8. 救命艇システムの品質改善
8.1 改良方針について
救命艇システムについて、離脱システムを中心として、モックアップ(実物大模型)を使用した実験を含み、それらの改良方法について検討した。
離脱システムは、船首尾に位置する各離脱フック、操作ハンドル、それらを連結するコントロールケーブル及びインターロック用水圧ユニットからなる。この内、事故の直接原因となっているのは、各離脱フック及びコントロールケーブルの作動に関連するリセットミス(不完全なリセット状態)であり、また、離脱システムに対する認識不足に起因する操作ハンドルの操作ミス(誤って操作してしまう)と考えられる。従って、離脱システム全体を理解しやすく、各操作が容易で分かりやすくすると同時に、以下の方針により各機構及び配置等について見直しを行った。
8.1.1 事故解析からの人間工学的検討
(1)操作の容易さ
(習熟・訓練の必要性を最小にするよう不必要な操作を省き、操作を容易なものにする)
(1)安全ピン及びインターロック解除等の操作を見やすく、また分かり易くする。
(2)オンロード離脱操作を単純であるが、特殊な操作にする。
(3)前後フックのリセット操作を容易にする、また、リセット作業中にチームによる協調操作を要求しない。
(2)フールプルーフ、フェイルセーフ
(誤操作をした時に、受け付けないか、又は影響されない、不完全な操作ができない構造、また、誤作動が発生しても危険な状況を招かないシステム)
(1)操作ハンドルを元の位置にもどさないと安全ピンが差し込めないような構造。
(2)前後の離脱フックがリセットされなければ、操作ハンドルの安全ピンを差し込む事ができない構造。
(3)ケーブルの動きが堅くて完全なリセットができない時は、その状態を表示する。
(4)ケーブル又は接続用金具の調整不良、遊びのため完全なリセットができない時は、その状態を表示する。
(3)操作の分かりやすさ(明確な表示、フィードバック、ユーザーフレンドリー)
(1)リセットレバーを操作した時に、完全にリセットされたかどうかを明確に示す。
(2)前後各フックがリセットされたかどうかを操作ハンドル部で確認できる。
(3)操作ハンドルで離脱操作をした時に明確な反応を示すようにする。
(4)着水したかどうかがわかるような情報表示。
(5)降下中に、どこまで降下しているかの情報を表示。(下方視界の確保等)
(6)離脱ハンドルの操作方向を人間にとり感覚的に分かり易い方向にする。
(7)離脱ハンドルであることを明確に表示する。(赤く塗装する等)
(4)信頼性の向上(構造の単純化、整備調整が容易で分かり易い)
(1)ケーブル及び接続用金具の状況が正常かどうか、簡単にわかる構造。
(2)ケーブル及び接続用金具の状況が正常でない場合に、容易に調整できる構造。
(3)ケーブルで力を伝達する時は、ケーブルを引く方向で使用する。(押す方向で使用すると誤操作等の場合、ケーブルや接続用金具が損傷する可能性が高い)
8.1.2 上記の観点を取り入れた構造例の検討
品質改善案を取り入れた構造として、各操作部、表示部及び連結機構について救命艇構造を現状調査した結果、具体化の可能性がある内容を表5に示す。
表5 救命艇離脱システムの構造検討案
部位 |
操作、確認等の作業 |
現状 |
検討方針 |
操作ハンドル
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1. 安全ピンを抜く、入れる
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1. 安全ピンが直接目視できない位置にある。
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1. 目視できる位置に変更する。
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2. オンロード離脱操作
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2. インターロックレバーが目視できない。
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2. 目視できる位置に変更する。
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3. 操作ハンドルの動き
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3. フックのリセット時にもどす。
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3. 操作後、自動的にもどる構造等。
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4. 各フックのリセット状態の確認
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4. 操作ハンドルの動きにより確認
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4. ケーブル位置(リセット状態)が容易に確認できる構造
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離脱フック
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1. 離脱フック引き起こし
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1. 各フック部及び操舵位置3名で同時操作
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1. 前後フックの個別リセットが可能な構造、フック引き起こし手掛けの取り付け
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リセット操作
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2. リセットレバー操作
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2. リセット時のクリック感がない
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2. リセットレバーが正常位置にもどった場合にクリック感のある構造
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3. リセット状態の目視確認
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3. 目視で確認可能
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3. より見易い構造が可能かどうかを検討
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4. リセットレバーの操作し易い形状、大きさの検討
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表示、視界等
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1. 降下状態の確認
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1. 斜め下方は目視可能
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1. 船首や船側に窓を設置できるかどうか検討する。また、降下距離の表示機構の検討
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2.着水時のインターロック状態表示
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2. 一部のメーカーは状態を表示。
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2. 着水状態を確認できる構造を検討
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ケーブル等
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1. ケーブルの状態確認
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1. 一部のメーカーは天井、壁に配置
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1. 点検し易い位置への配置を検討
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2. 連結部の状態確認
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2. 状態確認可能
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2. 点検、調整しやすい位置への配置を検討
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8.2.1 改良型離脱装置の概要
熟練者にとっては容易で迅速な操作が可能なものであっても、それらが未熟練者にも容易で分かり易いとは言えず、かえって分かりにくい場合があると考えられ、今回の改良型では必ずしも操作の迅速さは求めず、未熟練者にも分かり易く、かつ確実な操作が可能な構造を目指した。
例えば、前後フックのリセット操作については3名による協調動作ではなく、前後の各フック部において単独でリセット操作が可能なものとした。また、フックの引き起こし操作を助けるための手掛けの追加、さらに、リセット操作の完了が操作中にわかるよう、クリック感のあるリセットレバー構造とした。
離脱ハンドルの操作は、離脱時に引く操作を要求するだけで、元の位置には自動的にもどる構造として、ハンドルの戻し忘れを防ぐ構造とした。また、離脱ハンドルの安全ピンやインターロックレバーを操舵席から目視できる位置に配置してそれらの操作が理解し易いものとした。
それらの概要を図3に、また、現用型と改良型との比較を表6及び表7に示す。
図3 改良型離脱装置の構造概要
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