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5. 上海水上安全監督規則について
 上海は、長江南岸、黄浦江との合流点に位置し、国際運輸、遠洋輸送の中枢となっている。上海港は我が国には例を見ない大規模な河川港であり、外海から長江河口を経て、黄浦江に至る複雑な航路を形成している。このため、上海海事関係当局は、上海水域における特別規定「上海水上安全監督規則」を設けて船舶交通安全を図っている。
 本規則は第一章において、本規則の目的や上海水域を黄浦江、長江口、杭州湾北岸水域に区分し、各海域の航法等を規定するとともに、海事局がこれら海域における船舶交通の監督管理機関である旨を明確に規定している。
 上海水域においては、船舶の入出港手続、通過航行の方法、外国船舶に対する強制水先のほか、人員配置や安全検査、火気作業の禁止、必要経費の納入等が規定されているほか、積載重量超過等状況によっては船舶の航行が禁止される場合もある。
 船舶の具体的な航行方法についても規定が設けられている。例えば、見張り、航路航行、右側航行、船舶の行動予報及び報告、船長による当直、VHFの聴守義務、速力制限、追越や並列航行の禁止、航路内での錨泊禁止、交通管制、視界不良時の航法(航方)、台風対策、上下船及び荷役及び試験運転等、各方面について様々な規定が設けられている。
 黄浦江(内港)は、上海バンド沿いに位置しており、大小様々な船舶が通航し、船舶交通は非常に輻輳する海域であり、流速も比較的速いため特殊な航法が必要となる。こうした状況に対応するため、速力制限、逆流船と順流船の避航方式(縦列航行、追越し禁止水域、横断及び横切り方法、回頭方法、離着桟、シフト及び入出渠方法、船溜まりや支流港における入出方法及び橋梁通過方法等)について、個別に規定が設けられている。
 長江口(外港)は、外海と上海内港の結合部分であり、水先業務や航路使用に関する規定が設けられている。航路上をこれに沿って航行する船舶と横切り船舶間の避航方法、喫水制限船舶の航法等が具体的に規定されている。また、杭州湾北岸水域新港においては、水先錨地、外国籍船舶航行禁止水域についての規定が設けられている。
 船舶の係留及び錨泊方法等についても様々な規定が設けられている。上海水域は新旧各種船舶が錯綜する水域であり、埠頭やブイへの係留方法、横付け方法、筏の停泊方法、錨泊方法や船舶の曳航方法に関する規定が設けられている。また、漁具設置や水上工事、イベント開催に関する規定も設けられている。
 灯火や船舶間の通信方法についても規定が設けられている。クレーン船、非動力船、旅客フェリー、巡視船及び係留ブイは規定に従って灯火を掲げ、関係船舶はVHF無線機による通信を実施しなければならない。
 引き揚げ救助を実施した場合は救助報告が必要となり、海事局は救助を調整し必要な指示を行う。船舶が事故を起こした場合は海事局に報告しなければならず、海事局は事故の調査及び処理を行い、必要応じて調停を実施する。
 上海港においても船舶事故等に伴う汚染事故が発生しており、船舶汚染防止規定が設けられている。汚染防止証書及び汚染防止設備、油汚染緊急計画、バラ積み石油及び化学品作業、作業申請、造修及び引き揚げ、船舶解体、タンク洗浄等について細かな規定が設けられている。また、黄浦江(内港)上流域において汚染事故が発生した場合、飲料水に影響を及ぼす恐れがあるため、当該水域を保護水域に規定し、バラ積み石油及び液体化学品作業、ビルジの接収を禁止している。汚染物質の排出及び接収処理方法、緊急時計画、汚染に伴う損害賠償についても規定を設けている。
 船舶による事故を防止するための指揮系統、強制措置、公安管理等について規定が設けられており、罰則、訴訟手続、強制執行等についても規定されている。
 なお、特別研究のテーマに関連し、翻訳した「上海水上安全監督規則」の訳文を末尾に添付する。
 
6. 結び
 今回訪問した各組織は我々を暖かく歓迎していただき、中国海上保安機関から様々な聞き取り調査をすることができた。今後、両機関の良好な協力体制の構築には、このような交流の積み重ねが必要であると考える。また、現在、日中間では東シナ海等の海洋権益が問題となっているが、中国の海事関連法令、海事関係機関を対象とした研究は数少なく、継続研究が必要な分野であるといえよう。
 研究を進める中で、中国語の難しさを体験し、語学の重要性を痛感した。今回の研究で訪問した機関との更なる交流を促進するためにも、今後は語学の研鑽に勤めたい。
 今回の現地調査に当たって、日本財団及び海上保安協会には多大なるご支援を頂いた。ご支援に対し感謝するとともに、本研究を継続して実施し、より充実させていく所存である。


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