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図3 各国バラスト水管理要件
バラスト水関連要件
豪州 1998年8月1日:IMO総会決議A.868(20)と一致した(離岸200海里以上推奨)管理方策導入
1999年5月1日:管理実施記録・報告を強制化
2001年7月1日:洋上バラスト水交換(95%)強制化、DSS導入
ニュージーランド 1992年3月16日:バラスト水交換自主規制(記録保持強制)
1998年4月30日:IMO総会決議A.868(20)に従った(離岸200海里以上推奨)バラスト水交換強制(含:管理計画・記録・報告)
米国 1993年5月10日:五大湖入域船舶に、バラスト水交換・承認代替処理方策、報告強制(離岸200海里かつ水深2,000米以上の海域)
1995年1月30日:上述規制をハドソン河入域船舶に拡大
1999年7月1日:EEZ外から寄港する、バラスト水保持全船舶に対する、管理実施記録保持・報告強制化、バラスト水交換は自主規制(離岸200海里以上かつ水深2,000米以上)
2000年1月1日:EEZ 外から寄港する、バラスト水保持全船舶に対する、バラスト水交換(離岸200海里以上、水深2,000米以上)又は環境的に優しい承認プロセス強制
2000年9月22日:ワシントン州、同州内バラスト水排出予定全船舶に対し、外洋(200海里以上)バラスト水交換強制(沿岸航行船は離岸50海里以上)(承認処理装置運用船を除く)。軍艦を除くすべての300g/t以上の船舶に対し、同州水域入域24時間以上前の報告強制
2001年12月21日:EEZ外からの米国水域入域船に、バラスト水管理通報強制
2004年8月13日:バラスト水管理通報・実施記録簿要件応諾不十分船への罰則追加
2004年9月27日:IMO条約に沿って、離岸200海里以上でのバラスト水交換又はUSCG承認システム運用強制
カナダ 1989年5月1日:五大湖入域船舶に、記録保持・通報強制、バラスト水交換又は承認代替方策任意(できる限り陸から離れた水深2,000米以上の海域)
1998年1月1日:1,000 トン以上のバラスト水排出船に対し、バンクーバー・Nanaimo Fraser川入港船にバラスト水交換、記録保持強制
2000年4月1日:全港に、五大湖入域船舶への要件拡大
2004年4月30日:バンクーバー入港船(港内バラスト水排出予定船)に対し、外洋バラスト水交換強制(1,000トン以上バラスト水排出限定条件撤廃)
英国 1998年以前から:スカパフロー港、受入施設(約6,500トン/時間容量)へのバラスト水排出強制数港が、IMO総会決議A.868(20)の適用要請
ウクライナ オデッサ入港船、黒海入域前に分離バラスト交換強制
イスラエル 1994年8月15日:イスラエル諸港に寄航予定の船舶に、大陸棚又は清水流影響水域から離れた外洋バラスト水交換・記録保持強制、Eilat寄港船に、実施可能な場合紅海外側でのバラスト水交換強制、同国地中海側諸港寄港船に大西洋でのバラスト水交換強制
チリ 1995年8月10日:外国から来航する全船舶に離岸12海里以上でのバラスト水交換・記録保持強制バラスト水交換の証拠が有効でない場合、港内でのバラスト水排水24時間前に、化学薬品のバラスト水への添加強制、バラスト水交換の証拠が有効でない場合、港内でのバラスト水排水の前に、化学薬品のバラスト水への添加強制
エクアドル 外部からの船舶に、バラスト水交換強制コレラ発生地域からの船舶に、バラスト水交換又は薬剤による事前処理強制
ブラジル 2000年4月28日:ブラジル港寄港船に、バラスト水漲水場所・日時及び到着時バラスト水量報告要求、多くの港が、化学薬品によるバラスト水処理要求
アルゼンチン 1990年頃から:ヴェノスアイレス港、コレラ発生地域からの寄港船に、バラスト水の塩素消毒強制(塩素は、バラストタンクの通気管を通じてバラスト水に添加)
パナマ パナマ運河内でのバラスト水排出禁止
中国 1996年:検疫伝染病区域(主にO-157)からの船舶に薬剤殺菌強制
 
諸外国の規制の現状
 国際条約化を待たずに規制化が広がりつつあるのが現状である。手持ち資料に基づき各国の規制状況を【図3】に列記したが、現状の各国規制のすべてについて網羅したものではない。
 豪州は、1998年7月1日、50mを超える長さのすべての外航船および豪州船舶に対し、バルカーには$210、その他のタンカーを含むすべての船舶には$140を課徴金として四半期に1回徴収し資金とするという、戦略的バラスト水研究・開発計画を開始した。徴収総額が$200万に達する日か、2000年6月30日のいずれか早い方まで実施するとのことであったが、実際には2000年6月30日に終了している。今後、バラスト水の研究などのためこのような課徴金を船舶に課す国が出てくる可能性も否定できない状況にある。
 
バラスト水の処理システム
 バラスト水処理システムについては、船舶・船舶設備・乗組員にとって安全で主管庁の認証が必要であり、化学薬品などの活性物質を使用するシステムについてはIMOの承認が必要となる。
 また、バラスト水排出基準効力発生日前に、将来有望なプロトタイプによるバラスト水処理技術の試験・評価を行うための主官庁承認プログラムへの参加船舶については、同排出基準への応諾要求日から5年後までは、同基準不適用となる。
 さらに、排出基準の効力発生日後に、排出基準を上回る処理技術となる可能性を持つ将来有望なバラスト水技術の試験・評価を行うための主官庁承認プログラムへの参加船舶については、当該技術搭載日から5年間は、排出基準の適用が中止される。
 一方で、条約の規定により、排出基準の最も早期の効力発生日よりも3年以上前に開催のMEPC において、安全性・環境上の容認性・実行の可能性・経済性・生物学的有効性を考慮した、排出基準達成への科学技術の利用可能性について、見直しが実施されなければならない。
 
米国のバラスト水処理基準動向
 米国においては、全国的に2004年9月27日から、採択された条約に沿った規制が実施されることになる。沿岸で貿易に従事する油タンカー、米国軍艦、USCG 船および内航船を除く、EEZ 外から米国に寄港するすべてのバラスト水タンク所持船に対する、離岸距離200海里以上の海域でのバラスト水交換が強制となり、また、バラスト水交換の代替として、USCG が承認する、バラスト水交換の性能以上で、近い将来策定予定の船外排出基準を満たすバラスト水処理システムの運用も認められることになる。米国議会の法案におけるバラスト水排出基準案については【図4】の内容となっており、条約基準に対し、コレラ菌を除き、プランクトン類で100倍、大腸菌で約2倍、腸球菌で約3倍厳しいものとなっている。
 これらの値は、2004年2月の外交会議時に米国が主張したプランクトン類処理基準0.01生存数/lよりも一桁甘い基準であり、その他のものについては同じ数値の基準である。いずれにせよ、条約よりかなり厳しいバラスト水処理基準が考えられている。
 
図4 米国議会におけるバラスト水の排出基準法案
最小寸法50μm以上の生存生物 0.1個/m3未満
最小寸法10μm超50μm未満の生存生物 0.1個/ml未満
コレラ菌(O1及びO139) 1cfu /100ml未満又は1cfu
大腸菌 126cfu/100ml未満
腸球菌 33cfu/100ml未満
 
 一方で、USCG は将来的に有望なバラスト水処理システム開発を促す実船実験のための“船上技術評価プログラム”を2004年4月1日から実施している。このプログラムは、条約の規定“プロトタイプバラスト水処理技術”に準じたものと考えられる。
 
まとめ
 今回、ようやく採択に至った船舶バラスト水・沈殿物管理に関する国際条約は、船舶バラスト水の排出に伴う外来水生生物の侵入による、環境/人間の健康/財産/資源への障害、生物多様性への阻害、あるいは侵入水域の有効な利用を妨げる可能性のある水生生物/病原体の侵入の、最小化・防止・最終的除去をめざしたものである。
 国際法的背景としては、1982年の国連海洋法条約及び生物の多様性に関する条約において、生態系、生息地又は種を脅かす外来種の導入を防止・軽減することが規定されている。
 1992年国連環境開発会議(地球サミット)におけるリオ宣言基本方針も、同様のことを呼びかけており、国際海事機関(IMO)に対し、バラスト水排出に関する適切な規則採択のための審議を要求していた。
 また、2002年南アフリカのヨハネスブルグで開催された、2002年の持続可能な開発に関する世界サミット(Rio+10)も、バラスト水内の侵略外来種を取扱う方策の開発を加速するため、あらゆるレベルでの措置を求めていた。
 また、IMOばかりでなく、WHO(世界保健機関)も、バラスト水排出が危害となるものと認識している。
 このような状況下で採択に至るまで10数年かかってしまったのは、バラスト水交換の効果、安全性、交換海域の確保、バラスト水処理システム未開発などの問題点があったからである。
 採択後、アイルランドがEU諸国を代表して、環境保護の面から採択に歓迎の意を表明したのに対し、ICSが海運界などを代表して、少なからぬ問題点が解決されないまま採択されたことに対し、条約の実施に懸念を表明したのが印象的であった。


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