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【船舶交通システムシミュレータについて】
 船舶交通システムシミュレータによりVTS管制官の講習が行われていた。我々のうち2名は海上交通の安全性評価を特別研究の題材としていたため、当初‘Vessel Traffic System Simulator’という名称から、安全性評価のための評価システムが組み込まれているものと期待していたが、実際は解説や作動状況からVTS管制の手続きをシミュレートする機能しか備わっていないものと思われる。各所でのヒアリングにより、日本ではごくあたりまえに行われている港湾の改良などに伴う海上交通評価については、その必要性が認識されているものの、あまり実施されていないようであった。このような海上交通のアセスメント手法は日本がリードしており、アジア諸国に大きく貢献できる分野であると感じた。
 
写真10: 船舶交通システムシミュレータ
 
【機関室シミュレータについて】
 機関室シミュレータ区画には、主機(VLCCなどの大型船用のMAN-B&W社製5L-90-MC)、補機及び機関制御室など実際の機関室と同等の設備が整っていた。機関は実際に作動させることはできない。機関室CRM(Crew Resource Management)訓練においては、バルブの開閉、巡検、出入港の作業等を行う際の手続きが適切な順番でなされているかどうかの確認や機関部員内での指揮系統、情報管理が適切になされているかが主な目的となる。機関室内にはエアコンは無く、実際の機関室さながらの熱さであった。エンジンを起動させるシミュレーションでは、振動を与えたり音響設備により機関室内を模擬した音を出したりできるということであった。
 機関室シミュレータは一般にERS(Engine Room Simulator)と呼ばれるが日本では海技大学校に整備されているほかはあまり本格的な設備を見かけない。帰国後ERSについて調べたところ、ISCで採用されていたERSはKONGSBEG社のERS-11をアレンジしたものであったと思われる。
 
写真11: 機関室シミュレータ(機関制御室)
 
写真12: 機関室シミュレータ(主機室)
 
 ISC職員の話として、訓練や講習の際は受講者の行った手続きが適正か否かを重視し、評価しているという。その理由は、事故は発生以前の手続きに起因しているため、手続きの適正化が安全化につながるからである。ISCで実施される研修や訓練の合格基準は高く、合格者が非常に少ない研修もあるとのことであった。今回の訪問の間に出会ったISCやMPA職員からは世界のハブ港シンガポール港の公的機関の一員としての責任感、使命感、向上心といった熱意が伝わってきた。


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