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3.2.4 まとめ
 本年度は、主に宮崎市青島海岸、そして、鹿児島県の志布志湾内押切海岸および柏原海岸にて離岸流の現地調査を行った。このうち、青島海岸においてはWave Hunter94を用いた海象観測を行い、約2週間の波と流れの記録を得た。一方、押切海岸に設置したWave HunterΣと柏原海岸に設置したWave Hunter94とADCPは当海域に来襲した8月の台風により回収不能状態であり、現時点では海象観測結果を得ることができなかった。加えて、観測時に波が高すぎたり、豪雨や雷雨などによく遭遇したためにカメラやビデオカメラおよびPC等の観測機器が塩分を含む雨水で濡れてしまうことが頻発し、改めて自然を相手にする現地観測の困難さを実感した。以下に、本研究の主な結果を示す。
(1)青島海岸の観測海域は、離岸流の平均流速が0.5m/s以上の時間が長く、一般の人が泳ぐには十分危険な場所で、遊泳禁止となる理由が確認できた。本年度観測された離岸流は、平均流速が0.7m/s程度で、最大流速が2.45m/sであった。なお、赤外線カメラによる離岸流観測では、撮影高度が低すぎたためか、離岸流域とそれ以外の温度差分布が明瞭でないものが多かった。次年度は、撮影高度を高めるための工夫が必要である。
(2)青島海岸の本調査地域は遊泳禁止であるが、離岸流観測時に、本離岸流域に男女二人連れが浮き輪一個を持参して入水し沖に流されたが、最終的には約15分程度で循環流により砂浜の方へ流されてきた。この事からも、海域利用者への効果的な掲示方法の重要性と、離岸流に流されても流れに逆らわないことの重要性が再確認された。加えて、当観測箇所隣接海岸で、観測期間中に水難事故が発生し大学生一名の命が失われたが、この場合も明白な離岸流発生箇所であるにも関わらず入水して事故に遭遇しており、啓発教育の重要性が再確認された。
(3)離岸流発生状況を調べるためにHGPSフロートと染料を多用したが、押切海岸と柏原海岸の観測時に、比重が若干海水よりも重い染料は沖に流出・拡散するにも関わらず、HGPSフロートは波乗りしたり、沖から陸に吹く風に押されて砂浜に打ち上げられたりし、目視や染料で予想されるような沖向き移動を生じないケースが多数あった。また、2002年度、2003年度のADCP観測では離岸流が鉛直方向に一様な流速分布を持たない観測データが得られており、フロートの改良および離岸流流速の鉛直分布構造に関する観測が今後も必要である。
(4)押切海岸においては、地形成の強い離岸流を発生しやすい弧状沿岸砂州地形がマルチビーム測深において明瞭に捉えられた。本測深データは従来本海域で行われていた200m測線間隔の測量結果よりも空間分解能が高く、海底地形の特徴を明らかにする上で、非常に貴重なデータが得られたことになる。ただし、水深2-3mよりも浅い領域に関しては、空間分解能の高い実測を行うことが現状では無理であり、何らかの技術革新が望まれる。また、当海域では沖波波高が6mを超えると、顕著な三次元地形が発生しやすいことが示された。
(5)柏原海岸においては、突堤に沿う離岸流特性を調べるためにADCPとWave Hunter94を設置し、染料実験とHGPSフロート実験も行った。8月16日時点までは計測機器の存在が目視でも確認された。また、染料実験では、観測機器の上を離岸流が流れていることが確認され、離岸流を計測すると言う意味では機器が適切に配置されていることが確認された。
(6)浅海域の海底地形の数式モデリングを行い、空間分解能の高い地形を作成できるようになった。ただし、地形モデリングに必要なパラメータに関しては、多くの深浅図をデータベース化して、定量的な算定ができるようにする必要がある。
(7)離岸流の数値計算シミュレーションを行った。流れの様子が定性的には適切に計算されているが、プログラム上若干の問題があり、次年度に改良する必要がある。
 
【モデル海岸IIの参考文献】
海洋科学の安全知識シリーズ、海洋科学の知識、財団法人 日本海洋レジャー安全・振興協会へ石井7年2月、28p.
Jason A. Engle: Formulation of a rip current forecasting technique through statistical analysis of rip current-related rescues, Thesis of Mater of Science, University of Florida, 72p. 2003.
Jamie MacMahan, Hydrographic surveying from personal watercraft, Journal of Surveying Engineering, Vol. 127, No. 1, pp. 12-24, 2001.
古河泰典・山城早苗:離岸流調査への着手と観測手法の一例(中間報告)、海洋情報部技法、Vol. 21、pp. 73-79, 2003.
Edward K. Noda: Rip-currents, Proceedings of 13th International Conference on Coastal Engineering, pp. 653-668, 1972.
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Edward K. Noda, Choule J. Sonu, Viviane C. Rupert, and J. Ian Collins: Nearshore cir culations under sea breeze conditions and wave-current interactions in the surf zone, Tetra Tech No. TC-149-4, 205p. 1974.
Peter H. F. Graber: Coastal commentary-should beach cities be legally liable for deaths or injuries caused by riptides, sandbars and other natural hazards?, Joumal of Shore and Beaches, Vol. 53, No. 3, p. 2 and pp .34-35 (continued from page 2), July 1985.
Jennifer M. Wozencraft, Jeff Lillycrop, and Nicholas C. Kraus: SHOALS toolbox: Software to Support visualization and analysis of large, high-density data sets, ERDC/CHL CHETN-IV-43, 8 p. June 2002.
J. L. Irish, W. J. Lillycrop, L. E. Parson, M. W. Brooks: SHOALS system capabilities for hydrographic surveying, Proceedings of Dredging' 94, pp. 314-321, 1994.
F. C. Fontes and L. M. Cosantova: Possibility of helicopter use in sounding survey for hydrographic plans of mouths nauticallu unknown, Proc. 9th Conference on Coastal Engineering, pp. 425-452, 1964.
Edward H. Owens: The application of Videotape Recording (VTR) techniques for coastal studies, Journal of Shore and Beaches, Vol. 51, No. 1, pp. 29-33, 1983.
James T. Kirby, Jr. and Robert A. Dalrymple: Numerical modelling of the nearshore region, Research Report CE-82-24, Deaprtment of Civil Engineering, University of Delaware, Newark Delaware, 163p. 1982.
 
最近の研究:
高橋重雄・常数浩二・鈴木高二郎・西田仁志・土棚 毅・小林雅彦・小沢保臣(1999):離岸流に伴う海水浴中の事故発生に関する一考察、海洋開発論文集、第15巻、pp. 743-748.
柴崎 誠・宇多高明・芹沢真澄・熊田貴之・小林昭男:離岸流発生を助長するリップチャンネルの形態について、海岸工学論文集、第50巻、pp. 146-150、2003.
出口一郎・荒木進歩・竹田怜史・松見吉晴・古河泰典(2003):鳥取県浦富海岸で観測された離岸流の特性、海岸工学論文集、第50巻、pp. 151-155.
西 隆一郎・萩尾和央・山口 博・岩根信也・杉尾 毅(2003):水難事故予防のための離岸流調査に関する基礎的研究、海岸工学講演会論文集第50巻、pp. 156-160.
 
3.3 海難事故の防止に向けた予備的研究
3.3.1 海難事故概況
 周囲を海に囲まれ、地形が険しく、平野部の少ないわが国にとって、沿岸域は生活・生産・流通・資源・エネルギー供給・レクリエーションの場として、わが国の経済、社会の発展を支える重要な役割を担っている。その中でも海洋性レクリエーション活動は沿岸域を中心に活発に行われ、特に夏場は高温多湿な気候などによって数多くの人々が海をレクリエーションの場として利用する。また、沿岸域の市町村にとっては海をイベントやリゾートの場としても利用しており、地域振興にも大いに役立っている。
 しかし、一方で海には数多くの危険性も含んでいることを忘れてはならない。表3.3.1に海上保安庁ホームページに掲載されているH.9〜15年までの海上保安統計年報における海浜事故等の事故内容別調査結果を示す。これによると、平成15年の海洋性レクリエーション(ここでは遊泳中、サーフィン中、ボードセーリング中を表す)の海浜事故者数は367名と全体の約20%を占めている。特に遊泳中の事故者数は例年に比べて比較的少ないが、それでも243名が事故に遭い、そのうち106名が死亡もしくは行方不明となっている。浅海域における遊泳中の水難事故の原因は様々であるが、高橋ら(1998)の調査(表3.3.2、表3.3.3)によると流れが事故の主たる外的要因であることが分かる。
 
表3.3.1 海難事故等の事故内容別調査結果(海上保安庁ホームページより)
(拡大画面:22KB)
 
表3.3.2 海象条件・発生場所による事故の分類
事故事例 44件
高波浪時 15件
通常時 29件
遊泳区域内 24件(7件)
遊泳区域外 11件(4件)
海水浴場ではない 8件(4件)
不明 1件
( )内は高波浪時の事故件数
 
表3.3.3 原因による事故の分類
流れによる事故 26件(10件)
波に巻かれた 4件(2件)
風に流された 2件(0件)
原因不明 4件(1件)
事故者の過失 31件(12件)
複数回答、( )内は高波浪時の事後件数
 
 鳥取海上保安署においても海浜事故についての詳細な統計がとられている。一方、三重県津市においても40年ほど以前に30名以上の中学生が遭難死する事故が発生している。これらの事故例を見ると、単独での事故もあるが、致命的な事故は一度に数名〜数十名が流されたときに発生する。大勢の児童が、静穏な海域で海水浴を楽しんでいるときに突如沖向きの強い流れが発生したことが推測される。
 海水浴中の事故において問題となる浅海域の流れの中でも、強い沖向きの流れである離岸流は特に危険であり、幅は約10〜30m程度であるが、その流速は最大2m/sになるとも言われ、2005年1月現在の競泳100m自由形世界記録はオランダのピーター・ファンデンフォーフェンバンド選手が2000年9月19日シドニーで記録した47秒84で、その平均速度は約2.09m/sであり、普通の人が流れに逆らって泳いでもとてもかなわないことが分かる。このような離岸流の危険性は近年注目されつつあり、海上保安庁の広報活動やマスメディアを通じて一般の人々にも広く知らされてきている。ライフセーバーによって管理されている海水浴場では経験的に、またはライフセーバーによる事前調査によって離岸流が発生していると思われる水域を遊泳禁止区域にするといった対応策がとられている。それでも表3.3.2によると遊泳区域内でも事故の約半数が起きており、管理された海水浴場でもその流れの発生場所を正確に把握できていない状況にあることが分かる。そのため水難事故を防止するためには、その離岸流の発生条件や流れの特性などを解明することが必要であり、特にその発生条件は離岸流発生予測につながるためその早期解明が望まれている。
 また、沿岸浅海域における漂砂などの物質輸送においても離岸流を含む海浜流は非常に重要なことであり、離岸流の解明による影響力は海岸工学だけでなく、多くの人々にとって非常に大きなものになるであろうと思われる。
 
3.3.2 海難事故事例検証
−青島海岸加江田川河口左岸〜清武川河口右岸区間での離岸流現地踏査−
海難事故事例:
 加江田川河口左岸で、F大学生{男性(19歳)等は友人15名(内女性3名)}が、平成16年8月5日加江田川河口付近海岸に遊びに行き、その内9名が13:30頃から泳ぎ始め、6名が沖に向かい泳ぎ出し、内数名が溺れ始めたため、仲間の一人が110番通報した。その後、8名は海岸に上がったが、1名が行方不明となり、捜索中の7日07:50発生場所から北側400m(距岸150m)において、サーファーがうつ伏せ状態で浮流中の遺体を発見。死因は溺死と検案された。なお、捜索は5〜7日まで連日ヘリ1〜3機、船艇2隻、陸上80名程度の勢力で捜索した。
1)現地踏査箇所:加江田川河口左岸から清武川河口右岸区間
2)調査項目
・小型GPSによる干潮時汀線とH.W.L.(高潮位線)の測量
・目視による海浜地形・波・流れの観察
・海岸性状の写真撮影
3)小型GPSによる干潮時汀線とH.W.L.(高潮位線)測量結果および離岸流発生箇所視認位置
 基本的には、遊泳には危険すぎる箇所で入水し、その後、離岸流に流された事が原因と考えられる。問題点および今後の事故対策として、(1)遊泳禁止に関する情報が適切に伝わっていなかったこと、(2)離岸流発生箇所であるかどうかの自己判断するための能力がないこと(啓発教育を多分受けていないこと)、(3)海水浴では沿岸方向に泳ぐべきところを沖に泳ぎだしたことなどに関する検討が必要と考えられる。
 
図3.3.1 水難事故発生海岸の汀線形状・H.W.L位置・流れの目視結果
(2004年8月19日)


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