3.3.3 離岸流アンケートと公衆教育
(1)離岸流セミナーでのアンケート結果
国民が普通に楽しむ親水活動のリスクを低減するには、海浜事故の主要因である離岸流を含む海浜流系に関するセミナーや現地実験などの公衆教育が重要である。また、同時に水難事故に遭遇した事例などのデータ収集も必要である。そこで、2004年度に行った離岸流に関するセミナー時に得られたアンケート結果と、海岸利用者を対象に現地で行った簡易実験の様子を示すことにする。
(a)現場での実際の離岸流情報を得ること、(b)離岸流啓発教育を行うこと、および、(c)啓発教育用資料の拡充に必要な情報を得ることを目的に、離岸流に関する啓発セミナーおよびアンケートを、一般の高校生や市民、救難関係者、および離岸流に関し熟知していると思われる海岸の技術者や研究者を対象に行った。具体的には、宮崎県立都城泉丘高等学校セミナー、第九管区海上保安本部離岸流セミナー、アルファー水工セミナー、九州海岸工学者の集い湯布院セミナー、H16年度鹿児島大学技官研修会セミナー、鹿児島県立大島高等学校セミナー、鹿児島県立宮之城高等学校セミナーとして行った。
それぞれ、(1)宮崎県の県立都城泉丘高等学校は、宮崎県の都城盆地にある山間部の高等学校で、頻繁には海に親しむ環境にない高校生、(2)新潟県の第九管区海上保安本部離岸流セミナーでは、主に海事・救難関係者で実務上海に常時親しんでいる参加者、(3)北海道のアルファー水工(株)セミナーでは、河川や海岸の技術者を対象に、(4)大分県で開催された九州海岸工学者の集い湯布院セミナーでは、海岸のことをある程度熟知しているべき大学生や研究者および技術者を対象に、(5)H16年度鹿児島大学技官研修会セミナーでは、海岸の物理現象については詳しくないが理学・工学的な素養のある技官を対象に、(6)鹿児島県奄美大島の県立大島高等学校では、海に囲まれ海岸に親しむ機会の多いとおもわれる高校生を対象に、(7)鹿児島県立宮之城高等学校では、山間部の地方の一般的な高校生を対象にしている。なお、ここでの対象者には全くの一般市民は少なく、今後の検討課題と考えられる。
セミナー後に、以下に示すような内容のアンケートを行い、今後の啓発教育用資料の改善・充実のために役立てることにした。なお、アンケート項目は対象者に応じて若干の差異があった。
図3.3.1 離岸流セミナーアンケート用紙例
(第九管区海上保安本部離岸流セミナー分)
聴講者数に比べると、アンケート回収枚数は約120人分と若干少なめであるが、これは、高校での出前講義などでの回収率がやや芳しくなかったためである。以下に、上記質問項目のうちの3と6についてだけ結果を図示する。120人の回答者のうち約9割はセミナーが面白かったと答えていることから、離岸流セミナー用に作成した現在のプレゼンテーション資料が、一般的には満足いく程度のものになっていることを示している。ただし、聴講者の関心を高めるためには必ず地元情報を取り込む必要があり、この部分に関してはセミナー毎に多大な時間を準備に要することとなった。また、溺れる体験が幼児・小学生で8割を超えていることから、子供用の非常に分かりやすくて面白い資料を別途作成したり、興味をひきつけるための現地実験などの必要性を強く感じることとなった。
図3.3.2 セミナー内容に関する質問の回答結果
図3.3.3 溺れた経験を持つ場合、いつ溺れたのかに関する質問への回答結果 |
(2)青島海岸での佐土原町小学校の生徒と引率教諭一行への離岸流現地実験
DGPSを用いて汀線測量を行っている最中に離岸流近くに小学生が集まり始めたので、危険と思い染料を入れて流れが分かるような簡易実験を行った。ほとんどの小学生が興味を持ったようであり、何の実験をしているのか質問にきた。なお、引率の先生には、波が砕けている方の後ろ(写真右側;向岸流域)で遊んだ方が安心であると、注意しておいた。
図3.3.4 離岸流近くに集まった小学生達
図3.3.5 離岸流近くで学習する小学生達(拡大)
本年度は3ヵ年計画の2年次にあたり、以下の内容を目標に研究を実施し、所期の成果は十分得られたと考える。
(1)昨年度の観測成果を踏まえてより多くのデータ蓄積をはかり、詳細な離岸流の発生パターンや構造の実態を把握する。
(2)観測したデータを整理・解析して、波浪条件の違い、海岸・海底地形による離岸流の特性を解析し、離岸流発生機構の解明を行う。
(3)今回の観測データ、解析結果を踏まえて、数値予測モデルの改良・開発を行う。
(4)次年度に主要課題となる「海難事故の視点から離岸流の発生機構」、「海岸管理のあり方」、「利用者への啓発・教育等」について、現状での知見をとりまとめる。
今後の課題について、個別課題は3章「研究結果」に述べたが、ここでは、全体の課題として次の4点について示す。
1)離岸流発生パターンと極浅海域の海底地形が密接に関係していることが明らかになった。しかしながら、極浅海域の海底地形を把握することは極めて難しいのが実情である。今回の研究で海底地形を把握するための幾つかの試みを行ったが、その中で有望な手法となる可能性のものもあり、今後、更なる研究を進める必要がある。
2)海水浴の安全という視点から、突発性離岸流は大変重要である。今後、この突発性離岸流に係る情報を捕らえるように実測を重ね、突発性離岸流発生メカニズムの解明を進める必要がある。
3)離岸流発生パターンをより精度良く再現するための数値予測モデルの更なる改良・開発を行う必要がある。
4)離岸流を「海難事故と離岸流の関連」、「海岸管理のあり方」、「利用者への啓発・教育等」の視点から捉え、研究を進める必要がある。
最後に、本研究が離岸流の発生メカニズムの解明と予測、さらには海水浴客の安全への一助となることを願うものである。
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