PSSAとしてのバルト海区域の指定についての提案
8.22 当委員会は、デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポーランド及びスウェーデンにより提出された、総会決議A.927(22)の附属2に従ったPSSAとしてのバルト海水域指定提案(MEPC 51/8/1)を審議した。提案においては、以下の点が指摘された。
.1 バルト海については、地球的にみて、ユニーク、敏感、寒冷な北部にある汽水生態系を持ち、国際海運及び他の人間活動の影響に対し脆弱な海域である。
.2 国際的及び国家的規則の双方で構成される保護措置の広域制度については、強制通報及び交通監視、航路システム及び強制水先案内、並びにMARPOL 73/78附属書I、II及びVの下の特別海域、また、MARPOL 73/78附属書VIの下のSOx排出規制海域としての指定を含め、この半閉鎖海域の中及び隣接海域で実施されている。
.3 この段階において、新たなAPMは提案されなかった。しかしながら、当該提案諸国は、新たなAPMについて、規定の時間枠内に再提案するであろう。このAPMについては、以下のようなものがある。
(1)強制通報及び交通監視
(2)航路システム
(3)エスコート及びエスコート用曳航船
(4)水先案内
(5)避航水域
当委員会は、今回の申請の見直し及び今会期におけるPSSA指定の原則的承認について要請され、また、この原則的決定のNAV小委員会への通知、その後の最終的PSSA承認などの適切な措置を講ずるよう要請された。
8.23 スウェーデン代表団が、今回提案の第4.6項に記載の交通特性への訂正を提供した。
8.24 WWFからのオブザーバーが、当該海域における、持続可能な海運及びたぐいまれな自然との共存の持続可能性を永続できるように、バルト海域にPSSA資格を与えるための提案を支持した。同オブザーバーは、目下のところロシア領海が含まれていないことに遺憾の意を表明し、また、バルト諸国に対し、PSSA指定後2年以内の期間に、国際海運に関連する危険性に効果的に取り組むために、バルト海の領海及び公海のための新たなAPMを採択するようバルト諸国に奨励した(MEPC 51/8/5)。
8.25 グリンピース・インターナショナルからのオブザーバーが、バルト海区域のPSSA指定については、いかなるのような遅延もなく採択されるべきで、船舶構造、乗組員訓練、危険貨物運搬船舶の監視並びに船主及び運航者の責任拡大に関連する追加のAPMが導入されるべきという見解を表明した(MEPC 51/8/6)。同オブザーバーは、他の2つのPSSA指定提案への支持も表明した。
8.26 いくつかの代表団が、PSSAとしてのバルト海海域指定への支持を表明した。
8.27 ロシア代表団が、PSSAの激増についての同国の懸念を示し、以下の理由によりバルト海区域のPSSA指定を支持できなかった。
.1 PSSAコンセプト及びいかなる関連保護方策の申請についても、限定された地理的領域のみに正当化されるものと確信していること。
.2 PSSAの法的根拠に問題があること。
.3 バルト海領域については、追加の保護方策が講じられている、MARPOL 73/78附属書I、II及びVの下の特別海域として、また、同附属書VIの下のSOx排出規制海域として既に指定されていること。現在の申請においては、新たなAPMが提案されているわけではないので、PSSA指定には何の付加価値もないこと。
.4 HELCOMが、ロシアが是認したバルト海領域へ追加保護付与のための方策を既に講じていること。また、HELCOMが、バルト海海域のPSSAのメリットを分析し、そのような指定は、具体的な利益とはならないと結論付けていること。
.5 バルト海海域の汚染物質の90%は、PSSAコンセプトがカバーしていない陸上起源の海洋汚染から生じたものであること。
.6 1992年国連生物多様性条約の下のバルト海保護方策に、集中的に配慮すべきこと。
8.28 要請に従って、ロシアの代表団声明を本文書に附属8として 添付した。
8.29 リベリア及びパナマの代表団が、ロシア見解への支持を表明した。
8.30 当委員会は、デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポーランド及びスウェーデンによる共同提案を審議し、提案されたPSSAが決議A.927(22)の基準を満たしているかどうかを調査するために、当該提案を非公式技術部会に付託することを決定した。
PSSAとしてのガラパゴス諸島の指定についての提案
8.31 当委員会は、エクアドルより提出された、総会決議A.927(22)の附属2に従ってPSSAとしてガラパゴス諸島海域を指定する提案(MEPC 51/8/2及びMEPC 51/8/2/Corr.1)を審議した。エクアドル代表団は、以下の点を挙げた。
.1 Charles Darwin 氏が有名なガラパゴス諸島海域航海の間に行った観測において同氏の種の進化理論を基礎づけた19世紀以来、当該諸島の生態の重要性は国際科学界で広く認識されている。1934年、エクアドル政府は、ガラパゴス諸島の自然遺産を高め、かつ、永久的に同群島を保存するために企画された保護法を他に先駆けて実施した。国連教育科学文化機関(UNESCO)は、1979年にガラパゴス諸島が世界遺産であことを宣言し、2001年には、その範疇にガラパゴス海洋保護区を含むように拡張された。同国提案には、国際及び国内法双方を適切にからませた保護方策についての広範囲な制度に加え、ガラパゴス諸島についての特別かつたぐいまれな特色に関する詳細情報が含まれている。
.2 国際海運活動からの損傷を防ぐため、当該海域について、以下のAPMを提案する。
.1 油タンカーの貨物ポンプ室からの油又は油性混合物、及び貨物残渣と混合した機関室ビルジ含めたタンカーからの油又は油性混合物、また、いかなる船種又は大きさの船舶から生ずる他の有毒液体、燃料、ゴミ又は有害物質の海洋排出禁止
.2 次の廃棄物についての、いかなる船種又は大きさの船舶からのあらゆる海洋排出禁止
1)プラスチック、合成繊維の釣糸又は漁網、プラスチック製ゴミ袋
2)遊離積込資材、カバー用及び包装用紙資材
3)紙、ウェス、ガラス、ボトル、金属、セラミック及び類似物質
.3 船舶は、ガラパゴス領海を通航する場合、有害な水生生物及び病原菌の移動を最小化するための船舶バラスト水の制御及び管理のためのIMOガイドライン(決議A.868(20))に従って、バラスト水排出又はバラストタンク漲排水を避けなければならない。
.4 500総トンを超えて油又は危険貨物を運搬しているすべての船舶に対する“避航水域”の設置。すべてのエクアドル海軍艦船については、PSSA及び避航水域への出入りの自由を是認されるべきである。提案避航水域については、MEPC 51/8/2/Corr.1の附属に記載のように、提案PSSAを越えた拡張水域となる。
.5 エクアドル海事当局は、追加方策として、国内及び外国の海上交通を促進し、航海の安全及び効率へのいかなる悪影響も防ぐため、ガラパゴスPSSAのための国際的な航路海図を2年間の内に提供する予定である。
最後に、エクアドル代表団は、当委員会に対し、加盟国及びNGOの多くの代表団がガラパゴス諸島PSSA化を支持していることを報告した。
8.32 多くの代表団が、ガラパゴス諸島海域のPSSA指定に支持を表明した。
8.33 議長は、当委員会に対し、2004年3月12日に、UNESCO世界遺産センターのDirector、Francesco Bandarin氏から、同センターがガラパゴス諸島PSSA提案への全面的支持を表明している旨の手紙を受け取ったことを報告した。
“私は、世界遺産として登録された水域の価値を保存するのに必要な保護レベルをさらに確実にするための重要なステップとして、ガラパゴス海洋保護区のPSSA指定することを了解する。”
議長は、この手紙に当委員会の注意を促すことになると応答している。
8.34 当委員会は、エクアドル提案を審議し、提案されているPSSAが決議A.927(22)の基準を満たすものかどうかを調査するために、非公式技術部会に当該提案を付託することを決定した。
3つのPSSA提案についての一般的所見
8.35 米国代表団が、PSSAガイドラインに従った非公式技術部会での3つのすべての提案についての詳細な見直しについては、以下のキーとなる問題に焦点を合わせるべきと提案した。
.1 提案されているAPMについての法的根拠
.2 提案されているAPMが、提案PSSAにおける海洋環境への確認されている危険性に対し、どのように対応することになるのか。
8.36 ギリシャの代表団が、UNCLOSの下の船舶無害通航権については、提案されたPSSAにより影響されるべきものではないという見解を表明した。
8.37 メキシコの代表団は、各提案は、きれいな海の必要性及び航海の自由の間でバランスをとるべきであるという見解であった。国際海運航路におけるPSSA提案の影響にも対処すべきである。
8.38 いくつかの代表団が、ギリシャ、メキシコ及び米国の見解に支持を表明した。
非公式作業部会への指示事項
8.39 非公式技術部会は、以下の事項を指示された。
.1 プレナリーでの審議の結果、特に、ギリシャ、メキシコ及び米国によるコメントを考慮に入れて、PSSAとしてカナリア諸島水域、バルト海及びガラパゴス諸島水域の指定のための提案(MEPC 51/8、MEPC 51/8/1、 MEPC 51/8/2 及び MEPC 51/8/2/Corr.1)を見直し、それらの提案が特に敏感な海域(PSSA)の特定及び指定ガイドライン(決議A.927(22)附属2)の規則を満足しているかどうかについて決定すること。
.2 これらについての結論及び勧告に関する報告書を、2004年4月1日木曜日にプレナリーに提出すること。
8.40 また、議長は、非公式作業部会に対し、“援助を必要とする船舶のための避難場所”に関するいかなる議論についても、航行安全小委員会のために記録すべきことを指示した。
8.41 パナマ代表団が、今後のPSSA指定提案の審議については、この問題の重要性に鑑み、MEPCの公式作業部会において実施すべきことを要請した。
非公式技術部会報告書
8.42 非公式技術部会長Paul Nelson氏(オーストラリア)は、技術部会報告書(MEPC 51/WP.9)の紹介において、当該部会が以下について合意したことを報告した。
.1 スペイン提出のカナリア諸島水域のためのPSSA申請及び追加情報については、決議A.927(22)の要件を満足しており、スペインが2005年のNAVにAPMのための詳細な提案を提出すると述べたことを銘記して、原則的承認を勧告する。
.2 エクアドル提出のガラパゴス諸島のためのPSSA申請及び追加情報については、決議A.927(22)の要件を満足しており、エクアドルが2005年のNAVにAPMのための詳細な提案を提出すると述べたことを銘記して、原則的承認を勧告する。
.3 デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポーランド及びスウェーデンによって提出されたバルト海水域のためのPSSA申請及び追加情報については、決議A.927(22)の要件を満足しており、当該諸国が2005年のNAVにAPMのための詳細な提案を提出すると述べたことを銘記して、原則的承認を勧告する。
8.43 また、技術部会長は、バルト海水域のPSSA提案諸国が、どのようなAPMをNAV小委員会に提出するのかまだ決定していないことも報告した。
8.44 当委員会は、技術部会のカナリア諸島水域PSSA提案の見直し実施において、以下の事項がコメントされていることを銘記した。
.1 当部会は、追加情報を加えた当該申請については、当部会報告書の附属1に記載のとおり、PSSAガイドラインの生態学的標準のいくつかを満足しているものと認めた。
.2 スペインは、提案PSSAの境界線は12海里であり、これはスペイン領海と一致していることを明確にした。同境界線については、当部会に配布された地図に示されており、MEPC 51/8/Corr.1第2.8項において説明されている。
.3 自然的要素に関連して、スペインは、当該水域に関する簡単な海洋学的解説を提供し、また、当該水域の海洋学的状況に関する詳細な調査結果が、数ヶ月後に公表されることになると発表した。このような情報は、流出の危険性及び当該流出回避方策の効果を評価する上で重要なものとなる。
.4 スペインは、カナリア諸島における港湾輸送及び汚染事故に関する追加データを提供して、これらの事故の多くのものについては汚染源が不明であることを指摘した。国際海運活動に対する当該水域の特定の脆弱性に関連して、当部会は、当該水域が油及び有害有毒物質の輸送に脆弱であり、また、当該水域内の通航量も危険性を増していることを銘記した。
.5 当部会は、特定の脆弱性に対処するAPMについては、法的根拠が必要であることを銘記した。スペインは、SOLAS第V章第10及び11規則と整合性の取れた、回避区域、通航ルート方策及び船舶通報制度についての提案を、2005年のNAVに提出することになると表明した。
.6 APMに関して、当部会は、申請書において記載された方策が、貨物として“heavy oils”2を運搬する載貨重量600トン以上の船舶に適用されることになる旨を銘記した。回避区域は、通常の通航ルート外に設置され、それ自体が、通航ルート航行船に影響を与えないことは明確である。スペインは、当部会に対し、回避区域については、船舶が当該区域に侵入しないことを保証し、いかなる安全性又は汚染事故にも対応できる時間を提供すためにも必要であると助言した。国家主権による免責特権を与えられている船舶については、SOLAS条約第V章第1.1規則で対処されることを銘記した。
.7 スペインは、国連海洋法条約(UNCLOS)に反映されている国際法に従って提案APMを履行するという同国の意図について確認した。
2 この点について、スペインは、MARPOL73/78附属書I Part D第35規則第2項の改正に含まれる、“heavy grade oil”についての新たな定義を使用することになる。
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