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II 杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術の実用化
 今年度に実施した100m3の実用規模分解パイルでの油分解実験は、昨年度の中規模(36m3)分解パイルでの油分解実験のスケールアップモデルを基にした、ステップアップ実験の位置づけである。このため、これまでの経緯につきII-1に概要を述べた後、今年度の実験の内容につきII-2に記述する。
 
II-1 実験の経緯(昨年度までの調査研究について)
 杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術の開発は、平成13年度に日本財団調査研究事業で行われた「杉の皮を使った流出油回収技術の機能向上と微生物分解処理技術の開発研究」において基本的な可能性調査を実施し、杉樹皮と畜糞を原料とする「バーク堆肥」の製造工程の好気発酵微生物を用いることが有望であるとの感触を得た。
 これをもとに、平成14年度、海上災害防止センター委託事業「杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術に関する調査研究」にて、小型および中型好気発酵処理装置による油分分解実験、および小規模分解パイルにおける油分分解実験を行い、その可能性調査を更に推し進めた。
 続いて、昨15年度は14年度と同名の委託事業において、36m3の中規模分解パイルでの油分分解実験を行い、実用を念頭に置いたフィールドにおいても油分が減少することを明確にした。
 
1 平成13年度の研究成果(日本財団調査研究事業「杉の皮を使った流出油回収技術の機能向上と微生物分解処理技術の開発研究」
 ビーカー(約20g規模)、好気発酵処理装置(約20kg規模)、フィールド(数十kg規模)の三種の実験が行われ、ビーカーでの実験は有意のデータが得られなかったものの、中型好気発酵処理装置の実験データでは、比較対象のオガクズに対して2週間後で23%、4週間後で15%まで残留油分が減少していた。また、フィールドにおいては8週間経過後に臭気や蝕感で油分を感知できない程度になっており、油分が微生物により分解されたことを示す結果であると考えられた。
 一方、これまで得られたデータはいずれも単発の実験であり、再現性や実験・分析方法の検証が必要なことから、昨年度と同様の実験に加え、新たに小型好気発酵処理装置による油分分解を試みることとした。
 
2 平成14年度の研究成果(海上災害防止センター委託事業「杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術に関する調査研究」)
(1)小型好気発酵処理装置による油分分解実験
 小型好気発酵処理装置(家庭用生ゴミ処理装置)にて、活性なバーク堆肥中に投入したC重油について、8週間の実験期間における油分濃度(当初0〜100000ppmの4検体)の変化を追ったが、いずれのサンプルの測定値からも傾向らしきものは読み取ることはできなかった。原因として、サンプル採取の問題(槽内が均質でない)、微生物活動の問題(温度、装置規模など)、装置間の遮蔽の問題などが考えられた。
 
(2)中型好気発酵処理装置による油分分解実験
 より大きな規模で安定した条件で微生物活動が行えると想定される中型好気発酵処理装置(産業用生ゴミ処理装置)による油分分解実験を行った。C重油0.6kgを杉樹皮製油吸着材(マット型15×15cm)8枚に吸着させたものを堆肥原料とともに投入し、サンプル全体で12kg(油分濃度50000ppm)とし、残留油分の推移を調べた(図−II.1.1)。この実験はC重油を杉樹皮製油吸着材に吸油させた後に分解槽に投入する方法であり、吸着材の形が残っている間は槽内の油分濃度が一定になり得ないため、開始直後の油分は測定していない(理論上は50000ppm)。従って、1週経過時の油分10000ppmを基準に考えることになるが、2〜8週はいずれも5000ppm以下のレベルに保たれており、油分濃度は減少した。
 
図−II.1.1 残留油分の推移
 
(3)小規模フィールドでの油分分解実験
 約10m3(約5t)の堆肥原料をコンクリート基礎上に盛り、その中にC重油、A重油、植物油をそれぞれ800gずつ吸着させた油吸着材(製品版「杉の油取り」45×45cmマット型、乾燥自重約200g)を埋め込んだサンプルセットを2組ほど設置した。1組は1ヶ月経過時、もう1組は5ヶ月経過時において観察を行った。
 設置後1ヶ月を経過した段階で、被覆堆肥を取り除き観察を行った。C重油吸着サンプルは原型をとどめておらず、混入してあるパーライト(黒曜石発泡体)の存在によって、そこが油吸着材の原位置であったことがわかる状態であった。
 5ヶ月経過時においては、C重油、A重油吸着サンプルともに原型をとどめず、分解が進行していた。植物油吸着サンプルは、油吸着材の外側を構成するコットン不織布が一部原形をとどめているものの、1ヶ月経過時の状態に比べると格段に分解が進行していた。
 また、堆肥内部の温度の推移を調べたところ、設置から1週間後にかけては通常のバーク堆肥発酵時の温度とされる70℃に近い高温を保たれているが、徐々に温度は低下し、5ヶ月経過時においては40〜50℃程度となり、好気発酵を示す熱の発生が低下しているものと推測された。
 
 このほか、志布志湾コープ・ベンチャー号重油流出事故での実験で使用し、C重油を吸着した油吸着材を以上と同様に分解処理実験を行った。3ヶ月経過時においてこれまでの実験同様、C重油の痕跡は目視や触感、臭気感知では認められないレベルであった。また、分解したサンプルを用いて植物の生育(芝、二十日大根)を試みたところ、阻害は認められず、通常の堆肥同様に生育した(写真−II.1.1)。
 
写真−II.1.1 事故で回収した油・油吸着材の分解で生成した堆肥で生育した芝
 
(4)まとめ
 平成14年度までの実験および調査研究により得られた知見は以下のとおりである。
(A)小規模フィールド実験において、C重油を吸着させた杉樹皮製油吸着材は、堆肥原料に埋設させ1〜数ヶ月経過すると残留油分が知覚できない程度となる。
(B)中型好気発酵処理装置による堆肥原料・C重油の分解実験では、2〜数週間経過時における残留油分測定値は開始時の数分の1程度である。
(C)小型好気発酵処理装置による堆肥原料・C重油の分解実験では、油分が減少する結果が安定して得られていない。


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