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海保だより
海上保安庁 交通部安全課
 
海難発生隻数と台風海難発生隻数(月別・過去5年平均)
 
台風による海難事例
 自動車運搬船HUAL EUROPE(H号)は平成14年9月30日の朝、積地横浜港の港外に到着し荷役待ちのため錨泊、当時東京湾に接近中の非常に強い勢力の台風21号に対する注意が不十分なまま、早期の荒天避難を行うことなく翌10月1日の朝に横浜港に着岸した。
 着岸後、予想よりも早い台風の接近を知ったH号は同日昼過ぎに荷役を中止し、14時6分、横浜港を出港し避難海域である駿河湾に向かった。
 途中、伊豆大島の北東沖の海域に至った同日17時頃、H号は台風の右半円の暴風域に入り、90ノットの突風を伴う波浪約9mの海域を続航。同18時頃、猛烈な暴風とさらに高まった約10mの波浪の中、H号は縦揺れが大きくなり激しいレーシングを繰り返していたところ、18時10分、大島の東方沖にて突然機関停止。その後機関は再起動したものの回転数が上がらず、その頃台風の中心が急速に接近し気象海象は一層悪化、船体制御ができなくなり、操船不能の状態に陥り、H号は大島の南東岸に向け圧流され始め、同日19時頃大島南東岸の浅瀬に乗り揚げた。
 H号の乗組員は翌10月2日、海上保安庁のヘリコプターにより救助されたものの、船体に破口を生じ燃料の重油などが周辺海域に流出。さらには翌月11月26日の早朝、船体から火災が発生、同29日には鎮火が確認されたものの残骸となった。
 この乗揚海難について、横浜地方海難審判庁は平成16年2月6日の裁決にあたって、「大型で非常に強い台風が東京湾に接近する状況を知った際、台風情報に対する解析が不十分で、早期に荒天避難する措置がとられなかったことは、本件発生の原因となる」旨指摘している。
 
台風により折損した船舶(記事内のH号とは関係ありません)
 
漁船海難に伴う死亡・行方不明者の減少に向けて
 近年の海難の特徴としては、漁船やプレジャーボートによる海難が全体の7割を占め、さらに海難や海難によらない乗船者の死亡・行方不明者では6割以上を漁船の乗船者が占めており、漁船に対する安全対策のさらなる推進が必要となっています。
 
海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数の船種別推移
 
 このため、平成16年3月に水産庁、国土交通省海事局、海上保安庁、海難審判庁の4省庁が参画する「海難防止担当官関係省庁連絡会」を設置し、船舶海難に係る各種データを踏まえ、必要とされる海難防止施策を省庁間で緊密に連携し、関係団体の協力を得て、各種施策を展開することとしています。
 特に、海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数の減少へ向け、漁業者への救命胴衣の着用を推進することとしています。
 
東京湾海上交通センターのAIS陸上局が本格運用を開始
 これまで東京湾海上交通センター(通称:東京マーチス)では、東京湾内の航行船舶の安全を確保するため、必要な情報を海域周辺部に設置された高性能レーダーにより収集・解析し、航路を逸脱、衝突・座礁などの危険が迫った船舶を認めた時は、国際VHFを使用し呼び出していますが、海上交通安全法及び行政指導に基づいて事前に船名などの通報のない1万トン未満の船舶の場合は、船名不詳のため、迅速にコンタクトすることができない場合が多々ありました。
 東京マーチスにおいては、平成16年7月1日からAIS陸上局の本格運用を開始し、AIS搭載船舶の船名などの把握が容易となり、海難防止に高い効果が期待できるものと考えています。
 また、東京マーチスからは、AIS搭載船舶に対して、気象、海象、工事などの航海に必要な情報、衝突、乗揚げの注意喚起なども文字情報で提供可能となり、今まで以上に高度な情報提供が可能なことから、海上交通の安全性を高め、環境保護と物流の効率化が図れるものと考えています。
 これらの新たな機能が効果を発揮するためには、基盤となるAISが適切に運用されていることが大前提であり、AISの電源がOFFとなっていたり、航海ごとに必要な目的地などの航海関連情報が適切に入力されていない場合は、誤ったAIS情報が発信されることとなり、東京マーチスや周辺船舶に混乱を与え、海上交通の安全性を低下させる恐れがあります。
 各船舶運航者におかれては、AISの特性をご理解のうえ、適切な運用をお願いします。また、危険の迫った船舶などに対する迅速確実な情報提供手段としてのVHFの重要性については変わりありませんので、VHFの常時聴取についても引き続きよろしくお願いします。


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