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8. これからの瀬戸内海
8.1 森と海 ―恋人どうし―
 「森は海の恋人、川は仲人」という言葉を聞いたことがあるでしょう。森に降った雨は様々な物質を溶かし込んで川を流れ、海に至ります。木々の下に積もった腐葉土は降った雨を吸収するため、雨はすぐには川に流れないで、徐々に水を川に運びます。また、腐葉土を通り抜ける間に、水には様々な栄養分が溶け込み、この栄養分が海の生物を養うのです。もし、山の木が伐採されて森がなくなり、禿山に雨が降ったら、降った雨は山の表土を浸食し、濁った栄養分のない大量の水が川から海へ流れ込みます。
 このように山に森があるということは、大水が出ないことにもつながるし、海の生物に大切な養分を供給するという意味でも重要なのです。
 
森、川、海 (せとうちネットより)
 
 クヌギなどの落葉広葉樹は根を土中に大きく張り、冬は落葉して、森の中は明るくなります。そのため多様な下草が生えて、降った雨は、葉・枝・幹を伝い根元に蓄えられます。地表は落葉が幾重にも重なり、雨をふくんでスポンジ状になっています。スポンジ状の落葉は、その中に生息する微生物により分解され、養分となり土壌を肥やし、川に流れ出た養分は海もうるおします。このスポンジが水を浄化し、流れを調節します。根元や地面に蓄えられた水は地下水となり、沢となって流れ出し、光と水と豊かな土壌が多様な生物を育むのです。
 
 一方、スギやヒノキなどの針葉樹は、土中に根をあまり大きく張りません。葉はとがっていて光を通さず、森の中は暗くなります。その中に生える植物の種類は少なく、雨はとがった葉の先にたまり蒸発してしまいます。落葉が少なく、根にも水を蓄えないので、地下に蓄えられる水は少なくなります。蓄えられる養分の量も少なく、生息する生物は、クヌギ林に比べ多様性に乏しくなります。
 
土壌への水の浸透度
(せとうちネットより)
 
 土壌中にはいろいろな生物が生きています。その多様な生物が物質循環に大切な役割を果たしています。これらの生物のおかげで、ふわふわした穴の多い土が生まれ、水の浸透能力が大きい豊かな土壌ができます。そして、森の土壌を通じて川へ流れ出た水は、豊かな栄養分を含むのです。
 
 森の木は、太陽の光と空気の二酸化炭素、そして土壌の栄養分を利用して、生物の餌となる有機物を合成しています。また、森は最近問題となっている地球温暖化の原因物質のひとつである二酸化炭素の吸収源としての役割も果たしています。
 
 海・川・湖・沼などの魚介類を自然の営みのなかで増やしていくには、水を浄化したり、養分を蓄えたりする森林の機能が、有効であることがわかってきました。そこで、近年、漁業者が「魚」を増やす森林の機能を理解して、積極的に「植樹活動」を展開しています。自然に満ちた豊かな海を21世紀に伝えていくために、山で多くの植樹が行われています。
 
広葉樹の森
 
針葉樹の森
 
8.2 環境修復・再生 ―持続性と多様性のために―
 埋め立てや直立(ちょくりつ)護岸(8.3節参照)造成など、人間の様々な行為により、劣化した自然の機能を修復し、再生することが、現在非常に重要になってきています。例えば、大阪湾の関西国際空港では人工島の護岸の強度を維持するために、埋め立て護岸に下図に示すような緩傾斜(かんけいしゃ)石積護岸(8.3節参照)を採用しました。直立護岸と緩傾斜護岸の機能の違いについては8.3節で述べます。
 関西国際空港では、この緩傾斜護岸の斜面に、カジメ、クロメという海藻を移植しました。移植は、コンクリートのブロックに接着剤を使って海藻を付けて海に沈める方法や、陸上の水槽で海藻の胞子(種)を育て、そこから発芽した海藻をロープなどに付けたものを岩やコンクリートブロックに付ける方法で行われました。これらの方法で藻場造成を行ったところ、造成した藻場は下図に示すように年々拡大し、拡大した藻場には様々な海藻や魚など多くの生物が生息するようになりました。現在ではその造成藻場面積(約40ha)は、大阪湾全域の藻場面積(434ha)の1割を占めるに至っています。
 この造成藻場は禁漁海域に指定されていますが、この造成藻場で育ったメバルは大阪湾全域に広がっていると推定されています(下図)。またこの藻場から流れ出た流れ藻が多くの稚仔魚のゆりかごになっていることも確認されています。
 
泉南沖5kmに位置する関西国際空港
(関西国際空港(株)パンフレットより)
 
緩傾斜石積護岸の構造
 
関西国際空港の緩傾斜石積護岸
(関西国際空港(株)パンフレットより)
 
関西国際空港の人工藻場の広がり
(関西国際空港(株)パンフレットより)
 
メバル幼稚魚の周辺海域への広がり
 流れ藻に発信機(人工衛星で受信)と浮き標識を取り付け、空港島護岸で放流し、その漂流先及び数量を把握しました。
 流れ藻が、潮流などの影響を受けて大阪湾奥部の海岸や播磨灘の海岸にまで広がり漂着したことから、空港島護岸で発生するメバル幼稚魚は流れ藻に追従し、大阪湾の広域にわたって移動・分散するものと考えられます。
 
関西国際空港の藻場で育ったメバル稚魚の大阪湾全域への広がり
(関西国際空港(株)パンフレットより)
メバル幼稚魚の移動分散模式図


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