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8 特別海域及び特に敏感な海域の特定及び保護
序論
 
8.1 当委員会は、MEPC 49において、既存グレートバリアリーフPSSAにトレス海峡域を含み拡張することを原則的に承認し、2004年7月のNAV 50に対し、強制水先案内制度の拡張を検討するよう要請したことを想起した。
 
8.2 さらに、当委員会は、MEPC 49が、西ヨーロッパPSSAについては、シェットランド諸島沖の東方線を経度0度までとして当該水域サイズを減少する条件で、原則的にPSSA指定を承認し、NAV 50に対し、48時間強制通報制度についての検討を委ねたことも想起した(MEPC 49/22、第8.25項)。
 
8.3 当委員会は、提案された関連保護政策(APMs)に関するNAVの検討結果を受けた後、MEPC 52での指定のため、これらの提案をさらに審議することを計画した。
 
8.4 当委員会は、西ヨーロッパPSSA指定提案に関する第23回総会及び第87回法律委員会の結果を銘記した。特に以下の事項について銘記した。
 
.1 法律委員会においては、西ヨーロッパ水域PSSAの妥当性に関して異なった見解が表明されており、若干数の代表団が、当該PSSAについてはUNCLOS第221(6)条で規定されている制限的枠組みを越えていることで合意していた一方で、その他の代表団が当該PSSA指定の妥当性を再確認していた(MEPC 51/11/1)。
 APMに関しても異なった見解が表明されており、いくつかの代表団が、特に国連海事海洋法課(UN-DOALOS)によるコメントの見地から、西ヨーロッパ水域PSSA指定の法的意味あいにさらなる調査が必要であることを銘記していた。
 
.2 総会において、若干数の代表団が、本件に関するMEPC 49における審議結果に懸念を表明し、PSSAの特定及び指定ガイドラインに関する決議A.927(22)見直しの必要性、並びにUNCLOS規定の下の公海における無害通航及び航行の自由の原則に関連した事項についてコメントしていた(MEPC 51/11/4)。
 
特に敏感な海域の特定及び指定ガイドラインの改正提案
 
8.5 当委員会は、総会決議A.927(22)の附属2記載のPSSAの特定及び指定ガイドラインを見直しするというリベリア、パナマ及びロシアによる提案(MEPC 51/8/3)について審議した。これらの提案を示す際に、ロシアが以下の点を指摘した。
 
.1 PSSAのコンセプトは、西ヨーロッパPSSA提案で考えられているような地理学的に広い海域でなく、特異な生態系を持つ地理学的限定海域のみに適用されるものである。
 
.2 既存PSSAガイドラインについては、西ヨーロッパPSSA提案のような多種多様な海域を適切に評価するのに必要な具体的言語及び指針というものではなく、極めて一般的な語法で表現されている。
 
.3 このようなアプローチは、無視できない政治的かつ法的結果をもたらすことになり、地球的かつ世界共通の適用を意図する国際的法規としては容認できない。
 
8.6 したがって、共同提案国は、当委員会に以下の事項を提案した。
 
.1 次の事項に沿って、総会決議A.927(22)の附属2の下のPSSAガイドラインの見直しに、速やかに着手すること。
 
.1 いかなる新PSSA指定の決定に先立って、既に実施されている既存の方策の範囲及び適切性について、慎重な分析が実施されること。当該分析には、IMOによる、すべての関係者によるすべての既存方策の実施についての評価を伴うべきこと。
 
.2 指定に関する決定については、実施されている既存方策の不十分性が立証された場合にのみなされること。
 
.3 PSSA特定及び指定の最終段階において、関係海域の明確かつ完全な絵が描け、同時に、適切な解決策が提供できること。
 
.4 PSSAが指定された場合、すべての関連保護方策が特定されること。したがって、第1段階としての“原則的PSSA指定”及び第2段階としてのAPMの作成という2段階のアプローチについては認められるべきでないこと。
 
.2 改訂版ガイドラインが完成するまで、既存PSSAガイドラインの下に提出された、いかなる現行又は新提案の審議も中止すること。
 
8.7 BIMCO、ICS、INTERCARGO、INTERTANKO、OCIMF及びIPTAのオブザーバーが、PSSAガイドライン見直しに関する、リベリア、パナマ及びロシアによる提案を支持し(MEPC 51/8/4)、以下の事項を追加した。
 
.1 PSSAガイドラインは、APMについて、環境的脆弱性とバランスのとれた手法で取り扱うことが期待されていること、また、PSSA設置の要求に含蓄される重大性を反映すべきことを示唆したものでなければならない。
 
.2 PSSA指定を申し出ている国々は、既存IMO方策の適切性分析を、また、すべて水基盤産業からの汚染はもちろん、陸上基盤産業及び農業からの汚染の制限方策に関する情報を提供しなければならない。
 
.3 PSSA申請の急増は、MEPC 49における西ヨーロッパ水域PSSAに関する討議、また、今会期へのさらなる申請提出から明白である。これは、海運産業にとって懸念となる。なぜならば、どうかすると、海運規則及び海洋環境保護のための異なった代替的方策を示唆しているからである。しかしながら、このことは、今までに提案されたAPMからは明白となっていない。PSSA指定の抑制されないまま拡散することが許容されるならば、PSSAが特別な意義を失うことが明確となり、その結果PSA価値が下がることになる。
 
8.8 議長は、当委員会に対し、総会決議A.927(22)附属2に記載のPSSAガイドラインの見直しの実施をすべきかどうかの問題について取り扱うよう要請した。
 
8.9 PSSAガイドラインの見直しに賛成する代表団が、以下の事項について述べた。
 
.1 付加的保護措置の提供手段として正当化されたPSSAの価値については、疑いのないところであるが、PSSA審議については、IMO法規の下の既存方策の不十分性が立証された場合にのみとすべきである。
 
.2 APMについての決定については、現行ガイドライン下の2段階アプローチの代わりに、PSSA-指定とひとまとめにして取り扱われるべきである。
 
.3 現行ガイドラインについては、より実用的なものとすべきである。
 
.4 一代表団が、現行PSSAガイドラインを強化すべきこと、また、PSSAに付随する法的事項、とりわけて、ガイドラインの技術及び手続き面を取り扱った提案のMEPC 52への提出を準備していることを表明した。いくつかの代表団がこの見解を支持した。
 
.5 PSSA概念は動的なものであり、見直しについては、提案追加方策と海運活動から敏感海域と識別された危険との間の釣合いに加えて、海洋環境保護と海運業者の間のバランスが維持される限りにおいて、さらなるガイドライン作成のための基準となるべきものである。
 
.6 決議A.927(22)、運用事項第3項 は、MEPC及びMSCの双方に対し見直し中の新しいガイドラインを維持するよう要求している。したがって、当該見直しについては、MEPCが適切と考慮する時にはいつでも実施できる。
 
8.10 現段階におけるPSSAガイドラインの見直しに反対の代表団が、以下について述べた。
 
.1 見直しの提案者の意図については、当該提案者からの提出物によって明確であるとはいえ、PSSAガイドラインの詳細な見直しのために具体的な事例についてはない。
 
.2 現行ガイドラインについては、2001年に採択されたばかりで最新のものであり、うまく釣合いがとれ、すべての関連事項に対応している。このような早期の見直しは、IMOの威信を低下させ、社会全般に誤ったメッセージを伝えることになる。
 
.3 ガイドラインの完全な見直しに代えて、これまでに受け取った提案、特に、PSSAとしての西ヨーロッパ水域指定する提案について、議論すべきである。PSSAが論争事項となることは避けるべきである。
 
8.11 議長は、議論をまとめて、代表団の大多数が、PSSAガイドラインの見直しに原則的に同意したことを指摘した。同氏は、正当性のある具体的な提案の今後のMEPC会期への提出を条件として、当該見直しが審議されることになることを明確に述べた。その結果としてガイドラインの改正が必要となる場合には、決議案として、審議及び採択のため総会に提出されることになる。
 
8.12 その後、当委員会は、ガイドラインの見直しが実施される一方で、PSSA指定申請に関して、一時凍結が宣言されるべきかどうか、また、当該一時凍結の様式がどのようなものとなるのかについて審議した。
 
8.13 パナマの代表団が、PSSA申請に関する一時凍結の提案は、MEPC 49で原則的承認されたトレス海峡域を含めるための既存グレートバリアリーフPSSAの拡張、あるいは今会期MEPCでの審議事項であるガラパゴス諸島PSSA申請のようなものを中止するようにデザインされていないと述べた。また、single hullタンカーphasing outを加速化する2003年議論を後退させるものとして、西ヨーロッパ水域PSSAの指定に反対する方向であることに言及していた。
 
8.14 ノルウェーの代表が、以下の理由により、MEPCによる一時凍結の設置に反対した。
 
.1 総会で採択された決議については、総会だけが一時凍結を宣言できること。
 
.2 国連海洋法条約第211(6)条においては、沿岸国に対し、国際規則及び基準が不十分な場合には、当該沿岸国EEZの明確に定義された水域において、船舶からの汚染を防止するための特別強制措置を提案する権利を認めており、また、当該提案については、12カ月以内にIMOにより審議されるべきことになっている。
 
.3 IMO法規の改正又は修正時におけるIMO規則一時凍結についてのIMO内手続きは存在していない。
 
.4 一時凍結は、PSSAメカニズムが特定の問題への適切な対応とみなされる場合において、PSSAコンセプトを促進するためのIMO及びIMO加盟国による新たな提案及びあらゆる努力を妨げることになる。
 
8.15 当委員会は、決議A.927(22)が総会の権限範囲にあることを認識し、PSSAガイドライン見直し持続の間の一時凍結の措置を勧告しないことで合意した。このことは、現在及び今後におけるMEPCへの申請については、総会による見直しが完了するまでは決議A.927(22)に従って評価することができる一方で、原則的に承認されたがまだ指定されていないPSSAに係る作業については継続できることを意味している。
 
PSSAとしてのカナリア諸島水域の指定についての提案
 
8.16 当委員会は、PSSAとしてカナリア諸島水域を指定するためのスペイン提出提案(MEPC 51/8)について、総会決議A.927(22)附属2に従って審議した。
 
8.17 スペインは、当該提案において、国際海運により深刻な影響を受けているカナリア諸島について言及し、重要な科学的かつ環境的利益に加え非常に脆弱な生態系を理由に、その内の一部を生物圏保護区と宣言しているカナリア諸島の特別な性格についての詳細を提供した。
 
8.18 スペインは、国際的海運活動からの損害を防止するために、以下のAPMを提案した。
 
.1 5つの船舶通行“回避水域”の設置。これらの水域については、海事組織により認可された、沿海小規模漁業、島間航海及びこれらの海域内に存在する港からの及び港への旅行のみに利用することができる。
 
.2 カナリア諸島に発航港及び仕向港のないPSSA通過船舶のための、2つの“推奨ルート”の設置
 
.3 PSSA内を通航する、カナリア諸島内の港を出航又は向かうすべての船舶、また、島間航行に従事する載貨重量が600トンを超えるすべての重質油運送船舶に対する“強制船舶通報制度”の採用。載貨重量600〜5,000トンの間のすべてのタンカーについては、この方策を2008年から適用すべきである。
 
 スペインは、提案のAPMについては、PSSAガイドライン第8章に従ってNAV小委員会において詳細に審議するということを受け入れた。
 
8.19 ブラジル代表団が、スペインの申請(MEPC 51/8第6.1.4項)において使用されている“heavy oils”の定義については、MARPOL 73/78附属書I、D部、第35規則第2項の修正に含まれる“heavy grade oil”の新定義に置き換えるべきと提案した。スペイン代表団は、これに答えて、この新定義の挿入に同意し、MEPC 50による当該修正採択に先んじて申請書を提出すると説明した。
 
8.20 さらに、ブラジル代表団は、スペイン提案及びバルト海域提案双方の詳細な見直しに、両PSSA提案水域におけるおびただしい海上交通の観点から、援助を必要とする船舶のための避難場所の規定について考慮されているかどうかを含むべきであると提案した。これに答えて、スペイン代表団が、当委員会に対し、決議A.949(23)1を実施するスペイン規則における避難場所コンセプトを紹介することになるが、その実施については、国家レベルのために意図されたものであり、PSSAのためのものではないと報告した。
 
8.21 当委員会は、スペイン提案を審議し、当該PSSA提案が決議A.927(22)の基準の満足状況調査のための非公式技術部会を設置することを決定した。
 

1 “援助の必要な船舶のための避難場所ガイドライン”に関する決議A.949(23)は2003年12月5日に採択された。


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