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IV 白色腐朽菌との複合化に関する検討
 これまでの研究成果から、バーク堆肥微生物による油分分解処理技術において1%レベル(乾燥土壌換算で約20000ppm)の油分が、0.1%(同2000ppm)程度まで減少することが明らかになってきた。本来、この技術は油流出事故における回収物すなわち油・油吸着材の処理方法に適用することを目指しているが、平成15年2月の土壌汚染対策法施行に伴う油分汚染土壌浄化ニーズの高まりに伴い、この分野への応用が期待され始めた。
 現在、油分汚染についてはベンゼンが定められているのみであるが、今後、新たに基準が定められることが予測されている。これに備え、各社では土壌油分浄化技術の開発・実用化が進められており、そのターゲットの油分濃度はおおむね500〜1000ppmであることが多い。
 本技術の本来の目的にとっても、微生物分解処理後の最終的な油分濃度が、予測基準値と目されている500〜1000ppmレベルまで減少すれば、そのまま土壌に還元することも可能となるため、その意義は大きい。
 そこで、現在の最終油分濃度である0.1%(乾燥土壌換算で2000ppm)レベルから更に油分濃度を低下させることを目的に、白色腐朽菌との複合化について検討を行った。すなわち、バーク堆肥微生物で分解した後に一部残留すると考えられる難分解性重質油の分解を目指し、この分野で効果があると期待される白色腐朽菌を、バーク堆肥微生物の後に利用する試みである。
 本研究は、九州大学生物資源環境科学府・近藤隆一郎教授と共同で行った。
 
 白色腐朽菌とバーク堆肥分解残留物を混合し(混合比2種)、ポリ容器(946ml)の2/3程度まで入れ、油分濃度の経時変化(0〜3ヶ月)を追った。当初の油分濃度0.07〜0.11%であった。なお、油分濃度の分析はn-ヘキサン重量法にて行った。
 結果は、当初の油分濃度0.07〜0.11%からの減少は見られず、残念ながら今回は有意あるデータは得られなかった。
 この原因としては、白色腐朽菌が十分に働く環境になかった、分解が行われたものの副生成物がn-ヘキサン可溶物であった、などいくつかが考えられる。今後、培養条件や混合比、使用菌体などを再検討し、実験を行う予定である。
 
V 環境影響評価の研究
 杉樹皮製油吸着材は、いわば「ポリプロピレン製品など従来品と同等の性能、同等の価格で、環境負荷が低い」という位置付けの製品である。すなわち、多くの油吸着材がある中での存在意義の最大のものは、環境性能であると言える。実際に、杉樹皮製油吸着材の開発者は、天然原料(一部は廃棄物)で生分解性を有し、熱処理なく製造を行っており、製造・使用・処分時における環境負荷が小さいことがその特徴であると主張してきた。
 そこで、本章では環境影響評価の指標として用いられるLCI(ライフサイクルインベントリ)の手法を参考に、杉樹皮製油吸着材の原料調達から製品製造における環境負荷を試算した。
 ただし、環境負荷試算の結果は、一般的に根拠となるデータや計算方法などが仮定に基づくものや十分な議論がされていないものが多いのが現状である。今回の調査もその例に漏れないため、必要な説明を認識することなく結果のみを解釈することは避けるべきであり、その点をご留意いただきたい。
 
V-1 杉樹皮製油吸着材の環境負荷について
1 製品のライフサイクル
 杉樹皮製油吸着材のライフサイクルフローを図−V.1.2に示す。
 
図−V.1.2 杉樹皮製油吸着材のライフサイクルフロー
 
2 調査範囲と計算方法
 使用工程以降については今回、考慮しないものとする。
 対象は、杉樹皮製油吸着材のマット型(45cm角)とし、分かりやすさを考慮し、単位生産量を10,000枚と仮定した。評価項目はエネルギー消費量に限定して行うものとする。
 なお、綿不織布そのもののデータが入手できなかったため、新規綿糸の製造原単位を流用した(出展:経済産業省製造産業局繊維課、産業情報研究センター資料、2003.3)。ポリプロピレンの製造原単位は既存のデータを利用した(出展:LCA実務入門、(社)産業環境管理協会、1998)。また、構成比10%未満の原料等についてはカットオフし、今回の計算外としている。
 
3 計算結果および評価
1. 原料調達:材料搬送に係るエネルギー量の算定
(1)杉樹皮トラック1台当たり積載容量
・1台当たり杉樹皮搬送量8m3⇒製品枚数換算
8m3÷0.45*0.45*0.015≒2,600枚
・単位生産量に対する使用台数
10,000枚÷2,600枚/台≒4台
(2)消費燃料(軽油)
・距離 60km、燃費(実績値)6.0km/
・消費燃料
60km÷6km/×4台=40.0
(3)軽油分のエネルギー量の算定
40.0(軽油)×換算係数38.2×106 J/1000=1,528×1,000kJ
(4)綿不織布分のエネルギー量の算定
338kg/単位生産量×4,690wh×860cal/wh×4.2J/cal=5,726×1,000kJ
(5)エネルギー量の算定
1,528×1,000kJ+5,726×1,000kJ=7,254×1,000kJ
 
2. 製造工程:裁断・縫製、材料混合・封入等に係るエネルギー量の算定
(1)使用電力量の算定
・時間電力量0.53kwh×(単位生産量10,000÷10枚/h)=530kwh
(2)エネルギー量の算定
530kwh×換算係数3.6×106 J/1000=1,908×1,000kJ
 
3. 製造工程:製品搬送に関わるエネルギー量の算定
(1)トラック1台当たり積載容量
・1台当たり材料搬送量30ケース(50枚/ケース)
・単位生産量に対する使用台数
10,000枚÷〔(30ケース×50枚)/台〕≒7台
(2)消費燃料(軽油)
60km÷6km/×7台=70.0
(3)エネルギー量の算定
70.0(軽油)×換算係数38.2×106 J/1000=2,674×1,000kJ
 
4. 製品1枚当りエネルギー使用量の算定
(1)単位生産量あたりのエネルギー使用量
1+2+3
=7,254×1,000kJ+1,908×1,000kJ+2,674×1,000kJ=11,838×1,000kJ
(2)1枚当りエネルギー使用量
11,838×1,000kJ÷10,000枚=1,184kJ
(3)1kg当りエネルギー使用量
1,184kJ/枚÷0.2kg/枚=5,920kJ
 
 以上により、杉樹皮製油吸着材(マット型)の1kg当りの製造に係るエネルギー使用量は、5,920kJ(1,410kcal)であると試算された。
 この数値を他の油吸着材と比較するにはさらなる調査研究データが必要であるが、例えば、ポリプロピレンの製造原単位は18,526kJ/kg(4,411kcal/kg)とされており、これに吸着マットへの加工工程を加味するとさらに大きなエネルギーを消費すると考えられる。製品の杉樹皮製油吸着材とポリプロピレン(原料)で仮に比較しても、そのエネルギー使用量は約1:3であり、杉樹皮製油吸着材の優位性を示していると言える。
 ただし、今回の試算はあくまで製造工程までのいわば“上流側”に限ったものである。微生物分解処理と焼却処分の比較まで含めて考慮すると、杉樹皮製油吸着材の優位性がさらに確認されると推測される。なお、正確な環境負荷の比較を行うには、今後さらに必要なデータを蓄積し、製品生涯を通してのLCA評価を行うことが必要である。
 
V-2 エコマーク取得について
 杉樹皮製油吸着材の環境性能に基づき、同製品のメーカーであるぶんご有機肥料(株)から(財)日本環境協会へエコマークの申請が提出され、商品ブランド名「杉の油取り」、認定番号04 115 009号、類型番号115号(間伐材、再・未利用木材などを使用した製品Version2)にて、平成16年12月に認定がなされた。
 なお、杉樹皮製油吸着材のエコマーク取得について大分合同新聞紙面(H17.12.4付)に紹介された(詳細はVII-3に述べる)。


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