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3 シナリオの検討による官民の連携方策の検討
(1)現状の未然防止策
 海上セキュリティ対策の現状
 いわゆる9・11米国同時多発テロの発生を受け、我が国においても海上におけるテロを防止するため、官民がそれぞれ次のような対策を講じている。
イ 海上保安庁(資料22)
(1)巡視船艇・航空機による監視等
・港湾や航路付近での監視警戒を徹底
・旅客船への海上保安官の警乗を実施
・警察等関係機関や東南アジア海上警察機関等とのテロ対策
・合同訓練を実施
・マラッカ・シンガポール海峡等東南アジア海域に海賊しょう戒のため派遣したヘリコプター搭載型巡視船及びファルコン(中型ジェット機)により日本関係船舶へのテロ警戒等を実施
(2)外国船舶に対する立入検査等による水際警戒
・本庁及び各管区本部等でテロ関連情報等の収集・分析を行い、これに基づき注意を要する船舶への立入検査・監視等を実施
(3)臨海部の重点警備対象施設の警備
・原子力発電所や港湾危険物施設等の重点警備対象施設の警備を強化
(4)航行安全情報(航行警報)の提供
・我が国沿岸、太平洋、インド洋を航行する船舶にテロ関連情報や危険水域に関する情報を提供。インド洋周辺海域においては、航行する日本関係船舶の動静を無線等により把握するとともに、戦闘海域等の警報を無線等により提供
(5)海事関係者等への自主警備の徹底
・海事関係者、マリーナ、事業者等に対し、自主警備の徹底を指導。また、漁業関係者に対し、不審情報の提供等を依頼
(6)港湾危機管理官等の配置(港における関係機関との連携強化)
・東京、横浜、名古屋、大阪、神戸の五大港に「港湾危機管理官」(内閣官房併任)、五大港以外の港湾118ヵ所に港湾危機管理担当官(海保及び警察職員)を設置し、港湾管理者、海保、警察、入管、税関等の関係機関等との連携を強化。また、各港湾においてテロ対策合同訓練等を随時実施
(7)国際船舶・港湾保安法に基づく対応
・外国から日本に入港しようとする国際航海船舶等に対し、船舶保安情報(事前入港通報)により保安措置の実施状況や港湾施設等に対して生じる危険のおそれの有無等を把握し、必要により立入検査を実施し、場合により入港禁止措置等を実施
ロ 各船社及び船舶(資料23、24)
 平成16年7月1日から施行された「国際船舶・港湾保安法」により、船社と船舶は自船についての保安評価を行い、国が定める保安レベルに応じて、人員・貨物・船舶を防護するための船舶保安規定を作成し、常備しておくことが義務付けられた。また、テロに対する予防、対策等を船社や船舶職員に教育・指導するための船舶保安統括者や管理者を配備し、船舶保安規程を策定・運用させ、保安訓練等を行なうことも義務付けられた。
 現在は保安レベル1に従い、
・制限区域の設定、施錠
・船舶への部外者等の出入管理
・荷物等船内持込品の点検
・船内の巡視又は監視
・自船周辺の監視
・関係行政機関及び埠頭保安管理者その他の関係者との連絡及び調整
等の保安措置を厳格に実施しているところである。また、船舶保安規程等に従い、定期的に関係者への訓練を実施している。
ハ 港湾(資料23、24)
 平成16年7月1日から施行された「国際船舶・港湾保安法」により、港湾施設保安計画(埠頭保安規程、水域保安規程)を策定し、埠頭保安管理者による教育・訓練等が実施されている。
 現在は保安レベル1に従い、
・制限区域の設定
・制限区域における出入管理
・貨物等の制限区域内への持込に係る点検
・重要国際埠頭施設内の巡視又は警戒
・重要国際埠頭施設前面の水域の監視
’関係行政機関及び船舶保安管理者との連絡及び調整
等の保安措置を厳格に実施しているところである。また、埠頭保安規程等により定期的に関係者への訓練を実施している。
ニ 緊急事態における政府(内閣)の対応(資料24)
 テロ事案等が発生した場合には、24時間体制で国内外の重大事件や事故・災害等の情報収集を行なっている「内閣情報集約センター」に情報が集められ、そこから直ちに首相官邸内の危機管理センターを経由し、内閣総理大臣、内閣官房長官等、主要な官邸メンバーに当該事案発生の情報が伝達され、事態に応じ首相官邸において対策室が立ち上がるシステムとなっている。
 官邸危機管理センターには、事前に登録されている関係省庁の局長級幹部(緊急参集チーム)が緊急参集し、対応策を協議するとともに必要に応じて関係閣僚級会議を開催し政府としての対応を策定していく、というシステムになっており、迅速な情報集約と意思決定が可能となっている。
ホ その他(資料25)
 各船社では積極的にテロ対策等の洋上訓練を実施している。
 例えば日本郵船株式会社では、およそ600隻の支配船について世界的な動静監視を行い、自社船の動静を把握している。また、2004年9月16日にはシンガポール当局(MPA)と合同テロ訓練を実施している。
 
(2)シナリオ(検討ワークシート)の分析
 シナリオにより想定した船舶へのテロ行為について、当該テロを未然に防止し、また、万が一テロが発生した際に、的確にこれを対処するため、官や民がどのような視点でセキュリティ対策を捉え、共体的な連携方策を考えていくべきか、について検討を進めていくため、次のとおりシナリオの分析を行った(資料20、21)。
イ 《フェーズ(段階)》
 よりきめ細かい分析・検討を行うため、シナリオを幾つかのフェーズに分割。
ロ 《テロリスト等の行動》
 それぞれのフェーズにおいてテロリストが当該テロ行為を実行するために起こす行動。
ハ 《現状の措置(保安レベル1)》
 国際船舶・港湾保安法において現在、船社や港湾管理者等に義務付けられている保安措置(自主警備)の概要。
ニ 《検討ポイント》
 テロリストの行動を未然に防止するため、又は、テロ行為により発生した被害を必要最低限に止める(局限化)ために、検討が必要と考えられるポイント。
ホ 《解決策(案)》
 各フェーズにおけるテロリストの行動を未然に抑止し、又は適切に対処するために必要な官民の具体的な連携方策案
 
(3)各シナリオにおける官民が連携した未然防止策の検討
 (2)で示した分析に基づき、テロの未然防止に係る官民の連携のあり方について以下のとおり検討を行った。
イ 【運航支配型】
《フェーズ1(テロ対象船舶の選定)》
 テロリストの標的となる船舶には、標的とされる様々な条件(船種乗客の国籍、出入港地、貨物等)が存在すると考えられるが、仮に同条件の船舶であればセキュリティ対策が低い(とテロリストに判断される)方の船舶が標的されることは瞭然である。
 このため如何にセキュリティポリシーを高く保ち、警備の間隙を見せない体制を構築するかが重要な点となる。これには例えば、
・保安措置の確実な履行(効果的な教育や操練の実施)
・官民連携による合同訓練等の実施(テロリストヘの強い警告・テロの抑止効果)
等が有効な対策になるものと考えられる。
《フェーズ2(テロリスト等の乗船、不審物等の船内持込)》
 船舶運航支配型の場合、テロリストは犯行を実現するためには、必ず銃器等の凶器を携行し、対象船舶に乗船しなければならない。
 テロリストにとっては自己の身を晒して犯行を行なうというリスクを抱えることから、セキュリティ対策が確実かつ適切に履行されている保安環境であれば、当然その分だけテロの標的となる確率が低下すると考えることができる。
 このため、如何にテロリストが乗船しにくい保安的な環境を醸成し、また、乗員や乗客が不審事象を見過ごさない「警備の眼」を持つかが重要な点となる。これには例えば、
・乗客への自主警備協力依頼
(例:不審な者や物を見かけた際の乗員への連絡について、ポスターや船内放送で協力依頼を呼びかける)
(例:「海上保安官立ち寄り所」のポスター等を設置する)
・効果的な教育訓練、操練等の実施
(例:最新のテロ事例の学習と不審事象を確認するための知見の付与)
・適切な知見を持った乗員による乗船時等の手荷物検査
・適切な知見を持った職員による船内巡視
・官民合同による研修会等の開催
(例:不審事象発見時の対処要領や所轄保安部署への連絡・連携方策等の確認)
等が有効な対策になると考えられる。
《フェーズ3(船橋の占拠・船内支配)》
 不幸にもフェーズ1、2でテロの発生を未然に防止できず、テロリストが標的を選定し、乗船に成功し、活動を開始する事態に至った場合、当該事態に主体的に対処するのは、司法警察権限と専門の人的・物的勢力を有する治安機関になることは論を待たないところである。
 しかしながら、当該事態が発生している船舶の乗員や乗客、更には船社や港湾管理者等との連携や協力が得られなければ、事態解決に向けたオペレーションを的確に遂行することが困難となる。
 このため、「事案発生の際に齟齬なく緊密な連携を官と構築する」ための平時からの取組み(官と民との連携)が必要であると考えられる。これには例えば、
・官民でのテロ事例対処に係る検討会(勉強会)の実施
・官民での机上訓練、実働訓練の実施
等が有効な対策になると考えられる。
 また、官の最も有効なテロ未然防止対策の一つとして、海上保安官の定期的な旅客船やフェリー等への警乗が上げられる。
ロ【船舶攻撃型(船艇による自爆攻撃)】
《フェーズ1(テロ対象船舶の特定)》
 船舶攻撃型においても、船舶運航支配型と同様にテロリストが標的に選ぶ船舶は、同一の条件(船種、乗客、貨物、出入港地等)であれば、セキュリティ対策の高い船舶のほうが狙われ確率が低くなることは明白であることから、フェーズ1における有効な対策については、「運航支配型」と同じと考えることができる。
《フェーズ2(爆装艇による着桟中の船舶への接近・自爆)》
 爆装艇が対象船舶に接近する事態に至った場合、以下の事由から当該行為に対し、確実なセキュリティ対策の履行と、高い保安環境をテロリスト側にアピールしたとしても、自爆攻撃自体を回避することは困難であると考えられる。
・テロ行為者自身が自決を覚悟していること
・不審事象の見極めが困難であること(早期の段階から自爆艇であることを認知することが困難)
・自爆行為は簡単かつ瞬時に実行可能であるため、当該行為(接近・衝突)を防ぐための船体回避措置が講じにくいこと
 このことから、爆装艇による自爆テロを木然に防止するには、的確な情報分析に基づいた治安機関による重点的な警戒警備が何より重要である。また、マリーナや漁協・漁港等、海事関係者のほか、沿岸住民等の一般市民への不審事象に対する連絡協力やボート等の盗難防止対策の徹底等の対策も効果的である。
 一方、万が一、自爆テロを受けた場合であっても、火災や浸水、油の流出等の被害を最小限に止め、2次災害の発生・拡大を防止(被害の極限化)する観点から、
・安全対策を確実に履行(防火・防水、避難誘導、総員退船訓練等の演練)
・港湾サイドとの緊密なインターフェースの構築(平時・有事における情報共有、合同訓練等)
等が有効な対策になると考えられる。
ハ 【船舶攻撃型(不審物による攻撃)】
《フェーズ1(テロ対象船舶の特定)》
 他のシナリオにおけるフェーズ1と同様の対策が有効であると考えられる。
《フェーズ2(不審物による危険物の船内持込、設置)》
 運航支配型におけるフェーズ2の対策に加え、特に本タイプのテロはテロリストが対象船舶に乗船した上で不審物(爆発物)を設置することが最大の特徴であるため、「不審な物(普段からそこにあるべき物ではない)に気づきやすい」環境を作っておくことが有効な対策であると考えることができる。これは例えば、
・船内の整理整頓を図るとともに、特に乗客が集中して集まる食堂や便所、エントランスホール、娯楽区画等には区画巡回担当者等を選任の上、定期的な巡視確認を励行させ、普段から設置されている機器や設備とそれ以外の設置物とが容易に識別できるような環境を整備
・枢要区画(機関室、危険物保管場所、船橋等)の立入制限
・保安教育等により爆発物テロ事例を取り上げ、私製爆発物等の仕様や設置箇所に関する知識を有しておくこと
・防爆マット等の簡易爆発物対策用資機材を備え、必要な訓練を実施
等が有効な対策になると考えられる。
 また、船舶への爆破予告電話等があった場合に備え、必要に応じて所轄海上保安部署等の協力を得て対応マニュアルを策定し、同マニュアルによる対応訓練(例:電話聴取⇒管轄保安部署連絡⇒乗員による船内検索⇒海上保安官による船内検索)を定期的に実施しておくこと等が考えられる。
《フェーズ3(不審物の爆発)》
 不審物が爆発した後の対処の考え方は、基本的に「船舶攻撃型(自爆艇による攻撃)」におけるフェーズ3の考え方と同様である。すなわち、被害の局限化のための所要の訓練を行っておくことが有効であると考えられる。


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