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III シンガポールにおける海上交通管理及び安全運航管理について
第4学年第I群 楠 浩明
第4学年第I群 中山喜之
第4学年第I群 矢通勝幸
 
指導教官 海事工学講座 長澤 明  教授
         山田多津人 助教授
         田中隆博  助教授
 
1. はじめに
 アジアの流通拠点であるシンガポールにおける海上交通管理及び安全運航管理がどのように行われているかについて、実際に現地に赴き関連施設を調査した。
 調査対象施設は次のとおりである。
(1)港湾オペレーションセンター
(2)統合シミュレーションセンター
 
 両施設ともシンガポール海事港湾局に属しており、(1)は日本では海上交通センターに相当するVTS業務を行う施設である。一方、(2)は各種シミュレータをベースとした大規模な海事シミュレーション施設であり、折しも海上保安大学校で海上保安シミュレーションセンターの運用が始まるタイミングと重なったため、有意義な施設訪問となるものと期待された。
 
2. シンガポール海事港湾局
 シンガポール海事港湾局(Maritime and Port Authority of Singapore、以下「MPA」という。)は、シンガポールを世界的ハブ港として発展させる戦略的目的から、1996年2月2日、それまで海洋省、国際海洋局、港湾局に別々にあった機能を統合して組織された公の機関である。以来、MPAは、海上輸送、船舶の交通管理など海運にかかわる業務やサービスを提供し、シンガポールの港湾発展に大きく寄与してきた。
 MPAでは、海運会社や港湾に関連する企業などの需要に対応するような港湾サービスの質を向上させるため、職員に対する教育を積極的に行っており、MPA職員に個々の尊重のみならず、それ以上に協調性を求めている。
 以上のように、MPAは、日本に置き換えれば国土交通省の運輸局と海上保安庁の交通部の機能をもった組織であると言えよう。海上における救難や警備についてはPCG(Police Coast Guard)、また、防衛に関しては海軍(Marine)があり、それらの組織とMPAとの間には協力、援助関係があり密接な連携がとれている。
 
3. 港湾オペレーションセンター
 マラッカ・シンガポール海峡は、9つのセクターに区分された領域を周辺各国で管理しており、シンガポールはセクター7〜9を管轄している。シンガポールではこのセクター7〜9を東西に2分割し、港湾オペレーションセンター(Port Operations Control Center、以下POCCと記す)により交通管制を行っている。
 POCCは、2箇所に設けられており、東側水域をPOCC1、西側水域をPOCC2が担当している。2つのPOCCは互いに相手のバックアップの役割も担っており、片方のシステムがダウンした場合においてもシンガポールが担当する水域の交通管制に影響がないような体制となっている。また、日常的に互いにクロスチェックを実施することで人的なミスを防ぎ、さらに、互いの技量を競わせることでシステムの信頼性の向上に努めているとのことである。このようなシステム作りについては大いに見習うべきところがあると感じた。
 2つあるPOCCのうち、今回はPOCC2を見学した。このPOCC2は写真1に示す「PSA Vista」と称する施設の一画に設けられている。PSAとは港湾における荷役業務などを扱う民間企業であるが、MPAとPSAの案内役の話から、双方には人的交流があり、業務に関し情報交換や連携がとれているようであった。
 POCCの主要なシステムは、1990年に導入された船舶交通情報システム(Vessel Traffic Information System、以下、VTISと記す)であり、1999年にはシステムの換装が実施されている。最近になってこのシステムにAIS(Automatic Identification System)情報が付加されるようになった。
 VTISは、11のレーダ基地、無線、7つのCCTV、2つの方探、AIS基地などから情報を収集するシステムであり、管制官はそれぞれの管制卓でこれらの情報に基づき業務を行っている。管制卓はlO台ほど設けられており、海上交通センターより大きな施設規模となっている。写真2に示すように、主任管制官が全体を見渡せるような工夫のためか管制卓は扇形に配置されている。
 また、写真3に示すように、各管制卓には制御用のPCを中心として無線、レーダスクリーン、PTMS(Port Traffic Management System)と呼ばれる交通管理システム、CCTVモニタがあり、これらの装置は互いにリンクさせることができる。たとえば、レーダスクリーンで捕捉した船舶情報をPTMSやCCTVモニタに表示するといった機能を有している。システムの規模の違いこそあれ、VTISの持つ機能のほとんどは海上交通センターも有しているものと思われた。
 機能として目に留まったのは、VTISにAISの機能が組み込まれ、利用がすでに始まっていたことである。シンガポール周辺を航行する船舶の8割程度がAISを搭載しているとのことである。日本の港湾周辺ではAIS搭載期限を迎えていない内航船が多く航行するため、当面搭載率の上昇が見込めないのとは対照的に、シンガポール周辺は国際航海に従事する船舶が大半を占めることにより、搭載率が高くなっているものと考えられる。日本の主要水道におけるAIS搭載率が2割程度に留まることを考えると、管制業務への貢献度も大きいものと思われたが、実際にはさまざまな問題を抱えているようであった。
 具体的には、位置通報の自動化が目的であったものの、時としてAISの位置情報とレーダ映像との同定がうまくいかず、特に輻輳した状態ではより困難となるとのことで、現状ではレーダ映像の補助的な情報としての利用にとどまっていた。このような問題はAIS陸上局が整備されつつある海上交通センターでも将来的に抱える問題と思われる。ただ、直感的な感想ではあるが、AISやレーダ映像の機能的な問題というよりは、アルゴリズムなどソフト的な面での問題であると考えられた。
 
写真1: PSA Vistaの外観
 
写真2: POCC2管制室
 
写真3: 管制卓


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