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II 平成16年度海外調査
<仏独出張調査(30/11/2004-09/12/2004)報告>
11/01/2004
神奈川大学 青木宗明
フランス・ドイツ出張調査
(2004年11月30日−12月9日)出張報告
出張者:青木宗明(神奈川大学)、半谷俊彦(和光大学)
 
1、出張調査の課題
(1)地方税における企業課税をどう考えるべきか
・地方の財政自主権vs経済の競争力・企業誘致/産業空洞化
 地方の企業課税を残すとして課税標準はどうすべきか
・仏独で考えられているのは「付加価値」を構成する諸要素
(2)地方税における環境税、特にPPPに基づく課税を導入する可能性はいかがか
 手数料と税の関連をどのように考えるか
 
2、出張調査の訪問(ヒアリング)先
フランス−財政・経済・産業省、マルセイユ市役所、ブッシュ・デュ・ローヌ(県)の地方議員(環境委員会委員長)。
 なお内務省は、国会審議(予算)のために直前にキャンセル。後日、在仏日本大使館の植村氏(総務省)がヒアリング調査。
ドイツ −連邦大蔵省、連邦環境省、ハイデルベルク市役所。
 
3、2カ国クロス調査という新機軸の調査手法について
 今回の出張調査は、調査手法の新機軸として、仏独の専門家が相互に専門外の国を評価するという試みであった。
 ところが今回は、出張の時期に不都合があり、当初のねらいを果たすことは難しかった。その理由は、フランスについて(1)予算の国会審議大詰めであり、最も期待していた内務省ヒアリングがキャンセルされてしまった、(2)青木が報告するように、職業税改革について首相直属の改革委員会の最終報告が出される直前で、フランス国内でも改革方向については憶測以外の話がでてこなかった、ためである。
 このようにクロス調査の成果を十分上げることは難しい時期であったが、報告で述べるように、出張者は2人ともこの方式に意義のあることを大いに実感した。特にフランスとドイツで、経過の事情は同一であるにもかかわらず、最終的な結論が逆を向いた点について、帰国後もさまざまな議論を交わし、今後の推移を占ったりもした。
 今回のように、専門に研究しているため詳細に知っている情報を基準にして、隣国の制度を評価することは非常に有意義であり、今後とも試みる価値の大きい調査手法と確信した。
 
4、調査結果の概要(争点と課題)
(1)地方税における企業課税をどう考えるべきか
 企業・事業課税の負担軽減のプレッシャー(失業、国際競争力、空洞化問題)
仏独ともに、支払給与ベース、資本べース(フランスは設備べース)を廃止
フランスの場合は国の交付金により補償
補償されようがされまいが、明らかに地方の自主財源を奪い去る措置 地方の財政自主権に反するとして批判
課税べースとして残るのは・・・利潤べース(ドイツ)、不動産べース(フランス)
歴史的にみれば、いずれの国でも「付加価値べース」構成要素の選択問題であった
<地代、給与、利潤、利子>のどれを課税標準とするか・・・
今後の地方の法人課税をどうするか・・・
選択肢は
(1)課税廃止、所得ないし消費税を財源とする国の交付金(ドイツの場合は共同税)に代替(ドイツの案)
  ↑
(仏独)廃止した場合、地方の企業誘致へのインセンティブ上の問題。地方行財政と企業活動の結びつきは不可欠
(仏)憲法に明記した「地方自主財源比率」に抵触するため不可能
(2)地方税として残し、課税標準の改革
(2)-a 残る課税ベースを改革なしに拡大(ドイツの案)
(2)-b 最も広いべースである「付加価値」に戻す(フランスの案)
 
(2)地方税における環境税、特にPPPに基づく課税を導入する可能性はいかがか
 手数料と税の関連をどのように考えるか
 
 地方の環境税については、仏独とも課税の考え方はよい考え
 ただし両国とも、地方が税を作ることは不可能
 この点は、政治ないし立法の問題か
 
 手数料と税については、ドイツは手数料、フランスは両方可能だが税が多数派
(仏)税(不動産課税に上乗せ)の方が徴税コストがかからず、簡単
 ただし近年は、ゴミの量に応じた手数料化が提唱されている。
(独)ゴミ減量化、環境保全の意識において仏より熱心、ただし手数料の取り方として、税の場合と大きな相違がないかもしれない
 
地方税における企業課税の行方<フランス>
参考資料(詳細はこちらをお読みください)「都市問題」2000年10月号の青木原稿>
職業税 la Taxe professionnelleの課税標準を巡る改革議論(40年間の紆余曲折)
 
18世紀末から続く事業課税 1975年まで営業税(la petente)
地方税は国税付加税、1917年より付加税の地方税のみ存続
もともとから外形課税 というのは応益課税であり「ショバ代」課税
 
1959年改革法の内容
(1)職業税へ改革すること、
(2)「安定的な指標によって見積もられる」営業資産もしくは事業活動に対する課税であること、
(3)課税標準は、「(1)職業の性格、(2)固定資産及び償却資産(道具)の賃貸価格、(3)一定の生産手段の存在、(4)労働者ないし従業員の数、(5)事業の生産価値を表すその他の要素、ただし売上高と利潤を除く」から構成されること、
(4)課税標準の構成比率は、職業の性質別、コミューンの人口別に変化を付けること、
(5)構成比率は、徴税当局代表、地方議員、職業代表により構成される職業税委員会によって決定されること
 
1975年改革で職業税へ
不動産+設備+支払い給与べース 「付加価値べース」で言えば資本と給与(いわゆる自由業については収入ベースという特例)
*不動産は賃貸価格であり、明らかに収得税として構想
*改革議論の中では利潤の採用も検討されたが、(1)地方団体間の税源分割が困難(応益課税にならない)、(2)景気変動による不安定の欠点により採用されず。
 
創設時より今に至るまで「雇用を阻害、投資を阻害」という批判
中小事業が極端な税負担軽減 設備・従業員の多い大規模製造業に税負担が偏重
さまざまな負担軽減のための減免税措置一減免税による減収は国が負担
中でも付加価値を基準として納税額の上限を定める減税→この点に基づき、「職業税はすでに付加価値ベースになっている」という主張がでてくることになる
 
さまざまな改革提案
1980年 付加価値税へ改革 法律成立 シミュレーションと適用法の成立を待って実施
納税者間&地方団体間の負担変動が大きいために適用法作られず
*さまざまな負担軽減のための減免税措置一減免税による減収は国が負担
 
1999年〜2002年 支払い給与ベースの段階的な廃止
失業率の図を2つ参照
給与ベース廃止の恩恵は商業、サービス産業
むしろ製造業に税負担がより偏重、1割の企業が職業税の9割、1%の企業が同税の7割を負担
・・・さらなる改革が必要?
給与ベース廃止により、投資阻害要因の拡大
EU内、国際的な競争にフランスが遅れを取ってしまう・・・
 
2003年度 憲法改正・地方分権2法
(特に12月末成立の「地方財政自主権法」自主財源の一定比率維持を義務づけ)
2004年1月6日 新年大統領演説 生産的な新規投資の免税を突然発表
減税が税収に現れる2006年までに職業税改革
改革を検討する首相諮問機関「職業税改革委員会(フーケ委員会)」設置
検討の4条件
・地方財政の自主性を尊重すること
・地域経済活動との「関連・つながり」を維持すること
・企業・事業から家計への税負担の移動を回避すること
・コミューン連合(課税権を持つ基礎自治体)の拡大を助長すること
8月 委員会の中間報告 20年間に議論されてきたことの総括
10月 (大統領発表)農地に対する未建築地税の免税
12月21日 最終報告書提出
付加価値ベース(8割?)、不動産ベース(2割?)への改革提案
売上高により
レジオン(州)の課税を廃止提案
(以前からあった地方団体種別間での税源分離論)
税負担変動を避けるため10年間の段階的な改革実施
<付加価値べース選択の理由>
*給与ベースを廃止したことを後悔 経済的な中立性
*雇用も投資も阻害しない
*地方団体間の税収格差を縮小する
*複数の課税標準の選択肢を検討、産業部門別、地方団体別に影響をシミュレーションしつつ消去法
<地方団体間の分割基準>
*従業員数、敷地面積、不動産賃貸価格(前2者が有力?)
<付加価値ベースの技術的な困難>
*銀行・金融業、保険会社、不動産賃貸業等
→「銀行業」付加価値の概念導入(1984年の銀行法)→さらに要調整
<税率>
中小企業への配慮から2段階の累進税率(売上高基準)
<税率決定>
基本的に地方の自由
ただし全国的な「しばり」をかける、ただし「しばり」の方法は委員間で合意ができず(増加率制限、制限税率、他の税との連動という制限)
<減免税等>
基本的に減免税は廃止する
効果・目的が明確な一定の減免のみ存続
2005年1月 新年大統領演説 職業税改革はフランスの経済政策の中心である
8月末 来年度予算に職業税改革を盛り込む最終期限


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