2 脅威の分類及びテロのシナリオ化
船舶への脅威については、様々の態様が考えられるが、陸上におけるそれと比較した場合、件数的にはそれほど多く被害が発生しているわけではない。
しかしながら、海上という特殊な環境を考えた場合、警察機関等の監視の眼が行き届きにくいこと、夜間等においては不審事象を認知しにくいこと、船舶自体が大きくかつ迅速な回避行動ができないこと等の側面から、テロや犯罪の標的としては比較的簡単に攻撃が可能であり、その効果(被害)も高く、テロリストや他の犯罪者にとっては魅力度の高いターゲットであると分析できる。
船舶に対するテロの脅威の態様について考察した場合、先に「1 海上テロに関する現状と傾向」において示した過去の事例を踏まえて、いくつかのパターンが想定されうる。そこで、船舶に対するテロの脅威の類型化を試みた上で、具体的な危機管理対策を検討するという手法を用いることとする(資料17)。
まず、本委員会において検討するターゲットを「テロリズム」に絞る必要がある。そのため、船舶に対する脅威をテロリズムに属するものと属さないものとに分けた上で、前者を検討の対象とすることとする。
「テロリズム」とは何か、ということとなるが、本委員会では以下のような分類を試みた。
[テロリズムに属する脅威]
【政治上の主義主張等を目的として引き起こされるもの】
[テロリズムに属さない脅威]
【金銭その他の財産等の強奪等を目的として引き起こされるもの】
テロリズムついては、世界的に統一された定義はないものの、我が国の警察及び海上保安庁においては、
「広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行なわれる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動」
と定義されている。
このため、政治上その他の主義主張、つまり政治思想の相違や人種又は民族間の主義主張、若しくは宗教上の価値観の相違等を起因として生起する暴力主義的な活動、すなわち、殺人や妨害破壊活動については、これをテロリズムとして定義づけることが可能である。
他方で、経済的な欲求を充足させるために生起する「海賊」については、仮にその行為者が武装を施し、乗員の殺害に及んだとしても、その目的は、金銭財産等の物質的な欲求を満たすためのものであり、政治上その他の主義主張によるものとは言い難い。ゆえに海賊には「自爆攻撃」等の自己犠牲をも厭わない犯行手法による目的の達成は、到底在り得ない。
以上のことから、本委員会では、検討を進めるための当面の整理として、とりあえず船舶に対する脅威を「テロリズムに属する脅威」と「テロリズムに属さない脅威」とに分け、小型艇等による自爆攻撃やシージャック等については前者に、海賊や船内暴動については後者に分類することとし、本委員会ではテロリズムに属する脅威について、考えられるその種類と具体的な想定(シナリオ)について検討を進めていくこととした。
検討対象とする船舶に対するテロリズムのうち、「1 海上テロに関する現状と傾向」に示した過去の事例を踏まえて、いくつかの形態に分類して検討を行うこととした。そこで、以下のとおり分類することとした。
イ 運航支配型
いわゆる「シージャック」と呼ばれるタイプのテロで、船橋を占拠し船舶の運航を支配した上で、乗員乗客を人質にとり、対象国政府に対して政治要求等を行うケースが考えられる。「1 海上テロに関する現状と傾向」で示した事例の中では、「アキレ・ラウル号乗っ取り事件」がこれに相当する。
ロ 船舶攻撃型(船艇による自爆攻撃)
危険物積載船等に対し、爆薬を搭載した小型艇により操船者もろとも体当たりし、爆発することにより対象船舶や乗員乗客を破壊・殺傷せしめるタイプのテロで、イスラム系過激派等が行なう代表的なテロ攻撃である。
特にイラクでは自動車を使用した自爆テロが数多く発生している。過去においても、「1 海上テロに関する現状と傾向」で示した事例のうち、イラク・バスラ沖海上石油施設テロ事件、コール号事件や「ランブール号」爆破事件が該当する。
ハ 船舶攻撃型(不審物による攻撃)
船内に爆発物を仕掛け、これを爆発させることにより対象船舶や乗客乗員を破壊・殺傷せしめるタイプのテロで、不特定多数の人間が乗下船する、フェリーや旅客船で発生する可能性が高い。事例としては、「1 海上テロに関する現状と傾向」で示したもののうち、フィリピン「スーパーフェリー14」爆破火災テロ事件が該当する。
資料18「船舶に対するテロ行為の類型表」では、これまでの過去のテロ事例はもとより、陸上でのテロ事例も参考にし、本委員会での検討の一つの切り口として船舶に対するテロ行為の類型を、表にまとめた。また、本委員会では、スケジュール的な制約等も考慮し、船舶に対する最もベーシックなテロ想定として、日本領海内に位置する日本籍船へのテロ攻撃を検討対象とした。
今後、この整理に従い、「船舶運航支配型」、「船舶攻撃型(船艇による自爆攻撃)」、「船舶攻撃型(不審物による攻撃)」の3つのパターンについて、具体的なシナリオを想定していくこととした。
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