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 なお、沿岸砂州は必ずしも沿岸方向に直線状であるとは限らず、図−41と42に示す様に蛇行した弧状沿岸砂州と呼ばれる地形になる場合もある。例えば、平成16年度に志布志湾内の志布志港周辺で測深された海底地形はそのようなものであった。このような地形も順次離岸流の数値計算に取り込む必要がある。
 
図3.2.50 弧状砂州の計算
 
図3.2.51 自然の弧状沿岸砂州地形の例
 
(3)離岸流の数値計算
 離岸流のように砕波帯付近で生じる諸現象の基本特性は、これまでの研究成果によると、ラディエーションストレスと呼ばれる概念により説明されることが判明している。ラディエーションストレスとは波と流れが共存するとき、波の存在により流体内に生じる応力である。沖からやってくる波について波高、波向き、波速などの特性を予測することにより評価することができ、この応力から引き起こされる流れ・平均水位の変化を算定する方法が広く用いられる。
 この概念はロンゲット・ビギンズとスチュアートによって導入された。平均流速v、水圧pの一次元流体運動の場合、運動量の流れは一般に
ρv2 + p
であり、全運動量の流れはこれに断面積をかければよい。波動運動の場合、全運動量はこれを断面で積分し、周期で平均化したものである。
 x軸方向に作用するラディエーションストレスSxx
 
 
となる。波を単一進行波に限定するならば、波高と波向きから理論的に計算することができる。
 
 
を用いると
 
 
が求まる。
 
図3.2.52 ラディエーションストレスの定義図
 
 同様の方法にてSxySyyを求めることができる。
 
 また図のように入射角αで来襲する微小振幅波では
 波形が
 
 
で表されるから、ラディエーションストレスは次のようになる。
 
 
 数値計算に用いた基礎方程式は次の通りである。
[連続方程式]
 
 
[運動方程式]
 
 
 ここに、U, V:水深方向に平均化されたx, y方向流速、η:静水面からの平均水位の変化量、Mx, My:ラディエーションストレス項、Fx, Fy:波と流れによる底面摩擦項、Lx, Ly:水平混合項である。
 ラディエーションストレス項は次のように表される。
 
 
計算例
ケース(1) 入射波条件;Ho=1.5m, T=10sec, θ=10°
 図3.2.43に示した沿岸方向に一様で沖側に沖向き距離2/3乗で水深が増加する平均地形上での海浜流の計算を上に示した波浪条件で行った。ここで用いている海浜流モデルでは、ラディエーションストレスの空間的な分布(勾配)により流れの状況が決まる。よって、本地形条件では沿岸方向に地形が同一であるために当然であるが離岸流は生じず、沿岸流成分だけが発生するはずである。また、このような地形であっても、突堤などのような沿岸流をさえぎりその向きを沖合に変える構造物が存在すると、構造物に起因した離岸流が発生することになる。海浜流の計算開始から500秒経過後の流速ベクトルを図3.2.53に示す。計算領域で沿岸方向のどの断面でも岸沖の波高分布が等しいため、波向き方向に幅を持った沿岸流が発生している。また、急激な波高変化を伴う砕波点付近で一番強い流れが発生している。本計算条件では最大の沿岸流速が0.75m/secとなった。
 
図3.2.53 平衡海浜断面上での海浜流の計算結果
 
ケース(2) 入射波条件;Ho=1.5m, T=10sec, θ=10°
 計算は、図3.2.45に示された誤差関数で示される沿岸砂州を持ち、沿岸方向には一様な海底地形の上での海浜流の計算を行った。ケース(1)と同様に海浜流の計算開始から500秒経過後の流速ベクトルを図3.2.54に示す。
 入射波条件は(1)と同じであるが、計算領域に砂州があり、またそこで砕波しているためにケース(1)の計算結果とは差異が生じている。砕波点付近では流速が最大となり、波向きと同じ方向に沿岸流ができることは(1)と同様である。ただし、本計算条件では砕波帯での海底地形勾配が一定でないため、現時点では砕波減衰を十分適切に計算できていない問題が残されている。沿岸流が中央部(トラフ部)で一部逆向きになっているのは、必ずしも適切でなく、数値計算プログラムの改良が必要なことを示している。
 
図3.2.54 誤差関数上の直線砂州を持つ海浜地形上での海浜流の計算結果
 
ケース(3) 入射波条件;Ho=0.5m, T=10sec, θ=0°
 沿岸砂州および汀線形状に三次元的な複雑さをもたせた地形で、図3.2.48に示した地形に対する計算である。岸側での地形が複雑なため波高の分布が沿岸方向に均一でなくなり、沿岸方向のみならず、岸沖方向へも流れが発生する。砕波帯内では沿岸流が発生することはどのケースでも同じであったが、沿岸流が地形の影響を受けて、砕波帯内を突き抜けるような流れ(地形成の離岸流)が発生した。図では3つの離岸流が存在し、どれもカスプのアペックス(頂部)から窪み地形に向かい流れている。本計算では、三次元性の地形が離岸流の発生を助長している。
 
図3.2.55 顕著な三次元地形上での離岸流の発生状況


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