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8月3日(火)
本日のスケジュール・内容
国立国際医療センターにて国内研修
 
9:30〜9:50 開会挨拶
国際保健協力フィールドワークフェローシップ 企画委員長
国際医療福祉大学総長 大谷藤郎 先生
 
 第11回国際保健協力フィールドワークフェローシップが開始した。初日のこの日は国内研修に当たり、国立国際医療センターにて国内研修者、国外研修者合わせて約40名が参加した。最初に大谷藤郎先生が開会挨拶としてお話された。先生は1952年京都大学医学部卒業後、1977年厚生大臣官房審議官、1979年公衆衛生局長、1981年医務局長をされ、その間ハンセン病、精神障害、インターン紛争、コメディカル制度、血液問題、筋ジストロフィー、重症心身障害、難病、老人医療、プライマリーヘルスア、保健所問題等、多方面にわたり法律、政策の立案、運営に携わっている。1965年スウェーデン・デンマークにWHOフェローとして、また、WHO二国間協力等国際医療行政に従事。特にハンセン病、精神障害者の人権回復運動に尽力し、1983年退官後の現在もハンセン病資料館運動や精神障害者の地域社会復帰等、疾病障害差別の人権運動に関わっている。
 先生はWHOの本部事務局長を務めた中嶋宏博士をはじめ、当日会場におられた谷野先生や、紀伊國先生等国際保健に関わる諸先生方のお話をされ、国際援助の重要性について御自分の経験を交え強く語られた。また、このフェローシップができた経緯についても触れられ、医学部の社会性の問題、社会的な健康という概念、その教育のための冬期大学についてのお話をされた。
 最後に、研修参加者全員に対して、このフェローシップを通し、国際性や社会性を養うような研修をして欲しいとエールを送られた。
 
9:50〜10:30 「アジアと日本−我が国の国際協力」
前駐中国日本大使 谷野作太郎 先生
 
 1)誰が、2)何のために、国際援助を行うかについてと、その他全体として知っておくべきことの講義内容であった。
1)誰が国際援助を行うのか。先生は具体例としてODAとNGOを挙げ、特にODAの話を中心に話された。ODAの特長として、政府が行う援助である事、目的は相手国の経済発展への貢献である事、資金面など条件が良い事、以上の3点について述べられた。
2)何のために援助をするのか。地球全体を地球村として考え全体としての共存・共栄を図る事が必要だから、アジアへの協力は将来的に日本の為になるから、「苦しんでいる人を放ってはおけない」という人道的な観点から、といった事について強調された。
 
 その他、日本についての話として、日本経済の発展はアジアへの大きな貢献につながる事、日本社会は閉鎖的であり人の面での開放を行うべきである事、また、そのための十分な教育がなされるべき事、について述べられた。そして、最後に今の私達に対して、自分の意見を持ち、英語などのコミュニケーション能力を身につける(できることならユーモアを交えて、手短に要点を述べるよう努力する)事が国際人として必要だと述べられた。
 
10:35〜11:15 「日本の国際協力とJICAの役割」
独立行政法人国際協力機構人間開発部技術審議役  橋爪 章 先生
 
 まず、日本の国際協力の話について述べられた。Human Development DepartmentはEducation、Health、Social Securityの大きく3つに分けられ、具体的にはEducationは基礎教育と技術教育、Healthは各個人の健康の向上、保健政策、母子保健、感染症対策などが挙げられる。1999年の時点で、日本は45カ国においてトップドナーとなっており、ODA実績は2002年暫定値で92億ドルと米国に次ぎ第2位となっている。日本の保健分野におけるODAは外務省、厚生労働省、JICAが中心となっており、無償資金援助や技術協力などが行われている。日本の援助の歩みとしては、戦争などによるアジア諸国への賠償、準賠償を目的とした経済協力が1954年より始まったことに発する。ここで当時の日本の妊産婦死亡率を現在に当てはめると世界の半分の国は援助できる側の状態にあるということであった。また、被援助の歩みとしては1946年、1949年あわせて18億ドルの援助を米国政府より受け、経済を発展させてきたという歴史があった。
 次にJICAの活動についてだが、主な事業としては
・研修員受け入れ
・専門家派遣
・機材供与
・開発調査
・青年海外協力隊派遣
・無償資金協力
・災害緊急援助
 と多岐にわたるとのことであった。この中でも特に重要な役割は、開発途上国のニーズと専門知識を持つ日本人などの人材を結ぶことであり、そのためには現地のキーパーソンとの協力が欠かせないということであった。JICAの開発援助の特性として、途上国からの要請に応えるものであり、投入が大きく影響も大きい、ということが挙げられる。しかし、それぞれ要請の真意は何であるか、援助を終えた後にどうなるか、援助による負の影響はあるか、など解決しなければならない課題も存在するとのことであった。
(文責:上原)
 
11:15〜11:55 「国際医療協力の課題」
東京女子医科大学客員教授/笹川記念保健協力財団理事長
紀伊國献三 先生
 
 笹川記念保健協力財団が設立されるまでの歴史をハンセン病中心にお話になった。また、Primary Health Care8つの原則等、国際保健の分野で常識とされているような知識は必要であり、貪欲に知識を得る努力をしなければならない。生涯を通じて献身的にハンセン病対策活動を行ったダミアン神父の様に、ボランティア精神を忘れる事があってはならない。強盗に襲われて困っている人を助けた良きサマリア人のように、自分のできる事をよく考えてそれを行動に移す必要がある。様々な例を挙げて、将来国際保健協力活動に携わる者としての心がけについて述べられた。
 
12:00〜12:40 「発展途上国における寄生虫症の現状」
杏林大学大学院国際協力研究科客員教授/広島大学名誉教授
辻 守康 先生
 
 海外渡航時に注意すべき感染症の詳細な配布資料をいただき、重要な点について強調された。
 ドリアンとビールの食べ合わせは時に重症となり、死をもたらす。また、種々の感染症の予防接種は大変重要で、特に黄熱は国によっては入国時に接種が要求される場合がある。マラリアの治療薬が予防的に服用され事があるが、治療薬を携帯する方が好ましい。食品や飲料水から感染する寄生虫症としてアメーバ赤痢やランブル鞭毛虫が多いので注意が必要であり、フィリピンでは特に住血吸虫症が多い事は知っておくべき。聞いて分かりやすい印象的な講義だった。
 また、現地での功績を称えられ、中央アフリカ共和国ケラ村の村長に任命されたときのお話をされ、国際協力活動はやりがいのある仕事なのだと教えてくださった。
 
13:40〜14:40 "Role and Activities of WHO with a Global Perspective"
WHO健康開発総合研究センター所長  Dr. Wilfried Kreisel
 
 ゆっくりとした英語でWHOの活動について説明してくださった。
 WHOの全ての活動は、人種や宗教、経済的・社会的状況の差によらずに等しい「健康」を達成する為に行われている。その「健康」は医療サービスだけでは達成できない。したがって、社会的、経済的、政治的、文化的な観点からも問題を解決しなければならない。疾病をコントロールする手段はあるのに、それを享受できず絶望している人は沢山いる。HIV、ポリオ、ハンセン病、結核、鳥インフルエンザやSARSといった新興感染症、生活習慣病など、世界の抱える問題は数多くある。これからの時代を生きる子供たちの為にも問題解決に全力で取り組まなければならない、と述べられた。
 最後に、フィリピンにおけるSan Lazaro Hospital Extended Child Care Centerの例を挙げられた後、「将来とは、現在の数ある選択の結果ではなく、自分が頭で考え創造するものだ」と仰った。 (文責:土居)
 
14:40〜15:30 「日本のNGOの役割と活動」
国際保健協力市民の会(SHARE)代表  本田 徹 先生
 
 Primary Health Care(PHC)の理念と背景について。PHCは "Nothing About Us Without Us(私達に関することを私達がいないところで決めるな)" というデイビット・ワーナの言葉に表されるような、医学介入のない自発的な健康を人々が求めたところから始まっていると考えられる。その背景として特に「参加型教育理論の進歩」は、PHCを発展させた重要な要素である。
 NGOワーカーの走りはフランシスコ・ザビエルであり、16世紀から既に「不和の者には和解を、病因ある者には力と援助を全くの無償で行う」というNGOのスピリットが存在しており、その考え方に基づいて仕事を行うことが必要。またピーター・ドラッカーの言うNGOやNon Profit Organization(NPO)の使命・役割が「変革された人間を作るhuman change agents」とあるように、実際の社会でNGOやNPOの役割は大きい。それ故、何を行うのか明確なミッションを持ち活動する必要がある。
 日本の国際化の波は思ったより早く進んでいる。今日のglobal migrationの時代の中で、どのように他文化の人々と共生していくかが今後の国際保健の1つのテーマになるであろう。またバイオエシックスという考え方の中で国際協力をする際には「看護の視点」を大切にすること。そしてコミュニティーの中で援助活動を始める場合、住民が本当にそれを必要とし援助を受け入れるか、地域住民の持つQuality of Life(QOL)やcapacityの評価などを考える際に、バイオエシックスに基づく行動の基準は開発協力のプロジェクトの選択・決定に重要な役割を持つ。更に活動が適切に行われているかの点検が重要である。
 最後に、様々な形で医療協力に関心を持ってその道に進んでいく者が出てくることを期待すると述べられた。


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