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(Endnotes)
(1)追跡権の籍指摘展開については、Susan Maidment, S.,“Historical Aspect of the Doctroine of Hot Pursuit”British Year Book of International Law, Vol. 46 (1972), pp.365-381, 中村洸「継続追跡権の法理」前原光雄教授還暦記念『国際法学の諸問題』(1963)、492-540頁。
(2)追跡権のいくつかの要件に関する考察として、拙稿「追跡権をめぐる最近の動向」財団法人海上保安協会『平成15年度各国における海上保安法制の比較研究―海上保安体制調査研究委員会中間報告書』(2004年)、11-28頁、及びその注に参照した文献参照(以下、兼原「追跡権をめぐる最近の動向」)。
(3)同上、12-18頁。
(4)たとえば、Allen, C.H.,“Doctrine of Hot Pursuit; A Functional Interpretation Adaptable to Emerging Maritime Law Enforcement Technologies and Practices,”Ocean Development and International Law, Vol. 20 (1989), pp.318-320.
(5)1930年代の学説や諸国の見解について,Gidel G., Le droit international public de la mer, Tome III (1934), pp.340-350; O' Connell II, D. P., ed. by Shearer, I. A., The International Law of the Sea, Vol. II (1984), pp.1075-1079.
(6)かりに、一定の事項についてのみ領海沿岸国の管轄権行使を認める接続水域から追跡権行使を認めるとすれば、事項についての選別という意味での接続水域の「(海域単位ではなく事項単位という意味で)機能的」性質と、追跡権における執行権のみの公海への伸張という二重の意味での機能的性質が成立する。この点については、接続水域で領海沿岸国に管轄権行使が認められる対象事項の性質と、より新しい法制度である大陸棚やEZで沿岸国に権利が認められる対象事項の性質との比較という点で後述する。
(7)追跡権の根拠となる法令違反の程度・重大性の問題についてReuland, R. C., "The Customary Right of Hot Pursuit Onto the High Seas: Annotations to Article of the Law of the Sea Convention," Virginia Journal of International Law, Vol. 33 (1993), pp.566-569. 領海における軽微な法令違反でも、国連海洋法条約19条2項1の「通航に直接関係を有しないその他の活動」に該当すれば、違反船は無害通航権を失うのであり、これを追跡しても無害通航権とは抵触しないという点について、ibid., pp.568-569. これに対して、軽微な法令違反を根拠とする追跡権行使は、それにより公海上の航行の自由を制約するにいたるのは均衡性を欠くという見解として、O' Connell, op. cit, p. 1080.
(8)もっとも、2001年の日本と北朝鮮の首脳会談において、北朝鮮が、それまでの不審船事例群に北朝鮮軍のいずれかの機関が関与したことを公式に認めるまでは、報道機関をはじめとして「不審船」と呼称されていた。本稿では、2001年事例は工作船事例とするが、それ以外については、一般的な通称として、不審船事例とする。
(9)1999年の不審船事例では、対象船舶が日本籍を表示しており日本船に対する執行という想定が可能であったし、かつ、船籍詐称の疑いという点では、船舶法違反も追跡権の根拠となしえた。この事例について、坂元茂樹「無害でない通航を防止するための必要な措置―不審船への対応を考える―」財団法人海上保安協会、平成11年度周辺諸国との新秩序形成に関する調査研究事業報告書『海上保安国際紛争事例の研究』第一号(2000年)、46頁以下。2001年の工作船事例について、Atsuko Kanehara, "The Incident of an Unidentified Vessel in Japan's Exclusive Economic Zone," The Japanese Annual of Internatinal Law, No. 45 (2002), pp.116-126. また、1999年不審船事例および2001年の工作船事例について、拙稿「沿岸国としての日本の国内措置」ジュリスト、No. 1232(2002年)、63-64、66-67頁(以下、兼原「沿岸国としての日本の国内措置」)および、兼原「追跡権をめぐる最近の動向」、19-22頁。
(10)ある法令違反の疑いにより外国船舶を領海から追跡したところ、実際に臨検をした結果、別の法令の違反であった場合に、そのような追跡権は許されるという学説は存在する、Gidel,op.cit., p. 352. EZからEZに適用のある国内法令違反の疑いで追跡したところ、結果的に、EZに適用のない国内法令の違反が明らかになった場合に、かかる追跡権行使は国際法上合法とはいえないことについて、兼原「追跡権をめぐる最近の動向」、22-23頁。
(11)たとえば、153回国会衆議院国土交通委員会議事録5号(閉会中審査、平成14年1月10日)縄野克彦海上保安庁長官答弁、2, 3, 22, 23頁、同首藤新悟防衛庁防衛局長答弁、同4頁など。
(12)兼原「沿岸国としての日本の国内措置」、67頁、兼原「追跡権をめぐる最近の動向」拙稿「公海制度の現代的意義」ジュリストNo. 281(2004年), 22-23頁。
(13)巡視船や監視船に遭遇したときに外国船舶が逃走したという事実だけで追跡権が発生する可能性を説く学説として、Reulan, op. cit., p. 571.
(14)沿岸国法令違反と外国船舶の領海内通航の無害性との関係については、国連海洋法条約では、領海条約14条4項も国連海洋法条約19条1項も、分離説にたつと解される。この点についての学説および国家実践の検討として、山本草二『海洋法』(1992年)、123-128頁、兼原「日本の沿岸国としての国内措置」、63頁。そうであるならば、沿岸国の法令違反を行う外国船舶であっても、その通航が「無害」でありうる余地が残る。したがって、論理的には、無害通航を行う外国船舶であっても、法令違反を根拠として、沿岸国が追跡権を行使することはある。そのような追跡権行使は、国連海洋法条約24条1項の「この条約の定めるところ」に111条1項の追跡権規定を含めて解する場合には、国連海洋法条約上許されていることになろう。24条1項は、「この条約の定めるところ」については、無害通航を妨害することを認めているという解釈が成り立つからである。たとえば、国連海洋法条約111条1項および4項の停船信号が被追跡船により視認もしくは聞かれることという点を、被追跡船に対して停船命令を発しなければならないという要件を規定しているとみなせば、追跡権を行使するには、被追跡船に対して停船命令を発しなければならないことになる。「無害な」通航を行う外国船舶に対して停船命令を発することは、無害通航に対する侵害となる。これが国連海洋法条約24条1項「この条約の定めるところ」の解釈によっては許容されているのかという問題になる。もっとも、そもそも追跡権行使の実践が多くないのみならず、軽微な法令違反の場合には、実際には沿岸国は追跡権を行使してはいないこと、通航の無害性を保ちながらかつ沿岸国の法令違反を行うという場合は、軽微な法令違反である可能性が高いことからすると、実際上、ここに想定したような追跡権の行使はあまりないと推測できる。
(15)これらの日本法上の執行関連規定について、とくに、日本領海内の外国船舶との関係で、法令の励行、無害通航の認定、法令違反の認定などの措置を講ずる根拠法としてみた場合の、国連海洋法条約の要件との整合性を含む問題点の指摘として、田中利幸「外国船舶に対する執行と国内法の整備」財団法人海上保安協会、国連海洋法条約に関する国内体制の調査研究事業報告書『海洋法条約に係る海上保安法制』(1994年)40-55頁、とくに、47頁以下。
(16)国連海洋法条約25条は、無害でない通航を「防止する」措置を規定するが、無害でない通航がすでに行われている場合に、それに対する措置や排除の措置を含むと解される。
(17)追跡権行使の要件が「法令違反」であるのに対して、無害通航権との関係では、沿岸国は国連海洋法条約25条に基づき、無害ではない通航を防止するための措置をとることができる。
(18)公海条約23条1項第2文、国連海洋法条約111条1項第2文。
(19)本件については、海上保安事件研究会編集『海上保安事件の研究―国際捜査編―』(1992年)、105頁以下。
(20)麻薬の瀬取り事犯における追跡権行使の実践については、兼原「追跡権をめぐる最近の動向」14-16頁およびそこに挙げた文献を参照。
(21)構成的存在論の「拡大」であるが、これについてはすでに別稿で検討を行ったので、ここではふみこまない。同上およびそこに挙げた文献を参照。
(22)かかる判断を示したイギリス国内裁判事例について、同上、15頁。
(23)イギリスの国内裁判事例について、同上。ただし、別の判例では、イギリス領域内で刑事犯罪を実行するための域外共謀(extraterritorial conspiracy)は、イギリスの管轄権下で公然(overt)の行為が行われることがなくても、裁判審理を行いうると判示した例もあるので、一貫しているとはいえない。Gilmore, W. C., "Hot Pursuit: The Case of R. V. Mills and Others," International and Comparatively Law Quarterly, Vol. 44 (1995), p. 956.
(24)たとえば、先にあげたイギリスの国内裁判事例では、麻薬の洋上転載から60時間以上、密輸船が領海にはいってから54時間以上、転載船と密輸船が離れて航行を開始してから65時間以上を経過している。
(25)こうした判断を示したカナダの国内裁判事例について、兼原「追跡権をめぐる最近の動向」14頁。
(26)イギリスの国内裁判事例について、同上15頁。
(27)この点は、公海条約23条1項および国連海洋法条約111条1項の法令に「違反した(hasviolated)」の解釈にも関連する。公海条約23条1項の起草過程で確認がなされているが、「違反した」は、違法行為が完了した場合のみならず、「まさに違反が行われようとしている」場合も含む。さらに、予備や未遂が犯罪として国内法上構成されている場合には、その行為が完了していれば、やはり「法令に違反した」といえる。旧出入国管理令60条の「出国することを企てた」時点で犯罪は完成していたにもかかわらず、「出国」した時点までまって執行措置を開始した日本の国内裁判例として、フェニックス事件がある。当該事件については、海上保安事件研究会編集『海上保安事件の研究』113頁以下。同事件についての分析として、田中利幸「追跡権または接続水域」財団法人日本海洋協会、『海洋法・海事法判例研究』第3号(1992年)、51-55頁。
(28)X国領海で法令違反を行った外国船が一旦領海を出て、後に再びX国領海にはいった場合に、ここにいう論理により当該船舶に対してX国が当該法令違反を根拠として執行措置を講ずることは、それが、国連海洋法条約25条にいう「無害でない通航」に対する措置であるとみなされる限りにおいて許容される。他方で、追跡権については、即時性・継続性要件を、沿岸国管轄権の実効的行使という観点から解する限り、一旦領海をでるまで放置しておいた沿岸国を保護する必要はないといえる。それゆえに、かかる執行措置に対する「逃走」を新たな法令違反と構成できるときには、これを根拠とする追跡権行使の余地を認めることになる。
(29)被追跡船が逃げ込んだ他国領海において追跡権行使を継続すれば、追跡国船舶による執行措置および追跡権行使が「無害通航」に当たらない以上、当該領海沿岸国は、無害ではない船舶に対する措置をとれるし、そもそも、他国領域内で執行措置を講ずるという権力行使をすれば、領海沿岸国の領域主権の侵害である。以下は、領海沿岸国の合意があることを前提とした検討である。こうした検討を行う学説として、Reuland, op. cit., pp.577-579.
(30)第三国であるB国に対して、その無害通航権に対する制約の受忍を義務付けるような条約をA国とC国間で締結しても、B国の明示の合意がない限り、かかる義務にB国は拘束されない、条約法に関するウィーン条約35条。


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