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VI 実海域における油回収性能及び微生物分解処理技術の調査
 杉樹皮製油吸着材に関して、実海域での油流出事故における油回収性能と、回収後の同品を実際に用いた微生物分解処理の実証実験を行った。
 昨年度の調査研究において各地の海上保安関係者などにモニター用として配布した杉樹皮製油吸着材サンプルの使用感のアンケート結果がまとめられ、油回収性能については「まずまず」、全体的な使用感については「使いやすい」が大勢を占め、今後の使用についても「続けて使用したい」という評価を76%相当で頂いた。また、モニター調査において回収された使用後の杉樹皮製油吸着材を、活性なバーク堆肥原料中に埋め込み、微生物により分解処理する実験を行ったところ、目視レベルで良好な生分解性が確認されていた。一方、実海域での油流出事故における回収物を微生物分解処理した定量的な油分濃度データはいまだ得られておらず、実験の機会が待たれていた。
 今年度の半ばである平成16年9月に、広島県廿日市海岸において、木材運搬船ブルー・オーシャン号の転覆に伴う油流出事故が発生し、杉樹皮製油吸着材を使用する機会が得られたため、油回収性能の検証と、回収後の同品を実際に用いた微生物分解処理の実証実験を行った。
 
VI-1 実海域における杉樹皮製油吸着材を用いた油回収作業について
 平成16年9月7日、折からの台風によりカンボジア船籍の木材運搬船ブルー・オーシャン号(BLUE OCEAN、3,249トン)が、広島県廿日市市木材港岸壁で停泊中に係留索が切断、岸壁と接触、浸水、沈没した。油が流出しているとの連絡を受け、実海域での油回収実験および微生物分解処理実験のためのサンプル採取のため、(独)海上災害防止センター調査研究室、大分県産業科学技術センター、ぶんご有機肥料(株)のスタッフが9月10日に現地に赴いた。
 
<9月10日 16:30 広島県廿日市市木材港南岸壁 雨天>
 ブルー・オーシャン号が転覆しており、A重油らしき油と粘調な油が流出中であった(写真−VI.1.1)。オイルフェンスが展張され、オイルフェンス内側と外側にそれぞれPP製(ポリプロピレン製)の油吸着材(万国旗型)が張られており、黒く変色していた。半径100m程度の半円形に油が包囲されていて、外側には薄いギラギラした油膜のみが流れ出ていた。
 オイルフェンスの内部は風と潮により油が下流側に偏在していて、直径十数m程度の範囲に集中し、最下流部ではかなりの膜厚になっている様子。油回収実験と微生物分解実験用サンプルの採取には好条件であることが確認された。
 岸壁は東南の角地で、南に面した岸壁で船が転覆していて、その衝撃から岸壁が少々、破損していた。沖合いでは対岸・宮島のカキ養殖イカダへの漂着を防ぐために、航走撹拌作業が2隻の巡視艇により行われていた。オイルフェンスの展張と位置の移動は数人乗りの小型ボート2隻で行われていた。この日は、翌日の回収作業に向けてのポンプの動作試験が(独)海上災害防止センターの防災部スタッフにより行われた。
 なお、流出しているのはA重油とC重油との連絡があり、観察したところでは数十cSt程度の比較的低粘度のもので、杉樹皮製油吸着材による吸着・回収には問題がなさそうであった。
 
写真−VI.1.1 転覆した木材運搬船ブルー・オーシャン号(3,249トン)
 
<9月11日 6:00 回収作業スタート>
 潮流は西から東方向、岸壁東側L字部分のオイルフェンス内部に油が滞留していて実験には好条件であった。
 まず、オイルフェンス型の杉樹皮製油吸着材を展張した。15mタイプを1本、10mタイプを6本、5mタイプを12本使用し、状況に応じてロープで連結し、再大20mにして海面に投入した。また、その内側にマット型(45cm角)の吸着材を350枚、投入した。
 油膜は潮流と風の影響で刻々と移動するため、海面には油の濃い部分と薄い部分とがあった。濃い部分に投入したものは総じて吸着が早く、数分で黒々と油で満たされていく様子が観察された。薄い部分に投入したものは徐々に褐色に変化し、吸着スピードは遅いものの、数十分から数時間でほぼ油の吸着を終えた。吸着マットについては、下面での吸着が終わったものを適宜、フック付き棒で裏返し、吸着を促進した。
 1〜5時間後に、それぞれの吸着材の回収(引き上げ)を行った。おおむねよく吸着しており、外観が褐色程度のもの、黒色のものなど様々であった。褐色のものをカッターで切り開き、内部の樹皮部分を観察したところ、繊維内に油を保持し、褐色〜黒色に変色している様子が観察された。
 作業船の後方に幅5m程度の桁(棒の両先端に浮きを付けたもの)を設置し、これにオイルフェンス型の吸着材をU字型に固定し、オイルフェンス外側の薄い油膜の回収を試みた((独)海上災害防止センター業務課)。0〜数ノット程度で曳航し、速度が上がった際に上部からの油のくぐり抜けが見られたものの、強度と作業性には問題が見られなかった。
 吸着性については、薄い油膜部分での吸着においてはその厚みから過剰装備(つまりもったいない)の感があるものの、オイルフェンス曳航で集められて厚い油膜の部分では、その本領を発揮することが出来ており、みるみる黒々と油が吸着され、マットの厚みすべてに油が充たされていく様子が観察された。契約防災措置実施者の作業員からも「これは良く吸う」と賞賛の声が聞かれた。
 一方、薄い油膜だけがある場合のように、ほとんどが水の状況で使用された場合、その吸水量は比較的多めであり、引き上げ時に少し重めであった。しかし、引き上げと同時に水切りが行われるため、水はどんどん落ちて少なくなった。しかし、オイルフェンス型のような場合、このことが引き上げの障害になるため、全長は10m以下の製品が作業性の面から適していることが判明した。
 強度については、外包材、ロープ、縫製部分ともに全く問題が発生しなかった。特に、吸着マットは、カギ付きの棒でかなり手荒に扱われたにも関わらず、破れや穴開きが生じず、作業員などから高い評価を受けた。
 
写真−VI.1.2 ブルー・オーシャン号と作業の様子
 
写真−VI.1.3 杉樹皮製油吸着材(マット型)の投入
 
写真−VI.1.4 油吸着の様子
 
写真−VI.1.5 オイルフェンスで包囲された油を回収する様子
 
写真−VI.1.6 回収された杉樹皮製油吸着材(マット型)
 
 この回収作業において使用された杉樹皮製油吸着材の合計枚数は、マット型:4,350枚、オイルフェンス型:490mであり、回収された一部(マット型:350枚、オイルフェンス型:259m)が油分分解処理実験に供されるため、ぶんご有機肥料(大分県竹田市)へ運ばれた。


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