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3. 一等ラウンジ(社交室)
 プロムナード・デッキの最前部に位置する展望デッキの中央にあるのが、船を代表する公室として一番に挙げられる一等ラウンジ(社交室)です。
 この部屋こそが、「現代日本様式」の集大成として建築家 中村順平が心血を注いで装飾設計したものです。
 残念ながら※(1)カラースキームはモノクロでしか残されておらず、船内装飾設計図及び写真を併せて(あわせて)見て行くことにしましょう。まず、室内壁面の前方中央部は、天井までガラスを格子状に配して灯器を入れた内照式の照明器具になっており、丸く張り出した低いステージ上に木製漆(うるし)塗りの飾台が置かれています。対する後壁面中央も、同じくガラス製飾り棚になっており、ガラス表面には小野小町(おののこまち)、在原業平(ありわらのなりひら)など六歌仙(ろっかせん)の姿が※(2)エッチングで描き出されています。
 
中村順平が設計した一等ラウンジ(社交室)の平面図。上が船首方向で左側が床平面図、右側が天井平面図となっていて、テーブルや椅子の配置も分かる 大西春雄
(拡大画面:139KB)
 
一等ラウンジのカラースキーム、残念ながらモノクロとなっている。六歌仙のエッチングがある後壁の飾り棚が中央に見える 大西春雄
 
 この前後の中央壁面を囲むように、前後両外側の四面には向かい合うように、波型連続模様を背景にした川端柳の豪華な蒔絵(まきえ)が乾漆(かんしつ)彫刻の技法で見事に浮かび上がっています。これは、漆芸家で後に人間国宝にも指定される松田権六(まつだごんろく)の作品です。松田は、西洋クラシック様式を基調とした船内装飾に対抗して「日本郵船の内装にも是非蒔絵を使ってほしい」と直訴(じきそ)したもので、それまで例のなかった漆の蒔絵が欧州航路の客船“照国丸”に初採用されて、これが好評を博し以後船内装飾に用いられることが定着していったものです。
 次に部屋の天井に目を移してみましよう。天井は、二段がまえの内張りが施してあり下段のものは棚状に部屋の周囲を廻り、その内側に照明を入れて間接照明にするとともに、その中央には直接照明のボックスも配して間接と直接の両照明効果を融合させています。
 また、部屋の各壁面に沿って計12個のぼんぼり型の照明スタンドも置かれていて、日本調の演出効果を上げています。
 次に床面ですが、配色は分からないのですが四菱の格子や雲・波型の模様を切ってつなげるように配置した複雑な模様の絨毯(じゅうたん)を、全面に敷き詰めています。
 部屋の右前には、大きなグランド・ピアノも置かれていて、凝った絨毯の模様と調和しています。
 
一等ラウンジ、内照式の中央壁面両側にぼんぼり型の照明機具が置かれている 三菱重工業
 
一等ラウンジ前方壁面の左右を飾った、波に川端柳の乾漆膨刻の設計図 大西春雄
 
一等ラウンジの後壁中央に作られた飾り棚のガラス部に施されたエッチング模様。六歌仙が描かれ、これは小野小町の設計図 大西春雄


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