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司会 ありがとうございます。せっかくの機会ですので、犬養さんに質問されたい方はいらっしゃいますか。
質問 私は2回目の聴講生ですが、海と船という語りで、今日は犬養先生から汚染の問題とか、日本人は特に人の目を気にするとか、いろいろ痛切なところをお話しいただきました。私も品川区の住人で、銭湯が8年前には60カ所ありましたが、いまは47カ所ぐらいになったのです。
犬養 それでも47あるのですか。
質問 自営がだんだん厳しいようですが、シルバー人材センターが品川区役所の方針で、老人福祉対策ということで、65歳以上の人が毎週木曜日になりますと出会いの湯で、健康体操とかカラオケに参加すると、ただでお風呂に入れる。人寄せもありますし、お年寄りの方が1週間に1回集まって語り合い、体操したり、元気だったかというようなことの行事でだいたい8年ぐらいたっています。
 そこで私も感じるのですが、これは65歳以上ですから人生経験も豊かです。しかしカラオケなどを大勢で歌います。カラオケはやさしい歌、短い歌、覚えやすい歌で、大勢で歌う形式を取って、皆さん大勢よく歌うようになったのですが、1人でマイクを向けると、なかなか歌うということが難しいようです。何回か繰り返しているうちに、最近は歌うようになりましたが、日本人の遠慮深さというか、人の目を気にする。子どもも家の中で好きなように自分の空間を使うことも、自分も孫と一緒に暮らしてみると、子どもがうるさいんです。細かいことを言う。それでテレビばかり朝から見ている。あれがなかなか難しい。ですから昔の陸軍、いまのマスメディアというように、マスコミの影響がいろいろな面で作用しているのではないかと思います。そこらあたりのところをちょっと・・・。
犬養 わかりました。ほかにいらっしゃるといけないので。
司会 はい、どうぞ。
質問 私は水の勉強をしています。ボケ防止に定年になってから始めたのですが、今日は大変いいお話を伺い、先生はこういうことを言ってくださった。私も知っていることだ。これは勉強して知ったわけですが、今日も大変いいお話を伺ったのですが、ちょっと気になることがあります。海に国境はないとおっしゃった。非常に格好いい言葉ですが、実際にそうでしょうか。国際問題、対中国の問題、海に国境はないというのは嘘だと思うのですが、見解の違いだと思います。これを教えていただきたいのですが。
犬養 それが民際と国際の違いだと思います。国にはもちろん国境があって、領海の問題があって、日本と中国で何とか島を取りっこしたりしている。それは国がやればいいのであって、私たちが自分の船に乗って行くときには、どこにも国境がないわけです。どこにも自由に行かれる。ですから林子平という江戸時代の人が、江戸で海を見て、この先は世界だと言ったそうですが、それが海の本質だと思います。日本で官憲、行政が、国が海に神経質なのは、実は海が本質的に自由だからではないかという気がします。
 アーサー・ランサムの本にも「海に出るつもりじゃなかった」という1冊があります。これはロンドンの近くに停泊している船が、夜、子どもたちだけしか乗っていないときに、自然に流れ出てしまいます。それでオランダまで行ってしまうのですが、これなんかはまさに国境がないわけで、時化の中を乗り切っていくのですが、受け入れるほうもやかましいことは言わないで歓迎する。ヨーロッパだったら本当に国が近いから、まさに国境がない。それから受け入れるほうも難船は、海に来たらそのまま受け入れる、救うわけです。
 ついでに言いますと、いま日本は自然海岸がなくなっている。ものすごく大きなマイナスは、自然海岸がないと生命が育たない。1日に100種の割合で、いま生物が絶滅している時代ですが、それを加速しているのが、こういう護岸ばかりの海です。船乗りから言わせると、こういう切り立った護岸は、せっかく陸にたどりついても、そこで死んでしまうそうです。つまり渚なら這い上がれるけれど、切り立っていれば這い上がれない。東京湾はその意味では人間にとってとても危険な海だと思います。よろしいですか。余分なことを言ってしまってごめんなさい。
司会 犬養さん、先ほどの方の、マスメディアのわれわれに対する影響についてはどういったお考えでしょうか。
犬養 私は日本のマスメディアはとても弱虫だと思います。メディアはもっと自分の意見を言うべきだと思います。中立というのは、私は逃げ口上だと思っています。中立というけれどとても好戦的な論調を張る新聞だってありますが、たとえば両方の意見を載せてごまかしてしまうところもあるし、どちらかというと政府寄りのほうを大きく載せ、反対意見のほうを小さく載せるとか、そういうことを日本の新聞はわりとしていると思います。ですからある意味ではテレビのほうが、出る人がいろいろなことを勝手に言う。言わない番組もたくさんありますが、言うときに本音を言ってくれる人もいてちょっとホッとしたりする。それでいうと、インド人の書いた「喪失の国、日本」というのが文庫本で出ています。しばらく前に「諸君!」か何かに連載していたそうですが、インド人が見ても日本の新聞は新聞とは思えない。批評精神がなくて、報告だけしていると書いていますが、ちょっとそういう感じがあります。報告だけするなら楽なのです。
 私は困ったことだと思います。日本人全体が、勇気がないのだと思います。イラクのNGOのときが一番そうでしょう。あれだけのことをして戻ってきたのだったら拍手していいのです。そのために私たちは税金を払っているのだし、国家は国民を保護するものだから当然です。片方ではたった1円でチャーターしてジェンキンスさんを連れ帰り、あの人たちからは15万だか30万取るなんて言語道断だと思います。
司会 いかがでしょうか。ほかによろしいでしょうか。
質問 自己責任という言葉がちょっと前によく使われましたが、自己責任とははっきりしているようで、逆に曖昧でよくわかりませんが、どういうように対応したらよろしいのでしょう。今回三宅島に帰島する場合においても、自己責任において帰島してくださいと言われた場合に、もし自分がその立場だったらどのように対応したらいいのか。
犬養 いま国とか自治体が自己責任という言葉を使ったときは、これは言い逃れだと思います。つまり何かあったときに自分たちが攻撃されないために自己責任という言葉を使うと、私は解釈します。もちろん人間は市民として生きていれば自己責任を持っています。自分の判断で行動します。しかし自治体にしても国にしても権力を持っています。警察を持っているところ、軍隊を持っているところは権力を持っていますから、そこが自己責任という言葉を使うのは、私は一種の脅しだと思います。三宅島だって、何も自己責任などと言わなくたって、帰りたければお帰りなさい。何か起こったら私たちもできるだけのことはしますが、間に合わなかったときはご免なさいぐらいに軽くしておけばいいのに、不思議な国ですね。若い人まで自己責任みたいなことを言いませんか。
 それからテレビなどでもストレートにものを言いませんよね。「僕は大工です」と言わないで、「建築関係のほうです」とか、建築関係だけで止まらないで、この頃は「ほうです」がまたくっついたりします。
 ついでに今日持ってきたのでちょっとお目に掛けるのが、さっき国境がないと申し上げましたが、こういう地図があります。黒いところは無視してください。こういう地図があるのをご存じですか。これはバックミンスター・フラーという天才的な科学者です。もう亡くなりましたが、この人がつくった地図で非常に有名な地図です。世界にはいくつもの大陸と七つの海があると言われていますが、地図をこういうふうにつくり直すと、大陸は一つで、海は一つであることがわかります。ここが北です。これが民際というか、人間同士理解し合って、もっと気楽に暮らそうよということだと思います。要するに国家の利害は企業の利害ですから、そういうことが前面に出てくると人間同士は仲良くできなくなってしまいます。
 それから、汚さないで暮らしていこうということですが、いまこういう本が出ています。「1%」、環境、エコロジーに少しでも気をつけて生きている人が何パーセントいるか。欧米諸国はだいたい半分だそうです。4、50%、日本はたった1%しかいない。それで「1%」という本です。これは見開き一つずつで、とても簡単に絵と一緒に出ています。こういうことを注意しよう。とてもわかりいい。あるデザイナーがつくっています。そしてこういう不思議なカレンダーもあって、カレンダーの季節になると、これを伊東屋で売るそうです。トイレに貼ってくださいと書いてある。別にトイレでなくていいのですが、トイレだときっと中を見る。ここに一つずつ、「ゴミの出ない暮らしをしよう」とか、わかりいい注意事項が書いてあります。
司会 どうもありがとうございます。資料をいろいろ持ってこられていますので、もしお帰りにちょっと覗いてみようかなという方がいらっしゃいましたら、どうぞ前のほうの机でご覧いただきたいと思います。それでは時間ですので、終わりにさせていただきます。犬養智子さんでした。どうもありがとうございました。(拍手)
 
平成16年9月19日(日)
於:“羊蹄丸”アドミラルホール
 
■講師プロフィール
犬養智子(いぬかい ともこ)
 
 
昭和6年(1931)、東京に生まれる
昭和29年(1954)学習院大学政治学科卒業。
昭和30年(1955)から米国イリノイ大学大学院でジャーナリズム&マスコミュニケーション科に学ぶ。
昭和32年(1957)年帰国後、シカゴ・デイリー・ニュース東京支局に勤務。
昭和43年(1968)、「家事秘訣集」(光文社)を出版。
評論家として現在に至り、イラスト、童話、小説なども手掛ける。
女性と高齢者の活力ある人生(自立・尊厳・自由と意思決定に参加)が最大のテーマ。シニアの自由で活力ある人生のために「ホールシニア・カタログ」を執筆中。
市民の意志を行政に反映させるよう官・民の各種委員会でも努力してきた。
 
著書:『ひとりで元気暮らし』(海竜社)
『パパは96歳〜うちの父娘つきあい〜』(海竜社)
『楽しんで生きる〜昭和・山の手・女の子〜』(チクマ秀版)
『わたしが見つけたいい品 好きな品』(小学館)
他多数。


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