度はNKタイプの離脱装置(on-load release gear)の操作・整備マニュアルについて検討した。その結果を踏まえて、DE 47の提案文書(DE 47/5/3)が作成された。また、平成16年度は、これを救命艇システム全体に拡張し、DE 48の提案文書(DE 48/5/1)が作成された。
 加えて、救命艇の保守・整備に関する指針(MSC/Circ.1093, "guidelines for periodic servicing and maintenance of lifeboats, launching appliances and on-load release gear":SOLAS条約第III章第20規則で脚注引用)に不具合があることが認識され、この点に関する我が国の提案文書の検討に協力した。
 
6.3.2 DE 47への提案
 救命艇の事故の多発に鑑み、DE小委員会ではこれまでに、訓練時に救命艇に乗艇する機会を減らすためのSOLAS条約の改正(第III章19 & 20規則)について審議するとともに、救命艇の保守・整備に関する指針(MSC/Circ.1093)を策定した。そして、さらなる安全対策について審議しており、2003年3月に開催されたDE 46おいて、我が国は、標準操作・保守マニュアルについて検討中である旨を報告した(DE 46/9/7, Proposal to standardize the "Operation and maintenance manual for lifeboat launching")。
 DE 47では、これを受けて、「on-load release gearの操作・整備マニュアルの作成指針」の策定について、小委員会に検討を要請した。具体的には、救命艇及び進水装置のマニュアルを作成する際の指針の策定について小委員会に検討を求めた。指針案に含まれる主な留意事項は、以下の3点である。
(1)救命艇メーカーとダビットメーカーが協力して、マニュアルを作成すること。
(2)標準化された語句を使用すること。
(3)説明には図を用いること。
 指針案には、NK型の離脱装置に関するマニュアルの例が添えられた。
 なお、指針案に沿えるマニュアル例のうち、離脱装置については完成したが、救命艇やダビット全体に関するものは、平成16年度を目標に作業が進められていた。これに対して、使用者(乗組員・船会社)の立場からは、救命艇システム全体のマニュアルに関する指針が望ましいとのことであり、一方、事故の多くは離脱装置に起因しており、離脱装置に関するマニュアルの策定指針を早期に作成することも価値があると考えられるため、この点については、DE小委員会に判断を委ねる内容となった。
 提案文書は(DE 47/5/3)は、全体で30ページに及ぶものであった。提案文書は、本調査研究の平成15年度報告書に収録されている。
 
6.3.3 DE 47の結果
 我が国の提案については、多くの国から謝辞が述べられるとともに、こうしたマニュアルの作成指針を作ることが、安全上有効であることが認識された。議論において我が国は、提案文書にあるマニュアルは単なる例であり、モデルマニュアルの作成を提案するものではない等、説明に努めたところ、我が国から提起した審議事項、即ち、現時点で離脱機構のマニュアル作成指針を作るか、今後、救命艇システム全体のマニュアル作成指針を作るかについては、全体のマニュアル作成指針が欲しいとの意見があり、ダビットを含む救命艇システム全体のマニュアルの作成指針を作成する方向で作業を進めることが合意され、今後実施すべき作業の内容について検討された。
 
6.3.4 DE 48への提案
(1)救命艇システムのマニュアル作成指針の策定に関する提案
 前述のDE 47における審議に対応するため、本委員会は、DE 48(2005年2月)の提案文書の締切(2004年11月)等をも考慮して作業を進めた。そして、本委員会の検討結果に基づき、我が国はDE 48に救命艇システム全体のマニュアルの作成指針の策定について提案し、この提案文書は、DE 48/5/1 MEASURES TO PREVENT ACCIDENTS WITH LIFEBOATS - Guidelines for developing "Operation and Maintenance Manual for a Lifeboat System" として、DE 48において審議された。提案文書を資料2に示す。
 この提案文書は、ダビットを含む救命艇システムのマニュアルを作成する際の指針の策定について小委員会に検討を求めるものである。指針案に含まれる主な留意事項は、DE 47への提案と同じである。
 また、指針案には、本委員会で検討した耐火救命艇システムのマニュアル例が添えられた。また、整備方法については、2006年7月1日より改正SOLAS条約第III章第20.3.1規則が発効し、MSC/Circ.1093 "Guidelines for periodic servicing and maintenance of lifeboats, launching appliances and on-load release gear"の考え方が採用されるであろうこと、即ち、毎週及び毎月以外の点検等は製造者またはその認める人が行う制度になると考えられることから、詳細は不要との判断の下、マニュアル例が作成された。
 
(2)MSC/Circ.1093の修正に係わる提案
 前述のMSC/Circ.1093については、この指針の実施に向けて内容を精査したところ、明確化すべきと考えられる点が、以下に示す通り二カ所あったので、我が国は提案文書(DE 48/5/7 "Rectification of MSC/Circ.1093")により、これを指摘した。本委員会も、当該提案文書の検討に協力した。
問題点−1 第12節では「整備は製造所の代表者または製造所が当該作業のため訓練・承認した者」が実施すべきとしているのに対して、第15節では、整備終了時には、製造所の代表者がステートメントを出すべきとしている。即ち、一貫性がない。
問題点−2 第13節では、整備記録に整備を実施した者及びcompany's representative(船舶管理会社の代表者)が署名することを要求している。しかしながら、船舶管理会社の代表者(通常はSuperintendent:SI)が、整備の度に署名することは現実的ではない。
 提案文書を資料3に示す。
 
6.3.5 DE 48の結果
 DE 48/5/1, Guidelines for developing "Operation and Maintenance Manual for a Lifeboat System"については、各国から支持があり、また、共通の用語を用いることの重要性が指摘され、この点について、幾つかの国がコメントがある旨を述べた。そのため、指針の策定について基本的には合意した上で、共通の用語等詳細については、太田委員(海技研)及びKurt Heinz氏(米国)をCoordinatorとするCGで検討することとなった。
 DE 48/5/7については、第15節については、我が国提案に理解が得られたが、MSC/Circ.1093の改正は行われず、我が国提案に沿った解釈が小委員会の報告に記載された。また、第13節については、我が国提案は合意されなかったため、"company's representative" については、各国で解釈する必要がある。
 
6.4 保守点検要領書
 MSC/Circ.1093(救命艇、進水装置及びオンロード離脱装置の定期的整備及び保守に関するガイドライン)の発行に伴い、SOLAS条約第III章第36規則の保守指示書を品管標準要領書として作成するため、平成15年度に検討を行い、「救命艇・進水装置保守点検要領書」を作成した。
 作業に当たって、全ての種類の救命艇に対する保守点検内容を網羅するには、時間的な制約と作業的に困難なため、全ての設備要件を備えている耐火救命艇で材質的には最も多く製造されているFRP製救命艇を対象とし、ダビット及びボートウインチ並びに一斉離脱装置としては、96年以降使用されている最近の標準的と思われるタイプのものを選択して検討した。また、当協会標準要領書としてMSC/Circ.1093を基本として必要最小限と思われる保守点検内容のものとした。なお、点検整備の細部の実施にあたっては、各社の「取扱説明書」で補い運用されて行くものと考えている。
 作成した「救命艇・進水装置保守点検要領書」は、平成15年度報告書(中間報告)に収録している。


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