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IV 中国海上保安機関の概要及び上海水域船舶交通状況
第4学年第I群  川本祐樹
第3学年第II群 仲田紘介
 
指導教官 基礎教育講座 越智 均 教授
         丸岡 太 講師
         四元吾朗 助手
 
1. 調査研究概要、目的及び必要性
 中国は、我が国にとって最も重要な貿易相手国の一つであり、中国最大の港湾都市である上海は、長江南岸、黄浦江との合流点に位置し、国際運輸、遠洋輸送の中枢となっている。本研究は、我が国には例を見ない大規模な河川港である「上海港」に着目し、水流及び潮流の複雑な影響を受ける船舶輻輳水域において、如何にして交通安全管理が行われ、如何なる法令が適用され、如何なる航法が採用されているかについて調査研究するものである。本調査研究で得られるであろう港湾及び航路事情、船舶交通状況、航法、関係法令等に関する成果は、我が国に来航する中国船舶に対する航法指導、安全対策等の面で利用が可能であり、有益なものになると思量する。
 一方、中国においては、海事局、辺防局及び海洋局の各機関が、それぞれの海上保安業務を実施している。中国の各海上保安機関の組織、職務内容、職務分掌等を調査研究し、正確に把握しておくことは、今後、両国海上保安機関が交流を促進し、協力体制をより堅固なものとするため非常に重大なことであると考える。
 
2. 事前研究
(1)「上海水上安全監督規則」の翻訳
 事前研究に当たっては、上海港が、我が国では例を見ない大規模な河川港であることに鑑み、上海港湾事情、航路事情、船舶交通事情、航法及び関係法令等について把握し、河川及び潮流の影響が著しい水域における船舶管理体制、適用法令、航法等を明らかにすることを目的として、「上海水上安全監督規則」を翻訳し、中国海上保安機関の公開情報を収集、整理した。
 これにより、1、2学年で履修した中国語の知識の幅をさらに広げ、法律用語に関する中国語の知識を身につけることができ、将来海上保安業務を遂行する上で有益なものになると考えることから、教官指導の下、この研究を開始した。
 
(2)中国海上保安機関の概要
イ 交通部海事局
 交通部海事局は、1998年に中華人民共和国港務監督局(交通部安全監督局)と中華人民共和国船舶検査局(交通部船舶検査局)が合併して設立された。中国交通部(日本の国土交通省に相当)の直属の機関であり、水上の安全、船舶による汚染の防止、船舶と海上施設の検査、航海の保証及び管理並びに関係法令を執行する機関である。概ね日本における国土交通省海事局と警備業務を除いた海上保安庁業務とを併せた機能を持つ組織であると思われる。中国各地に省、市レベルの海事局が設置され、上海海事局もその中の一つである。
 中国交通部海事局の海上捜索救助センターと当庁の運用司令室の間では、連絡体制が整備されており、東シナ海で海難等が発生した場合は、しばしば合同捜索救助が行われている。
ロ 公安辺防海警部隊
 公安辺防海警部隊は公安及び軍事の特性を持ち併せた組織であり、近年急速に充実してきた組織の一つで、公安辺防海警部隊は、主として海上における密輸、密航、麻薬販売等の違法行為の取り締まりを実施する機関である。組織、職務、勢力等は秘密扱いで、情報は極めて入手し難い状況となっている。所掌事務として、国境警備、犯罪取締り、出入国管理、消防の業務の分野を担当していると考えられる。
ハ 国土資源部国家海洋局
 国土資源部国家海洋局の実行勢力は中国海監総隊であり、海監の主要業務は、管轄海域において、関連法令に基づき巡視警戒を実施し、中国海洋権益の侵犯、海域違法使用、海洋環境及び資源に与える損害、海洋施設の破壊、海上秩序かく乱等の行為を調査、処理することである。
 
3. 在外調査研究計画
(1)在外調査研究の必要性
 具体的に海事局、海洋局の組織及び職務を調査するため、通達等内部文書、関係法令則等、関連資料の提供を受けるとともに、日本では入手困難な資料及び法令等を現地購入する。また、調査研究を効果的に実施し、その内容を正確に把握するため、担当者と質疑応答を実施する。特に、上海での現地調査にあたっては、地理及び交通面等に関する準備が必要であり、監督機関である「上海海事局」を訪問のうえ予備知識を得ておくことが重要であると考える。上海水域を構成している黄浦江、長江及び杭州湾沿いの港湾施設、同水域の航路及び水路の実態、船舶通航状況を実際に確認するとともに、資料整理に用いる写真等の撮影を行う。可能であれば上海海事局巡視艇に乗船のうえ洋上調査を実施する。
 一方、中国海上犯罪取締機関として近年勢力の充実が著しい海警部隊及び当部隊の母体である公安海警高等専科学校に関する資料は、その機密性から非常に入手が困難な状況にある。これら機関を訪問し、組織、職務、教育方針等について聞取調査を実施し、海上保安大学校の概要を紹介することで、相互理解を深め、協力関係の構築の一助となると考える。
(2)調査研究対象機関
上海海事局
上海辺防総隊
国家海洋局東海分局
浙江省寧波公安海警高等専科学校
(3)調査事項
上海海事局の組織及び職務
上海辺防総隊の組織及び職責
国家海洋局東シナ海分局の組織及び職務
上海水域船舶通航状況
(各種港湾関連施設の状況、航路状況、船舶通航状況、航路標識敷設状況)
公安海警高等専科学校の教育方針、カリキュラム等
(4)現地調査概要
1日目(7月31日)
 広島駅から福岡駅に新幹線で移動、午後、福岡空港から空路で上海浦東空港に到着。
 空港で上海領事館副領事の出迎えを受け、以後、滞在期間中の予定について打合せを行う。
2日目(8月1日)
 中国開発区のシンボル的存在で、上海水上交通の要所である浦東地区を見学。
3日目(8月2日)
 今年、海上保安大学校で開かれた学生国際会議に参加した武装警察学院大学学生と面会、会議後の状況等について情報交換を行い、参考文献を購入。午後、上海海事局の訪問調査を実施。
4日目(8月3日)
 午前中、上海辺防総隊の訪問調査を実施。
 午後、日本領事館付近で副領事と今後の予定等の確認を行う。
5日目(8月4日)
 午前中、国家海洋局東海分局の訪問調査を実施。
 午後上海市内を見学、昼間及び夜間における黄浦江船舶航行状況を観察する。
6日目(8月5日)
 上海虹橋空港から寧波に移動、海警学校幹部(副校長ほか)から会食に招待され、訪問目的等の説明を行う。
7日目(8月6日)
 海警学校訪問の訪問調査を実施。
 午後、会食に招待された後、同校職員の案内で寧波市内外を見学する。
8日目(8月7日)
 寧波空港から上海虹橋空港に移動、宿泊場所で収集した資料の整理を行う。
9日目(8月8日)
 副領事に面会、調査期間中の調査概要について報告する。
 また上海諸事情について補充説明を受ける。
10日目
 上海浦東空港から福岡空港に移動、新幹線で広島に到着。


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