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3 実験の結果
(1)油分濃度
 実験開始時(0 DAY)における油分濃度は、0.23〜0.46%程度と考えられる。この時点では、吸着マットは原形を保っており、油はその中に含まれているので、パイル内の油分濃度は均一になりようがない。従って、測定も不可能である。
 1回目のサンプリングは最初の攪拌が行われた開始後21日経過時点に行った。既に吸着マットの原形は留めておらず、これまでの実験同様、マット内に含まれるパーライトの存在により、原位置が判明する状況であった。
 この後、約2週間ごとに行う攪拌時にサンプルを採取し、それぞれの油分濃度を測定した。油分濃度の変化(オリジナルデータ)を図VI.2.2に示す。
 当初に0.23〜0.46%程度であったと考えられる油分濃度は、最初の攪拌・サンプリング時である21日経過時点で既に通常のバーク堆肥と同じ0.03%程度となっており、それ以降はほとんど油分濃度に変化が見られない結果となった。
 一方、II-2の実験では、当初約1%であった油分濃度は21日経過時点では少なくとも1/2程度は残留しており、通常のバーク堆肥レベルになるのは早くとも100日後以降となっている。
 この分解処理の進行速度の差異にはいくつかの考え方ができる。一つには、II-2の実験と油種が異なるために進行速度に差異が生じているという解釈である。今回の流出油はA重油とC重油の両方と伝えられており、回収したものはそれらの混合物である可能性が高い。II-2の実験では純粋なC重油を用いているが、目視や手指への感触においても今回の油と粘度の差がかなり感じられた。A重油のような軽質油には揮発成分も多く含まれ、分解が比較的容易な低分子の成分も多いと考えられるため、分解処理の進行速度は速くなると考えられる。
 二つ目に考えられるのは、油分濃度1%レベルと今回の0.23〜0.46%レベルでは、微生物分解のメカニズムが異なり、進行速度に差異が生じるという可能性である。これについては今後さらなる実験を行うことが求められる。
 いずれにせよ、実海域における油流出事故の回収油および杉樹皮製油吸着材を微生物分解処理し、油分濃度変化を定量的に調査する試みは今回が初めてであり、今後、油分濃度、パイル規模、油種などの異なるデータを蓄積することにより、実用化に必要な知見が得られると考えられる。
 
図−VI.2.2 油分濃度の変化(100m3;実事故回収油;オリジナルデータ)
 
(2)目視観察など
 21日経過時点で吸着マットの外側の白いコットンは既に分解しており、ところどころに若い樹皮繊維やパーライトが観察され、その位置に吸着マットが設置されていたことをうかがわせた(写真−VI.2.3)。油の臭気については、40日後程度においてパイル付近に鼻を近づけると少し感じられるものの、周辺では感じられなかった。手指への油の付着は感じられず、パイル周囲の水溜りにおける油膜も観察されなかった(写真−VI.2.4)。
 
写真−VI.2.3 パイル中の樹皮繊維やパーライト
 
写真−VI.2.4 パイル周辺の水溜り
 
写真−VI.2.5 分解途中のオイルフェンスの綿ロープ
 
 また、吸着材本体は最初の観察時である21日経過時点ですでに原型を留めないものの、太い綿ロープを使用しているオイルフェンス型の杉樹皮製油吸着材については綿ロープのみが100日経過時点でもまだ分解途中で原型を留めており、パイルの中に散見された(写真−VI.2.5)。
 
(3)パイル内の温度
 バーク堆肥パイル内の温度変化を図−VI.2.3に示す。実験当初は、バーク堆肥の活性な状態とされる60℃前後を保っていたが、徐々に温度が低下する傾向が見られた。これは、II-2で行った実験(図−II.2.13)とほぼ同じ傾向である。
 
図−VI.2.3 バーク堆肥パイル内の温度変化
 
4 まとめ
 今回のブルー・オーシャン号事故に際しての実験により、杉樹皮製油吸着材の実海域における油回収性能が評価され、回収物の微生物分解処理について一定の知見が得られた。
 特に、今回の事故においては油のほとんど全量が杉樹皮製油吸着材によって回収されており、使用実績として意味のある事象であった。また、事故処理の最前線で作業を行う契約防災措置実施者スタッフなどから油吸着性能が高い評価を受けたことは、今後の杉樹皮製油吸着材の普及に資するものと期待される。
 微生物分解処理実験については、油の量に限度があったことから一定の知見を得るに留まったが、今後、同様の機会を捉えて実験を続行し、データを蓄積する予定である。
 なお、本事故における油回収および微生物分解処理実験の取り組みについて大分合同新聞紙面(H16.9.16付)に紹介された(詳細はVII-3に述べる)。


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